校長室からの風(メッセージ)

校長室からの風(メッセージ)

野球部、最後の夏へ挑戦!

野球部、最後の夏へ挑戦!  

 先日、気温が30度を超える中、本校野球場で乗用草刈り機を運転される齋藤健二郎監督の姿がありました。69歳、県内では最年長の高校野球監督です。生徒たちが練習に出てくる前にグラウンドを整備されており、頭が下がります。また、監督を支える馬場コーチと尾方コーチは、家業の合間を縫って、連日ご指導に来ていただいています。さらに、近年卒業して地元で働いている野球部の先輩たちが入れ替わりグラウンドに姿を見せ、練習を手伝ってくれます。春の東京六大学野球シーズンで首位打者に輝いた中村浩人君(法政大学4年)も先日帰省し、後輩を励ましてくれました。多良木高校野球部にとって最後の夏の大会が迫ってきました。

 多良木高等学校野球部は、1967年(昭和42年)の創部以来、学生野球憲章の「フェアの精神」に則り、こよなく野球を愛し、半世紀の間、懸命に白球を追いかけてきました。しかし、人吉球磨地域の急速な少子化に伴い、多良木高校は県立高校再編整備対象校となり、平成31年3月をもって96年の歴史に終止符を打つことになりました。最終年度を迎え、67人の3年生が「ゴール(閉校)に向かって挑戦!」のテーマのもとアンカー(最終走者)として全力で走っていますが、この内、野球部員は選手18人と女子マネージャ-6人の24人を数えます。

 多良木高校野球部は地域に元気を発信する存在として近年注目されてきました。部員のほとんどが人吉球磨地域の出身で、地元の熱い期待を受け、試合の時にはスタンドに地域の多くの方が駆け付ける光景が見られました。そして応援に対する恩返しの気持ちで、生徒たちも多良木町の公園清掃や地域行事のお手伝いに積極的に取り組んできたため、平成30年2月に「多年の多良木町公共施設の美化活動に対する感謝状」を野球部は多良木町から授与されました。

 来る7月1日(日)開幕の第100回全国高等学校野球選手権記念熊本大会に、多良木高校野球部は単独チームで出場いたします。地域の方々の熱い応援を背に、野球部は最後の夏に挑みます。甲子園という唯一無二の目標がある高校球児は幸せだと思います。
 2018年、挑戦の夏です。


 


県高校総体を振り返って(その2)

県高校総体を振り返って(その2)  

 「実は、私の母、そして祖母も多良木高校の卒業生です。だから、多良木高校のプラカードを持ちたいと希望しました。」

 6月1日(金)の県高校総体総合開会式で多良木高校の入場行進のプラカードを担当した熊本商業高校3年宮田さんの言葉に私は驚きました。宮田さん自身は熊本市在住ですが、お母さんが多良木町ご出身で、お祖母さんと二代続けて多良木高校同窓生だそうです。今年度で閉校となる多良木高校の高校総体総合開会式のプラカードを持つことが決まり、お母さんとお祖母さんはとても喜ばれたと宮田さんは語ってくれました。このような巡りあわせに出会うと、無数の卒業生の方々の思いが多良木高校に寄せられていることを痛感します。

 「最後に自己ベスト記録を出すことができました。」

 6月4日(月)、陸上競技最終日の女子100mハードル競技を走り終えた越替さんが、控えめな笑顔で語ってくれました。越替さんは予選通過できませんでした。しかし、上位選手から離されても、最後まで自分の力を出し切ってゴールしました。放課後、多良木高校のグラウンドで黙々と走る彼女の姿をこの2年余り見てきた私は、集大成の高校総体の場で自己ベスト記録を更新したことを心から称えたいと思います。彼女は自分との戦いに勝利したのです。彼女だけではありません。多良木高校最後の高校総体において、成績や記録に表すことができない尊いものを全ての多高生は勝ち得たと思っています。

 県高校総体が終了した後、多良木高校にスポーツの明るいニュースが飛び込んできました。卒業生である法政大学野球部の中村浩人君が東京六大学春のシーズンで首位打者を獲得したのです。打率4割5分という驚異的な成績で、甲子園に出場した幾多の選手を抑えての快挙です。在校生には何よりの励みとなるものです。

 閉校の年度を迎えながら、多良木高校には追い風が吹いているような気がします。その不思議な風の源は、きっと母校に寄せる同窓生の方々の熱い心なのでしょう。


 

 


気持ちをひとつに ~ 県高校総体を振り返って

気持ちをひとつに ~ 県高校総体を振り返って  


 「多良木高等学校!」と場内アナウンスがあった時は、さすがに感無量の気持ちとなりました。6月1日(金)、一万人を超える大観衆が見守る中、「えがお健康スタジアム」(熊本県民総合運動公園)で県高校総体総合開会式の入場行進。全80校参加の中で72番目の行進でした。旗手の荒川君(陸上競技)が先頭、次に私をはじめ5人の教職員、そして陸上、サッカー、野球の生徒達30人が続きます。最も外側を歩く生徒たちは「一生多高生 ありがとう 多良木高校 ~ 96年間の思いと共に」の横断幕を手に歩きました。盛大な拍手を受けながらの行進に気持ちは高揚しました。教職員と生徒が気持ちを一つにして、96年の多良木高校の歴史を飾る行進ができたと思っています。

 総合開会式の興奮の余韻も冷めやらぬまま、私は各競技会場の応援に回りました。何処でも、最後まであきらめずに全力で競技する多高生の姿が見られました。
 女子バレーボールはぎりぎりの人数6人で試合に臨み、見事に初戦は勝利。2回戦は最後まで接戦を演じ、惜しくも涙を呑みました。男子バスケットボールも初戦突破。2回戦は熱戦となりましたが、及びませんでした。女子バレーボールも男子バスケットボールも目標のベスト16進出にはあと一歩届きませんでしたが、全力を出し切ったと思います。
また、アーチェリー部の2人もベストを尽くしました。他の競技会場から離れた場所にあり、選手も観客も少ないのですが、自分で選んだスポーツへの誇りを持って堂々と競技する姿は爽やかでした。

 そして、陸上競技では、それぞれが自己ベスト記録を目指し懸命に走る姿が胸に迫りました。他校の選手に遅れをとっても、自分との闘いに勝つという思いでゴールに向かって走り続ける姿こそ、アスリートの魂だと感じました。男子4人の1600mリレーでは、走り終えて倒れ、しばらく起き上がれない選手もいました。連日、気温が30度に達する過酷な環境の中、限界に挑む高校生のエネルギーに圧倒される思いでした。

 県高校総体は高校生にとってスポーツの祝祭です。6月1日(金)から4日(月)までの4日間、私もこの祝祭の渦中にあったことの幸せをかみしめています。



凛々しい女子高校生 ~ 空手の全国大会出場

凛々しい女子高校生 ~ 空手の全国大会出場  

 山下恵理奈さんの空手の形(かた)の演武を見て、その姿勢の良さと緩急のメリハリの利いた動作の一つ一つに目を奪われました。突きや蹴りでは、彼女の手足が伸縮自在に動きます。山下さんは、体格は大きくなく、どちらかと言えば小柄です。しかし、彼女が空手を行う姿は、誠に凛々しく、大きく見えるから不思議です。

 相良村在住の山下さんは、地元の空手道場の「神武館」に小学校から通い始め、岩下師範の教えを受け、めきめき強くなったそうです。相良中学校在学中に一度全国大会出場の経験もあります。そして、この度、4月の県大会で優勝し、6月2~3日に東京体育館(東京都渋谷区)で開催される第61回全国空手道選手権大会(日本空手協会)の高校女子の組手(くみて)と形(かた)の二部門に出場することとなりました。

 空手には、突きや蹴りなど決められた一連の動作を行う形(かた)と、相手と対戦する組手(くみて)があります。山下さんは形の方を得意としているようです。組手では相手の突きや蹴りが実際に身体に当たり、怪我をすることもあります。先日も、道場で男子高校生と組手の練習中に、相手の突きが顔に当たり、口から出血したと語っていました。しかし、それでも「もっと空手が強くなりたい」と意欲的で、夕方、相良村の「神武館」へ通い練習に打ち込んでいます。時々、多良木高校の武道場で放課後に一人で形の自主練習を行う姿も見られます。

 2020年の東京オリンピックの競技種目として空手が採用されました。まだ女子空手の競技人口は少ないようですが、オリンピック種目採用を契機に今後広がりを見せるかもしれません。山下さんはその先駆者とも云えるでしょう。 

 山下さんの全国大会出場の激励会を先日校長室で行いました。「全国大会はレベルが高いことは自分でもわかっている。」と本人は覚悟を述べました。心身ともに強さを求められるストイックな空手の道を究めようと進む山下さん。多良木高校アンカーの67人の生徒の多様性を象徴する存在です。

 


キャプテン(主将)の姿 ~ 県高校総体

キャプテン(主将)の姿 ~ 県高校総体 


 サッカーのペナルティキック戦はまことに非情です。お互い代表の5人の選手が出てきてゴールキーパーと至近距離で向き合い、シュートを放ちます。ボールを蹴る選手も守るキーパーもその緊張は最高潮に達するでしょう。観ている者も緊張感に包まれます。相手校の5人目の選手のシュートがゴールネットを揺らしました。南稜・多良木高校の合同チームの敗退が確定した瞬間です。歓声をあげて喜ぶ相手校の選手たちと、がっくりとうなだれる南稜・多良木高校の選手たちの明暗がはっきり分かれました。

 5月26日(土)、正午から熊本県民総合運動公園にて県高等学校総合体育大会サッカー競技1回戦が行われました。南稜高校7人と多良木高校5人による合同チームは前半先制しましたが、後半同点に追いつかれ、延長戦でも決着がつかずPK戦にもつれこんだのです。シュート数では相手校を上回り押し気味に試合を進めながら、PK戦で涙を呑んだのでした。勝負の厳しさを思い知らされた試合でした。

 しかし、勝負が決した後の南稜・多良木の合同チームの態度は爽やかでした。特に、キャプテン(主将)の福山君(多良木高校3年)の立ち居振る舞いは立派でした。整列しての挨拶、そして相手校選手と健闘をたたえ合うなど、足取りの重いチームメイトを率いる姿はさすがキャプテンと思いました。内心はきっと口惜しさでいっぱいだと思います。しかし、それを表情に出さず、ベンチの片付け、そして次の試合の学校への引き渡しを整然と行いました。試合に負けた時こそ、キャプテンの真価が発揮されることを改めて感じました。

 昨日、朝の7時半頃、男子バスケットボール部キャプテンの谷山君が事務室にビニルのゴミ袋を取りに来ました。谷山君は早朝練習を欠かしたことがありませんが、練習場の第2体育館のゴミ箱があふれているのに気づき、練習開始前にゴミ袋の交換に来たとのことでした。「さすがキャプテンだ」と私は声を掛けました。サッカーの福山君もバスケットの谷山君も、技量面だけでなく、その他の面でチームを引っ張り、支えていることがわかります。彼らは、キャプテンという役割を担ったことで、人間的に大きく成長したのです。