校長室からの風(メッセージ)
惜別の春 ~ 転退任式
惜別の季節 ~ 転退任式に寄せて
ここ数日の陽気で、校庭の桜も一気に満開に近づきました。学校の周囲も、桜、菜の花、辛夷と百花繚乱の情景が広がっています。球磨川の水面も温かく輝き、市房山をはじめとする山並みも笑うが如くの明るい眺望です。しかし、春は「しづごころ(静心)ない」別れの季節でもあります。
3月28日(月)午前、多良木高校体育館において職員の転退任式を行いました。平成28年度定期人事異動に伴い、転任者6人と退任者2人の併せて8人の職員の方々が多良木高校を離れることとなりました。短い方で1年、長い方で21年、勤務年数の長短はありますが、それぞれ多良木高校で果たされた役割はまことに大きいものがあります。この1年半、本校は高校再編整備の渦中にありました。その逆風の中で、最後の入学生73人を迎えることができるのも、同窓会、地域の方々と私たち全職員が力を結集した結果だと誇りに思っています。
引き続き、今年度のメンバーで平成28年度も多良木高校で苦楽を共にしたいという気持ちが強いのですが、私たち公立学校教職員にとって人事異動は定めです。赴任される次の学校においても、生徒をはじめ多くの人々が8人の皆さんを待っていらっしゃることと思います。8人の皆さんの前途を祝すとともに、惜別の情をもって送り出したいと思います。
人事異動の時期になると、井伏鱒二の「勧酒」という詩を思い出します。
コノサカヅキヲ受ケテクレ(勧君金屈巵)
ドウゾナミナミツガシテオクレ (満酌不須辞)
ハナニアラシノタトヘモアルゾ (花発多風雨)
「サヨナラ」ダケガ人生ダ (人生足別離)
別れと出会いの凝縮する春の愁いをかみしめて、新年度に向け進まなければなりません。
合格者の皆さんへ ~ 合格者説明会
「皆さん、おはようございます。校長の粟谷です。
合格者の生徒の皆さん、そして保護者の皆様、ようこそ多良木高校へ。心から歓迎をいたします。
この1年間、球磨、人吉の管内12中学校を回り、そして学校のホームページでの発信を続け、受検生の皆さんに呼び掛けてきました。「皆さんが、90年をこえる伝統を持つ多良木高校の期待と注目のアンカーとなります。アンカーを走ることは他の高校ではできない様々な特別の体験ができ、地域の熱烈な応援を受けるでしょう。一緒にアンカーを走り、3年後に感動のテープを切りましょう。」と。その呼び掛けに応え、本校を選んでくれたことを誠に有り難く思います。今日73人ものアンカーがそろいました。この3年間の入学者数で最も多いものです。皆さんを前にして、改めて、私たち教職員一同、強い責任と使命感を覚えます。
私自身、語りたい多くの思いがありますが、今日はこの後、入学に向けての具体的な準備や心構え等について説明がありますので、我慢したいと思います。けれども、一つだけ生徒の皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、皆さんは期待と注目の存在だということです。豊かな可能性を持っている皆さんは、多くの人の期待と注目のまなざし、そして応援を受けて、きっと自分自身が思っている以上にこれからの3年間で成長できると思います。多良木高校のアンカーとしての誇り、プライドを胸に抱いていてください。
これで、歓迎の挨拶といたします。」
早速野球部のユニフォームを購入する合格者
初々しさが原点です ~ 合格発表
初々しさが原点です ~ 合格発表
3月15日(火)の午前9時、多良木高校玄関に平成28年度入学者選抜検査合格者を掲示しました。前期選抜での合格内定者20人を含む合計66人の合格者の受験番号を掲げました。発表を待っていた受検生や保護者、中学校の先生方が集まり、「あったー! よかったあ!」と歓声が上がり、肩を抱いて喜び合う光景が見られました。自分の受検番号をバックに記念撮影する生徒もいました。笑顔の受検生、安堵の表情の保護者の方々の様子を遠くから見ていると、こちらも心の底から温かいものがじんわりとこみ上げてきて、思わず涙腺がゆるんでくるような気がします。
今度の入学生が多良木高校の最後の学年です。彼らが卒業する平成31年3月をもって閉校する定めにあります。しかし、「一緒にアンカーを走ろう。多くの同窓生や地域の方々がきっと熱烈に応援してくれる。他の学校ではできないことを体験して、3年後には感動のテープを切ろうよ。」と人吉・球磨地域の中学生の皆さんに、この1年間、呼び掛けてきました。それに応え、後輩がいないとわかっているこの学校を志望した受検生の覚悟に、私は涙が出るほど心が動かされます。
「今の初々しい気持ちを忘れないでほしい。」と合格を喜ぶ受検生に私は心の声で伝えました。何事にも初々しさが大切です。これから高校生活を送る皆さんの原点は今の初々しい喜びの気持ちです。そして、受け入れる私たち高校の教職員にとっても、今日の合格発表は、責任と使命感を新たに自覚する原点の日なのです。
学校の周囲では菜の花が咲きそろい、眼にまぶしい程の鮮やかな黄色が春を実感させます。清々しい青空のもとでの合格発表の情景に言いようのない感興を覚えました。
未来があなたを待っています ~ 卒業していく皆さんへ
未来があなたを待っています ~卒業していく皆さんへ
皆さんは、高等学校の教育課程を修了しました。日々の学習活動、学校行事や生徒会などの特別活動、そして自ら選んで取り組んだ部活動を通して大きく成長したのです。この先、職場または上級学校において、様々な困難と出会うでしょう。しかし、学力、体力、そして人間関係を築く力等の基礎を高校三年間で備えています。それらを元に謙虚な姿勢で臨めば、きっと道はひらけます。
失敗することも多いでしょう。けれども、失敗しないと学べない事があるのです。失敗してもいい、ただし、失敗を隠してはいけません。
高校時代、校則や決まり事、あるいは私たち教職員の指導を壁のように感じ、不満や窮屈さを感じたかもしれません。しかし、卒業してしばらく時間が経つと、その壁が皆さんを守っていたことに気付いてくれると思います。
今の皆さんは、港を出て大海原へ向かう船のような存在です。心細い気持ちがあるかもしれませんが、怖いことはありません。けれども、悲しいことには数多く出会うでしょう。その悲しさが皆さんを人間的に豊かにしてくれます。
未来には未知の仲間がいます。未知の物語があります。未来があなたを待っています。
卒業式
「ただ今、六十五人の生徒諸君に卒業証書を手渡しました。皆さんが手にした卒業証書は、多良木町教育長の椎葉袈史様が槻木の山に自生している三椏を原料として一枚一枚丹誠を込めて作られた手漉き和紙であります。手が機械と異なる点は、それがいつも直接に心とつながっているところだと言われます。皆さんに寄せられる多くの方のお祝いの気持ちが、「手仕事」でつくられた卒業証書に凝縮されていると思います。
平成二十五年春、皆さんは希望と期待に胸を膨らませ、本校に入学しました。以来三カ年、「平和・勤労・進取」の校訓のもと、勉学に、部活動に、そして様々な学校行事に積極的に取り組みました。
多良木町をはじめ球磨郡全体が学びの場となっているところが本校の教育活動の特色と言えます。体育コースは市房山でキャンプをし、球磨川でのラフティングを体験しました。福祉教養コースは保育園や介護福祉施設、公立多良木病院の御厚意により実習を重ねました。また、全ての生徒たちが、五十カ所以上の事業所の御協力のもと職場体験実習(インターンシップ)を行いました。そして、様々なボランティア活動をとおし、子どもから高齢者の方に至るまで幅広い交流ができました。さらに、恵比寿祭を筆頭に地域の各種行事に参加し、高校生の元気を発信する機会に恵まれました。
皆さん達多高生は、地域の方に支えられ、そして認められることで成長してきたのです。改めて、多良木町をはじめ人吉、球磨地域の多くの方々に深く感謝いたします。
(中略)
「仲間っていいな」。昨年夏の高校野球熊本大会準決勝で敗れた後、野球部主将の大塚将稀君がチームメイトに掛けた言葉です。涙と汗の顔の仲間達はキャプテンに頷き返したそうです。昨年の夏は多良木高校にとってひときわ熱い夏となりました。一戦一戦勝ち進むに従い、地元の人々の応援が驚くほど増え、グラウンドの選手とスタンドの応援が一体となって戦い、公立高校として唯一校ベスト4進出という結果を残しました。伝統ある多良木野球部にとっても三十年ぶりの快挙でした。
しかし、ベスト4までの道のりは決して順調ではありませんでした。新チームとして臨んだ初めての県大会では一回戦敗退でした。けれども、そこから仲間を信じ、厳しい練習に耐え、力を付けていったのです。高校生が持つ無限の可能性を野球部の活躍は教えてくれたと思います。」
共に楽しむ ~ 球磨支援学校とのスポーツ交流
共に楽しむ ~ 球磨支援学校とのスポーツ交流
立春は過ぎましたが、学校のある多良木町を囲む山々は冠雪しているものもあり、吹き下ろす風に思わず「春は名のみの風の寒さや」(早春賦)と口ずさみたくなります。しかし、そのような北風が吹く中、2月17日(水)の午前、多良木高校野球場では球磨支援学校高等部と多良木高校の生徒の歓声がやむことはありませんでした。
毎年恒例となった球磨支援学校高等部と多良木高校2年1組(体育コース・福祉教養コース)との交流活動が行われました。球磨支援学校も同じ多良木町にあり、1学期5月の「くましえん運動会」と2学期10月の「くましえん祭」には多良木高校からボランティアの生徒が多数訪れます。そして3学期の2月には高等部の生徒達が多良木高校を訪問して、スポーツ交流をするのです。今回は高等部の生徒30人が徒歩で来校してくれ、正門で出迎えた多良木高校2年1組40人の生徒と交流活動を行いました。
近年はティーボールというニュースポーツに取り組んでいます。ティーボールは野球に似ていますが、投手はおらず、本塁プレート後方に設置した細長い台の上にボールを載せ、それを打って走るのです。その他のルールはほとんど野球と変わりません。ティーボールの一番の良さは、誰もが一度は打者として順番が回ってくるところです。即ち、必ず出番があるのです。走れない人には代走を立てることもできますし、打球が遠くに飛ばない人のために、手前にホームランゾーンが設けてもあります。
球磨支援学校の生徒と多良木高校の生徒が混じって四つのチームを作り、自己紹介をした後、二試合実施しました。野球のルールをよく知らない生徒もいて(多良木高校の女子生徒にもいました)、珍プレーが続出し、笑いの絶えない試合となりましたが、支援学校の男子生徒の中には、見事な守備を見せ、称賛を浴びる生徒もいました。球磨支援学校の小川校長先生によると、野球が好きな生徒は、広い多良木高校野球場でティーボールができることをとても楽しみにしていたとのことでした。
同じ地域で学ぶ両校の生徒が自然体で共にスポーツを楽しみ、交流を深める姿はまことに爽やかです。2時間の交流が終わり、両校の生徒同士で写真を撮ったり、握手したりと別れを惜しみ、支援学校の生徒たちが歩いて帰るのを手を振って見送りました。
あなたは主権者です ~ 卒業していく皆さんへ
あなたは主権者です ~ 卒業していく皆さんへ
「校長先生、もし、戦前に女性に選挙権があれば戦争は止められたのではないかと私は思います。」と3年生の女子生徒が私に語ってくれたことがあります。昨年6月に公職選挙法が改正され18歳選挙権が成立して、そのことをどう思うかと私が尋ねた話の中での発言でした。この生徒は、選挙権の重みをよく理解していると思いました。
改正公職選挙法は今年6月に施行されます。そして翌7月には参議院議員選挙が予定されています。高校における主権者教育は待った無しの状況です。昨年末には総務省と文部科学省の共同で作成された教材『私たちが拓く日本の未来』が全国の高校生に送られてきました。1、2年生はこのテキストを副教材として使用し、これから主権者教育を計画的に実施できますが、3月1日に卒業する3年生にはその余裕はありません。3年生は1月下旬に卒業試験を終え、2月1日から家庭学習期間に入っています。そこで、2月9日の登校日に、私が講師役を買って出て、18歳選挙権に関する特別授業を実施しました。
「あなたは主権者です ~卒業していく皆さんへ」と題し、私が作成したパワーポイントの12枚のスライドを中心に、テキスト『私たちが拓く日本の未来』も参照しながら3年生に話をしました。
◆ 選挙権拡大の歴史から先人の努力を知ってほしい
◆ 権利は責任を伴う、棄権しないでほしい
◆ 一人一票の重みを感じてほしい
◆ 選挙運動は公職選挙法に基づきモラルとマナーを持ってほ
以上のような重点項目に言及し、結びに学校は政治的中立の場であることを強調し、まとめました。限られた時間で少々堅い内容を伝えなければならず、果たして3年生の皆さんの胸に私の言葉がどれだけ届いたか心許ない次第です。
しかし、皆さんは卒業して主権者となるのです。世界では18歳選挙権が主流です。日本の若い世代も、地域の暮らしから広く社会のことに関心を持ち、選挙権を活用して、未来を創っていくことができると期待します。自らの参加で社会が変えられかもしれない、という意識を持って、人生最初の選挙に臨んでください。
進路体験報告会
近未来の自分が見えると頑張れる ~ 進路目標を定めよう
人は、近未来の自分が見えると頑張ることができると言われます。近い将来の希望を持てれば前向きな気持ちになり、力が発揮できるのです。しかし、高校3年間は自分探しの期間と形容されるように、考えが揺れ動きます。多くのことを学び、知り、そして体験する中で、自分の興味、関心も変化し、本当にやりたいことは何か、自分でもわからなくなる時があります。大いに迷い、考え、様々な人の助言、指導を謙虚に受け、最終的には「よし!」と自分の進路を決めなければなりません。
2月3日(水)の6限目に進路体験報告会を開催し、1、2年生は、3年生の代表6人の今年度の進路体験を聴く機会を得ました。企業に内定が決まっている生徒は、3年間の成績評定の重みや、学校を欠席しないことの大切さ等が語りました。看護専門学校に進む生徒からは、進路目標を決定するまでの紆余曲折が具体的に語られ、進路について親と早い時期から相談しておいた方が良いとの助言がありました。大学進学の生徒の一人は、第一志望の大学に落ちた時の悔しさに触れると共に、なぜ不合格となったかについて冷静に分析する内容でした。
6人とも共通して、勉強を頑張ることはもちろん、部活動、ボランティア活動、そして資格試験に積極的に取り組むことが必要だと後輩に伝えてくれました。自分の体験に基づいた話しですから、借り物ではない、気持ちのこもった言葉でした。身近な先輩の言葉は大きな力があります。1、2年生も真剣な表情で聴く態度が印象的でした。
進路体験報告会の翌日、進路指導室の廊下に置いてある今年度の求人票を2年生の生徒たちが見ながら、進路についてお互いで話しをする姿を見かけました。また、ある1年生は「すぐに進路目標は見つからないかもしれません。けれども、焦らないようにします。進路目標が決まるまで、先ずは自分の実力を高めます。」と私に話してくれました。
3年生が、1,2年生の気持ちに火を付けてくれました。バトンは確実に後輩に手渡されたと思います。
オール多良木で挑んだ高校城南駅伝大会
「オール多良木」で挑んだ高校城南駅伝大会
熊本県高等学校城南地区新人駅伝競走大会のゴールのシーンはまことにドラマチックで、思い出す度に興奮してくるほどです。
女子のアンカーの椎葉さん(1年)が8位で本渡運動公園陸上競技場に帰って来ました。トラックで苓明・天草拓心高校合同チームを抜き、さらに人吉高に迫りましたが、あと一歩及ばず7位でゴール。倒れ込んで悔し涙を流す椎葉さんをサポートの生徒たちが励まし支えました。
男子のアンカーの西君(1年)は、先頭の球磨工業に続き、八代東高の選手と競り合いながら2位で競技場に帰って来ました。最後のトラック一周、両校の生徒たちの声援が飛び交い、私も八代東高校の校長先生もお互い応援。西君は身体一つ分リードを保ち、ゴールイン。生徒たちも感激して駆け寄りました。
1月30日(土)、天草市で熊本県高等学校城南地区新人駅伝競走大会が開催されました。男子は第61回、女子は第22回を数える伝統ある大会で、今回は男子30チーム、女子は22チームがエントリーし、多良木高校も男女共に出場しました。小規模校ゆえに陸上部の長距離選手だけでは人員が不足するため、5つの運動部(サッカー、バスケット、バレー、野球、ソフトテニス)から協力を得て、言わば「オール多良木」で挑んだのです。
本渡運動公園陸上競技場をスタート、ゴールとし、午前9時30分に女子がスタート。5区間12㎞を全員が懸命にたすきをつなぎました。そして午前10時50分に男子がスタート。1区の那須君と4区の村上君の区間賞をはじめ6区間20㎞を全員が上位の走りを見せ、2位を勝ち取り歓喜にわきました。
1月24日(日)から25日(月)にかけて天草地方でも大雪が降り、学校は臨時休校、道路も通行止めが相次ぎ、城南駅伝大会の開催を危ぶむ声も上がったそうです。大会前日の29日(金)も終日雨でコンディションが心配されましたが、大会当日は朝から雨が上がり、次第に陽光が差し始め、青空が広がりました。風の強い海沿いのコースを苦しい表情ながら強い意志の力で走りきる選手の姿は輝いて見えました。午後には気温も上がり、まるで春の陽気となりました。高校城南駅伝大会が天草に春を呼び覚ましたのです。
一期一会の人、風景 ~修学旅行
一期一会の人、風景 ~ 修学旅行
一期一会(いちごいちえ)という言葉があります。もともとは茶道のお茶会の心得を意味しており、お茶をもてなす主(あるじ)と客の出会いは、一生に一度だけの出会いと思い、心を込めてお互いに誠意を尽くすべきと説いたものです。この一期一会という言葉を実感するのは、特に旅行の時ではないでしょうか? 日常生活を離れ、遠くに旅行をして、その時出会う人、風景には、生涯もう二度と出会うことはないかもしれないという感情に包まれます。
今回の修学旅行において、2年生の皆さんは一生に一度限りの出会いを経験したはずです。例えば、添乗看護師さんの中岡ゆかさんとの出会いは、多良木高校修学旅行団にとってこの上ない幸運だったと思います。中岡さんは、積極的に生徒の皆さんの中に入っていかれ、コミュニケーションを進んで図り、短期間で信頼関係を築かれました。少し体調を崩した生徒がいると、寄り添って適切な対応をしていただきました。また、「私の体験で良ければ」と、看護師の道をなぜ選んだのか、専門職としての看護師のやり甲斐などについて、旅行2日目の夜に進路講話を行って戴きました。最終日の羽田空港では、「多良木高校の生徒さんは、みんなとっても素直でかわいいです。こんな純真な生徒さん達とは初めて出会いました。」と涙を流して、別れを惜しまれました。
一期一会は人だけではなく、風景にも言えると思います。福島県の羽鳥湖スキー場での吹雪は生徒の皆さんにとって恐らく初めての体験だったと思います。雪で視界がきかない冬山の光景は、これから先出会う事がないのではないでしょうか。また、レインボーブリッジをはじめ東京の臨海副都心の近未来的な景観は生徒の皆さんが目を見張るものでした。その一画にある日本科学未来館での、人型ロボット(アンドロイド)のASHIMO(アシモ)や同じく気象アナウンサーの実演の見学は、衝撃の出会いだったかと思います。そこに皆さん達は「未来」を見たのかもしれません。人工知能(AI)を備えたロボットと共存する社会は案外早く訪れるのでないかと私も感じました。
4泊5日の旅行という非日常の世界から日常の生活に戻り、一週間が経ちました。出会う喜びと別れの切なさが一期一会にはあります。一期一会をかみしめて、前に進んでいきましょう。
(添乗看護師の中岡さんの講話)
トラベルとトラブル ~修学旅行
トラベル(Travel)とトラブル(Trouble)~ 修学旅行
英語のトラベル(Travel:旅行)とトラブル(Trouble:苦労、問題)は同じ語源だと聞いたことがあります。即ち、トラベルとは、様々なトラブルに遭遇し、それをいかに克服していくかのプロセスだと言うのです。「かわいい子には旅をさせよ」という諺(ことわざ)もあります。親の手許で甘やかして育てるよりも、広く世の中に出して苦労を経験させる方が成長するという意味です。日本語においても、旅、旅行は苦難を象徴する言葉なのです。
1月18日(月)から22日(金)にかけて4泊5日、2年生の修学旅行引率で福島県及び東京都を巡ってきました。初日、首都圏及び東北地方の大雪のため、鹿児島空港からの出発便が2時間の遅延、東北自動車道の一部通行止めによる迂回路を通って羽田空港から福島県白河市までの5時間の長いバス移動、そして目的地のスキー場のロッジまでバスが上ることができず、麓にある系列のホテルに宿泊変更を余儀なくされるなど予定が大きく変更されました。
二日目は青空と白銀のコントラストがまぶしいスキー研修でしたが、三日目、時折吹雪となる中でのスキー体験は多くの生徒にとって体力的に厳しいものがあったと思います。しかし、インストラクターの方々に励まされながら、懸命に取り組んでいました。四日目、東京都内の班別自主研修では、電車の乗り間違い、駅の出口を誤る、路上での強引なセールスに戸惑うなど、多くのトラブルが起こったようです。しかし、ホテルに帰って来た生徒の皆さんには、それらのトラブルを面白がっている余裕があり、頼もしく思いました。
こうして振り返ってみると、今回の修学旅行は、2学年63人と職員4人がベテランの添乗員さんと献身的な看護師さんの支えを受け、幾つものトラブルを乗り越えて無事に帰校できた一つの物語のようにも思えます。非日常の大変さと面白さを級友達と共に体験することで、仲間の違った一面を発見し、より絆も強まったことと思います。
雪山の容赦のない天候の変化、大都会の混雑、人の動きの速さ、東京湾岸の未来都市のような空間などを体験してきた皆さんを、人吉・球磨地域が優しく迎えてくれました。旅行は、故郷の良さを改めて気付かせてくれるものです。
大学入試センター試験に挑む
「大学入試センター試験に挑む」
平成28年度大学入学者選抜大学入試センター試験に多良木高校からは8人の生徒諸君が挑みました。本校の場合、9月の就職試験の解禁から始まり、専門学校・短大・大学等の推薦・一般入試が続き、すでに3年生の大部分の進路が決まっています。その中で、この1月まで受験勉強を続けてきて、大学入試センター試験を受ける生徒は少数派となります。
試験前日の1月15日(金)の昼休み、受験生8人への激励会を校長室で行いました。この8人の生徒の中には推薦入試で合格を得ている人もいますが、その後も課外授業も受け、受験勉強を持続してきました。「周囲の人が受験勉強から離れている中で、皆さんはここまでよく勉強を続けてきました。そのことを誇りに思います。8人の皆さんを多良木高校の代表として自信を持ってセンター試験に送り出したいと思います。」と私は語り掛けました。3学年や進路指導の職員も集まり、皆でエールを送りました。代表で北﨑裕之君が、「本番が最も良い結果となるよう、これまで勉強してきた力を発揮します。」と力強く決意を述べてくれました。北﨑君は、野球部のエースとして昨年夏の高校野球県予選で準決勝進出を果たした生徒で、部活動と学習の両立を立派に果たしてきた生徒です。
そして大学入試センター試験初日、本校の生徒の試験会場である熊本大学黒髪キャンパスに私も午前10時に駆けつけました。晴天で風もなく、穏やかな天候に恵まれました。午前11時45分には、地歴・公民科を受験した5人と午後の国語から受験する3人の全員が揃いました。特に緊張している様子もなく、笑顔も見え、頼もしく感じました。
今回の大学入試センター試験は全国で約56万人が受ける大規模なもので、高校3年間の学力の到達度を評価するという意味ではとても教育的意義が大きいものです。普通科の高校生には大学入試センター試験の受験を私は勧めます。今や国公立大学だけでなく多くの私立大学も参加しており、試験結果を活用できます。たとえ秋に推薦入試で合格が決まっていても、冬まで受験勉強を続け、学力をさらに高め、春の進学につなげて欲しいと思います。
学び続ける姿勢は、まさに生きる力となっていくと信じます。
3学期始業式
皆さん、新年明けましておめでとうございます。こうして皆さんと一堂に会し、多良木高校の新年が始まります。
さて、平安時代に書かれた随筆「枕草子」の冒頭、作者の清少納言はそれぞれの季節で最も良い時間帯について述べています。春はあけぼの、即ち明け方が良い、夏は夜、秋は夕暮れ、と言っています。それでは、冬はいつが良い、と言っていますか?そうです、冬はつとめて、即ち、冬は早朝、朝早くが良いものだと述べています。雪が降っていたり、霜が降りていればなお良いと清少納言は言っています。清少納言が暮らした都、今の京都は、鴨川が流れ、山々に囲まれた盆地です。冬の厳しい所で知られます。一方、この球磨盆地も球磨川が流れ、九州山地に囲まれており、京都ととても似た気候です。これから2ヶ月は厳しい寒さが続くことでしょう。しかし、千年前の都人も愛した冬の朝の清々しい情景を感じる余裕を持ち、「冬はつとめて」と口にして自分を励まし、登校してきてください。
朝に関連して話しを続けます。誰もが気持ちの良い朝、一日の始まりを迎えたいと願っています。そのためには何が大切なのでしょう。そう、十分に眠ることですね。眠りは身体を休めるだけではありません。近年の脳科学の研究によると、眠っている間に、私達の脳は進化し、更新されていくそうです。起きている間に学習したことを脳のそれぞれの分野に書き込み、記憶させる作業が睡眠中に行われるのです。学習というと勉強や知識と思われがちですが、運動も含まれます。例えば、昼間に練習したことが脳の運動機能を司る分野に書き込まれ、身体全体が覚えていくことになるのです。従って、練習することと同じくらい眠ることがスポーツにとっても大事なのです。昼間、勉強や部活動で頑張った事を明日につなげるために睡眠がいかに大切かわかるでしょう。
ところが、今の高校生諸君は、眠りの質を高めるためにやってはならないことをやっている人が多いのです。眠る前に長時間スマートホンやパソコンの電子画面を見る行為です。電子画面の光は、自然界にはない特性を持っているため、目を通して脳を刺激し混乱させるため、眠りについても昼間の学習成果の正常な書き込み作業ができなくなるのです。さらに、睡眠中に分泌される男性、女性ホルモンにも大きなダメージを与えることがわかってきました。女性が気にする美容にも悪影響を及ぼすことが指摘されています。最も身体を作っていかなければならない時期に、それを阻害する行為を毎晩していることになります。皆さん、自分自身の成長や健康と引き替えにするほど、ゲームやSNSは大事なものですか? バランスを考えてください。それでは、眠りの質を上げる秘訣を皆さんに教えます。簡単なことです。「闇の中で寝て、朝日と共に起きる」ことです。眠る1時間前には携帯端末やパソコンの電源を切り、できれば天井の豆電球も消して闇をつくり、午前零時までには眠ってください。
最後に、残り50日ほどで卒業していく3年生に伝えます。まだこれから進路達成に向けて試験に臨む人がいます。全国でおよそ56万人が受験する大学入試センター試験にも本校から8人が挑みます。3年生65人全員の進路が決まるまで私達も全力で支援します。そして、既に就職、進学が決まっている皆さん、新しい出会いに期待が膨らんでいると思います。けれども、進路決定後のあなたの生活はどうですか?他の人から見て、出会うに値するための仲間となって新しい学校に進もうとしていますか? 出会うに値する仲間として新しい職場に入っていこうとしていますか?残された高校生活一日一日を惜しみながら、最後まで勉強してください。しっかりと助走し、勢いをつけて、新しい世界に飛躍して欲しいと期待します。
2学期終業式の挨拶
先週、スウェーデンの首都ストックホルムでノーベル賞の授賞式が行われ、大村智(さとし)氏が医学・生理学賞、梶田隆章(たかあき)氏が物理学賞を受賞されました。熱帯地域の感染症に効果のある薬品開発で大きな貢献をされた大村さんは、20代の頃、東京都立墨田工業高校定時制で理科の教師をされていました。定時制の工業高校ですから、多くの生徒は、昼間、地域の工場で働き、夕方から夜にかけて学校で勉強するのです。大村さんは、ある日、油で汚れた手で答案を書く生徒の姿を見て、心を激しく打たれ、「生徒はこんなに頑張っている。自分はもっと勉強しなければと思った」そうです。そして、定時制高校の教師を5年でやめ、大学院に入り直し、研究者の道を進まれました。ノーベル賞科学者誕生につながる出発点が、働きながら学ぶ定時制高校の生徒との出会いだったことになります。
2学期の終業式に当たり、大村さんのこのエピソードを思い起こすのは、日頃から、私自身、生徒の皆さんの立ち居振る舞いに心動かされることが数多くあるからです。それは、私自身が直接見て、気づくこともあれば、保護者の方や地域の方々からお電話で、お手紙で、あるいはお話いただき、知ることもあります。
皆さんが地域で挨拶することが、どれほど地域の方の気持ちを明るくしているか、恐らく皆さんの想像をはるかに超えていると思います。一例をあげます。この夏に御主人を亡くされた多良木町にお住まいのあるご婦人がおっしゃいました。「主人を亡くし心に大きな穴が空いたような毎日でしたが、朝夕に家の前を自転車で通る多良木高校生の元気な姿、そして時に私のような見ず知らずのおばあちゃんにも『おはようございます』『こんにちは』と掛けてくれる挨拶に気持ちが励まされ、私もしっかりしなくてはと思い直しました。」と。
また、10月に行われた恵比須祭りの夜、祭りが終わり恵比須神社の周辺の出店も片付け始めた頃、ゴミが道路に散乱した状態を見て、多高生3年の男子生徒3人が自発的にゴミ拾いを始めました。翌朝、例年に比べて周辺の道路が綺麗なことに気づき、町で評判になり、私は幾人もの方から感謝の言葉をいただきました。11月の強歩会では私も最後尾をゆっくりと歩き通しましたが、皆さんが歩いた後にゴミ一つ落ちていませんでした。小さな包紙を誤って道に落とし、急いで拾う生徒の姿を見た時は、とても爽やかな気持ちになりました。
年度当初から、生徒の皆さんに私たちは「多高プライド」を呼びかけてきました。自分に恥じない高校生活を送って欲しい、大人が、あるいは他の学校の生徒がみっともない行動をしても、自分だけは流されず善く生きようと思って欲しいのです。あなたの行いを誰かが見ています。いや、たとえ誰も見ていなくても自分は見ています。自分自身に誇りを持つと見苦しいことはできないはずです。そんなことをする自分を自分自身が許せない、という気持ちが起こるのではないでしょうか。
2学期、自らの進路実現に正面から挑んだ3年生の姿には、まさに多高プライドを感じました。最初の挑戦が不調に終わった人は恐らく悔し涙を流したことでしょう。けれども、それを乗り越え、再び進路実現に挑む時、その人は人間的に大きく成長しています。多くの模擬面接を校長室で行いましたが、二度目の挑戦の人は一回目の時とは気迫が違いました。高校生ではなく青年になったなあと感じた瞬間です。また、難関の試験に合格した後も、変わらず早朝課外や放課後課外を受け続け、受験前と変わらぬ生活を持続している生徒の姿はとても頼もしく思います。進学、就職はゴールではなく、また新たな大事なスタートだということをその人はよくわかっているのでしょう。1,2年生の皆さん、3年生の後ろ姿から多くのことを学ぶことができます。できれば、進路について直接話しを聴いてください。部活動の先輩などから個人的に体験談を聴くことで、1、2年生の皆さんの気持ちに火が付くことを期待しています。
結びになりますが、昨日の午後、正門に立派な門松が立ちました。保護者の方が朝から山に行って竹を切り出し、1日がかりで作業をされ立てられました。有り難いことです。門松は、新しい年の神様が天から降りてこられる目標(「依代(よりしろ)」と言いますが)となるものです。これで、私達の学校も新年を迎える準備が整ったわけです。
明日から冬休みとなります。学期中とは異なり、長期休暇は生活のリズムが乱れがちです。今年の流行語とも言えるルーティン、即ち決められた行動手順を自分なりに定めて、冬休みが充実したものとなるよう期待します。そして、清々しい気持ちでお互い新年を迎えましょう。
クラスマッチ・駅伝大会
「男子バレーボールの部、3年1組、優勝おめでとう。個々の運動能力の高さを発揮し、ダイナミックなプレーを見せてくれました。クラスマッチに向けて朝の自主練習の成果が実を結びましたね。1年1組、準優勝おめでとう。見応えのある優勝戦でした。3年生相手に堂々と立ち向かい、ベストを尽くしたプレーは見事でした。
女子ドッジボールの部、2年2組、優勝おめでとう。フットワーク軽く、お互い声を掛け合ってのチームワークの勝利でした。肩の強さを活かして、速いボールを投げ込む姿が印象に残りました。ドッジボールは私も小学校の頃に昼休みの遊びで夢中になったなあ、と懐かしい思いで観戦しましたが、改めて観て、スポーツとしても面白いと思いました。女子生徒は、不審者に迫られた時に逃げ足が早くなければなりません。先ず逃げること、そして俊敏に動く事が求められるドッジボールは、女子のクラスマッチに向いていると感じました。
そして今日の駅伝大会です。1年1組、優勝おめでとう。襷をつないだ5人の懸命の走りは力強さがありました。優勝するぞという気迫が伝わってきました。圧巻の走りでした。長距離走は多くの人が苦手にするものだと思います。けれども、次の人が待っている、ゴールではみんなが待っていることが走る力となります。多くの声援に支えられ、参加者全員が完走してくれたことを頼もしく思います。
さて、多良木高校では今回のクラスマッチや駅伝大会など体育的行事を多く行っています。それはなぜでしょうか? もちろん身体を動かす喜びを知り、生涯にわたってスポーツを愛好してほしいとの願いが第一ですが、もう一つ大きな目的があります。それは、生徒の皆さんの結びつきです。
今回のクラスマッチの種目にはありませんでしたが、サッカーやバスケットボールで競り合ったボールがコートの外に出た場合、自分たちのボールの時、日本人はよくマイボールと主張します。しかし、マイボールは和製英語であり、欧米の選手はそんな言葉は使いません。彼らは何と言うのか? 「Ours(アワーズ)」と言います。ここでちょっと英語の勉強です。私は、私の、私を、私のもの I My Me Mine 中学校で学習しましたね。We Our Us Ours そう、Oursは私達のものです。常に私達、チームとして意識しプレーをしているのです。スポーツをとおし、一つのチームとして、クラスとして、学年として、学校全体としての結びつきが強くなって欲しいとの願いを私達は持っています。
熊本市の高校1年生女子が人権啓発のための標語をつくり、今年の熊本市の最優秀賞に選ばれました。
「世界中に高校生がいる 同じクラスになるなんて奇跡だよね」という標語です。奇跡の出会いがあって、今のクラス、学年、そして学校があるのです。
昨日のクラスマッチ、そして今日の駅伝と、多高生の元気を大いに発揮してくれました。お互いの結びつきも強まったと思います。来年はさらに私達の学校、多良木高校が活力あるものになるという期待がふくらんだ二日間でした。
皆さん、お疲れ様。講評を終わります。」
遅れてきた紅葉 ~ 校庭のイロハモミジ
遅れて来た紅葉 ~ 校庭のイロハモミジ
今年は11月下旬まで球磨地方も温かい日が続いたためか、紅葉の美しさが今一つという声が聞かれました。紅葉の名所で知られる、あさぎり町の麓城跡(ふもとじょうあと)を11月末に訪ねましたが、やはり地元の方のお話では例年に比べると紅葉の華やかさが物足りないとの評でした。
ところが、12月に入り寒波襲来。厳しい冷え込みに師走を実感していますが、それに合わせるかの如く、多良木高校校庭のイロハモミジ(イロハカエデとも呼ぶ)が一気に紅葉し、今が盛りの鮮やかです。日の光を浴びると、まるで光源のようにイロハモミジを中心に明るさ、派手さが際立ち、見る者を引きつけます。登下校や校庭の掃除担当の生徒達が、「わあ、きれい」と感嘆して駆け寄る姿が見られます。
数学者の藤原正彦氏が、その著書において「論理力よりも情緒が大切」だと強調されていたことを思い出します。美しさやもののあわれ、懐かしさなどを感じ取る心の動きを養うことが教育では重要だと主張されています。本校の野球部は猛練習で有名ですが、夕日が燃える美しさで今沈まんとする時、齋藤監督は練習を止め、選手全員に夕日を見るように言われます。そして、「厳しい部活動をしているからこそ、こんな美しいものを見ることができるんだ」と生徒に語られます。選手達にとっては忘れられない夕日となることでしょう。
気温は日に日に低くなっていますが、空気は澄み、四囲の山々の稜線は明らかで、清々しい気持ちとなります。2学期も12月18日(金)で終業式、今週末で区切りを迎えます。平和で恵まれた環境の学舎であることに感謝しつつ、気持ちを引き締めて1年の締めくくりに当たりたいと思います。
自分のルーティンを定めよう
自分のルーティン(Routine)を定めよう
ラグビーのワールドカップにおいて、日本代表の五郎丸選手がゴールキックをする前のポーズが話題となりました。両手の人差し指を胸の前で合わせて拝むような姿勢は、どこかユーモラスで、「どんな意味があるのだろう?」と私も最初は不思議な気がしました。しかし、このポーズが、ゴールキックに向けて精神を集中するために必要な一連の動作の一つだと知られるようになりました。ラグビーの五郎丸選手に限らず、一流のスポーツ選手には、大事なプレイの際に決められた動作を持っており、毎回、手順どおりにそれを行う事で集中力を高めるものだそうです。
このような一定のパターンの身体的な動き、一連の動作のことをルーティン(Routine)と呼びます。ルーティンの語源は「ルート(Route)」、即ち道、道筋のことと言われます(ルート219と言えば219号線のこと)。決められた道筋どおりに動作を行えば、余計な事を考えずに集中できるのです。技術的な練習に加え、自分なりのルーティンを定めることでメンタル面が強化され、五郎丸選手の場合はキックの精度、成功率が高まっていったと言われます。
さて、このルーティンは日常生活でも重要です。例えば、慌ただしい朝、皆さんはどんな一連の動作を行って登校に至っていますか? ○時○分頃起床、洗顔、朝食、歯磨き、トイレ、身支度等を済ませて、○時○分頃には自宅を出るといった一連の動作が決まっていると思います。くま川鉄道の相良藩願成寺駅の朝6時25分発下り列車で通学しているある生徒は、毎朝5時に起床していると私に語ってくれました。「5時半では間に合わないの?」と私が尋ねると、「5時半では支度に余裕がないのです。5時に起きないとだめです。」と答えてくれました。毎朝5時起床は大変だと思いますが、この生徒なりのルーティンが確立されているのだと思います。
12月18日(金)が多良木高校2学期終業式です。間もなく冬休みとなります。長期休暇となると生活のリズムが乱れがちです。日常生活とは異なる、長期休暇用の生活のルーティンを定めてください。そのことが、体調を崩さず、充実した休暇を送ることにつながると思います。
サイテク祭
サイテク祭2015
「サイテク祭? さいてく?」。昨年度、多良木高校に赴任して、初めてこの言葉を聴いた時、意味がすぐにはわかりませんでした。サイテク祭とは、サイエンス(Science)・テクノロジー(Technology)のお祭りという意味で、多良木町をはじめ球磨郡の子ども達に科学技術の面白さを体験してもらう場として、多良木町青少年育成会議が主催されるものです。今年も、12月6日(日)に多良木町町民体育館にて開催されました。
サイテク祭は、人吉球磨地域の県立学校6校をはじめ趣旨に賛同した大学(東海大学、崇城大学等)や企業等がそれぞれのブースを設け、理科の実験やものづくり体験ができると共に、ロボットやCG等の科学技術の紹介がなされています。これらを小学生が自由に回り、参加体験を行うのです。
多良木高校は理科の職員3人とボランティアの生徒30人が参加し、スライム作りや紙飛行機作りなど小学校低学年向きの活動を繰り広げました。他の高校では、球磨工業高校の全国大会準優勝のロボットが注目の的となっていました。大学のブースはさすがにレベルが高く、タブレットで操作できるロボットや水中観測ロボット、高品質の画像撮影が可能なドローンなどが紹介されており、大人も夢中になる程でした。
このサイテク祭は、地域の町で科学の面白さを子ども達に体験させるという、県内でも類を見ないユニークな催し物だと思います。当日、外は氷雨の寒々とした日曜日でしたが、会場の体育館内は子ども達の驚きや喜びの喚声が上がり、熱気に包まれていました。午前10時の開会から午後3時の閉会まで入場者は800人を超え、例年以上の賑わいを見せました。多良木高校としては、理科の体験ブースを出しただけでなく、会場全体の設営、撤収に野球部員が協力し、地域貢献を果たすことができたのではないかと思っています。
今回参加した子ども達の中から、いつの日かノーベル賞を受賞するような科学者が育ってくれればと夢想したくなります。
「先ず逃げる事」、「避難第一」 ~火災避難訓練
12月4日(金)の4限目に本校で火災避難訓練を実施しました。上球磨消防組合消防本部から3人の消防士の方に来ていただき、御指導をお願いしました。化学室で火災が発生したとの想定で避難訓練と消火器を使った消火訓練を行いました。避難終了後の校長挨拶を次に掲げます。
「先週あたりから急に寒くなりました。冬到来です。寒くなると火が恋しくなりますね。学校内でもエアコンによる暖房だけでなく、灯油ストーブを図書室事務室など数台出しています。皆さんの家でも様々な暖房器具を使っていることでしょう。しかし、冬は空気が乾燥し、住宅を構成している木材も乾燥するので、火災の危険性が高まります。従って、師走に入ったばかりのこの時期に学校として防火避難訓練を行った次第です。
火災の増える大変御多用な中、今日は上球磨消防署から3人の消防士の方に防火訓練の御指導に来ていただいています。誠にありがとうございます。上球磨消防署は、多良木、あさぎり、湯前、水上の4か町村の住民の安全、安心を守り支えるという重い使命を担われ、日夜業務に取り組んでいらっしゃいます。そのことに深く敬意を表します。上球磨消防署のホームページに今朝アクセスしてみたのですが、朝8時段階で、今年の救急出動数が1469件と表示されていました。本校でも生徒の皆さんが大きな怪我、あるいは急に体調が悪くなった場合等、救急車を要請しますが、この数字を見て、消防署の皆さんの激務を知る思いです。
さて、改めて申すまでもありませんが、火災は恐ろしいです。高温の炎、有毒ガスを含む煙に私達は対処できません。皆さん、消防士の方々の服装、身に付けておられる装備を見てください。日頃厳しい訓練を積まれ、そのうえ火災に対応した装備を身に付けたプロの消防士の方に任せるしかないのです。私達ができることは、先ず逃げる事、避難です。そして通報です。しかしながら、まだ火災には至っていない段階、例えばストーブの近くの雑誌が燃えているとか、その程度の火であれば、自ら消火器を使って初期消火ができるかもしれません。自分自身及び家族、まわりの人々を守るためにも、消火器やAEDを操作できる高校生になって欲しいと思います。
これから、上球磨消防署の方から、今日の避難訓練についての講評をいただき、その後、消火訓練も予定されています。皆さん、緊張感をもって受けとめてください。以上で挨拶を終わります。」
高校野球監督35年
高校野球監督35年
校長室で執務中の私は、歴代の校長先生方の肖像写真に見守られています。26人の先輩校長先生のまなざしを感じることで、襟を正し、緊張感を持って業務に取り組むことができます。その歴代校長先生の中の第25代校長である齋藤健二郎先生は、校長退職後に再び多良木高校野球部監督となられ、今年で6年目です。ほぼ毎日、野球場にお姿を見せられ、孫の世代の高校生の指導に当たられています。
齋藤健二郎先生の高校野球監督通算35年を祝う会(「熊本県高野連35年永年表彰受賞記念祝賀会」)が11月29日(日)、人吉市で開催されました。出席者はおよそ270人という盛大なもので、齋藤監督の指導を受けてきた多くの元高校球児の方をはじめ多良木町関係者、親交のある方等が詰めかけ、会場は熱気あふれる雰囲気となりました。
齋藤監督は、昭和49年に河浦高校に初任で赴かれ、軟式野球部監督を務め、翌年には県大会優勝に導かれました。そして多良木高校に転任されたのです。球磨郡上村(現あさぎり町)の御出身でもあり、郷土の学校の野球部監督として心血を注がれました。昭和60年の夏の大会では、後にプロ野球で活躍された野田浩司投手を擁しベスト4に進出し、大いに注目されました。多良木高校で10年指揮を執られた後、惜しまれながら新設の東稜高校に転勤され、早速野球部を創り、チームを土台から築いていかれました。そうして、平成2年から平成5年まで名門熊本工業高校野球部監督を務められ、3度の甲子園出場を果たされました。その後、もう一度東稜高校の監督を務められた後、管理職に専念され野球から離れておられたのですが、地域の熱い期待に応え、定年退職を機に多良木高校野球部監督を再度引き受けられたのです。
齋藤監督の指導方針は「日常生活の中に高校野球の勝利はある」というものです。このことを若い頃から一貫して追求してこられました。その教育理念が素晴らしいチームをつくり、多くの選手を育て、今日に至るまで先生を熱烈に慕う元高校球児、元保護者の方々の存在につながっていると言えます。
御年66歳、県内の高校野球監督では最年長ですが、「闘将」と呼ばれた若い頃の情熱はいささかも衰えはなく、時に自らノックバットをふるい、叱咤激励される姿はまさに百戦錬磨の将帥の姿です。「グラウンドから教室へ 教室から社会へ」と野球部のベンチには大きく記されています。齋藤監督の御指導のもと、野球をとおして生徒たちは大きく成長しています。学校にとってかけがえのない監督、教育者であり、畏敬の念を禁じ得ません。
登録機関
管理責任者
校長 粟谷 雅之
運用担当者
本田 朋丈
有薗 真澄