学校生活(芦高ブログ)

カテゴリ:農業科

鉛筆 芯を入れ 場を清め待つ 春の風

 二十四節気では、5日に「清明(せいめい)」を迎えます。

 この季節を象徴する「清浄明潔(せいじょうめいけつ)」という言葉。

 万物が清らかに、明るく生き生きと輝く季節という意味が込められています。

 

 その言葉を体現するかのように、春休み中の農場では、新しい仲間を迎える準備が着々と進んでいます。

 農業科の更衣室では、新一年生が気持ちよく最初の一歩を踏み出せるようにと、ロッカーの隅々まで丁寧に掃除し、場を清める生徒の姿がありました。

 新しい風を最高の状態で迎え入れようとするその誠実な姿に、本校が大切にしてきた伝統の「土壌」を感じます。


■ 命を繋ぎ、輝きを創る

 来週4月8日に挙行される入学式。

 その式典を彩るため、実習棟ではフラワーアレンジメントの制作が行われていました。

 制作に励んでいたのは、先月の卒業式でも見事なアレンジメントを手がけてくれた一人の生徒です。

 普段から指導していただいている講師の方のアドバイスを真剣な眼差しで受け止めながらも、自ら考え、一輪一輪の花と対話するように向き合う。

 その横顔には、春の柔らかな光に負けないほどの凛とした「輝き」が宿っていました。

 

 皆さんは、花の軸を支える「ワイヤー」の存在を知っていますか?

 美しい花を、最も輝く角度で、そして式典の間も長く咲き続けさせるために。

 生徒は、見えないところで茎に細いワイヤーを巻き、軸を一本ずつ補強しています。

 講師の教えを自分のものにしながら、迷いなく花を切り、挿していく。

 その一連の動作の裏側にある、繊細で気の遠くなるような手間。

 それは、自分たちが大切に育てた、あるいは誰かが想いを込めて育てた命を、自らの技術でさらに美しく昇華させ、新しい誰かへと繋いでいく尊い作業です。

 「私にはとても真似できないな」と圧倒されるほどの集中力と、花を扱う優しい手付き。

 卒業式からまた一歩、その技術と想いを深めた生徒の献身的な姿こそが、入学式というハレの舞台を本当の意味で輝かせる「魔法」なのだと、深い驚きとともに感動を覚えました。

■ 新しい「光」を待つ農場

 清らかに整えられた場と、魔法をかけた花たちが、来週、新しい仲間という名の「光」を温かく迎え入れます。

 新しい光が伝統という土を温め、土が光に応えて新たな命を育む。

 この清明の季節にふさわしい、瑞々しい物語がもうすぐ始まろうとしています。

■ 輝く明日へ

 万物がその命を輝かせる、この佳き日に。

 生徒の誇らしい輝きを糧に、私たち農業科一同も、共に一歩ずつ成長していきたいと思います。

 皆さまの周りでも、何か新しい「輝き」が見つかるような、清らかな春でありますように。

 


「清明(せいめい)」

 万物の輝きとともに、新しい一歩を待つ芦北高校より。

鉛筆 笑顔へと 続く一打の エンターキー

 4月1日。

 新年度の挨拶と、期待と不安が入り混じった先生方のザワザワとした談笑。

 熱気を帯びた空気の中で、新しい一年が幕を開けます。

 

 午前中から息つく暇もなく始まる会議の連続。

 分掌の実務、学級経営、膨大な年間実習計画……。

 共有フォルダに積み上がるデータの山を眺めながら、正直なところ「おっと、これは……」と、頭がパンクしそうになっているのが本音です。

 

 ようやく訪れた昼休み。

 喧騒を離れ、呼吸を整えるように農場へと向かいます。

 会議室の熱気とは違う、少しヒンヤリとした果樹の出荷調整室。

 主役を待つ静かな食品製造実習室に響く自分だけの足音。

 そして、温室内で鼻の奥をくすぐるサイネリアの香り。

  誰もいない現場を歩きながら、

 「正直、会議室にこもるより、ここで生徒たちと一緒に実習している方が、よっぽど性に合っているのになぁ……」

 なんて、思わず苦笑いがこぼれます。

 

  土と緑の匂いに触れて、ようやく少しだけ、深い呼吸が戻ってきます。

 視界の端では、裏山を鮮やかに染める桜の薄桃色が、春風に優しく揺れています。

 農業科の学びは、日々の実習という地道な積み重ねでできています。

 新しい年度を迎えても、目の前の管理に一つひとつ丁寧に向き合い、毎日の実習を何よりも大切にすること。

 その積み重ねの先に、生徒たちの心が満たされ、充実した顔で農場を歩く姿を目指します。

 そうして一歩ずつ育んできた「実り」を、どう次へ繋げていくか。

 生徒たちが登校し、農場に弾けるような活気が戻ってくるまで、あと数日。

 

  令和8年度。

 やるべきことは、山積みです。

 けれど、そのすべてが、最後には生徒たちの笑顔に繋がっている。

 そう信じるだけで、指先に少しだけ力が宿ります。

 

 「カンッ」、と少し強く叩くエンターキー。

 

 さぁ、始めますか。

鉛筆 M16 知ればあなたも 目利きなり

芦北高校農業科 「品種名鑑」 #02

【品種名鑑 #01:「不知火」(あしポン)】はこちら

 

 前回、芦北高校の「不知火(しらぬい)」こと「あしポン」をご紹介しましたが、実は本校の果樹園で「あしポン」として皆様にお届けしている主役たちは、ただの「不知火」ではありません。

 その舞台裏を支えるのは、「肥(ひ)の豊(ゆたか)」「不知火M16A」という、選りすぐりの二つの精鋭品種です。

 見た目ではプロでも見分けがつかないほどそっくりな双子ですが、実は性格の違うこの二つの品種を、私たちが絶妙なタイミングでバトンタッチさせながらお届けしているのです。

 この「リレー」の裏側を知れば、あなたも立派な「あしポン目利き」です。

 

■ 表には出ない、二つの生い立ち

 「肥の豊(ひのゆたか)」

 ── 熊本生まれの「先行ランナー」

 地元・熊本県で「不知火」を親として誕生しました。

 名前の由来は「肥後(熊本)を豊かに」

 不知火譲りの濃厚な甘さはそのままに、酸が早く抜けるのが最大の特徴です。

 シーズンの幕開けと共に、いち早く最高の味を届けてくれる、スタートダッシュのスペシャリストです。

 

 「M16A(エムじゅうろくエー)」

 ── 科学の力で磨かれた「実力派アンカー」

 国の研究機関で、元の不知火からウイルスを取り除き、より健やかに育つよう改良された系統です。

 「M16A」というメカニックな名前は、その開発過程で付けられた管理番号。

 驚異的な貯蔵性を誇り、冬を越えて春先まで美味しさをキープする、後半戦を支える頼れる守護神です。

 

「どちらが届くか」は、プロの判断にお任せ
 お客様には、お手元の「あしポン」がどちらの品種かは分かりません。

 なぜなら、私たちは「その時、一番美味しい状態のもの」を、栽培方法と組み合わせて厳格に選別し、お届けしているからです。

 

・露地栽培

 ── 寒さが来る前に「年内収穫」

 お正月の寒波で果実が凍らないよう、外で育つ露地ものは年内に一斉収穫します。

 まずは足の速い「先行ランナー(肥の豊)」から順に旬を迎え、貯蔵のきく「アンカー(M16A)」へとバトンを繋いでいきます。


・ハウス栽培

 ── 樹の上でじっくり「2月収穫」

 一方、ハウスものは暖かな屋根の下でさらにじっくり熟成させ、2月に入ってから収穫を迎えます。

 露地栽培の在庫が終わる頃に、さらに濃厚な甘みが乗った「真打ち」として登場します。

 

■ 届いた一果に、物語を添えて

 次に「あしポン」を手に取られた際は、ぜひその裏側にある「品種のリレー」を想像してみてください。

「今届いたのは、熊本生まれの先行ランナーかな? それとも後半を支える実力派アンカーかな?」

 そんな風に、品種と栽培のドラマを語れるようになれば、あなたも立派な「あしポン目利き」です。


 「届くまでのリレー。目には見えないけれど、繋がれたバトンの先には最高の『美味しい』が待っています」

 


■ 次回予告

 次回は、冬の窓辺を彩る鮮やかな色彩。

 草花専攻生が丹精込めて育てる「シクラメン」について詳しく紹介します。

 お楽しみに!

鉛筆 間に合わず だから出会えた 頼もしさ

 

 自らの業務を片付け、食品製造実習室へと急ぎました。

 今日の当番実習は、農業科2年生のシフォンケーキ製造。

 

 ……しかし、私が到着したときには、すでに製造の山場は越えていました。

 オーブンから出てくる焼き上がりの瞬間にはなんとか立ち会えたものの、材料の計量や生地を混ぜ合わせる、あの繊細な実習プロセスを見届けることができず。

 正直に言えば、実習を見逃した「残念さ」が残る到着でした。

 

 けれど、ガランとし始めた調理場で、それ以上の驚きに出会うことになります。

 担当職員が指示を出すよりも早く、誰からともなく、すいすいと片付けが始まっていました。

 実習台を黙々と磨き上げる者、使用した器具を迷いなく洗浄する者、そして一列になって床を掃き清める者。

 「次はどこをすべきか」「誰が足りていないか」を各自が周囲を見渡し、判断して動いています。

 そこには、指示を待つ生徒の姿はありませんでした。

 

 これは3年生としての「自覚」なのか、それとも担当者が積み重ねてきた「仕掛け」の成果なのか。

 いずれにせよ、その淀みのない動きに、思わず感心していました。

 私を含め2名の果樹担当者でも、ちょうど「新3年生は、自分で考えて動くようになったね」と話していたところでした。

 食品担当者ともその話題になると、「本当に、成長が見られますよね」と、生徒たちの変化に深く頷き合いました。

 

 もちろん、まだまだ改善の余地はあるかもしれません。

 けれど、自分の役割を自ら見つけ、現場を動かしていくその逞しさ。

  製造の核となる部分は見られず残念でしたが、もし間に合っていたら、私はこの「自ら考え、動く生徒たち」の静かな凄みに気づけなかったかもしれません。

 工程が終わっていたからこそ出会えた、新3年生たちの頼もしい光景。

 これからの農業科を背負って立つ彼らの飛躍に、確かな期待を寄せています。

鉛筆 闇を知り 光を数え 花ひらく

 明日、3月20日は二十四節気の「春分(しゅんぶん)」を迎えます。

 太陽が真東から昇り、真西へと沈む日。

 昼と夜の長さがちょうど半分ずつになり、明日を境に、私たちが見る世界は少しずつ「光の季節」へと傾いていきます。

 私たち農業科の生徒が、栽培を学ぶ上で必ず出会う不思議な法則があります。

 それは、植物たちが時計もカレンダーも持たずに、どうやって「今が咲く時だ」と知るのか、という謎。

 その鍵を握るのが『光周性(こうしゅうせい)』です。


■ 植物たちの「こだわり」と、闇の魔法

 植物には、それぞれ「このくらいの光の長さになったら花を咲かそう」という自分なりのルールがあります。


• 長日(ちょうじつ)植物

 春から夏にかけて、日が長くなると「待ってました!」と花を咲かせるタイプ(ホウレンソウやレタスなど)。


• 短日(たんじつ)植物

 逆に、日が短くなってくるのを感じて秋に準備を始めるタイプ(イチゴやキュウリなど)。


 実は植物たちが測っているのは、光そのものではなく、光が途絶えた「連続した闇の長さ」です。

 植物たちは、葉にあるセンサーで、一日のうちの「夜の時間」をじっと測っています。

 春分という節目を過ぎ、闇が少しずつ短くなっていく……。

 その微かな変化を感じ取り、「春が来た、今こそ芽吹く時だ」と、命のスイッチを入れるのです。



■ 幾万の夜を越え、新しい出逢いへ


 果樹園の先にある「峰崎さくらの森」の大寒桜も、まさにこの闇の魔法を敏感に感じ取り、今、見事な淡紅色の花を広げています。


 24年前、大松先生たちが植えられたあの苗木たち。

 それから今日まで、巡り来る四季を二十四回。

 三六五日の朝と夜を、幾千、幾万と積み重ねて、彼らはこの場所で静かに呼吸を続けてきました。

 一晩たりとも休むことなく、凍えるような冬の闇さえもじっと数え上げ、光の訪れを信じて待つ。

 その誠実な営みの果てに、今のこの美しい景観があります。

 そして今、この桜たちは、もうすぐこの学び舎の門をくぐる新入生たちを迎えようと、その枝を精一杯に広げています。



■ 力を蓄え、躍動の春へ


 明日の春分、農場は束の間の休息に入ります。

 しかし、土の下でも、枝の先でも、植物たちの内なる時計は休むことなく時を刻み続けています。

 私たちも、新しい仲間を迎える準備を整えながら、次なる農繁期への力を蓄えたいと思います。

 皆さまもぜひ、足元に咲く小さな花が「どのくらいの闇を越えて、咲くスイッチを入れたのかな?」と思いを馳せてみてください。

 


「春分(しゅんぶん)」

 闇の深さを数え、明日を待つ芦北高校より。