校長室からの風(メッセージ)
仏の里を歩く~相良三十三観音巡り
仏の里を歩く ~相良三十三観音巡り
「暑さ寒さも彼岸まで」。彼岸が近づくと、亡くなった祖母がよく口にしていたこの言葉を思い出します。球磨盆地も、朝夕は秋風が立ち、黄金色に実った田の畦には彼岸花の朱色が鮮やかに添えられ、季節が変わろうとしていることを実感します。そして、人吉球磨地方に秋の訪れを告げる相良三十三観音の一斉開帳が9月20日から26日にかけて始まりました。
球磨盆地に点在する一番札所から三十三番札所までの観音堂には三十五体の観音像がまつられていて、春と秋の彼岸の時期に一斉開帳され、それらを巡礼する相良三十三観音巡りは江戸時代中期から続いています。観音菩薩は変幻自在に姿を変えて現れ、人々の願いを受けとめる慈悲の仏様で、いずれも優しい姿をしていらっしゃいます。観音像の多くは旧道や田圃の脇、林の中などにひっそりとあるお堂に安置され、地域の方が永く守り伝えてこられたものです。これらの観音堂はのどかな田園風景に溶け込み、素朴な風情があります。
また、それぞれのお堂では地域の方々が心尽くしの手料理、お茶、お菓子を振る舞われます。この温かいお接待が相良三十三観音巡りの大きな楽しみです。昨年も2日間巡りましたが、今年も22日、23日と訪ね歩き、仏様を拝観し、地域の方々のおもてなしを受け、まことに平和な時間を過ごしました。二十二番の上手観音(あさぎり町須恵)では、本校職員のご母堂がお接待をされていて、偶然の出会いとなりました。なお、私が最も魅了されている観音様は二十八番の中山観音(多良木町奥野)です。平安時代につくられた、檜の一木造りのまことに品格ある聖観音像です。四天王像に守られての立ち姿は、この世のものとは思えない気高さが漂います。昨年、今年とすでに三度お参りしました。
三十三観音巡りについて、生徒の皆さんに尋ねてみると「知ってはいますが…」、「祖父母がお接待をしていますが、私は参加していません。」等の答えが多く、あまり関心がないようです。少し残念ですが、今はそれで良いのかもしれません。年齢を重ねていくと、きっとこの風習のゆかしさ、古仏や観音堂を守り継承されてきた先人の努力の尊さを再発見することと思います。そして、この遺産を受け継ぎ、未来につなげていこうという気持ちになってくれることを願っています。
二十八番中山観音
デジタル世代の君たちへ
デジタル世代の君たちへ ~ 直接、対話しよう
「今までは『電話なんかで済ませるな』 今では『せめて電話で話せ』」
山形県の高校生の作であるこの短歌を新聞で目にした時、思わず苦笑しました。スマートフォンと無料通信アプリLINEの急速な普及に伴い、高校では情報モラルやマナーのあり方についての指導が後手に回っている観は否めません。高校生の皆さんは、物心がついた時からインターネットを介してのコミュニケーションが当たり前の環境で生活しており、デジタル世代、またはデジタルネイティブと呼ばれています。インターネットの利便性については改めて申すまでもなく、世界の情報、通信のあり方を根本から変え、人々の暮らしそのものに大きな影響を与えています。
しかし、高校生の皆さんの情報モラルやマナーは、ネット環境の進展に見合うものでしょうか? 電車内や歩行中、あるいは入浴、食事中さえスマートフォンを手から離さない極度の依存、LINEトークや掲示板、ブログ等への自己中心的な書き込み、誹謗・中傷などの状況が見られます。そして、残念なことにネット上の問題から人間関係のトラブルに発展する事例も起こっています。
昨年度、生徒会が中心となって「携帯電話等(スマートフォンを含む)の使い方の多高生のルール」を決めました。人吉・球磨の県立学校共通ルールとして午後10時から午前6時までは使用しないこと、その他に個人情報を載せない、勉強中及び食事中には使用しない等の決まりがある中、「大切なことは直接伝える」という項目があります。このことは、人間関係において基本であり、とても大事なことと思います。皆さん、直接、相手の顔を見て、話しましょう。対話することでより良い人間関係を築くことができます。
また、デジタル世代の皆さんは、すぐに結論や答えを求める傾向にあることも気になります。生活していく上で、人間関係をはじめ簡単に解決できない問題と必ず遭遇します。その時、インターネットの検索のようにただちに答えが見つかるわけではありません。自分でじっくりと考え、信頼できる大人や友人に相談することが重要です。
スマートフォンは大変便利なものですが、生活をしていくうえの道具(ツール)の一つでしかありません。何かに夢中になっていて、今日はスマートフォンを触ることを忘れていたというような日がもっとあっていいと思います。そして、「対話すること」、「じっくりと考えること」を心掛けて高校生活を送って欲しいと期待します。
多良木高校校舎正面
3年生を励ます ~3年進路激励会
3年生を励ます ~ 3年生進路激励会 ~
「どんな時にあなたは幸福だと感じますか」という問いに対して、30代以上と10代20代の世代では考え方が大きく異なる結果が出ています。30代以上の世代、即ち大人は、「平穏無事」の言葉に象徴されるように、昨日も今日もそして明日も大きな変化がなく、無事に生活できることが幸福だと答えています。私もそうです。しかし、10代、20代の若者世代は違います。将来への希望がある状態が幸福だと答える人が多いのです。将来は看護師になりたい、大学の工学部で勉強し、就職してエコカー開発に関わりたい等の希望を持ち、それに向かって努力し、自分の生活が変化していく過程(プロセス)こそ、最も充実した幸せな時間なのでしょう。
鍵は、未来において何かが自分を待っていると信じることができるか、だと思います。この期に及んで、高校時代を振り返り、もっと勉強しておけば良かった、部活動で頑張っておけば良かったと後悔して前に踏み出すのが遅れている人はいませんか?「振り向くな 振り向くな うしろには夢がない」と劇作家で詩人の寺山修司はかつて若者に呼びかけました。大切な事は「今、ここで」です。多良木高校3年の今、できることに全力で取り組みましょう。
また、他の人の動きが気になり、つい比較して焦ったり、逆に「どうせ自分は」などと消極的になったりしている人はいませんか?皆さん一人一人に個性があるように、高校3年生の進路は多様です。「競走するなら自分と競走してください」。そして、「これでいいのか、今のままでいいのか」と自分自身と対話して、時には自分を叱ってください。
まとめとして、具体的なことを皆さんに望みます。教室で、図書室で、受験勉強はお互いに教え合ってください。友達は身近な先生です。面接の練習もお互いで批判し合って、取り組んでみてください。勉強も面接も繰り返すことが大切です。同じ事を繰り返す中で、コツをつかんでいきます。量は質を高めます。そして、私たち教職員を大いに頼り、活用して欲しいと思います。皆さん全員の進路希望の達成に向けて、3学年の先生方だけでなく、本校の全ての教職員が協力します。すでに校長室は模擬面接用に模様替えしています。昼休み、放課後、いつでも来てください。また、早々に9月中に就職や推薦入試で合格を得たとしても、これから受験するクラスメイトのこと、学年全体のことを常に意識していて欲しいと思います。皆さんはチーム多良木の一員だからです。
結びになりますが、2学期始業式で語った言葉を重ねて伝えます。「助け合い、励まし合い、志高く」。私からの激励の言葉を終わります。
生涯、学び続けたい
生涯、学び続けたい
~ 社会人開放講座の活況 ~
江戸時代の豪商についての本で(出典は忘れましたが)、冨を手にし道楽も尽くしたが、「学問が一番面白い」と最後は学問に熱中する商人が少なくなかったという話を読み、とても印象に残っています。学問とは一生かけて関わる価値がある面白いものだと理解しました。
今年度も、「地域に開かれた学校」という理念のもと、多良木高校は地域の社会人の方々に二つの学びの場を提供しています。一つは、1学期当初から実施している、科目「情報処理」の社会人聴講生制度です。これは、水曜日の2、3時間目に2年1組の生徒と一緒に「情報処理」の授業を受けるもので、昨年度は6人、今年度は10人の方が希望され、熱心に学ばれています。受講されている方々は、中高年世代であり、コンピュータは初心者です。しかし、教師の説明を一言も聞き漏らすまいと一生懸命に聴講され、コンピュータの操作に没頭される姿は、物心ついた時にはすでに身の回りにコンピュータがあったデジタル世代の高校生にも大きな影響を与えています。一方、社会人聴講生の方々は、「高校生から元気をもらっています。」と笑顔を見せられます。
そして、この9月から、同窓会と多良木高校との共催事業の「書道開放講座」が始まりました。この書道開放講座は、水曜の夕方6時から2時間、書道室にて本校の書道担当教師が受け持ち、2学期中に10回行います。昭和63年から続く伝統があり、毎年楽しみにされている方が多く、今年度も多良木町はじめ球磨郡から22人の応募があり、9月2日(水)に開講式と第1回講座を実施しました。私も昨年度からこの書道講座の末席を汚しておりますが、墨の匂いに包まれ、静寂の中に緊張感ある書道の雰囲気に魅了されています。社会のデジタル化が進展しているからこそ、アナログとも言うべき書道は益々魅力を発しているように思えます。
コンピュータと書道という対極にあるような二つの学びの場に地域の方々が集っている学校、多良木高校。このことを誇りに思い、これからも地域と共に歩み続けたいと思います。
インターシップに取り組む君たちへ
インターンシップに取り組む君たちへ
明日から3日間、皆さんは、学校を離れ地域社会の中で実習をします。実習とは実際を学ぶことです。知識ではなく、仕事、職場の実際を学ぶのです。頭だけでなく、身体中の機能をフルに使って修得してきてください。
皆さんを送り出すことに、不安はあります。学校での指導は十分だっただろうか、各事業所に御迷惑をおかけしないだろうか、と。しかし、昨年度もそうでしたが、地域の方々は、「高校生のためですから」と快く協力してくださいます。次代を担う高校生を地域全体で育てていこうという協力体制が球磨郡はできています。有り難いことです。各事業所の御協力あってこそインターンシップは実施できるのです。「この度は、実習させていただき、有難うございます。」と最初の挨拶では感謝の思いを表明してください。
そして、自分以外は皆先生という思いで、謙虚に取り組んでください。人と接するときは努めて笑顔をつくってください。楽しいから、幸せだから笑顔になるのではありません。笑顔だから楽しさ、幸せを呼ぶのです。
失敗することがあるでしょう。真剣に取り組んだ結果の失敗は、必ず認めてくれます。ある製造業の社長さんが言われました。「成功の反対は失敗ではない。何もしないこと。失敗しないと学べないことがある。」と。そういう意味では、皆さんは失敗をするためにインターンシップに行く、と言ってもよいかもしれません。
皆さん一人一人が多良木高校です。「おっ、多良木高校生か。野球はベスト4まで勝ち上がり、よく頑張ったね」と言われるかもしれません。その時は、「応援してくださってありがとうございます。」と学校の代表のつもりで御礼を言ってください。コミュニケーションとは言葉の往復、往来です。一方通行にならいないことです。こちらから積極的に挨拶する、わからないことは尋ねる、そして指導や助言を受けたら、必ず返事をする、そのような基本的なことができればコミュニケーション能力は上達していきます。
皆さんが充実した3日間を過ごし、一回り成長して学校に帰ってくることを期待して挨拶とします。
* 多良木高校インターシップ(職場体験)事業は、9月1日~3日にかけて2年生全員63人が多良木町はじめ人吉市、球磨郡の計33事業所の御協力で無事に実施できました。
御協力いただきました各事業所の皆様方に厚く御礼申し上げます。
(上球磨消防署でのインターンシップ)
登録機関
管理責任者
校長 粟谷 雅之
運用担当者
本田 朋丈
有薗 真澄