今日はあいにくの雨。
ハウスの中では昨日に引き続き、役目を果たした紐の撤去が淡々と進められています。
一方で、実習室は「不知火(しらぬい)」の出荷調整で活気づいています。
■卒業生から受け継ぐ「実り」
並んでいる不知火の多くは、この春に学び舎を巣立っていった先輩たちが、一年かけて大切に育て、2月に収穫してくれたものです。
収穫後の予措(よそ)、貯蔵、そして厳密な計量。
卒業生たちが一つひとつ積み重ねてきた丁寧な仕事のバトンを、今度は最高学年となった3年生たちがしっかりと受け取ります。
■一玉に込める「想像力」
出荷調整に臨む3年生たち。
検定を行い、一玉一玉を優しく拭き上げ、キャップを被せ、仕上げのシールを丁寧に貼っていきます。
「手に取ってくださる方は、どんな笑顔で食べてくれるかな?」
と想像を膨らませながら扱う手つきには、これまでの実習で培ってきた確かな優しさと責任感が宿っています。
先輩たちが守り抜いてきた実りを、最高の状態で届けたい。
外の雨音を忘れるほど集中した実習室で、3年生の手によって磨き上げられた不知火が、誇らしげに輝いています。
2月に「不知火」の収穫を終えたハウス。
今日は、役目を果たした麻ひもを、誘引用のワイヤーから撤去する実習です。
■地道な実習、時々「強敵」
外はまだ穏やかな春の陽気ですが、一歩ハウスに足を踏み入れると、そこには初夏を思わせる熱気と湿度が立ち込めていました。
汗を拭いながら、ワイヤーに結わえられた無数のひもを一つずつ切り取っていきます。
実習自体は淡々と進みますが、時折、思わぬ「伏兵」に遭遇します。
大半のひもはスルスルと解けるのに、ふとした拍子に、なぜかガチガチに固まってワイヤーに食い込んでいる結び目が……。
そんな時、静かなハウスのどこからか、ボソッとツッコミが漏れます。
「ちょ、誰やねん……こんなガチガチに結んだの(笑)」
「これ絶対、後の人のこと考えてないやろ〜」
格闘すること数十秒。
ようやくパチンと切り落とした瞬間、小さく漏れる「ふぅ」という溜息。
そんな光景が、実習のあちこちでポツリポツリと見受けられました。
■「苦戦」が教える、未来の知恵
この「たまにやってくる苦労」を通して、生徒たちは大切なことを学びます。
吊るす時にしっかり結ぶのはプロとして当然。
けれど、「解く時の効率」まで考えて結べてこそ、本当に仕事ができるということ。
「取りやすい結び方」を習得するのは簡単ではありませんが、その一工夫が、未来の自分や仲間の時間を生む。
その重要性を、頑固な結び目と対峙することで、身をもって実感したようです。
■スッキリの裏側にある「誓い」
「次はもっと、スマートに解ける結び方にしたる……」と心の中でリベンジを誓いながら、最後の一本まで地道に撤去。
ワイヤーがスッキリと整った頃には、生徒たちの手も、そして「効率への意識」も、ひと回り成長したように見えました。
次にこのワイヤーが使われるのは、さらに気温が高くなる夏。
今日の湿気と熱気は、まさにその季節が近づいている合図でもあります。
再びやってくる「玉吊り・枝吊り」のシーズンには、今日の苦戦を糧にした、機能美あふれる結び目がハウス中を彩るはずです。
── 相棒図鑑 其の参 「柑橘選果機」 ──
機械倉庫の二階。
薄暗い隅で、十年の眠りについていた一台の機械がありました。
収穫した果実を大きさごとに転がして仕分ける「選果機(せんかき)」です。
かつては本校の出荷を支えた功労者でしたが、いつしか時代の流れとともにその役目を終え、静かな隠居生活を送っていました。
「……もう一度、あいつの力を借りたい。機械があるなら、使わない手はないじゃないか」
その復活劇が始まったのは、まだ寒さの厳しい昨年の12月のことでした。
甘夏の収穫を前に、私たちは倉庫で眠る「古兵(ふるつわもの)」のもとを訪ねました。
大人の腰ほどの高さでどっしりと構えるその姿は、長い年月を孤独に耐え抜いた風格を漂わせていました。
クレーンで吊り上げられ、十年ぶりに地上へ帰還した老将。
入念に埃を払い、一箇所ずつ丁寧に油を差し直してスイッチを入れた瞬間、低く唸るようなモーター音が響きました。
それは、老将が再び誇りを取り戻し、力強く鼓動を始めた音でした。
もし、この相棒に心があるならば、再び鎧を纏(まと)い、豪快に笑っているかもしれません。
「十年間、倉庫の二階で出番を待っておったぞ。
油を差されれば、体も心も熱くなる。
まだまだ、若造には負けませぬぞぉー!
さあ、生徒たちの『一年の証』、一玉残らず見極めてくれよう!」
コンベアの上を転がり、ブラシに磨かれ、サイズごとの穴へと吸い込まれていく甘夏たち。
その規則正しく滑らかな流れは、不思議といつまでも眺めていられるような心地よいリズムを刻んでいます。
スマートな最新技術の「新しさ」はもちろん素晴らしいものです。
しかし、こうした古く頑丈な道具が、手入れによって何度でも息を吹き返し、現場の第一線で働き続ける姿にも、捨てがたい良さがあります。
生徒たちが丹精込めて育てた一年の成果を、一分の狂いもなく仕分け、次なるステージへと送り出していく。
その姿はまさに、最前線に復帰した百戦錬磨の老將です。
十年の眠りから覚めた「相棒」は、今日も実習室に力強いリズムを響かせています。
「古いからと諦めるのではなく、手を入れ、磨き上げる。その手間こそが、道具を『相棒』へと変えていきます」
今日も農場では、3年果樹専攻の生徒たちが「不知火(しらぬい)」の出荷準備に追われています。
■技術とテンポの真剣勝負
実習台に向かい、集中した面持ちで不知火の計量を行う生徒。
50g刻みで細かく分けられたコンテナへ、迷いのない手つきでテンポよく仕分けしていきます。
その一方で、専用の装置を使い、糖度と酸度を測る「非破壊検査」で品質検定を行う生徒も。
一玉一玉の個性に科学の視点で向き合い、最高の一品を選別していきます。
■出番を待つ「主役」たち
農場にある大きな貯蔵庫。
現在は3つの貯蔵庫が、出荷の出番を待つ不知火で天井近くまで埋め尽くされています。
この膨大なコンテナの山は、これまでの地道な管理の結晶です。
■同じ道を進む、妹たちへ
その中で、協力して実習を進める二人の生徒。
実はこの二人には、素敵な共通点があります。
なんと、明日の入学式で、それぞれの妹さんが同じ「農業科」へと入学してくるのです。
家では頼れる「お姉ちゃん」でしたが、明日からは同じ学び舎で、同じ志を持つ「高校の先輩」へと変わる二人。
「先輩としてのアドバイスは?」と尋ねてみました。
「高校生活は、本当に時間が経つのが早い。だから、一日一日を大切に、全力で楽しんでほしい。」
真剣な表情で語ってくれたその言葉には、この2年間を全力で駆け抜けてきた最上級生としての重みがありました。
■感動、そして……
まじめなコメントでビシッと決めてくれた後、ふと一人が呟きました。
「……次は、私らが(卒業式で体育館に)座るんかぁ。……絶対泣くわ。」
その言葉に、すかさずもう一人がツッコミを入れます。
「そっちは誰の卒業式でも泣くやろ!」
「あはは、確かに!」と弾ける笑い声。
静かな実習室に響いた、最上級生としての自覚と、卒業への実感、そして変わらない友情が交錯した、少し大人びた(?)昼下がりの一コマでした。
Global Series Vol. 3:Ashikita Seasons
[JP]
芦北高校農業科の活動を世界へ届けるシリーズ。
私たちが大切にしている活動の記録を厳選し、月に一度、英語版としてお届けします。
第3回は、3月9日の「不知火(しらぬい)の袋詰め実習」の記録です。
[Global Series Vol. 2:Bright Smiles, Blooming Together はこちら]
[EN]
Sharing the passion of Ashikita Agricultural High School with the world. Once a month, we present an English edition of our specially selected stories. Vol. 3: Shiranui Citrus Packaging Practice (Mar 9th).
[Click here for Global Series Vol. 2:Bright Smiles, Blooming Together]
— Shiranui Citrus: Hand-wrapping Practice for the Coming Spring —
The air in the orchard has begun to soften, yet inside the practice building, the energy remains high, as if to say, "The real work is just beginning." Looking up, containers are stacked high, filled with golden "Shiranui" citrus, waiting for their turn to be shipped. The students' hands move rhythmically, carefully wrapping each fruit in a protective polybag.
During this practice, as they focus all their senses on their fingertips, a natural relaxation seems to take hold. Curiously, their hearts feel closer here than they do in the classroom.
"Sensei, I went to my sister's graduation ceremony the other day."
"Do you still remember the lyrics to your junior high school song?"
"Man, that sore throat from the flu was seriously brutal..."
From casual reports of daily life and lighthearted memories to serious discussions about their future paths, and even grand dreams of crossing the ocean—"I want to live in Korea someday!"
Their hands never stop, yet their expressions are far softer than those seen in the classroom. The way they handle each fruit with care seems like a reflection of their will to cherish and weave their own futures in the same way.
Practice is not merely a place to learn technical skills. Through the "Shiranui" citrus, we touch the rich inner colors of our students. Surrounded by these golden fruits, their dreams, too, begin to take shape.
We get to see expressions and hear thoughts that rarely emerge in a typical classroom setting. This "time for dialogue" is an irreplaceable charm of these practical lessons for us as educators as well.
二十四節気では、5日に「清明(せいめい)」を迎えます。
この季節を象徴する「清浄明潔(せいじょうめいけつ)」という言葉。
万物が清らかに、明るく生き生きと輝く季節という意味が込められています。
その言葉を体現するかのように、春休み中の農場では、新しい仲間を迎える準備が着々と進んでいます。
農業科の更衣室では、新一年生が気持ちよく最初の一歩を踏み出せるようにと、ロッカーの隅々まで丁寧に掃除し、場を清める生徒の姿がありました。
新しい風を最高の状態で迎え入れようとするその誠実な姿に、本校が大切にしてきた伝統の「土壌」を感じます。
■ 命を繋ぎ、輝きを創る
来週4月8日に挙行される入学式。
その式典を彩るため、実習棟ではフラワーアレンジメントの制作が行われていました。
制作に励んでいたのは、先月の卒業式でも見事なアレンジメントを手がけてくれた一人の生徒です。
普段から指導していただいている講師の方のアドバイスを真剣な眼差しで受け止めながらも、自ら考え、一輪一輪の花と対話するように向き合う。
その横顔には、春の柔らかな光に負けないほどの凛とした「輝き」が宿っていました。
皆さんは、花の軸を支える「ワイヤー」の存在を知っていますか?
美しい花を、最も輝く角度で、そして式典の間も長く咲き続けさせるために。
生徒は、見えないところで茎に細いワイヤーを巻き、軸を一本ずつ補強しています。
講師の教えを自分のものにしながら、迷いなく花を切り、挿していく。
その一連の動作の裏側にある、繊細で気の遠くなるような手間。
それは、自分たちが大切に育てた、あるいは誰かが想いを込めて育てた命を、自らの技術でさらに美しく昇華させ、新しい誰かへと繋いでいく尊い作業です。
「私にはとても真似できないな」と圧倒されるほどの集中力と、花を扱う優しい手付き。
卒業式からまた一歩、その技術と想いを深めた生徒の献身的な姿こそが、入学式というハレの舞台を本当の意味で輝かせる「魔法」なのだと、深い驚きとともに感動を覚えました。
■ 新しい「光」を待つ農場
清らかに整えられた場と、魔法をかけた花たちが、来週、新しい仲間という名の「光」を温かく迎え入れます。
新しい光が伝統という土を温め、土が光に応えて新たな命を育む。
この清明の季節にふさわしい、瑞々しい物語がもうすぐ始まろうとしています。
■ 輝く明日へ
万物がその命を輝かせる、この佳き日に。
生徒の誇らしい輝きを糧に、私たち農業科一同も、共に一歩ずつ成長していきたいと思います。
皆さまの周りでも、何か新しい「輝き」が見つかるような、清らかな春でありますように。
「清明(せいめい)」
万物の輝きとともに、新しい一歩を待つ芦北高校より。
4月1日。
新年度の挨拶と、期待と不安が入り混じった先生方のザワザワとした談笑。
熱気を帯びた空気の中で、新しい一年が幕を開けます。
午前中から息つく暇もなく始まる会議の連続。
分掌の実務、学級経営、膨大な年間実習計画……。
共有フォルダに積み上がるデータの山を眺めながら、正直なところ「おっと、これは……」と、頭がパンクしそうになっているのが本音です。
ようやく訪れた昼休み。
喧騒を離れ、呼吸を整えるように農場へと向かいます。
会議室の熱気とは違う、少しヒンヤリとした果樹の出荷調整室。
主役を待つ静かな食品製造実習室に響く自分だけの足音。
そして、温室内で鼻の奥をくすぐるサイネリアの香り。
誰もいない現場を歩きながら、
「正直、会議室にこもるより、ここで生徒たちと一緒に実習している方が、よっぽど性に合っているのになぁ……」
なんて、思わず苦笑いがこぼれます。
土と緑の匂いに触れて、ようやく少しだけ、深い呼吸が戻ってきます。
視界の端では、裏山を鮮やかに染める桜の薄桃色が、春風に優しく揺れています。
農業科の学びは、日々の実習という地道な積み重ねでできています。
新しい年度を迎えても、目の前の管理に一つひとつ丁寧に向き合い、毎日の実習を何よりも大切にすること。
その積み重ねの先に、生徒たちの心が満たされ、充実した顔で農場を歩く姿を目指します。
そうして一歩ずつ育んできた「実り」を、どう次へ繋げていくか。
生徒たちが登校し、農場に弾けるような活気が戻ってくるまで、あと数日。
令和8年度。
やるべきことは、山積みです。
けれど、そのすべてが、最後には生徒たちの笑顔に繋がっている。
そう信じるだけで、指先に少しだけ力が宿ります。
「カンッ」、と少し強く叩くエンターキー。
さぁ、始めますか。
芦北高校農業科 「品種名鑑」 #02
前回、芦北高校の「不知火(しらぬい)」こと「あしポン」をご紹介しましたが、実は本校の果樹園で「あしポン」として皆様にお届けしている主役たちは、ただの「不知火」ではありません。
その舞台裏を支えるのは、「肥(ひ)の豊(ゆたか)」と「不知火M16A」という、選りすぐりの二つの精鋭品種です。
見た目ではプロでも見分けがつかないほどそっくりな双子ですが、実は性格の違うこの二つの品種を、私たちが絶妙なタイミングでバトンタッチさせながらお届けしているのです。
この「リレー」の裏側を知れば、あなたも立派な「あしポン目利き」です。
■ 表には出ない、二つの生い立ち
「肥の豊(ひのゆたか)」
── 熊本生まれの「先行ランナー」
地元・熊本県で「不知火」を親として誕生しました。
名前の由来は「肥後(熊本)を豊かに」。
不知火譲りの濃厚な甘さはそのままに、酸が早く抜けるのが最大の特徴です。
シーズンの幕開けと共に、いち早く最高の味を届けてくれる、スタートダッシュのスペシャリストです。
「M16A(エムじゅうろくエー)」
── 科学の力で磨かれた「実力派アンカー」
国の研究機関で、元の不知火からウイルスを取り除き、より健やかに育つよう改良された系統です。
「M16A」というメカニックな名前は、その開発過程で付けられた管理番号。
驚異的な貯蔵性を誇り、冬を越えて春先まで美味しさをキープする、後半戦を支える頼れる守護神です。
■ 「どちらが届くか」は、プロの判断にお任せ
お客様には、お手元の「あしポン」がどちらの品種かは分かりません。
なぜなら、私たちは「その時、一番美味しい状態のもの」を、栽培方法と組み合わせて厳格に選別し、お届けしているからです。
・露地栽培
── 寒さが来る前に「年内収穫」
お正月の寒波で果実が凍らないよう、外で育つ露地ものは年内に一斉収穫します。
まずは足の速い「先行ランナー(肥の豊)」から順に旬を迎え、貯蔵のきく「アンカー(M16A)」へとバトンを繋いでいきます。
・ハウス栽培
── 樹の上でじっくり「2月収穫」
一方、ハウスものは暖かな屋根の下でさらにじっくり熟成させ、2月に入ってから収穫を迎えます。
露地栽培の在庫が終わる頃に、さらに濃厚な甘みが乗った「真打ち」として登場します。
■ 届いた一果に、物語を添えて
次に「あしポン」を手に取られた際は、ぜひその裏側にある「品種のリレー」を想像してみてください。
「今届いたのは、熊本生まれの先行ランナーかな? それとも後半を支える実力派アンカーかな?」
そんな風に、品種と栽培のドラマを語れるようになれば、あなたも立派な「あしポン目利き」です。
「届くまでのリレー。目には見えないけれど、繋がれたバトンの先には最高の『美味しい』が待っています」
■ 次回予告
次回は、冬の窓辺を彩る鮮やかな色彩。
草花専攻生が丹精込めて育てる「シクラメン」について詳しく紹介します。
お楽しみに!
自らの業務を片付け、食品製造実習室へと急ぎました。
今日の当番実習は、農業科2年生のシフォンケーキ製造。
……しかし、私が到着したときには、すでに製造の山場は越えていました。
オーブンから出てくる焼き上がりの瞬間にはなんとか立ち会えたものの、材料の計量や生地を混ぜ合わせる、あの繊細な実習プロセスを見届けることができず。
正直に言えば、実習を見逃した「残念さ」が残る到着でした。
けれど、ガランとし始めた調理場で、それ以上の驚きに出会うことになります。
担当職員が指示を出すよりも早く、誰からともなく、すいすいと片付けが始まっていました。
実習台を黙々と磨き上げる者、使用した器具を迷いなく洗浄する者、そして一列になって床を掃き清める者。
「次はどこをすべきか」「誰が足りていないか」を各自が周囲を見渡し、判断して動いています。
そこには、指示を待つ生徒の姿はありませんでした。
これは3年生としての「自覚」なのか、それとも担当者が積み重ねてきた「仕掛け」の成果なのか。
いずれにせよ、その淀みのない動きに、思わず感心していました。
私を含め2名の果樹担当者でも、ちょうど「新3年生は、自分で考えて動くようになったね」と話していたところでした。
食品担当者ともその話題になると、「本当に、成長が見られますよね」と、生徒たちの変化に深く頷き合いました。
もちろん、まだまだ改善の余地はあるかもしれません。
けれど、自分の役割を自ら見つけ、現場を動かしていくその逞しさ。
製造の核となる部分は見られず残念でしたが、もし間に合っていたら、私はこの「自ら考え、動く生徒たち」の静かな凄みに気づけなかったかもしれません。
工程が終わっていたからこそ出会えた、新3年生たちの頼もしい光景。
これからの農業科を背負って立つ彼らの飛躍に、確かな期待を寄せています。
明日、3月20日は二十四節気の「春分(しゅんぶん)」を迎えます。
太陽が真東から昇り、真西へと沈む日。
昼と夜の長さがちょうど半分ずつになり、明日を境に、私たちが見る世界は少しずつ「光の季節」へと傾いていきます。
私たち農業科の生徒が、栽培を学ぶ上で必ず出会う不思議な法則があります。
それは、植物たちが時計もカレンダーも持たずに、どうやって「今が咲く時だ」と知るのか、という謎。
その鍵を握るのが『光周性(こうしゅうせい)』です。
■ 植物たちの「こだわり」と、闇の魔法
植物には、それぞれ「このくらいの光の長さになったら花を咲かそう」という自分なりのルールがあります。
• 長日(ちょうじつ)植物
春から夏にかけて、日が長くなると「待ってました!」と花を咲かせるタイプ(ホウレンソウやレタスなど)。
• 短日(たんじつ)植物
逆に、日が短くなってくるのを感じて秋に準備を始めるタイプ(イチゴやキュウリなど)。
実は植物たちが測っているのは、光そのものではなく、光が途絶えた「連続した闇の長さ」です。
植物たちは、葉にあるセンサーで、一日のうちの「夜の時間」をじっと測っています。
春分という節目を過ぎ、闇が少しずつ短くなっていく……。
その微かな変化を感じ取り、「春が来た、今こそ芽吹く時だ」と、命のスイッチを入れるのです。
■ 幾万の夜を越え、新しい出逢いへ
果樹園の先にある「峰崎さくらの森」の大寒桜も、まさにこの闇の魔法を敏感に感じ取り、今、見事な淡紅色の花を広げています。
24年前、大松先生たちが植えられたあの苗木たち。
それから今日まで、巡り来る四季を二十四回。
三六五日の朝と夜を、幾千、幾万と積み重ねて、彼らはこの場所で静かに呼吸を続けてきました。
一晩たりとも休むことなく、凍えるような冬の闇さえもじっと数え上げ、光の訪れを信じて待つ。
その誠実な営みの果てに、今のこの美しい景観があります。
そして今、この桜たちは、もうすぐこの学び舎の門をくぐる新入生たちを迎えようと、その枝を精一杯に広げています。
■ 力を蓄え、躍動の春へ
明日の春分、農場は束の間の休息に入ります。
しかし、土の下でも、枝の先でも、植物たちの内なる時計は休むことなく時を刻み続けています。
私たちも、新しい仲間を迎える準備を整えながら、次なる農繁期への力を蓄えたいと思います。
皆さまもぜひ、足元に咲く小さな花が「どのくらいの闇を越えて、咲くスイッチを入れたのかな?」と思いを馳せてみてください。
「春分(しゅんぶん)」
闇の深さを数え、明日を待つ芦北高校より。
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