校長室からの風(メッセージ)

2017年11月の記事一覧

「本物」に恵まれた人吉球磨地域の教育環境

「本物」に恵まれた人吉球磨地域の教育環境 

 人吉球磨地域に赴任して3年が経過しますが、この地域の教育環境は誠に素晴らしいと実感しています。自然、歴史、文化など「本物」に触れ合うことができ、環境保全や文化財保護などを抽象的にではなく具体的に学ぶことができる場所だと思います。

 先般実施した強歩会では、生徒たちは文化財に指定されている観音堂や仏様(仏像)に触れ合いながら歩くことができました。鎌倉・室町の中世の建造物が今も日常風景の中に溶け込んでいる佇まいに、歴史を感じたことでしょう。平安時代の仏像が博物館や美術館ではなく、小さな集落で守られていることに先人たちが大事なものを継承してきた精神を思ったことでしょう。何しろ、この人吉球磨地域は熊本県で初めて認定された「日本遺産」の故郷なのです。

 また、8月に2年生体育コースが登った市房山は、古くから信仰の対象であり、一木一草持ち出してはならないとの慣習が伝えられてきたため、いまだに市房杉をはじめ植生、生物の多様性が維持された「宝の山」です。このような市房山の自然を次代に残すことが「自然保護」だということを生徒たちは実感したことと思います。

 今、学校教育にとって大きな問題は児童生徒の生活に広がるネット社会の陰です。小学生から高校生までネット世界に浸っていることは間違いありません。情報検索や画像、動画、音楽、ゲームにいたるあらゆるコンテンツを自由に楽しめるネット世界は便利で刺激的で、児童生徒を虜にします。しかし、情報モラルや情報リテラシーの教育が後手に回っている現状があり、ネット世界に様々な落とし穴や危険性があることへの認識が弱いと危惧しています。オンラインゲームは仮想現実(ヴァーチャルリアリティ)であり、ネット上の多くのコンテンツは虚構の世界です。ヴァーチャルな世界、虚構の世界に児童生徒の意識や生活が侵されているのです。

 教育はバランスだと考えます。このようなネット社会だからこそ、学校教育は、児童生徒に「本物」を見せ、触れさせ、体験させることで、豊かな感性と考える力を育てることが重要です。自然、歴史、文化と周囲に「本物」が満ち溢れている人吉球磨地域は教育環境として最高の場所だと云えます。 


 

       強歩会でトップでゴールする班(2年1組)

強歩会

「みんなで歩く、ひたすら歩く」 ~ 多良木高校強歩会

 
 全長31㎞。多良木高校の伝統行事「強歩会」を1117日(金)に開催しました。三つのコースを三年間それぞれ歩く鍛錬行事ですが、今年のコースが最も長く31㎞を歩くことになります。朝霧の中、午前7時45分に2年生、3年生の全校生徒で校門を出発。私も最後尾から歩き始めました。

 学校から南に向かい多良木町久米地区の幸野溝沿の山麓を歩き、第1チェックポイントの中山観音堂(4.8㎞)。御本尊の聖観音像は何と平安時代前期の9世紀(西暦800年代)に造立されたものです。千二百年近くの間、先人が守り伝えてきた奇跡の仏様を拝観できました。

 さらに歩きあさぎり町に入ります。第2チェックポイントのあさぎり町岡原の宮原観音堂(7.6㎞)。今では珍しい茅葺の観音堂はおよそ500年前の室町時代後期に創られた品格ある姿です。観音堂を守っておられる地区の方々がお堂を開帳して歓迎していただきました。続く第3チェックポイントのあさぎり町上の谷水薬師(13.4㎞)。昼でも暗く深山幽谷の趣があり、古くから地元の人々の信仰を集めている場所です。そして第4チェックポイントが秋時観音堂(16.4㎞)。面長で優美なお顔の十一面観音像が出迎えてくれました。業務の都合で私はここで脱落し自動車で学校に帰りましたが、生徒たちは第5チェックポイントのあさぎり町免田の岡留熊野座神社(22.2㎞)に向かいます。

 この岡留熊野座神社の裏手の公園で生徒は昼食を取ったのですが、この頃から天気予報通り小雨が落ち始めました。無情の雨で、身体の冷えが心配されたのですが、生徒たちはここから底力を発揮しました。歌を歌ったり、お互い励まし合いながら、小雨に濡れて歩きます。第6チェックポイントのあさぎり町農協「あぐり」(25.2㎞)を経て、多良木高校を目指します。

 ゴールする生徒を正門で私は待っていたのですが、トップの2年1組男子の班は午後2時半に到着しました。そして続々と帰ってきて、最後尾の班も午後4時10分にはたどり着いたのでした。気温が低く後半は雨も降る厳しい条件の中、完歩した生徒たちのたくましさに脱帽です。「みんなで歩く、ひたすら歩く」強歩会は、生徒にとって特別な感動体験となったに違いないと思います。


           31㎞強歩会スタート
  

黄金の時 ~ 正門前の銀杏並木

黄金の時 ~ 正門前の銀杏並木

 「正門前の銀杏並木がきれいですね。」と先日、年配の同窓生の方から言われました。多良木高校の正門前には銀杏の並木があります。町道から分かれて百メートルほどの奥行の道に片側十本の銀杏樹が立ち並んでおり、今、鮮やかな黄金色に染まっています。先週から落葉をはじめていますが、毎朝、有志の生徒と職員で掃き掃除に努めているところです。晩秋の今、明るく装った銀杏並木を歩くと、豊かな実りに包まれたような気分になります。

 本校の養護教諭の毎床教諭が、熊本県教育委員会の永年勤続30年の表彰を今月受けられました。永年勤続賞は10年、20年、30年とあり、30年が最長のもので、これ以上はありません。毎床教諭は昭和62年4月に県教育委員会に養護教諭として採用されて以来、県内の7校で勤務してこられました。その内、多良木高校は二回目の勤務となり、今年で通算11年目を数えられ、教員人生の三分の一に当たります。

 養護教諭は、保健室に在って、全校生徒の健康管理を一手に担う責任の重い仕事です。受賞を全職員でお祝いするため、先日の職員会議において、三十年の教職人生を振り返ってお話をしていただきました。生徒の健康状態もこの三十年で変化してきたそうです。二十代、三十代の頃は、生徒のことで感情的になり、大変なこともあったと笑ってお話になりました。しかし、「養護教諭という仕事をやめようと思ったことは一度もありません。」ときっぱり締めくくられました。この言葉は私たち職員一同の心に響きました。

 私たち教職員の仕事には定年というゴールがあります。それを考えると寂しいような、限界を感じるような切ない気持ちになります。しかし、ゴール目指して日々全力で仕事をされる毎床教諭の姿は、十代の高校生にもきっと大きな影響を与えていると思います。

 熟成の黄金色を輝かせ、登下校の生徒を見守る正門前の銀杏並木は、経験豊かな教師像にも見えなくはありません。


ネット世界の情報モラル

   ネット世界の情報モラル ~ 「情報モラル講話」開催

 生徒と保護者合同での「情報モラル講話」を11月9日(木)午後に本校第1体育館で開催しました。講師は数学科の本田朋丈教諭です。講話に先立ち行った校長あいさつの後半部分を掲げます。

 「皆さん達の多くは、日々スマートホンを使いこなし、友達とのコミュニケーション、関心のある情報検索、あるいはゲーム等を楽しんでいる事でしょう。しかし、ツィッターやラインなどに代表されるSNSでの不用意な書き込みで人間関係がぎくしゃくしたり、ゲームに長時間熱中しての睡眠不足になったり、または安易なネット利用での個人情報流出、法外な使用料金の請求など様々なトラブルに遭った人もいると思います。インターネットはとても便利ですが、使い方を間違えると大変なことになることは皆さんも知っていますね。

 神奈川県座間市のアパートで9人もの遺体が見つかったニュースを皆さんはどう受け止めましたか? ホラー映画のような出来事が現実に起きてしまったことに今、社会は衝撃を受けています。報道によると9人の犠牲者のうち3人は女子高校生だそうです。それも、埼玉県、群馬県、そして福島県。事件現場の神奈川県から遠く離れた県の女子高校生がどうして犯人のもとに吸い寄せられるように近づいてしまったのでしょうか。これも報道によると、SNSで知り合ったということです。恐らく、犯人は仮面をかぶり、たくみな甘い嘘をならべ、女子高校生たちを誘導したのでしょう。ネット上で知り合った人と実際に会うということがいかに危険なことか、今回の事件は教えています。

 皆さん、ネット上で困ったことがあれば、一人で悩まず信頼できる大人に相談してください。ご家族、そして私たち学校、警察は連携して皆さんを犯罪から守ります。皆さん達は大人よりスマートホンの操作技能は長けているかもしれませんが、社会経験はまだまだで、危うい存在です。便利なネット世界には危険な落とし穴があることを改めて認識してほしいと切に願います。

 それでは、講話を聴き、モラルとマナー、そして正しい知識を身に付けてトラブルから身を守ってください。」



投票率81.6% ~ 衆議院議員選挙

投票率81.6% ~ 衆議院議員選挙   

 

 10月10日告示、10月22日投票の衆議院議員選挙における本校の有権者生徒の投票率は81.%でした。昨年導入された18歳選挙権制度によって、現在の3年生67人のうち有権者は38人います。その38人のうち投票した生徒は31人でした。内訳は期日前投票が7人、22日の投票が24人です。有権者で棄権した7人の内訳は、失念が3人、他は、理想の党がなかった、時間に間に合わなかった等です。

 本校生の投票率81.%は、全国の投票率53.68%、熊本県57.02%と比較すれば非常に高いことがわかります。昨年7月に実施された参議院選挙では85%、今年の2月実施の多良木町町長選挙では75%と本校生の投票率は高いまま維持しています。学校として取り組んでいる主権者教育の一定の成果が出ているのでしょう。

 しかし、それだけではなく、選挙に際して、ちょっとした仕掛けを行い投票につながるよう誘導しているのです。選挙告示の日に有権者の生徒に2枚のプリントを配布し、担任から選挙の意義を伝えます。1枚のプリントは選挙行動に係るアンケート用紙で、「1 投票に行った・行かなかった」、「2 いつ投票したか」、「3 なぜ投票に行かなかったのか (理由記述)」の3項目です。このアンケート用紙を投票日の翌日に担任に提出することになります。
 また、もう1枚は、「一緒に投票に行こう」という保護者への呼びかけです。「子どもさんが20歳になったら一緒に酒を飲むことを楽しみにされているかもしれません。しかし、18歳選挙権を得て一緒に投票に行くことで、子どもさんの成長を実感されると思います。『一緒に投票に行こう』をご家庭で合言葉にしていただけませんか。」という趣旨のお願いとなっています。

 2枚のプリントというささやかな工夫で、生徒の投票行動を促す効果があると思います。投票率81.6%という数値に私は誇りを覚えます。人生で最初に迎える選挙において、責任を伴う国民としての大切な権利を施行できるよう学校が後押しすること、これも教育だと思います。