校長室からの風(メッセージ)

校長室からの風(メッセージ)

トラベルとトラブル ~修学旅行

トラベル(Travel)とトラブル(Trouble)~ 修学旅行

                              

 英語のトラベル(Travel:旅行)とトラブル(Trouble:苦労、問題)は同じ語源だと聞いたことがあります。即ち、トラベルとは、様々なトラブルに遭遇し、それをいかに克服していくかのプロセスだと言うのです。「かわいい子には旅をさせよ」という諺(ことわざ)もあります。親の手許で甘やかして育てるよりも、広く世の中に出して苦労を経験させる方が成長するという意味です。日本語においても、旅、旅行は苦難を象徴する言葉なのです。

 1月18日(月)から22日(金)にかけて4泊5日、2年生の修学旅行引率で福島県及び東京都を巡ってきました。初日、首都圏及び東北地方の大雪のため、鹿児島空港からの出発便が2時間の遅延、東北自動車道の一部通行止めによる迂回路を通って羽田空港から福島県白河市までの5時間の長いバス移動、そして目的地のスキー場のロッジまでバスが上ることができず、麓にある系列のホテルに宿泊変更を余儀なくされるなど予定が大きく変更されました。

 二日目は青空と白銀のコントラストがまぶしいスキー研修でしたが、三日目、時折吹雪となる中でのスキー体験は多くの生徒にとって体力的に厳しいものがあったと思います。しかし、インストラクターの方々に励まされながら、懸命に取り組んでいました。四日目、東京都内の班別自主研修では、電車の乗り間違い、駅の出口を誤る、路上での強引なセールスに戸惑うなど、多くのトラブルが起こったようです。しかし、ホテルに帰って来た生徒の皆さんには、それらのトラブルを面白がっている余裕があり、頼もしく思いました。

 こうして振り返ってみると、今回の修学旅行は、2学年63人と職員4人がベテランの添乗員さんと献身的な看護師さんの支えを受け、幾つものトラブルを乗り越えて無事に帰校できた一つの物語のようにも思えます。非日常の大変さと面白さを級友達と共に体験することで、仲間の違った一面を発見し、より絆も強まったことと思います。

 雪山の容赦のない天候の変化、大都会の混雑、人の動きの速さ、東京湾岸の未来都市のような空間などを体験してきた皆さんを、人吉・球磨地域が優しく迎えてくれました。旅行は、故郷の良さを改めて気付かせてくれるものです。


大学入試センター試験に挑む


「大学入試センター試験に挑む」                         

 平成28年度大学入学者選抜大学入試センター試験に多良木高校からは8人の生徒諸君が挑みました。本校の場合、9月の就職試験の解禁から始まり、専門学校・短大・大学等の推薦・一般入試が続き、すでに3年生の大部分の進路が決まっています。その中で、この1月まで受験勉強を続けてきて、大学入試センター試験を受ける生徒は少数派となります。

 試験前日の1月15日(金)の昼休み、受験生8人への激励会を校長室で行いました。この8人の生徒の中には推薦入試で合格を得ている人もいますが、その後も課外授業も受け、受験勉強を持続してきました。「周囲の人が受験勉強から離れている中で、皆さんはここまでよく勉強を続けてきました。そのことを誇りに思います。8人の皆さんを多良木高校の代表として自信を持ってセンター試験に送り出したいと思います。」と私は語り掛けました。3学年や進路指導の職員も集まり、皆でエールを送りました。代表で北﨑裕之君が、「本番が最も良い結果となるよう、これまで勉強してきた力を発揮します。」と力強く決意を述べてくれました。北﨑君は、野球部のエースとして昨年夏の高校野球県予選で準決勝進出を果たした生徒で、部活動と学習の両立を立派に果たしてきた生徒です。

 そして大学入試センター試験初日、本校の生徒の試験会場である熊本大学黒髪キャンパスに私も午前10時に駆けつけました。晴天で風もなく、穏やかな天候に恵まれました。午前11時45分には、地歴・公民科を受験した5人と午後の国語から受験する3人の全員が揃いました。特に緊張している様子もなく、笑顔も見え、頼もしく感じました。

 今回の大学入試センター試験は全国で約56万人が受ける大規模なもので、高校3年間の学力の到達度を評価するという意味ではとても教育的意義が大きいものです。普通科の高校生には大学入試センター試験の受験を私は勧めます。今や国公立大学だけでなく多くの私立大学も参加しており、試験結果を活用できます。たとえ秋に推薦入試で合格が決まっていても、冬まで受験勉強を続け、学力をさらに高め、春の進学につなげて欲しいと思います。

 学び続ける姿勢は、まさに生きる力となっていくと信じます。

3学期始業式

 皆さん、新年明けましておめでとうございます。こうして皆さんと一堂に会し、多良木高校の新年が始まります。

 さて、平安時代に書かれた随筆「枕草子」の冒頭、作者の清少納言はそれぞれの季節で最も良い時間帯について述べています。春はあけぼの、即ち明け方が良い、夏は夜、秋は夕暮れ、と言っています。それでは、冬はいつが良い、と言っていますか?そうです、冬はつとめて、即ち、冬は早朝、朝早くが良いものだと述べています。雪が降っていたり、霜が降りていればなお良いと清少納言は言っています。清少納言が暮らした都、今の京都は、鴨川が流れ、山々に囲まれた盆地です。冬の厳しい所で知られます。一方、この球磨盆地も球磨川が流れ、九州山地に囲まれており、京都ととても似た気候です。これから2ヶ月は厳しい寒さが続くことでしょう。しかし、千年前の都人も愛した冬の朝の清々しい情景を感じる余裕を持ち、「冬はつとめて」と口にして自分を励まし、登校してきてください。

 朝に関連して話しを続けます。誰もが気持ちの良い朝、一日の始まりを迎えたいと願っています。そのためには何が大切なのでしょう。そう、十分に眠ることですね。眠りは身体を休めるだけではありません。近年の脳科学の研究によると、眠っている間に、私達の脳は進化し、更新されていくそうです。起きている間に学習したことを脳のそれぞれの分野に書き込み、記憶させる作業が睡眠中に行われるのです。学習というと勉強や知識と思われがちですが、運動も含まれます。例えば、昼間に練習したことが脳の運動機能を司る分野に書き込まれ、身体全体が覚えていくことになるのです。従って、練習することと同じくらい眠ることがスポーツにとっても大事なのです。昼間、勉強や部活動で頑張った事を明日につなげるために睡眠がいかに大切かわかるでしょう。

 ところが、今の高校生諸君は、眠りの質を高めるためにやってはならないことをやっている人が多いのです。眠る前に長時間スマートホンやパソコンの電子画面を見る行為です。電子画面の光は、自然界にはない特性を持っているため、目を通して脳を刺激し混乱させるため、眠りについても昼間の学習成果の正常な書き込み作業ができなくなるのです。さらに、睡眠中に分泌される男性、女性ホルモンにも大きなダメージを与えることがわかってきました。女性が気にする美容にも悪影響を及ぼすことが指摘されています。最も身体を作っていかなければならない時期に、それを阻害する行為を毎晩していることになります。皆さん、自分自身の成長や健康と引き替えにするほど、ゲームやSNSは大事なものですか? バランスを考えてください。それでは、眠りの質を上げる秘訣を皆さんに教えます。簡単なことです。「闇の中で寝て、朝日と共に起きる」ことです。眠る1時間前には携帯端末やパソコンの電源を切り、できれば天井の豆電球も消して闇をつくり、午前零時までには眠ってください。

 最後に、残り50日ほどで卒業していく3年生に伝えます。まだこれから進路達成に向けて試験に臨む人がいます。全国でおよそ56万人が受験する大学入試センター試験にも本校から8人が挑みます。3年生65人全員の進路が決まるまで私達も全力で支援します。そして、既に就職、進学が決まっている皆さん、新しい出会いに期待が膨らんでいると思います。けれども、進路決定後のあなたの生活はどうですか?他の人から見て、出会うに値するための仲間となって新しい学校に進もうとしていますか? 出会うに値する仲間として新しい職場に入っていこうとしていますか?残された高校生活一日一日を惜しみながら、最後まで勉強してください。しっかりと助走し、勢いをつけて、新しい世界に飛躍して欲しいと期待します。


2学期終業式の挨拶

 先週、スウェーデンの首都ストックホルムでノーベル賞の授賞式が行われ、大村智(さとし)氏が医学・生理学賞、梶田隆章(たかあき)氏が物理学賞を受賞されました。熱帯地域の感染症に効果のある薬品開発で大きな貢献をされた大村さんは、20代の頃、東京都立墨田工業高校定時制で理科の教師をされていました。定時制の工業高校ですから、多くの生徒は、昼間、地域の工場で働き、夕方から夜にかけて学校で勉強するのです。大村さんは、ある日、油で汚れた手で答案を書く生徒の姿を見て、心を激しく打たれ、「生徒はこんなに頑張っている。自分はもっと勉強しなければと思った」そうです。そして、定時制高校の教師を5年でやめ、大学院に入り直し、研究者の道を進まれました。ノーベル賞科学者誕生につながる出発点が、働きながら学ぶ定時制高校の生徒との出会いだったことになります。

 2学期の終業式に当たり、大村さんのこのエピソードを思い起こすのは、日頃から、私自身、生徒の皆さんの立ち居振る舞いに心動かされることが数多くあるからです。それは、私自身が直接見て、気づくこともあれば、保護者の方や地域の方々からお電話で、お手紙で、あるいはお話いただき、知ることもあります。

 皆さんが地域で挨拶することが、どれほど地域の方の気持ちを明るくしているか、恐らく皆さんの想像をはるかに超えていると思います。一例をあげます。この夏に御主人を亡くされた多良木町にお住まいのあるご婦人がおっしゃいました。「主人を亡くし心に大きな穴が空いたような毎日でしたが、朝夕に家の前を自転車で通る多良木高校生の元気な姿、そして時に私のような見ず知らずのおばあちゃんにも『おはようございます』『こんにちは』と掛けてくれる挨拶に気持ちが励まされ、私もしっかりしなくてはと思い直しました。」と。

 また、10月に行われた恵比須祭りの夜、祭りが終わり恵比須神社の周辺の出店も片付け始めた頃、ゴミが道路に散乱した状態を見て、多高生3年の男子生徒3人が自発的にゴミ拾いを始めました。翌朝、例年に比べて周辺の道路が綺麗なことに気づき、町で評判になり、私は幾人もの方から感謝の言葉をいただきました。11月の強歩会では私も最後尾をゆっくりと歩き通しましたが、皆さんが歩いた後にゴミ一つ落ちていませんでした。小さな包紙を誤って道に落とし、急いで拾う生徒の姿を見た時は、とても爽やかな気持ちになりました。

 年度当初から、生徒の皆さんに私たちは「多高プライド」を呼びかけてきました。自分に恥じない高校生活を送って欲しい、大人が、あるいは他の学校の生徒がみっともない行動をしても、自分だけは流されず善く生きようと思って欲しいのです。あなたの行いを誰かが見ています。いや、たとえ誰も見ていなくても自分は見ています。自分自身に誇りを持つと見苦しいことはできないはずです。そんなことをする自分を自分自身が許せない、という気持ちが起こるのではないでしょうか。

 2学期、自らの進路実現に正面から挑んだ3年生の姿には、まさに多高プライドを感じました。最初の挑戦が不調に終わった人は恐らく悔し涙を流したことでしょう。けれども、それを乗り越え、再び進路実現に挑む時、その人は人間的に大きく成長しています。多くの模擬面接を校長室で行いましたが、二度目の挑戦の人は一回目の時とは気迫が違いました。高校生ではなく青年になったなあと感じた瞬間です。また、難関の試験に合格した後も、変わらず早朝課外や放課後課外を受け続け、受験前と変わらぬ生活を持続している生徒の姿はとても頼もしく思います。進学、就職はゴールではなく、また新たな大事なスタートだということをその人はよくわかっているのでしょう。1,2年生の皆さん、3年生の後ろ姿から多くのことを学ぶことができます。できれば、進路について直接話しを聴いてください。部活動の先輩などから個人的に体験談を聴くことで、1、2年生の皆さんの気持ちに火が付くことを期待しています。

 結びになりますが、昨日の午後、正門に立派な門松が立ちました。保護者の方が朝から山に行って竹を切り出し、1日がかりで作業をされ立てられました。有り難いことです。門松は、新しい年の神様が天から降りてこられる目標(「依代(よりしろ)」と言いますが)となるものです。これで、私達の学校も新年を迎える準備が整ったわけです。

 明日から冬休みとなります。学期中とは異なり、長期休暇は生活のリズムが乱れがちです。今年の流行語とも言えるルーティン、即ち決められた行動手順を自分なりに定めて、冬休みが充実したものとなるよう期待します。そして、清々しい気持ちでお互い新年を迎えましょう。


クラスマッチ・駅伝大会

 12月16日(水)にクラスマッチ(男子バレーボール、女子ドッジボール)、翌日の17日(木)に校内駅伝大会を実施しました。17日午後の閉会式での校長講評を次に掲げます。

「男子バレーボールの部、3年1組、優勝おめでとう。個々の運動能力の高さを発揮し、ダイナミックなプレーを見せてくれました。クラスマッチに向けて朝の自主練習の成果が実を結びましたね。1年1組、準優勝おめでとう。見応えのある優勝戦でした。3年生相手に堂々と立ち向かい、ベストを尽くしたプレーは見事でした。

 女子ドッジボールの部、2年2組、優勝おめでとう。フットワーク軽く、お互い声を掛け合ってのチームワークの勝利でした。肩の強さを活かして、速いボールを投げ込む姿が印象に残りました。ドッジボールは私も小学校の頃に昼休みの遊びで夢中になったなあ、と懐かしい思いで観戦しましたが、改めて観て、スポーツとしても面白いと思いました。女子生徒は、不審者に迫られた時に逃げ足が早くなければなりません。先ず逃げること、そして俊敏に動く事が求められるドッジボールは、女子のクラスマッチに向いていると感じました。

 そして今日の駅伝大会です。1年1組、優勝おめでとう。襷をつないだ5人の懸命の走りは力強さがありました。優勝するぞという気迫が伝わってきました。圧巻の走りでした。長距離走は多くの人が苦手にするものだと思います。けれども、次の人が待っている、ゴールではみんなが待っていることが走る力となります。多くの声援に支えられ、参加者全員が完走してくれたことを頼もしく思います。

 さて、多良木高校では今回のクラスマッチや駅伝大会など体育的行事を多く行っています。それはなぜでしょうか? もちろん身体を動かす喜びを知り、生涯にわたってスポーツを愛好してほしいとの願いが第一ですが、もう一つ大きな目的があります。それは、生徒の皆さんの結びつきです。

 今回のクラスマッチの種目にはありませんでしたが、サッカーやバスケットボールで競り合ったボールがコートの外に出た場合、自分たちのボールの時、日本人はよくマイボールと主張します。しかし、マイボールは和製英語であり、欧米の選手はそんな言葉は使いません。彼らは何と言うのか? 「Ours(アワーズ)」と言います。ここでちょっと英語の勉強です。私は、私の、私を、私のもの I My Me Mine 中学校で学習しましたね。We Our Us Ours そう、Oursは私達のものです。常に私達、チームとして意識しプレーをしているのです。スポーツをとおし、一つのチームとして、クラスとして、学年として、学校全体としての結びつきが強くなって欲しいとの願いを私達は持っています。

 熊本市の高校1年生女子が人権啓発のための標語をつくり、今年の熊本市の最優秀賞に選ばれました。

 「世界中に高校生がいる 同じクラスになるなんて奇跡だよね」という標語です。奇跡の出会いがあって、今のクラス、学年、そして学校があるのです。

 昨日のクラスマッチ、そして今日の駅伝と、多高生の元気を大いに発揮してくれました。お互いの結びつきも強まったと思います。来年はさらに私達の学校、多良木高校が活力あるものになるという期待がふくらんだ二日間でした。

 皆さん、お疲れ様。講評を終わります。」