校長室からの風(メッセージ)

校長室からの風(メッセージ)

1学期終業式

 7月15日(金)の午前、多良木高校は1学期終業式を行いました。校長挨拶を次に掲げます。 
 

 「1学期の終業式に当たり、この3ヶ月半を振り返ると、先ず思い起こされるのが4月14日、16日の大地震発生のことです。18日月曜日、この体育館に集まり臨時の全校朝礼を行い、私から皆さんに三つのことを伝えました。一つは「普通の生活ができることに感謝しよう」です。この感謝の気持ちはいつも持っていたいですね。二つ目は「自然災害を正しく恐れよう」です。今回の地震でもネット上に根拠のない噂話、憶測が多く流れたようですが、基本的な知識、そして正しい情報を持って判断し行動してほしいと思います。三つ目は、「皆さんは弱者ではない」ということです。災害が起きたとき、まず自分の安全を確保した後は、子どもやお年寄り、障がいのある方を助ける立場となります。そして、復旧、復興に皆さんの力は欠かせないのです。

 先ほど、4人の3年生が復興支援ボランティア体験の報告をしてくれましたが、被災しなかった地域の県立高校23校から84人の代表生徒が集まりました。西原村の山中において地震で2千本のしいたけ原木が倒れたまま放置されており、それらをボランティアリーダーや地元の農家の方の指導のもと、一本一本復元していくのです。不安定な斜面での作業で、蒸し暑い天候の中、ムカデも出る厳しい環境でしたが、どの生徒も苦しい顔や嫌な顔ひとつせず作業する姿は爽やかで、私は、「見てください、これが熊本の高校生たちです」と胸を張って他県のボランティアの方々に自慢したくなりました。

 5年前の東日本大震災の時もそうでしたが、今回の熊本地震においても、高校生は、被災地での復旧ボランティアや避難所での運営補助など実によく働き、その元気と明るさに被災者の方が励まされたそうです。私たち大人は、ひとたび震災に見舞われると多くのものを失った精神的打撃でなかなか立ち直れなくなります。しかし、皆さん達、高校生は立ち直りが早い。復元力とでも言うのでしょうか、しなやかに立ち直る力を持つ高校生こそ、非常時には頼りにされるのです。落としたら割れるガラスの花瓶のような人になってはだめです。落としても、跳ね返ってくるゴムボールのようなしなやかさを、皆さんには身に付けて欲しいと期待します。

 震災からの復興だけでなく、これからの社会を創っていくのは皆さん達です。先日、参議院議員選挙が行われましたが、全体の投票率は54.7%でした。これまでの参議院選挙で4番目に低い投票率でした。熊本選挙区は51.46%です。二人に一人しか投票していない状況です。それでは、選挙権を持つ多良木高校3年生21人の投票行動はどうだったのでしょうか?21人中19人が投票していますので、投票率は90.5%という高さです。皆さん達は、主権者としての責任をきちんと果たしたのです。私はこのことを誇らしく思います。今回棄権した多くの大人は、多良木高校3年生を見倣って欲しい気持ちです。

 夏休みに、一つ皆さんにお願いがあります。おじいさん、おばあさん、あるいはひいおじいさん、ひいおばあさんがご健在な人もいると思いますが、一人で暮らしておられる方がいらっしゃいませんか? 遠くに住んでおられ、普段は会えないという事情もあるでしょう。この夏休み、できればお盆の時期に皆さん達から訪ねていってほしいのです。今、振り込め詐欺の被害者、被害額が急増しています。この人吉球磨地域でも被害者が出ています。被害者のほとんどがお年寄りです。なぜ、犯罪者はお年寄りを狙うのか? お年寄りは寂しいからです。子どもや孫が会いに来てくれない、電話もあまりない、という孤独な環境のお年寄りが振り込め詐欺の罠に陥ってしまうのです。それを防ぐために、みなさんが、「おじいちゃん、おばあちゃん、元気ですか?」と顔を見せ、話しをすることは効果が大きいと言われます。今の日本を築き上げてこられたお年寄りを、卑劣な犯罪から守るためにも、孫、ひ孫である皆さん達高校生が積極的にお年寄りと交流することが求められます。

 2016年の夏、熊本の復興が進み、皆さん達がそれぞれの故郷でお年寄りと一緒に笑顔で過ごすことを願っています。そして、明後日17日の多良木町ブルートレイン清掃ボランティアに31人が参加することをスタートに、多良木町地域未来塾の先生役、地域のお祭り、スポーツ大会、介護施設の行事運営の補助など数え切れない程のボランティア活動に参加する皆さんに素晴らしい出会いと体験が待っていることを念じ、終業式の挨拶とします。」

                         高校生による復興支援ボランティア報告会(多良木高校)

藤崎台球場の夏

藤崎台球場の夏 ~ 第98回全国高等学校野球選手権熊本大会開幕

 7月10日(日)、熊本市の藤崎台球場で第98回全国高等学校野球選手権熊本大会の開会式が行われました。4月の大地震の影響で、藤崎台球場の施設の一部に被害が生じ、同球場での夏の大会予選開催が危ぶまれましたが、修復、安全点検が間に合い、熊本県高校野球の中心地である藤崎台球場での開会式に至ったのです。

 雨上がりの曇天の下、午前10時20分から出場校63校の選手入場が始まり、35番目に多良木高校の選手達がはつらつとした態度で行進しました。今年の大会は、熊本地震の復興の中での開催ということで全国から注目されています。入場行進では、「がんばろう九州」の横断幕も掲げられ、日本高野連会長の八田英二氏も駆けつけられ、選手達にエールを送られました。

 出場校の中には、グラウンドをはじめ学校の施設、設備が被災して、2週間から3週間にわたって休校となった所もあります。避難所となった学校もあります。選手達の中には、自宅が被災して避難所または自動車の中での生活を余儀なくされた人もいます。そのような苦しさを体験した多くの高校生の、それでも好きな野球をしたいという意志が原動力となり、大会が始まるのです。

 外野席の背後には、国の天然記念物に指定されている7本の大楠が立っています。樹齢千年に及ぶと伝えられる巨樹群は、幾多の戦乱、自然災害を経験してきたことでしょう。これらの大楠に見守られながら、高校球児が藤崎台球場で躍動し、ひたむきなプレーを繰り広げます。青春賛歌の「栄冠は君に輝く」を口ずさみながら、選手達に惜しみない拍手と声援を送ります。

「雲は湧き  光あふれる

                 天高く  純白の球  今日ぞ飛ぶ

                 若人よ   いざ

                 まじりは  歓呼に応え

                 いさぎよし   ほほえむ希望

                 ああ栄冠は   君に輝く」
                
(作詞:加賀大介 作曲:古関裕而)


 

心を育む声の贈り物「朗読」

心を育む声の贈り物「朗読」 ~ 宮沢賢治文学の朗読を聴く会

 今から80年ほど前の昭和8年に37歳の若さで世を去った宮沢賢治。生前は無名に近い存在でしたが、没後、彼の詩、童話、小説などの文学作品は広く読まれ、今日、ますますその輝きを増しているようです。

   朗読活動家の矢部絹子さんは、宮沢賢治の文学世界を多くの人に伝えたいという熱い思いの持ち主です。元テレビ局のアナウンサーであり、読むこと・話すこと・語ることのプロフェッショナルである矢部さんは、40年余り、宮沢賢治の作品の朗読に取り組んでこられました。この度、ご縁があって、多良木高校生に宮沢賢治文学の朗読を聴かせていただく機会を得ました。

 7月1日(金)午後3時から第1体育館にて、短編童話「虔十公園林」と詩「雨ニモマケズ」の朗読をしていただきました。矢部さんの心の底から湧いてくるような、情感の込められた声で語られる宮沢賢治の物語に生徒達は引き込まれたようでした。およそ40分間、ほとんど私語もなく、思索と想像の世界に浸っていました。デジタル世代の高校生にとって貴重な、静かで豊かな時間が流れていたと思います。

 短編童話「虔十公園林」。まわりから馬鹿にされている虔十(けんじゅう)ですが、700本の杉苗を植え、それを大事に愚直に育て、若くして病気で亡くなります。その後、杉林は虔十の家族によって引き続き守られ立派な林となりました。歳月が立ち、村の風景もすっかり変わった中で、久しぶりに帰省した村出身の博士が、杉林の中で遊ぶ子ども達を見て、ここだけが昔と変わっていないことに感嘆して、「ああ、全くたれがかしこくたれが賢くないかはわかりません」と言います。この最後の博士の言葉はとても印象深く、考えさせられます。主人公の虔十とは宮沢賢治その人とも言えるのでしょう。

 詩「雨ニモマケズ」。この高名な詩を小中学校で暗唱した生徒もいるでしょう。しかし、高校生になった今、宮沢賢治の理想の生き方を表現したと言われるこの詩に触れ、どんな感想を得たのでしょうか。宮沢賢治は、自分の作品を思春期の人に読んで欲しいと願いを込めたと言われます。百年近い時を隔て、平成の高校生にも宮沢賢治のメッセージは届いていると思います。


 

生徒会役員立ち会い演説会に望む

  6月28日(火)午後、期末考査終了後に平成28年度多良木高校生徒会役員立ち会い演説会が開かれました。会長に福田君(2年)、副会長に野村君(2年)、書記に大山君(1年)と西脇君(1年)が立候補してくれました。演説会の最初に、校長として次のような挨拶を行いました。


「生徒会は多良木高校の全校生徒204人全員が会員です。生徒会は、クラスマッチや体育大会、文化祭など大きな行事を企画、運営することも務めですが、一方、挨拶や交通安全といった日常生活に係る取り組みも大切だと思います。今、売店がある部屋を、生徒会役員の皆さんが中心になって「エンジョイ広場」として作っていると聞いています。どんなリフレッシュスペースができるのか楽しみです。皆さんが工夫し、力を合わせれば、もっと充実した多良木高校生活が実現できると期待しています。

 今回の生徒会役員の選挙に、福田君、野村君、大山君、西脇君の4人が立候補してくれました。進んで役員になろうという4人の志に敬意を表します。

 さて、現在、参議院議員選挙が行われていますね。6月22日に公示され、選挙戦が始まり、7月10日(日)が投票日です。今回の参議員選挙が注目されるのは、18歳選挙権が導入されて初めての選挙だからです。選挙権年齢が20歳以上から「18歳以上」に引き下げられ、投票日の時点で満18歳になっていれば高校生でも選挙権を持つのです。今回の参議院議員選挙においては、本校の3年生64人のうち21人が選挙権を持っています。人生で最初の選挙、投票です。選挙権は、国民としての責任を伴う重要な権利ですから、棄権せずに必ず投票して欲しいと願っています。

 高校生で十分な判断ができるのか、早すぎるのではないか、と心配する声も聞かれますが、アメリカ合衆国、ヨーロッパの各国、オーストラリアなど世界では18歳以上の選挙権が主流だそうです。18歳選挙権の始まりは、皆さん一人一人が、身近な地域のことから国の政治問題まで幅広く社会に関心を持つきっかけになると私は期待しています。

 今回の生徒会役員選挙は、昨年までとは異なり、ひと工夫してあり、投票は明日以降、会議室に各自で行くようになりました。投票場である会議室は実際の選挙の投票場のように設定されています。自ら足を運ばなければ棄権となります。各クラス100%の投票率を目指しましょう。

 それでは、この立会演説会が、皆さんにとって、どんな学校であってほしいのか、どんな学校をこれからみんなで創るのかを考える良い機会になることを願い、挨拶とします。」


野球部を励ます ~ 高校野球推戴式

野球部を励ます ~ 高校野球推戴式での校長の激励の言葉 

 昨年の夏は、多良木高校にとって熱い熱い夏でした。夏の甲子園大会熊本県予選で野球部が快進撃をみせ、次々とシード校を破り、30年振りのベスト4進出を果たしました。多良木町をはじめ地域の方、同窓会の方々と一緒に私たちも熊本市の藤崎台球場に駆けつけ、「思いはひとつ ~多良木の意地と誇りを胸に」の横断幕を掲げ、スタンドとグラウンドの選手が一体となって戦った夏が忘れられません。

 一年経ち、また甲子園の夏が巡ってきました。野球部の皆さん達には、昨年の先輩達が残した結果を超えたいという思いがあると思います。しかし、そのことが精神的重圧になってはいないでしょうか? 昨年の野球部キャプテンの大塚将稀君が、十日ほど前、学校を訪ねてきてくれました。大塚君は現在、北九州市にある九州国際大学の野球部で活躍しています。大塚君は話しました。「実は、昨年の僕たちは、先輩達と比べられているのではないかとずっと意識して、プレッシャーに押しつぶされそうでした」と。一昨年の野球部は、現在、社会人の東芝で活躍するビッチャーの善君、そして法政大学で活躍しているキャッチャーの中村君がいて秋の県大会やNHK旗杯で優勝するなどの強豪チームでした。大塚君は、「善さん、中村さん達にはとてもかなわない」と思っていたそうです。けれども、いざ夏の大会が始まると一試合一試合に集中でき、「先輩達のことは忘れ、全力で自分たちの野球ができた」そうです。大塚君は言いました。「大学の練習より、多良木高校の練習の方がきついです。厳しい練習を積み重ねてきたことを自信に、自分たちの野球を貫いて欲しい」と。

 野球場近くにお住まいのご婦人が、先日私に言われました。「今年の野球部は例年以上に声が出ているようですね。高校生の大きな声を聞くだけで元気が出ます。」。君たちは、練習の声だけで地域の方々に元気を届ける存在です。地域の応援を追い風として勢いを付け、大会に臨んでください。畑野キャプテンを中心に、一昨年のチームとも、昨年のチームとも違う、今年のチームらしさを発揮し、自分たちの野球に集中してください。 

 第98回熊本県高等学校野球選手権大会に、誇りをもって野球部を送り出します。