2学期終業式の挨拶
先週、スウェーデンの首都ストックホルムでノーベル賞の授賞式が行われ、大村智(さとし)氏が医学・生理学賞、梶田隆章(たかあき)氏が物理学賞を受賞されました。熱帯地域の感染症に効果のある薬品開発で大きな貢献をされた大村さんは、20代の頃、東京都立墨田工業高校定時制で理科の教師をされていました。定時制の工業高校ですから、多くの生徒は、昼間、地域の工場で働き、夕方から夜にかけて学校で勉強するのです。大村さんは、ある日、油で汚れた手で答案を書く生徒の姿を見て、心を激しく打たれ、「生徒はこんなに頑張っている。自分はもっと勉強しなければと思った」そうです。そして、定時制高校の教師を5年でやめ、大学院に入り直し、研究者の道を進まれました。ノーベル賞科学者誕生につながる出発点が、働きながら学ぶ定時制高校の生徒との出会いだったことになります。
2学期の終業式に当たり、大村さんのこのエピソードを思い起こすのは、日頃から、私自身、生徒の皆さんの立ち居振る舞いに心動かされることが数多くあるからです。それは、私自身が直接見て、気づくこともあれば、保護者の方や地域の方々からお電話で、お手紙で、あるいはお話いただき、知ることもあります。
皆さんが地域で挨拶することが、どれほど地域の方の気持ちを明るくしているか、恐らく皆さんの想像をはるかに超えていると思います。一例をあげます。この夏に御主人を亡くされた多良木町にお住まいのあるご婦人がおっしゃいました。「主人を亡くし心に大きな穴が空いたような毎日でしたが、朝夕に家の前を自転車で通る多良木高校生の元気な姿、そして時に私のような見ず知らずのおばあちゃんにも『おはようございます』『こんにちは』と掛けてくれる挨拶に気持ちが励まされ、私もしっかりしなくてはと思い直しました。」と。
また、10月に行われた恵比須祭りの夜、祭りが終わり恵比須神社の周辺の出店も片付け始めた頃、ゴミが道路に散乱した状態を見て、多高生3年の男子生徒3人が自発的にゴミ拾いを始めました。翌朝、例年に比べて周辺の道路が綺麗なことに気づき、町で評判になり、私は幾人もの方から感謝の言葉をいただきました。11月の強歩会では私も最後尾をゆっくりと歩き通しましたが、皆さんが歩いた後にゴミ一つ落ちていませんでした。小さな包紙を誤って道に落とし、急いで拾う生徒の姿を見た時は、とても爽やかな気持ちになりました。
年度当初から、生徒の皆さんに私たちは「多高プライド」を呼びかけてきました。自分に恥じない高校生活を送って欲しい、大人が、あるいは他の学校の生徒がみっともない行動をしても、自分だけは流されず善く生きようと思って欲しいのです。あなたの行いを誰かが見ています。いや、たとえ誰も見ていなくても自分は見ています。自分自身に誇りを持つと見苦しいことはできないはずです。そんなことをする自分を自分自身が許せない、という気持ちが起こるのではないでしょうか。
2学期、自らの進路実現に正面から挑んだ3年生の姿には、まさに多高プライドを感じました。最初の挑戦が不調に終わった人は恐らく悔し涙を流したことでしょう。けれども、それを乗り越え、再び進路実現に挑む時、その人は人間的に大きく成長しています。多くの模擬面接を校長室で行いましたが、二度目の挑戦の人は一回目の時とは気迫が違いました。高校生ではなく青年になったなあと感じた瞬間です。また、難関の試験に合格した後も、変わらず早朝課外や放課後課外を受け続け、受験前と変わらぬ生活を持続している生徒の姿はとても頼もしく思います。進学、就職はゴールではなく、また新たな大事なスタートだということをその人はよくわかっているのでしょう。1,2年生の皆さん、3年生の後ろ姿から多くのことを学ぶことができます。できれば、進路について直接話しを聴いてください。部活動の先輩などから個人的に体験談を聴くことで、1、2年生の皆さんの気持ちに火が付くことを期待しています。
結びになりますが、昨日の午後、正門に立派な門松が立ちました。保護者の方が朝から山に行って竹を切り出し、1日がかりで作業をされ立てられました。有り難いことです。門松は、新しい年の神様が天から降りてこられる目標(「依代(よりしろ)」と言いますが)となるものです。これで、私達の学校も新年を迎える準備が整ったわけです。
明日から冬休みとなります。学期中とは異なり、長期休暇は生活のリズムが乱れがちです。今年の流行語とも言えるルーティン、即ち決められた行動手順を自分なりに定めて、冬休みが充実したものとなるよう期待します。そして、清々しい気持ちでお互い新年を迎えましょう。
登録機関
管理責任者
校長 粟谷 雅之
運用担当者
本田 朋丈
有薗 真澄