今日も農場では、3年果樹専攻の生徒たちが「不知火(しらぬい)」の出荷準備に追われています。
■技術とテンポの真剣勝負
実習台に向かい、集中した面持ちで不知火の計量を行う生徒。
50g刻みで細かく分けられたコンテナへ、迷いのない手つきでテンポよく仕分けしていきます。
その一方で、専用の装置を使い、糖度と酸度を測る「非破壊検査」で品質検定を行う生徒も。
一玉一玉の個性に科学の視点で向き合い、最高の一品を選別していきます。
■出番を待つ「主役」たち
農場にある大きな貯蔵庫。
現在は3つの貯蔵庫が、出荷の出番を待つ不知火で天井近くまで埋め尽くされています。
この膨大なコンテナの山は、これまでの地道な管理の結晶です。
■同じ道を進む、妹たちへ
その中で、協力して実習を進める二人の生徒。
実はこの二人には、素敵な共通点があります。
なんと、明日の入学式で、それぞれの妹さんが同じ「農業科」へと入学してくるのです。
家では頼れる「お姉ちゃん」でしたが、明日からは同じ学び舎で、同じ志を持つ「高校の先輩」へと変わる二人。
「先輩としてのアドバイスは?」と尋ねてみました。
「高校生活は、本当に時間が経つのが早い。だから、一日一日を大切に、全力で楽しんでほしい。」
真剣な表情で語ってくれたその言葉には、この2年間を全力で駆け抜けてきた最上級生としての重みがありました。
■感動、そして……
まじめなコメントでビシッと決めてくれた後、ふと一人が呟きました。
「……次は、私らが(卒業式で体育館に)座るんかぁ。……絶対泣くわ。」
その言葉に、すかさずもう一人がツッコミを入れます。
「そっちは誰の卒業式でも泣くやろ!」
「あはは、確かに!」と弾ける笑い声。
静かな実習室に響いた、最上級生としての自覚と、卒業への実感、そして変わらない友情が交錯した、少し大人びた(?)昼下がりの一コマでした。
Global Series Vol. 3:Ashikita Seasons
[JP]
芦北高校農業科の活動を世界へ届けるシリーズ。
私たちが大切にしている活動の記録を厳選し、月に一度、英語版としてお届けします。
第3回は、3月9日の「不知火(しらぬい)の袋詰め実習」の記録です。
[Global Series Vol. 2:Bright Smiles, Blooming Together はこちら]
[EN]
Sharing the passion of Ashikita Agricultural High School with the world. Once a month, we present an English edition of our specially selected stories. Vol. 3: Shiranui Citrus Packaging Practice (Mar 9th).
[Click here for Global Series Vol. 2:Bright Smiles, Blooming Together]
— Shiranui Citrus: Hand-wrapping Practice for the Coming Spring —
The air in the orchard has begun to soften, yet inside the practice building, the energy remains high, as if to say, "The real work is just beginning." Looking up, containers are stacked high, filled with golden "Shiranui" citrus, waiting for their turn to be shipped. The students' hands move rhythmically, carefully wrapping each fruit in a protective polybag.
During this practice, as they focus all their senses on their fingertips, a natural relaxation seems to take hold. Curiously, their hearts feel closer here than they do in the classroom.
"Sensei, I went to my sister's graduation ceremony the other day."
"Do you still remember the lyrics to your junior high school song?"
"Man, that sore throat from the flu was seriously brutal..."
From casual reports of daily life and lighthearted memories to serious discussions about their future paths, and even grand dreams of crossing the ocean—"I want to live in Korea someday!"
Their hands never stop, yet their expressions are far softer than those seen in the classroom. The way they handle each fruit with care seems like a reflection of their will to cherish and weave their own futures in the same way.
Practice is not merely a place to learn technical skills. Through the "Shiranui" citrus, we touch the rich inner colors of our students. Surrounded by these golden fruits, their dreams, too, begin to take shape.
We get to see expressions and hear thoughts that rarely emerge in a typical classroom setting. This "time for dialogue" is an irreplaceable charm of these practical lessons for us as educators as well.
二十四節気では、5日に「清明(せいめい)」を迎えます。
この季節を象徴する「清浄明潔(せいじょうめいけつ)」という言葉。
万物が清らかに、明るく生き生きと輝く季節という意味が込められています。
その言葉を体現するかのように、春休み中の農場では、新しい仲間を迎える準備が着々と進んでいます。
農業科の更衣室では、新一年生が気持ちよく最初の一歩を踏み出せるようにと、ロッカーの隅々まで丁寧に掃除し、場を清める生徒の姿がありました。
新しい風を最高の状態で迎え入れようとするその誠実な姿に、本校が大切にしてきた伝統の「土壌」を感じます。
■ 命を繋ぎ、輝きを創る
来週4月8日に挙行される入学式。
その式典を彩るため、実習棟ではフラワーアレンジメントの制作が行われていました。
制作に励んでいたのは、先月の卒業式でも見事なアレンジメントを手がけてくれた一人の生徒です。
普段から指導していただいている講師の方のアドバイスを真剣な眼差しで受け止めながらも、自ら考え、一輪一輪の花と対話するように向き合う。
その横顔には、春の柔らかな光に負けないほどの凛とした「輝き」が宿っていました。
皆さんは、花の軸を支える「ワイヤー」の存在を知っていますか?
美しい花を、最も輝く角度で、そして式典の間も長く咲き続けさせるために。
生徒は、見えないところで茎に細いワイヤーを巻き、軸を一本ずつ補強しています。
講師の教えを自分のものにしながら、迷いなく花を切り、挿していく。
その一連の動作の裏側にある、繊細で気の遠くなるような手間。
それは、自分たちが大切に育てた、あるいは誰かが想いを込めて育てた命を、自らの技術でさらに美しく昇華させ、新しい誰かへと繋いでいく尊い作業です。
「私にはとても真似できないな」と圧倒されるほどの集中力と、花を扱う優しい手付き。
卒業式からまた一歩、その技術と想いを深めた生徒の献身的な姿こそが、入学式というハレの舞台を本当の意味で輝かせる「魔法」なのだと、深い驚きとともに感動を覚えました。
■ 新しい「光」を待つ農場
清らかに整えられた場と、魔法をかけた花たちが、来週、新しい仲間という名の「光」を温かく迎え入れます。
新しい光が伝統という土を温め、土が光に応えて新たな命を育む。
この清明の季節にふさわしい、瑞々しい物語がもうすぐ始まろうとしています。
■ 輝く明日へ
万物がその命を輝かせる、この佳き日に。
生徒の誇らしい輝きを糧に、私たち農業科一同も、共に一歩ずつ成長していきたいと思います。
皆さまの周りでも、何か新しい「輝き」が見つかるような、清らかな春でありますように。
「清明(せいめい)」
万物の輝きとともに、新しい一歩を待つ芦北高校より。
4月1日。
新年度の挨拶と、期待と不安が入り混じった先生方のザワザワとした談笑。
熱気を帯びた空気の中で、新しい一年が幕を開けます。
午前中から息つく暇もなく始まる会議の連続。
分掌の実務、学級経営、膨大な年間実習計画……。
共有フォルダに積み上がるデータの山を眺めながら、正直なところ「おっと、これは……」と、頭がパンクしそうになっているのが本音です。
ようやく訪れた昼休み。
喧騒を離れ、呼吸を整えるように農場へと向かいます。
会議室の熱気とは違う、少しヒンヤリとした果樹の出荷調整室。
主役を待つ静かな食品製造実習室に響く自分だけの足音。
そして、温室内で鼻の奥をくすぐるサイネリアの香り。
誰もいない現場を歩きながら、
「正直、会議室にこもるより、ここで生徒たちと一緒に実習している方が、よっぽど性に合っているのになぁ……」
なんて、思わず苦笑いがこぼれます。
土と緑の匂いに触れて、ようやく少しだけ、深い呼吸が戻ってきます。
視界の端では、裏山を鮮やかに染める桜の薄桃色が、春風に優しく揺れています。
農業科の学びは、日々の実習という地道な積み重ねでできています。
新しい年度を迎えても、目の前の管理に一つひとつ丁寧に向き合い、毎日の実習を何よりも大切にすること。
その積み重ねの先に、生徒たちの心が満たされ、充実した顔で農場を歩く姿を目指します。
そうして一歩ずつ育んできた「実り」を、どう次へ繋げていくか。
生徒たちが登校し、農場に弾けるような活気が戻ってくるまで、あと数日。
令和8年度。
やるべきことは、山積みです。
けれど、そのすべてが、最後には生徒たちの笑顔に繋がっている。
そう信じるだけで、指先に少しだけ力が宿ります。
「カンッ」、と少し強く叩くエンターキー。
さぁ、始めますか。
芦北高校農業科 「品種名鑑」 #02
前回、芦北高校の「不知火(しらぬい)」こと「あしポン」をご紹介しましたが、実は本校の果樹園で「あしポン」として皆様にお届けしている主役たちは、ただの「不知火」ではありません。
その舞台裏を支えるのは、「肥(ひ)の豊(ゆたか)」と「不知火M16A」という、選りすぐりの二つの精鋭品種です。
見た目ではプロでも見分けがつかないほどそっくりな双子ですが、実は性格の違うこの二つの品種を、私たちが絶妙なタイミングでバトンタッチさせながらお届けしているのです。
この「リレー」の裏側を知れば、あなたも立派な「あしポン目利き」です。
■ 表には出ない、二つの生い立ち
「肥の豊(ひのゆたか)」
── 熊本生まれの「先行ランナー」
地元・熊本県で「不知火」を親として誕生しました。
名前の由来は「肥後(熊本)を豊かに」。
不知火譲りの濃厚な甘さはそのままに、酸が早く抜けるのが最大の特徴です。
シーズンの幕開けと共に、いち早く最高の味を届けてくれる、スタートダッシュのスペシャリストです。
「M16A(エムじゅうろくエー)」
── 科学の力で磨かれた「実力派アンカー」
国の研究機関で、元の不知火からウイルスを取り除き、より健やかに育つよう改良された系統です。
「M16A」というメカニックな名前は、その開発過程で付けられた管理番号。
驚異的な貯蔵性を誇り、冬を越えて春先まで美味しさをキープする、後半戦を支える頼れる守護神です。
■ 「どちらが届くか」は、プロの判断にお任せ
お客様には、お手元の「あしポン」がどちらの品種かは分かりません。
なぜなら、私たちは「その時、一番美味しい状態のもの」を、栽培方法と組み合わせて厳格に選別し、お届けしているからです。
・露地栽培
── 寒さが来る前に「年内収穫」
お正月の寒波で果実が凍らないよう、外で育つ露地ものは年内に一斉収穫します。
まずは足の速い「先行ランナー(肥の豊)」から順に旬を迎え、貯蔵のきく「アンカー(M16A)」へとバトンを繋いでいきます。
・ハウス栽培
── 樹の上でじっくり「2月収穫」
一方、ハウスものは暖かな屋根の下でさらにじっくり熟成させ、2月に入ってから収穫を迎えます。
露地栽培の在庫が終わる頃に、さらに濃厚な甘みが乗った「真打ち」として登場します。
■ 届いた一果に、物語を添えて
次に「あしポン」を手に取られた際は、ぜひその裏側にある「品種のリレー」を想像してみてください。
「今届いたのは、熊本生まれの先行ランナーかな? それとも後半を支える実力派アンカーかな?」
そんな風に、品種と栽培のドラマを語れるようになれば、あなたも立派な「あしポン目利き」です。
「届くまでのリレー。目には見えないけれど、繋がれたバトンの先には最高の『美味しい』が待っています」
■ 次回予告
次回は、冬の窓辺を彩る鮮やかな色彩。
草花専攻生が丹精込めて育てる「シクラメン」について詳しく紹介します。
お楽しみに!