校長室からの風(メッセージ)

校長室からの風(メッセージ)

西米良村を訪ねて

                                        西米良村を訪ねて

 宮崎県児湯郡西米良(にしめら)村は私にとって気になる所であり、休日に時折訪ねます。多良木高校から国道219号を東へ走行し、湯前町から横谷峠を越えるとそこが西米良村で、役場のある村の中心地の村所(むらしょ)まで車で30分の距離です。多良木高校から人吉市役所まではおよそ40分かかりますから、県境の村である西米良の方が近いのです。逆に言うならば、西米良村の人にとっても、同じ宮崎県の西都市よりも熊本県の湯前町、多良木町の方が交通アクセスが便利であり、買い物や病院受診(特に多良木町の球磨郡公立多良木病院)で頻繁に往来されています。そして、かつては西米良村の中学生が毎年のように多良木高校に進学してきていたのです。

 先日の日曜日の午後、久しぶりに西米良村を訪ねました。村の面積の9割以上を山地が占める典型的な山村であり、人口は千二百人と過疎化が進んでいます。しかし、村の人々はとても親切で、いつも温かいおもてなしを受けて気持ちが和らぎます。今回は村の歴史民俗資料館を訪ねましたが、そこで「うちの娘も十数年前に多良木高校を卒業しました」とおっしゃるご婦人と出会い、お茶を出していただきました。多良木高校が閉校することもご存知でした。

 西米良村は山の斜面での焼畑農業が盛んに行われてきた所です。今やこの伝統農耕は姿を消しましたが、焼畑に使われた往時の用具が国重要有形民俗文化財として資料館に一式展示されており、興味深く見学しました。また、この地域を江戸時代に治めた領主の米良氏は、中世(鎌倉・室町時代)の肥後国で威勢をふるった菊池一族の末裔に当たります。西米良村は歴史的にも地理的にも熊本と深い因縁のあるところなのです。

 かつて県境の峠を越えて多良木高校に進学してきた生徒たちのことを思うと、西米良村に対してたまらない懐かしさと愛着を覚えるのです。

 


            西米良村の中心地の村所(手前の川は一ツ瀬川)


 

ハープの音色に耳を傾けて

ハープの音色に耳を傾けて 

~ 池田千鶴子さんの音楽講演会 ~

 「わあ、大きい」というのがグランドハープを目の前にしての第一印象でした。ステージに据え付けられたグランドハープは高さが約180cmで重さは約30㎏あり、堂々たる存在感です。著名なハープ奏者である池田千鶴子さんの奏でる音色は優雅で奥深く、ジブリの映画音楽をはじめバロック音楽の名曲等に会場の生徒、保護者、職員一同、魅了されました。

 池田千鶴子さんの「ハープの音色と語り」の会を11月29日(火)の午後、多良木高校第1体育館にて開催しました。池田さんの永年のファンである本校同窓会副会長の味岡峯子さんのご尽力により、この会は実現に漕ぎ着けることができました。池田千鶴子さんは京都府宇治市を活動の拠点とされ、国の内外で幅広く演奏活動や講演活動を展開されておられます。「多良木高校の閉校までにぜひ生のハープの音色を生徒に聴かせたい」という味岡さんの思いを池田さんが受け入れてくださり、遠路、ご来校頂いたのです。またとない機会と考え、当日は近隣の県立球磨支援学校高等部の生徒さん達にも参加してもらい、一緒になって鑑賞することができました。

 池田千鶴子さんはハープの音色が持つ心を癒す力、ケアする力に着目され、内戦の傷跡が残る発展途上国を訪ねたり、阪神淡路大震災や東日本大震災の被災地への支援活動をなさったりと幅広い社会活動をなさっておられます。その体験を基にした命の大切さに係る池田さんのお話が生徒たちの胸を揺さぶりました。一芸に秀でたプロフェッショナルによる演奏と語りは、まさに迫真のライブで生徒たちを感動体験に誘いました。


 


言葉の力 ~ 書道部のパフォーマンス

言葉の力 
~ 
多良木町農林商工祭での書道部のパフォーマンス ~
  

 「とても緊張しました。」と言いながらも、ステージを降りてきた書道部員の表情は充実感に満たされていました。11月19日(土)、多良木町総合グラウンドにて、多良木町農林商工祭が始まりました。午前中は強い雨が断続的に振り、雷も鳴る状況でしたが、次第に雨も小降りとなり、本校の書道部のステージ発表の時には雨も上がり、薄日が時折射すところまで回復していました。

 初めに、友情出演の吹奏楽部の浅田君がトランペット独奏でオープニングを飾り、「上を向いて歩こう」(歌:坂本九)の曲に合わせ、立板に張り付けた紙に、五人の書道部員(荒木さん、橋口さん、権藤君、小笹さん、高田さん)がそれぞれ気持ちを込め大筆で墨書していきました。

  辛い事があっても  空を見上げ笑ってみよう

  下を向いても 後ずさりしても

  何も進まない

  前を向き 一歩ずつ

  踏み出そう

                 多高書道部


 司会者のインタビュニーに対し、「今年は熊本地震があり、多良木高校にとっても悲しい事もありましたが、前向きに歩いて行こうという思いを込めて書きました。」と部員が答えました。その思いは痛いほど伝わり、応援に駆け付けていた保護者、職員の中には涙ぐむ人もいました。

 ステージの催事はダンスと歌のプログラムが続く中、高校生の若さあふれる力強い墨書メッセージは観衆の方々の気持ちを引き付けたのです。可視化された言葉の力を感じました。


 



 

「ブライト企業」に注目

「ブライト企業」に注目   

 皆さんは「ブライト企業」という言葉を聞いたことはありますか? 最近、新聞やテレビニュース等で目にするようになった新しい用語で、実は熊本県(商工観光労働部)による造語です。従業員を劣悪な労働条件で働かせる「ブラック企業」に対し、働く人がいきいきと輝き、安心して働き続けられる企業が「ブライト企業」です。「ブライト企業」と認定されるには、従業員とその家族の満足度が高い、地域の雇用を大切にしている、地域社会への貢献度が高い等の要件が求められます。「ブライト」(Bright:輝くような明るさ)のネーミングも巧みで、熊本県のみならず広く普及してほしい言葉と思います。

 熊本県の「ブライト企業」推進事業の目的の一つとして、若者に県内の企業にもっと注目してほしいという期待があります。県内の工業高校の卒業生の7割が県外の企業に就職しています。また、本校の場合も、例年、就職する生徒のおよそ5割が県外へ出ています。全国的に人口減少が続く中、生産労働人口である若い世代の県外流出は、熊本県の活力低下につながります。県内、そして人吉球磨地域にもキラリと輝く企業があることを私たちはもっと知る必要があります。知名度や規模の大小ではなく、従業員を大切にしている企業が身近にあることを生徒と保護者の皆さんに理解してほしいと思います。

 3年生の就職試験のピークは過ぎました。お蔭で、今年度も本校生徒の就職はきわめて順調で、好結果が出ています。これからは2年生と1年生に進路意識を高めてもらうため、2学期の後半は進路ガイダンスに力を入れています。11月2日に職業体験型進路ガイダンス、11月9日には系統・分野別進路ガイダンスを実施しました。いずれも県内外の多くの大学、短大、専門学校等のご協力を得て実現しました。生徒の皆さんの進路意識に火が付く機会となったことと思います。「ここでいい」ではなく、「ここがいい」と自ら決め、目標に向けて努力する高校生は、まさに「ブライト」(Bright)、輝いています

                 職業体験型進路ガイダンスの風景
           

みんなで歩く、ひたすら歩く ~ 強歩会

 

みんなで歩く、ひたすら歩く ~ 強歩会


 11月11日(金)に強歩会を開催しました。今年は、学校を出発して湯前町、水上村と巡り、学校に帰ってくる約28㎞の行程を全校生徒で歩きました。前日の開会式での校長挨拶を掲げます。

 「今回、学校代表の読書感想文で生徒会長の福田君が『夜のピクニック』という小説について書いており、私自身懐かしく読みました。15年ほど前に出版された小説ですが、ベストセラーになり、映画化もされました。作者の恩田陸さんの母校である茨城県立水戸第一高校の強歩会をモデルにした小説です。同校の強歩会は破天荒な伝統行事で知られ、二日間かけて70キロメートルを歩きとおします。一日目は夜12時まで歩き、途中の中学校の体育館で仮眠をとり、また夜明けから歩き出すという大変困難でタフな行事です。『夜のピクニック』は、高校生たちが主人公の青春小説で、きっと皆さんも共感できるでしょう。図書室にありますので一読を勧めます

 『夜のピクニック』では、多くの生徒が最初は、とてつもない距離の長さに不安を覚え、なぜこんなに歩かなければならないのか不満を言う者もいます。そして、足の痛みに耐え、体が重くなり、友達と会話するのも億劫になります。ついに夜になり、風景も見えなくなると自分自身との対話が始まります。疲労困憊し、いつしか、不思議な感覚に包まれてきます。ある3年生女子が言います。「しかし、ほんとうにいい時間よね。毎年思うことだけど、こんな時間にこんなところ歩いているのが信じられない。」。そうして、夜中、お互いの顔さえよく見えないのですが、歩きながら、昼間なら絶対に語れないようなことを語り合います。最後、主人公の女子生徒が「みんなで歩く。ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう。」と感慨に包まれゴールを迎えます。

 さて、『夜のピクニック』に比べれば、多良木高校の強歩会はおよそ28㎞と距離も短く、余裕があります。今年のコースは湯前町、水上村を巡るもので、豊かでのどかな里山の風景を楽しみ、五感で秋を受けとめ歩いて欲しいと思います。途中、先人が伝えてきた宝物とも云うべき文化財が点在しています。第1チェックポイントの多良木町の百太郎公園。百太郎溝は、江戸時代の農民たちが球磨川から農業用水として水を引き入れるためにつくったものです。300年前の農業用水路が今も現役で働いています。第2チェックポイントの湯前町の城泉寺阿弥陀堂は、今から800年前の鎌倉時代初期につくられており、県内最古の木造建築物です。お堂の中には品格ある阿弥陀如来像が安置されています。普段、お堂は閉めてあるのですが、明日は湯前町のご厚意で特別に開けてありますから、仏様を拝観できます。第5チェックポイントの水上村の生善院観音堂です。建物は江戸時代初期のものですが、化け猫騒動で知られ、通称「猫寺」で有名です。そして、第6チェックポイントの多良木町の青蓮寺阿弥陀堂。湯前町の城泉寺阿弥陀堂より少し後ですが、それでも鎌倉時代につくられた古いお堂で、15m近くの高い茅葺屋根が印象的です。このように強歩会は歴史を巡る小さな旅でもあります。

 結びになりますが、強歩会は競走ではありません。友達と共に、励まし合いながら、しっかりと球磨の地を踏みしめ、一歩一歩を心掛けてください。私も最後尾から、皆さんの背中を追いながら、歩いて行こうと思います。

 みんなで歩く、ひたすら歩く、ただそれだけのことですが、きっとみなさんが大人になっても思い出す特別な体験になることを願い、挨拶とします。」


                                第1チェックポイント(百太郎公園)