学校生活ブログ

春風や 闘志抱きて 球を追う

春風や 闘志抱きて 球を追う
校長 西 智博

 冬籠りをしていた虫が土から出てきて動き出す日とされる旧暦24節気の一つ啓蟄(けいちつ)、今年のカレンダーでは3月5日でした。当日は、南風(はえ)に掲揚台上の校旗も強くはためき、這い出してきた虫たちを歓迎するかのように朝から大変暖かい土曜日となりました。
 「今日も生徒たちは頑張っているかな?」と期待しながらグラウンドに向かっていると、若葉マークがついた外車が学校に入って来ました。左ハンドルの運転席の少年が金髪っぽかったので誰だろう?と何げに目を向けると、4日前に卒業したばかりの某君でした。駐車場の白線内に入れるのに何度も切り返しをして苦労していたので、「大丈夫?」と声をかけたら、「 クルマは兄のものです。部活で頑張る後輩を励ますために差し入れを 持って来ました 」とのこと。卒業しても後輩思いの優しい先輩です。


 グラウンドではソフトテニス部(女子(男子は遠征中だとか))、ソフトボール部、野球部が9時前から練習に汗を流していました。表題の句、もちろん、高浜虚子の「春風や 闘志抱きて 丘に立つ」のパロディ(本歌取り)で、懸命に球を追っている生徒たちの姿を見て思いついたわけです(^^;)
 野球部の清崎監督から、高野連が定めた対外練習の解禁日が3月8日と伺い、野球に限らず球技系のスポーツでは、高校総体に向けて「球春到来」といった感を深くしました。
 この時期、夏至に向けて日の出は1日に約1分ずつ早くなり、日没は逆に約1分ずつ遅くなることで、1日に約2分ずつ日が長くなっており(本渡の場合3月6日:日の出6時39分56秒、日没18時21分34秒、3月7日:日の出6時38分42秒、日没18時22分19秒)、このように日が長くなることは部活動生にとっては歓迎すべきことかもしれません。めくるめく陽気のせいか、私は日の光も一日一日、力強さを増しているように実感します。


 ところで、生徒の皆さんは物事を見るときに必要な3つの目、即ち「鳥の目、虫の目、魚の目」の話を聞いたことがありますか。主にビジネスの分野で使われている言葉で、成功をする、また成果をあげるためには、経営能力が高ければいいということではなく、多角的な視点である「3つの目」を持って物事を捉えることが大切である、という文脈で使われます。
 もちろん、「鳥の目」とは、高い位置から「マクロ的に全体を俯瞰(ふかん)しながら見回して見る」ということです。「虫の目」は、複眼です。つまり「近づいてさまざまな角度からミクロ的に物事を詳細に見る」ということです。そして「魚の目」、魚は目に見えない潮の流れや干潮・満潮を体全体で感じ取って泳いでいることから「流れ(トレンド)を見失うな」という意味になります。私、これら3つの目は、勉強を進めるうえでも大事であると普段から考えていますが、その話は別の機会に譲ることとし、啓蟄の日に「鳥の目」と「虫の目」をもって校内の春を探してみましたのでその報告をしたいと思います。5つほど見つけましたが、紙幅の関係で2つだけ思い出と共に紹介します。


 畑のあぜ道によく見られるオオイヌノフグリ、機械科実習棟の裏の運河沿いに水色の小さな花を咲かせていました。「フグリは命の源、そこからかな?それにしても、一体誰がこんな不名誉な名前をつけたんだろう!」と可憐な花に同情してしまいます。実は、この花を見ると40年前、高校2年の頃、同じクラスの女子と交わしたこんな強烈な会話の思い出も甦(よみがえ)ります。
 「クロム君、この花の名前知ってる?」と女子(コバルトさん)が聞いてきました。(当時、理系の我がクラスでは、出席番号を原子番号に置き換えたニックネームで呼び合っていました。私は出席番号24番だからクロミウ ム(Cr)、 略してクロムの名で呼ばれていたのです)「え、知らないの?それはね『大犬の・・・』ていうのよ!」 ウブな私は、「何?その・・・って?」と聞き返してしまいました。今思うと赤面ものです。「信頼」や「神聖」が花言葉であり、「瑠璃唐草(るりからぐさ)」とか「星の瞳(ほしのひとみ)」なんていうロマンチックな別名もあるそうですが、学問上の名前がその別名であればよかったのにと、早春を迎えこの花を目にする度に可哀想に思ってしまいます。 今ではフグリは死語かもしれませんが、命名の由来は、右の写真を見ると納得できますよね。これは花が咲き終わった時にできる逆ハート型の実です。
 実は、日本古来のイヌノフグリ(淡いピンク色の花の直径はオオイヌノフグリの1/3~1/4)がヨーロッパ原産のこのオオイヌノフグリに駆逐され、絶滅危惧種になっているとか知ったのはつい最近のことでした。


 中庭では、木蓮(もくれん)の木が、幾つかの花(花弁は必ず上を向いて咲き、夜には閉じる花の命は3~4日)がほころび始め、ほのかに良い香りが漂い、蕾(つぼみ)も一週間前に見たときよりも一層大きくなっていました。実は、「校庭の木々の蕾 に新たな命の息吹が感じられるこの佳き日 に・・・」で始まる卒業式の式辞は、この木蓮の蕾にヒントを得ながら認(したた)めたものです。
 木蓮の蕾は必ず北を向いているので、山などで方角を見失ったときに役立ち、別名「コンパスフラワー」と呼ばれていることや、「木蓮はお茶や柊(ひいらぎ)と共に約800年前に中国から伝わった植物で、平安時代に書かれた書物にも記録が残っている」といったことを数年前に、当時同勤していた農業高校の先生に教えてもらいました。この方、植物に限らずあらゆる事物にめちゃくちゃ詳しく、その博識ぶりを心からリスペクトしている先生(現在、文部科学省で本県出身の農業の教科調査官として御活躍中)です。
 校庭の木蓮の花、平成の初め頃は、4月当初、新しい年度の時間割を積み木で組んでいた頃に咲いていたと記憶しています。地球温暖化の影響でしょうか、およそ20年で1ヶ月も咲くのが早くなっていることに驚くばかりです。