校長室からの風(メッセージ)

心を育む声の贈り物「朗読」

心を育む声の贈り物「朗読」 ~ 宮沢賢治文学の朗読を聴く会

 今から80年ほど前の昭和8年に37歳の若さで世を去った宮沢賢治。生前は無名に近い存在でしたが、没後、彼の詩、童話、小説などの文学作品は広く読まれ、今日、ますますその輝きを増しているようです。

   朗読活動家の矢部絹子さんは、宮沢賢治の文学世界を多くの人に伝えたいという熱い思いの持ち主です。元テレビ局のアナウンサーであり、読むこと・話すこと・語ることのプロフェッショナルである矢部さんは、40年余り、宮沢賢治の作品の朗読に取り組んでこられました。この度、ご縁があって、多良木高校生に宮沢賢治文学の朗読を聴かせていただく機会を得ました。

 7月1日(金)午後3時から第1体育館にて、短編童話「虔十公園林」と詩「雨ニモマケズ」の朗読をしていただきました。矢部さんの心の底から湧いてくるような、情感の込められた声で語られる宮沢賢治の物語に生徒達は引き込まれたようでした。およそ40分間、ほとんど私語もなく、思索と想像の世界に浸っていました。デジタル世代の高校生にとって貴重な、静かで豊かな時間が流れていたと思います。

 短編童話「虔十公園林」。まわりから馬鹿にされている虔十(けんじゅう)ですが、700本の杉苗を植え、それを大事に愚直に育て、若くして病気で亡くなります。その後、杉林は虔十の家族によって引き続き守られ立派な林となりました。歳月が立ち、村の風景もすっかり変わった中で、久しぶりに帰省した村出身の博士が、杉林の中で遊ぶ子ども達を見て、ここだけが昔と変わっていないことに感嘆して、「ああ、全くたれがかしこくたれが賢くないかはわかりません」と言います。この最後の博士の言葉はとても印象深く、考えさせられます。主人公の虔十とは宮沢賢治その人とも言えるのでしょう。

 詩「雨ニモマケズ」。この高名な詩を小中学校で暗唱した生徒もいるでしょう。しかし、高校生になった今、宮沢賢治の理想の生き方を表現したと言われるこの詩に触れ、どんな感想を得たのでしょうか。宮沢賢治は、自分の作品を思春期の人に読んで欲しいと願いを込めたと言われます。百年近い時を隔て、平成の高校生にも宮沢賢治のメッセージは届いていると思います。