校長室からの風

区切りの代替大会

 

 県高校総体に代わる代替大会が7月18日(土)~19日(日)、そして7月25日(土)~26日(日)に開催されました。御船高校からは、陸上(男女)、バレーボール(男女)、バスケットボール(男女)、テニス(男)、サッカー(男)、弓道(男女)、水泳(男女)、バドミントン(男女)の各部が出場しました。

 新型コロナウイルス感染拡大によって、体育系部活動の集大成である6月の県高校総体が中止となりました。この大会を目標としてきた生徒達、特に3年生にとっては大きな衝撃でした。落胆、失意に陥った生徒も数多くいました。そのため、「3年生に最後の活躍の場を設けたい」との各競技の指導者をはじめ教育関係者の熱意から代替大会の模索が始まり、県高校体育連盟(高体連)の英断があり、7月の代替大会が実現したのです。例年の県高校総体より1か月半ほど遅い時期の開催で、進学や就職の準備に取り組まなければならない3年生にとっては難しい選択となりました。部活動を貫く者もいれば、代替大会の出場を諦めた者もいます。しかし、どちらの選択も尊重されるべきと思います。

 代替大会であっても、生徒たちにとっては待望の県大会であり、3年生にとっては部活動の集大成の場となりました。御船高校生は各競技で健闘し、弓道男子団体で準優勝、男子バレーボール部がベスト8という近年にない好成績おさめました。男子団体弓道は顧問も驚くほどの集中力で躍進しました。男子バレーボールは接戦が続きながら、最後は「勝ちたい」という生徒の強い気持ちで勝ち上がっていったそうです。その他の各部も全力を尽くし、日頃の練習の成果を出し切ったとのことで、試合内容を語られる各顧問の先生方の表情が充実感に満ちていました。また、登校してきた3年生からも「完全燃焼しました」、「自分たちの試合ができました」等、達成感の伝わる言葉を聞くことができました。

 代替大会が実施されて良かったと心の底から思います。不完全燃焼で終わるはずだった3年生にとって明確な区切りができました。新型コロナウイルスで3月の春休みから思うように部活動ができず、県高校総体も中止となりました。部活動再開は6月からで実質2か月弱の練習期間でしたが、代替大会という特別な舞台で真剣勝負ができ、もやもやした気持ちが吹っ切れたことでしょう。

 7月30日(木)、熊本県は待望の梅雨明けを迎えました。今年の梅雨は長く、過酷なものでした。7月初旬の記録的な大雨によって県南部を中心に豪雨災害が発生しました。

 明日7月31日(金)は1学期終業式で、8月1日(土)から夏休みです。部活動は1,2年生の新チームに引き継がれます。そして、3年生はそれぞれの進路の実現に向かって大きく一歩を踏み出す夏です。

 

高校球児にとっての特別な試合

 夏の甲子園大会が新型コロナウイルス感染拡大によって5月下旬に中止が発表されました。その後、6月に入り学校が再開され、部活動も始まり、熊本県独自の代替大会が計画されました。高校球児にとっては目標ができ、大きな励みになったと思います。ところが、7月4日(土)未明から朝にかけての記録的豪雨により県南部が甚大な災害に襲われました。この災害のため、7月上旬から予定されていた県大会は変更を余儀なくされ、地域別の大会に縮小されました。今年の熊本の高校球児たちは新型コロナウイルスと豪雨災害という二つの大きな力によって翻弄されたと言えるでしょう。

 御船高校が出場する城南地区大会は7月18日(土)に始まりました。そして、7月23日(木)、県営八代球場で、御船高校・矢部高校の合同チームは人吉高校との1回戦に臨みました。相手の人吉高校は、この度の豪雨災害の被災地(人吉市)にあり、出場が一時は危ぶまれました。人吉高校関係者によると40人以上の部員がいるそうですが、その内10人近くの自宅が球磨川氾濫の浸水被害をうけ、制服や野球の練習ユニホーム、用具などが流されてしまったそうです。しかしながら、部OBの卒業生からの支援があり、部員全員での城南地区大会出場を果たすことができたと聞きました。

 一方、御船高校と矢部高校はお互い部員不足に悩み、昨秋の大会から合同チームを結成し、公式戦に出場しています。御船高校は1年生部員が入り、現在12人で単独チームができるのですが、矢部高校が部員4人のため、県高校野球連盟に申し出て合同チームで戦うこととしました。矢部の大嶋校長先生と一緒に私も県営八代球場へ応援に行きました。

 新型コロナウイルス対策のため一般の高校野球ファンは観覧できないのですが、観客席には保護者のの姿も多く、夏の日差しのもと、選手たちははつらつとしたプレーを見せてくれました。地力に勝る人吉高校が先制。しかし御船・矢部合同チームは矢部の選手のタイムリーヒット等で一時は逆転。合同チームのため守備の連携プレーが課題でしたが、内野ゴロを巧みに処理しダブルプレーに打ち取るなど守備の成長も見られました。

 試合は結局9対3で人吉高校が勝ちました。ホームペース上に距離をとって2列に並び、胸をはって校歌を歌う生徒たちの姿に、御船・矢部合同チームの応援スタンドからも大きな拍手が寄せられました。

 未曽有の新型コロナウイルス感染による社会的な混乱、そして記録的な豪雨災害と球児たちは困難に耐え、やっと試合をすることができました。県営八代球場でプレーする球児たちは皆輝いて見えました。「艱難汝を玉にす」(かんなんなんじをぎょくにす)という古い格言を思い出したものです。

 

もしも鉄道があったなら

   今年ほど、一日も早い梅雨明けを望む年はないでしょう。7月4日(土)未明から朝にかけて熊本県南部に未曽有の豪雨災害が発生したうえに、それ以後も梅雨前線が停滞し、県北部で土砂崩れ、河川の氾濫等の災害が続きました。その爪痕はいまだ深く、広域にわたるため復旧が思うように進んでいません。また、本校のある上益城郡も断続的に強い雨が降り続きました。そのため、生徒の皆さんの多くが保護者の車の送迎となり、朝の登校時は車が長蛇の列でした。

 4月当初の調査では、本校生(全校生徒525人)の通学手段で最も多いのは自転車で約300人。次が単車で約120人、そして路線バスが60人ほどです。残りが徒歩、保護者の車での送迎となっています。平常は20~30台の車で、正門から入って、「天神の森」の前の芝生広場ロータリー付近で生徒を下ろして、Uターンで正門から出てもらう流れです。しかし、雨天時、特に今月に入っての強雨の日は、自転車や単車の通学生たちの多くが車での送りに変わり、百台を超える車で校内及び正門周辺が大渋滞となりました。雨合羽を着用して自転車や単車で通学する生徒も一定数いるため、交通安全の確保のため、雨天時の車は「天神の森」の横の道路に縦列して、生徒を下ろしたら、そのまま校内を通り抜け南門から出るという流れに変更しました。毎朝、数人の職員がローテーションで出て、雨合羽を着て車の誘導に努めました。

 本校の正門は昭和の終わりに建立されており、幅が狭く、普通自動車の離合ができません。また、正門前の町道も幅が狭く、雨天の朝は、多数の自動車に自転車、単車、そしてバス停から歩いてくる生徒と危険な交通渋滞が起きます。車への生徒たちの乗り合わせや近距離の生徒には雨合羽着用での自転車、単車通学の協力を呼び掛けていますが、根本の解決に至っていません。

 朝の渋滞状況を目の当たりする度、「鉄道があったなら」と思います。前回の「校長室からの風」で触れたように、前任の人吉・球磨地域は第3セクターの「くま川鉄道」があり、五つの高校(現在は4校)は最寄り駅からいずれも徒歩10分以内でした。このため、強雨の日でも、生徒たちは自宅の最寄り駅まで車で送ってもらい、列車に乗って通学してきたので、学校の正門付近が車の渋滞になることはありませんでした。

 実は、この御船町、そして上益城郡にはかつて鉄道がありました。このことも「校長室からの風」で何度か紹介してきましたが、豊肥線の南熊本駅から上益城郡(嘉島町、御船町、甲佐町)を通り、下益城郡の砥用(ともち)駅まで約28.6㎞を結んだ私鉄の「熊延(ゆうえん)鉄道」です。残念ながら昭和39年(1964年)に廃止されており、70歳代以上の同窓生から「汽車通学」の思い出話を時々聴くことがあるくらいです。

 しかし、「もし鉄道があったなら」と令和の今日、思わずにはいられません。

 

 

 

鉄路の復旧、復興を願う

    熊本県南部を襲った豪雨災害から一週間立ちました。復旧は緒に就いたばかりだと思います。メディアで伝えられる現地の状況はまだ茶褐色の土砂や流木が散乱し、被害の甚大さにため息が出てきます。また、気になるニュースが報じられています。くま川鉄道の全線不通のため、沿線の人吉、球磨地域の高校生の通学に大きな支障が出ているとのことです。

 くま川鉄道は、人吉市に本社がある第3セクターの鉄道会社で、人吉市と湯前町の約25㎞を結ぶローカル鉄道です。東西に広がる人吉盆地を球磨川に沿うように運行されている同鉄道は、人吉・球磨地域の貴重な公共交通機関であり、特に高校生にとってはなくてはならない通学手段です。平成元年に旧国鉄の湯前線から引き継がれ、地域住民にとって頼られ、親しまれてきた路線なのです。

 前任の球磨郡の多良木高校勤務時代、私は、くま川鉄道が果たす役割の大きさを日々実感していました。沿線にある五つの高校(多良木高校が閉校となり、現在は4高校)はいずれも最寄り駅から徒歩10分以内という便利さで、多くの高校生が列車通学していました。しかも、その車両は「田園シンフォニー」と呼ばれる洗練さと温かさが調和したデザインで、快適な乗り心地でした。修学旅行で東京に行き、自由行動で朝夕の満員電車を体験した多良木高校生が、「自分たちはいかに恵まれた列車通学しているかわかった」と私に語ったことが印象的でした。大雨などで列車が遅延する時は、学校へファックスでこまめに連絡が届き、鉄道の正確さ、安定性に加え、細やかな配慮を常に感じました。

 今回の豪雨災害で車両全ての浸水被害、橋梁の流出など大変な被害を受けて、くま川鉄道の運行再開は全く見通しが立っていない状況です。通学手段を奪われた高校生たちは、一日も早い代替バス運行を希望しているようですが、人吉・球磨地域のバス車両の多くも浸水被害を被っており、目途がたちません。

    くま川鉄道には、私もよく乗車し、球磨川やのどかな田園などの車窓風景を満喫しました。乗客数は減少し経営は苦しいようでしたが、第3セクターということで、地域住民みんなで支えていました。昭和の終盤、そして平成と全国各地の鉄道が次々に姿を消していきました。地方の過疎化、そしてモータリゼーション(自動車の普及)によって廃線が続きました。時代の流れで仕方がないと思われたこともありました。しかし、エコの観点、高齢者に優しい乗り物などの面から、改めて鉄道の価値が注目されています。例えば、三陸鉄道の復活は、東日本大震災からの復興のシンボルとして被災者の皆さんを勇気づけました。

 くま川鉄道の復旧、そして再開を強く望み、その日を心待ちにしています。

 

球磨村を思う

 7月4日(土)の未明から朝にかけて起こった熊本県南部の豪雨災害ですが、発生から五日が経過しました。日を追って被害の大きさがわかってきましたが、特に多くの犠牲者が出ている球磨村の悲惨な状況を思うと言葉がありません。前回の「校長室からの風」で触れたように、私は前任地が球磨・人吉地域であり、よく球磨村も訪れました。

 球磨村は人吉市の西隣に位置し、中央部を球磨川が流れていますが、村の約9割は山地です。人口およそ三千五百人の小さな村です。役場や球磨中学校を業務で訪問しましたが、それより休日に同村を巡った記憶が印象深く残っています。

 まず棚田の風景が忘れ難いものです。球磨村大字三ヶ浦の松谷棚田は「日本の棚田百選」に選ばれており、標高150から200mの山腹に広がる情景は一度見たら忘れられません。大小さまざま、形も不規則なたくさんの棚田は四季折々の風情があります。この松谷棚田をはじめ同村の棚田を見て回ると、先人の計り知れない苦労を想像し、何か敬虔な気持ちとなります。山の斜面に人の力だけで作り上げ、維持されてきた棚田は、かけがえのない文化的景観に見えました。山間部に小規模の集落が点在しており、道幅は狭く車の運転には気を遣いましたが、「山林が整備されているから土砂災害が起きないのだなあ」と思ったものです。

 次にJR肥薩線の一勝地(いっしょうち)駅です。この駅がある一勝地が球磨村の中心部となります。同駅は1908年(明治41年)の開駅のままの木造駅舎です。言わば歴史的建造物の鉄道遺産ですが、今も現役の駅として役割を果たしています。この駅には何度も訪れました。駅名が「地に足をつけ一勝する」と解釈できる縁起の良いもので、受験やスポーツ大会のお守りとして同駅の入場券が人気なのです。私も当時勤務していた多良木高校の生徒たちが、大学入試センター試験を受ける時、あるいは陸上部リレーチームが九州大会に出場する時など幾度も同駅に足を運び、記念入場券を購入し、生徒たちに贈ったものでした。

 その他、一勝地の温泉や神瀬(こうのせ)の住吉神社、石灰洞窟、渡(わたり)にある相良三十三観音の一つ「鵜口(うのくち)観音堂」など休日に訪ね歩いた場所が次々に浮かびます。

 平和でつつましい山村は、この度の災害で一変しました。球磨川の氾濫した濁流、そして豪雨による土砂災害とその爪痕は凄まじいものがあります。近年の少子高齢化、人口減少で球磨村は棚田の維持もできなくなってきたと聞いていました。そこに今回の大きな災害に襲われ、危機的状況だと思います。

 被災された球磨村の住人の一部の方が、旧多良木高校校舎に避難されていることを知りました。2年前まで私が勤務し閉校となった同校舎が、球磨村の住民の方の避難所となっていることに万感胸に迫るものがあります。自分に何ができるのか問いかける日々です。

 

水害の恐ろしさ

   「これまでに経験したことがない大雨」、「数十年に一度の豪雨」など、気象予報で最大限の警告を近年よく聞くようになりました。そして、毎年のように梅雨末期の7月には、日本列島のどこかで大規模な水害が発生してきました。しかし、それらは遠い地域で起こったニュースであり、私自身、水害の真の恐ろしさがわかっていなかったと思います。

 7月4日(土)の未明から朝にかけて、熊本県南部に「短時間大雨情報」が幾度も発出されるような記録的豪雨が降り、一級河川の球磨川水系が広い地域で氾濫し、土砂崩れや洪水など大災害となりました。50人を超える人命が失われ、人吉市、球磨郡、芦北地域等、甚大な被害が出てしまいました。災害発生から今日で3日目となりますが、交通手段や通信網が寸断され、被害の全容さえ把握できていない状況です。見知った場所が、茶褐色の土砂に覆われ一変した光景をテレビのニュース映像で見ると言葉を失います。

 御船高校に赴任する前、私は4年間、球磨郡の多良木高校の校長を務めていました。人吉・球磨地域は、鎌倉時代から江戸時代まで相良氏によって統治され、熊本県の他の地域とは歴史、風土とも異なり、個性ある文化に恵まれたところです。そして、その景観の中心に存在するのが球磨川です。日本三急流の一つと言われ、勾配が急で流れの速さで知られますが、清流と呼ぶにふさわしい川です。球磨川沿いにJR肥薩線が走っていますが、黒煙をあげばく進する「SL人吉号」が川面に映る姿はまるで一幅の絵のようでした。

 「かはちどり 鳴けばみおろす 球磨川の

         瀬の音たかし 霧のそこより」(中島哀浪 歌碑)

 この歌碑が立つ人吉城跡の岸から、球磨川とその向こうの旅館街、市街地をよく眺めたものです。人吉、球磨の冬の風物詩の川霧が現れると、幻想的でもあります。あの情緒ある城下町の風景が損なわれたことがいまだ信じられません。

 さらに、第3セクターの「くま川鉄道」が鉄橋崩落をはじめ大打撃を受けたことがとても心配されます。「くま川鉄道」は、球磨川沿いに開けた盆地の人吉市及び球磨郡を東西につなぐ貴重な公共交通機関です。特に、高校生は通学手段にこの鉄路を利用しています。安全でのどかなローカル鉄道の復活を願います。

 刻々と報道されるニュースで被害が拡大しており、不安が増すばかりです。しかし、人吉・球磨の高校生たちが泥だらけになり、市街地の土砂を掻き出すなど復旧ボランティアに汗を流していることも伝えられています。たとえ時間を要しても、若い力が復旧、復興の中心となるものと信じています。

 

地域とともにある学校 ~ コミュニティスクール始動

 第1回学校運営協議会を7月3日(金)の午後、本校セミナーハウスで開催しました。12人の学校運営協議会委員の皆様にご出席いただきました。学校運営協議会とは聞き慣れない言葉かもしれません。御船高校は今年度から総合型コミュニティスクールへ移行しました。昨年度までは、防災型コミュニティスクールとして地域住民の皆さんと一緒に防災訓練を行うなど、地域と協働で防災教育に取り組んできました。今年度から、あらゆる面で地域と協働し、生徒を育てていきたいと考え、総合型コミュニティスクールへの移行を決めました。この総合型コミュニティスクールを運営するのが学校運営協議会です。

 学校運営協議会委員の方々は、御船町を中心に教育関係者、行政、商工会、住民代表等、それぞれ高い見識をお持ちの方ばかりで、心強く思います。本校の生徒たちは、かねてから様々な分野で地域社会の皆さんのご支援を受けてきています。2年生全員のインターンシップ(就業体験)、家庭科の保育園実習、音楽専攻者の平成音楽大学での特別レッスン、また多くのボランティア活動の機会提供など幅広いものがあります。これまでも「地域に開かれた学校」を掲げ、個別の分野でご協力、ご支援を受けていたのですが、それらをまとめ、総合型コミュニティスクールとして地域と学校で高校生を育成する仕組みに変えたのです。

 御船高校は大正11年に創立以来、変わらずこの地にあり、地域の皆様に支えられてきました。来年は百周年の大きな節目を迎えます。変化の激しい社会の中で、この「天神の森の学び舎」がこれからも地域になくてはならない存在として維持発展できるのか、岐路にさしかかっていると言えます。私たち教職員は人事異動が定めで、長い在職でも10年程度で代わります。それゆえに、御船高校は地域とともにある学校(コミュニティスクール)だという基軸をここで設け、地域の皆さん方に受け継いでいっていただければ、御船町及び上益城郡の拠り所としての役割を永く果たしていけると期待できます。

 現在の御船高校には多くの課題があります。しかし、それ以上に大きな可能性もあります。私たちは学校の課題をオープンにして、委員の皆様と一緒に知恵を絞り、検討を重ねていきたいと思います。1回目の学校運営協議会においても委員の皆様から積極的な質疑、意見が出され、誠に有難く思いました。

 「御船高校があって良かった」と地域の皆様から思われ、「私たちの学校」という意識が広く浸透していくよう、次の百年に向けてコミュニティスクールづくりを推進します。

 

 

前進する芸術コース

 「美術は、人と異なったことをして褒(ほ)められることはあっても、叱られることはありません。美術、芸能だけが、人と違って褒められることがある唯一のジャンルです。」

 この言葉は、哲学者の鷲田清一氏が京都市立芸術大学学長としてかつて卒業式で述べた式辞の一節です(『岐路の前にいる君たちに ~ 鷲田清一 式辞集』朝日出版)。美術及び芸術の本質をつかんだ表現で、深く印象に残っています。

 御船高校には、音楽、美術・デザイン、書道の三つの専攻分野から成る芸術コース(普通科)があります。音・美・書の三分野そろった芸術コースは本県の県立高校では本校にしかありません。毎年、広く県内各地から志望者がありますが、今年度は書道専攻で県外からの入学者もいました。学校の平常授業を再開して1か月ですが、芸術コースの動きがとても活発です。

 前回の「校長室からの風」で紹介したように、美術専攻1年生のアクリル画がデビュー作として高い完成度を示しており、学校ホームページにアップしたところ保護者の方々から大きな反響がありました。芸術の場合、作品が何より雄弁です。作品を通じて、作者である生徒の成長がわかります。

 また、書道専攻生全員が所属する書道部に朗報が届きました。第39回熊日新鋭書道展の結果発表が6月末に行われ、3年の西村さんがグランプリ、3年の友田さんと2年の坂口さんが特選に輝きました。これらの作品は、4~5月の臨時休校期間、自宅で取り組み、時々登校して先生から指導を受ける中で出来上がったものです。担当の書道の古閑教諭は、「一時の屈は、万世の伸なり」(吉田松陰)の言葉で休校中の生徒を励ましたと聞いています。

 そして、今週、音楽専攻の2年生、3年生が平成音大へ特別レッスンを受けに行きました。同じ町に九州唯一の音楽大学である平成音大があることは、本校の音楽専攻の生徒たちには大きな強みです。年間5~6回、授業の一環として平成音大でそれぞれの専門楽器の指導を先生方から受けており、今年度初めての音大レッスンが今週実現したのです。高いレベルの指導を受けた生徒たちは顔を輝かせ帰校してきました。

 令和2年度御船高校芸術コース紹介パンフレットが、音楽、美術・デザイン、書道の先生方の努力で完成しました。非常勤の先生も含め10人の教員の写真や専門領域が掲載されています。まさに顔の見えるパンフレットであり、芸術コース教員の意気込みが伝わってきます。多くの中学生の皆さんが手に取って、御船高校芸術コースの魅力を感じとってもらえればと期待しています。

                                                               芸術コース紹介パンフレット

 

 

混沌(カオス)から生まれる創造 ~ 美術の授業

    御船高校の芸術コースには音楽、美術・デザイン、書道の三つの専攻があります。今週の授業公開週間にそれぞれの授業を参観しましたが、専攻ごとに特色があり面白いと感じました。音楽はハーモニー(調和)を重視した授業で、生徒たちは高価な楽器を丁寧に扱い、整然とした雰囲気です。書道は、研ぎ澄まされた集中力が求められ、めりはりの利いた授業展開で、心地よい緊張感が漂います。

    一方、美術・デザインの授業はどうかと言いますと、まず美術教室の雰囲気が異なっています。本校には美術教室が3部屋あるのですが、長年の絵の具の跡が床や机に見られます。また、様々な造形物も創作するため、おもちゃのようなユニークな数々のモノ(作品)が棚や教材用机の上に並んでいます。今回、木曜日の3・4限目の1年の芸術コース(4組)の授業を参観しましたが、デッサン用として「生シイタケ」まで用意されていて目を引きました。雑然と言うより、何か混沌(カオス)とした雰囲気が美術教室から伝わってきました。

   美術専攻の1年生が今取り組んでいる学習課題は、自分自身で写真を選び、それを鉛筆で転写(トレース)しアクリル絵具で彩色するものです。色は3色以内に制限され、シンプルさの中に対象の特徴を浮き出させることができるかが問われます。生徒たちの制作のスピードはそれぞれです。時間をかけ細やかな部分まで注意深く彩色している生徒がいます。まさに「美は細部に宿る」精神の実践です。アクリル画を完成させ、友人と批評し合っている生徒もいます。また、次の課題の鉛筆デッサン(ペットボトルやシイタケ等を描く)に黙々と打ち込んでいる生徒もいます。

   それぞれのペースで取り組む14人の生徒たちに対し、担当教諭は、色の明暗や光の当たり方等の技術的なアドバイスをして回りますが、生徒の主体性を尊重しています。生徒たちは生き生きと創作活動を楽しんでいる様子です。

   授業を再開してまだ約1か月ですが、美術専攻の1年生のアクリル画の完成度の高さに私は驚かされました。「1時間ごとにうまくなっています!」と担当教諭も太鼓判をおしていました。

  「芸術コース美術1年生の活動のようすを紹介します」の表題で御船高校ホームページに早く出来上がった生徒のアクリル画作品を紹介しています。保護者の皆さんにぜひご覧いただきたいと思います。

   高校生の成長には目を見張ります。

 

「教えあい、学びあう」学級(クラス)へ ~ 授業公開週間

 今週の御船高校は「授業公開週間」です。すべての授業が公開されており、教職員同士がお互いの授業を気軽に参観できます。私も月曜から水曜までの三日間ですでに6時間の授業を見て回りました。校長となって、すっかり授業から遠ざかりましたが、長年授業をしてきた経験から、授業ほど難しいものはないと実感しています。かつて大学の特別講師に就任した落語家が、「毎日、同じお客さん(学生のこと)にうける噺をすることは至難の業」と嘆息したという逸話があります。円熟の域に達した話芸のプロも、寄席に来るお客さんを引き付けることはできても、長期間、同じお客さん(学生)を相手にして、そのお客さん(学生)を変容させていくことが簡単でないことを悟ったのでしょう。

 さて、授業参観を通じて様々な発見や気づきがありました。授業でのICT(Information Communication and Technology情報通信技術)化は御船高校の近年のテーマです。書道の授業で、すっかり定着した書画カメラが利用され、教師のお手本の書き方がスクリーンに大きく映し出されていました。また、生徒の主体的な学習活動が一層重視されるようになり、英語では、教師がほとんど板書せず、生徒たちが時にはペアとなり、発音を繰り返し、言語音声が途切れることがありませんでした。また、教科「情報」の「社会と情報」(1年生履修科目)では、「ワンクリック詐欺、架空請求、フィッシング」などのインターネット上のトラブル対応を学習する授業で、まさにリアルタイムの社会問題が教材となっており、生徒たちも当事者意識で臨んでいました。

 そして、最も印象的だったのが、どの教科・科目においても、「お互い教えあおう」と教師が生徒たちに声を掛けていたことです。生徒たちは教科に応じて得手、不得手が当然あります。また、学習の進度や理解の仕方も個人差があります。その実態を教師が柔軟に受けとめ、学級(クラス)において、「教え合い、学び合う」雰囲気を醸成していこうという姿勢が感じられました。

 苦手意識のある教科・科目について、生徒は自発的に教師に質問しない傾向があります。だからこそ、級友から教えてもらうことが大切なのです。教える方にとっても効用があります。「他者に教えること」こそが、学習したことを自分の中に定着させるうえで最も効果のあることが各種研究で確認されています。

 教室は間違うところです。恥ずかしいことはありません。授業は学級(クラス)全体で受けるものであり、「教え合い、学び合う」のが学級(クラス)なのです。

 

体育祭の中止について

 今年度の体育祭を中止することとしました。名状し難い苦渋の決断です。

 本校の体育祭は例年5月上旬に実施していますが、今年は新型コロナウイルス感染予防のため臨時休業(休校)となり、10月に延期し実施の可能性を探ってきました。現在、学校は平常の教育課程で教育活動を行っておりますが、新型コロナウイルスの脅威はいまだ収束しておらず、感染防止と学校生活の充実との両立は困難さが伴っております。このような中、体育祭のあり方について検討した結果、今年度の中止を決定いたしました。

 体育祭中止の理由は大きく二つあります。一つは、体育の授業において、密接、密集を避けるため集団の演技、競技が難しい状況が続いていることです。もう一つは、高校3年生の就職試験が例年より一か月遅くなり、応募書類提出が10月5日から、採用試験開始が10月16日となったことです。このため、3年生の就職採用試験時期と体育大会予定期日が重なってしまいました。

 6月22日(月)、各教室で担任が体育祭中止を生徒の皆さんに告げました。そして、「今年度の体育祭の中止について」という保護者の皆様宛てのお知らせの文書を配布しました。学年ごとに受け止め方が違うと思います。特に最終学年である3年生にとっては、学校生活の集大成とも言える体育祭の中止は重く響いたことでしょう。高校総体、高校総合文化祭、夏の甲子園大会等、中止が相次ぎました。体育祭については、規模の縮小や競技種目の変更など、私たち教職員も様々な視点から実施の可能性を検討してきました。しかしながら、生徒の皆さんの健康安全面への不安を払しょくできず、加えて3年生の5割近い生徒が就職する本校の進路状況を重視し、中止の決断に至りました。

 「新時代をかける風」のテーマで開催された昨年5月の体育祭を思い出します。新元号令和のもとの最初の体育祭は、三つの団が3年生のリーダーシップのもとに競い合い、久しぶりに3団の演舞も披露され、御船高校の活力と生徒の一体感が発揮され、赴任したばかりの私に強い印象を刻みました。あれから一年、社会が、世界がこれほど激変しようとは誰が想像したでしょうか。

 学校として、多くの大切なものが失われ無力感を覚えることもあります。しかし、最後、絶対に守らなければならないことは生徒の皆さんの未来です。未来への大きな一歩となる3年生の進路実現については、一人ひとりの気持ちに寄り添い、全職員で支えていく覚悟です。

 

創立百周年記念事業への大きな一歩

   5月12日(金)、御船高校セミナーハウスにおいて、「創立百周年記念事業第1回実行委員会」を開催しました。徳永明彦会長をはじめ同窓会役員の方をはじめ、育友会役員、学校教職員と合わせて35人が集いました。

 本校は、大正11年4月に旧制県立御船中学校として開校以来、二万四千人もの人材を輩出し歴史を重ね、いよいよ令和3年に創立百周年の記念すべき年を迎えます。「誠実、自学、自律」の三綱領を掲げての百年の歩みは決して平坦なものではありませんでした。5年前には熊本地震の被害を受け、今年は新型コロナウイルス感染拡大に伴い三か月の臨時休業を余儀なくされました。しかしながら、開校以来、変わらずこの地にあって、地域住民の方々や同窓会の皆さんから支えられ、親しまれ、信頼されて、歩み続けています。

   創立百周年の節目を迎えるに当たり、「建学の原点へ、そして未来へ」と複眼の精神を私たちは持つ必要があると思います。大正時代、上益城郡にも中等教育の充実をと願う人々の期待を担って、県内8番目の旧制県立中学校として本校は誕生しました。大正、昭和前期の旧制中学校(男子校)の意気軒高たる生徒たちの物語は今も語り草です。さらに戦後、男女共学の新制の県立高校となって先輩方が築いてこられた輝かしい伝統があります。そして今、少子高齢化が進展し地域社会が変容する中、上益城の地のかけがえのない拠り所(コミュニティ・スクール)として更なる飛躍が求められています。

   「創立百周年記念事業第1回実行委員会」では、令和3年10月8日(金)の記念式典開催を中心とした記念事業の大枠を決定しました。新型コロナウイルス感染が全国的にいまだ収束せず、来年に向けても不安をぬぐい去ることはできません。また、社会経済情勢はまことに厳しく、同事業の遂行に必要なご援助をどれだけ賜ることができるか見通しは立ちません。しかし、たとえ式典の簡素化や事業の縮小化の事態が待っていようとも、今の時代にふさわしいものを創り上げようという思いが出席者全員で共有できました。大きな一歩を踏み出すことができたと思います。

   創立百周年事業は、学校と同窓会が一体となって、次の百年に向かって確固たる礎を築く好機となります。関係者全員で力を合わせて取り組むことで新たなエネルギーが湧き起こり、逆境の中にあっても御船高校は進んで行くことでしょう。

 

部活動再開

 御船高校の部活動が今週から再開しました。これまで無人だった放課後のグラウンドで、さっそく、サッカー部、野球部、テニス部が練習する光景が見られました。また、体育館からは男女バレー部の気合の入った声が響いてきました。先週から、書道部や吹奏楽部など準備の整った文化系部は始動していましたが、体育系部活動が再開したことで、学校の日常は完全に回復されました。

 本校には、14の体育系部活動(同好会が一つ)、12の文化系部活動があります。部活動加入は任意で、生徒の皆さんの自主性を尊重しています。自ら興味関心のある活動を通じ、多くの出会いと豊かな成長が期待され、高校における部活動の意義は大きいと考えます。特に本校の場合は、普通科特進・総合クラス、芸術コース、電子機械科と多様な教育課程で学ぶ生徒たちがこの部活動で知り合い、「チーム御船」としてまとまっていくのです。

 高校生の可能性は無限です。自分自身でもその可能性や適性がまだわかっていません。「一から教えるから、普通科の生徒にもロボット部やマイコンカー部に入ってほしい」と電子機械科の職員がエールを送ります。吹奏楽部は普通科、芸術コース、そして電子機械科と全ての教育課程の生徒が所属し、一つのハーモニーを創り上げており、本校の特色の「多様性」を象徴する部活動と言えるでしょう。部活動によって、クラスや学科・コースの枠を超えた交流ができ、異なる個性を認め合う共生の学び舎が築かれていると思います。

 近年、書道、美術、吹奏楽、写真等の文化系部活動が県内トップクラスの活躍を見せています。一方、体育系部活動は加入率がやや減少していることが気になります。今年度、男女バレー部には本校同窓生で高い専門性を有した部活動指導員の方を配置することができました。他の部でも顧問が交代し、新たに出発するところもあります。そして、何よりも、三か月の間、好きなスポーツができなかった時間をエネルギーに変え、生徒の皆さんが躍動してくれることを信じています。

 春のセンバツ、夏の甲子園大会中止は高校教育関係者に衝撃を与えました。しかし、熊本県高校野球連盟は県独自の夏の大会開催を決定しました。また、春のセンバツに出場が決まっていた学校のために、8月に甲子園球場で代替の交流試合を開催すると日本高校野球連盟が昨日発表しました。

 高校生の部活動にようやく明るい兆しが見え始めました。他の競技、そして文化系部活動にも広がるよう心から願っています。

 

「前に進む強い意志」 ~ 生徒会長からのメッセージ

 6月8日(月)、朝8時半から今年度最初の生徒会主催の全校朝礼が行われました。昨年度までは、全校生徒が体育館に集合し、生徒会長の挨拶、生徒会からの連絡、そして校歌斉唱という順序で全校朝礼が実施されました。しかし、新型コロナウイルスウイルス対策を踏まえ、今年度最初の全校朝礼は校内放送で行われ、全校生徒は各教室で聴きました。

 生徒会長の田中さん(電子機械科3年)の全校生徒へのメッセージは、私たちの心に深く届きました。「賑やかになりつつある御船高校に喜びを感じます。」と田中さんは切り出した後、高校総体、高校総文祭、夏の甲子園大会など部活動の集大成の場がなくなったことへのやり場のない憤りや悔しい気持ちを語ります。田中さん自身、1年次から目標としてきたモノづくりコンテスト及び技能検定試験が中止になったことで目標を失い、喪失感でいっぱいになったと率直に自分の心情を述べました。しかし、田中さんは、自分自身がそれほど悔しい気持ちになったということは、それだけ「努力をしてきたということ」、目標に向かっての「強い意志があったこと」に気づいたと言うのです。

 田中さんは、同級生である3年生に呼びかけます。「今までの努力を捨てるのではなく、これまでの強い意志を次に託しませんか」、「前を向いて、かっこよく前に進みましょう。」と。きっとこの言葉は、3年生を励ましたことと思います。後輩の2年生に対しては、「先輩を追い抜くぐらい頑張ってください。」とエールを送り、これから高校生活が始まる1年生には「新しいことに挑戦」することを望みました。

 最後に、新型コロナウイルスの脅威が収束していない状況に触れ、「自分自身へ問いかけながら、今の行動が正しいのかをよく考え、自分のためみんなのために体調に気をつけて過ごしましょう。」と締めくくりました。簡潔で、気持ちのこもった生徒会長からのメッセージでした。聴いた生徒の皆さん一人ひとりが受け止め、これからの学校生活に活かしてくれるものと期待します。強い意志で前へ進もうという生徒会長のメッセージで一週間が始まったことは御船高校にとって大きな意義があると思います。

 学校再開という希望に支えられ、生徒のみなさんと私たち教職員は長い休校期間を過ごしてきました。漸く学校は再開されました。しかしながら、失ったものは大きく、今後も様々な制約があり、以前のような学校生活は戻ってきません。けれども、前へ進む強い意志があれば、私たちの学校、御船高校の新しい航海の前途は洋々と思っています。

 

全国高等学校ロボット競技大会中止の報に接して

 10月24日(土)~25日(日)に大分市で開催予定だった第28回全国高等学校ロボット競技大会の中止が発表されました。新型コロナウイルス感染防止の観点から、県を超えた人の移動を避けるため中止の判断に至ったようです。「とうとうロボット大会までもか」と暗然とした気持ちになりました。中止決定を知らせてくれた電子機械科の職員も肩を落としていました。

 御船高校は、これまで全国高等学校ロボット競技大会において通算9度の優勝を果たしており、高校ロボット競技の世界では広く知られています。このことは電子機械科の職員と生徒たちの弛(たゆ)みない努力の成果と思います。昨年の第27回全国高等学校ロボット競技大会(新潟県長岡市)では10度目の優勝に挑みましたが、決勝トーナメント1回戦敗退という大変厳しい結果に終わりました。敗退が決まった瞬間、ある生徒は両手で頭を抱えて天を仰ぎ、ある生徒はフロアにしゃがみ込んでいた姿が今も目に焼き付いています。

 昨年の1回戦敗退直後から、御船高校マイコン制御部ロボット班の生徒たちはV奪還を目指し、部活動に取り組んできました。新型コロナウイルス感染拡大に伴う長期の臨時休校期間も、秋の全国大会は実施されると生徒たちは信じていました。5月中旬の登校日に部長の緒方君(3年)に会った時、「自宅でもロボット競技のことばかり考えています」と明るい表情で話してくれました。しかしながら、彼らの活動の集大成の場は失われたのです。全国高校総体、全国高校総合文化祭、夏の甲子園大会をはじめ各種の大会や重要な検定試験等がのきなみ中止となっています。

 「このまま終わらせるのは、あまりにも生徒が可哀そうです。」と今日も電子機械科のある職員が私のところに来て、無念の思いを訴えました。この思いはすべての部活動の顧問、いやすべての高校教職員共通のものでしょう。

 本校では部活動は6月8日(月)から一斉に再開する予定ですが、まだ、新入生は部活動への入部手続きも終わっていません。御船高校電子機械科でロボットを作りたい、操作したいとの熱い志望動機で入学してくれた生徒が今年も幾人もいます。彼らのためにも、2年余り取り組んできた3年生の最後の出番を設けてやることができないか、考えなければなりません。

 学校とは、生徒たちが安心して生活できる居場所と輝く出番がある世界のはずです。本校独自で、または地域の学校のネットワークでもって、3年生の最後の出番を創り出していかなければと強く思います。

 

水の恵みの手洗いやうがい

   「手洗い励行」の標語ポスターが小学校・中学校の手洗い場には必ず掲示されています。学校生活では、事あるごとに手洗いを励行しています。私の小学校時代もそうでした。神社に参拝するとき、手を洗い清める作法が定着しているように私たち日本人には手を洗うことは基本的生活習慣となっています。

   さて、新型コロナウイルス感染対策に伴う「新しい生活様式」では、「こまめに手を洗うこと」が筆頭に挙げられています。ウイルスは手に感染し、手を口に持っていくことから体内に侵入するのが一般的だそうです。従って、先ず手洗いをすることが感染対策の基本となります。たとえ消毒液を使わなくても、30秒ほど水で丁寧に洗うだけで効果は大きいと言われています。

   私たちにとって手洗いやうがいは当たり前の行動で、習慣化しています。しかし、世界にはこれが簡単にできない国、地域が多く存在するのです。国連によると、安全な飲料水サービスを受けられない人が21憶人、不衛生な水の生活環境で暮らす人が45憶人もいるとのことです。21世紀世界の最大の資源問題は水不足だと言われています。20世紀後半からの世界の急激な人口増加に水の供給量が追いついていないのです。水は日々の暮らしだけでなく、農業や工業等でも重要です。水は、健康、環境、経済と多くの社会要因と密接に関わっています。水不足が解決されなければ持続可能な社会は成り立ちません。

   このような世界の水問題事情から考えると、日常、飲料水で手洗いやうがいが存分にできる私たちはなんと恵まれているのでしょうか。この水の恩恵は、わが国の自然環境だけでなく、井戸を掘り、水の涵養林を植え、上水道を整備してきた先人たちのお蔭にほかなりません。近年はシャワーや入浴など日本人の生活上の水の無駄遣いが問題になっています。あらためて、限りある「命の水」に対して、私たちは謙虚な気持ちになりたいと思います。

   新型コロナウイルス感染の脅威は依然続いています。しかし欧米諸国と比較すると、わが国の感染者数はいまだ桁(けた)違いに少ない状況にあります。都市や地域を封鎖するような強硬手段を取ったわけでなく、PCR検査数も少ない日本がどうしてウイルス感染者数を抑制できているのか、欧米のメディアでは不思議だと報道しています。ひょっとしたら、その理由は豊潤な水の恵みによって手洗いやうがいが習慣化した日本人の生活文化かもしれません。

   生徒の皆さん、手をこまめに洗いましょう。これから夏に向かいます。手を洗うことは涼しく気持ちよい行為です。一日に幾度も洗いましょう。

                 分散登校風景

 

「夏のマスク」 ~ 新しい生活様式の始まり

   御船高校では5月25日(月)から分散登校による授業を始めています。生徒の皆さんの様子からは休校前とあまり変わらない印象を受けます。しかし、休校前と現在で、外見上はっきり異なっている点が一つあります。それは全員がマスクを着用していることです。

   例年、季節性インフルエンザ予防のため、冬にマスク姿が増えるのは学校の常です。しかし、今は初夏です。来週から6月です。日中は25度を超える夏日が続き、30度を超える真夏日も珍しくありません。熊本の夏は長く、蒸し暑いのが特徴です。マスクは冬の季語だそうですが、「夏のマスク」が今年のわが国の状況を象徴していると思います。

   三か月に及ぶ長期休校という長いトンネルをようやく私たちは抜け出ることができました。出口の光を目指して行動自粛の生活を耐えてきたのですが、トンネルに入る前と同じ光景はありません。新型コロナウイルスの感染予防の「新しい生活様式」が厚生労働省から公表されました。トンネルを出ても、私たちはすぐには元の生活に戻れないことを自覚する必要があります。

   しかしながら、「新しい生活様式」とは決して難しいものではありません。コロナウイルスは人間に寄生することで存在し、人間を介して伝染していきます。そしてウイルスは肉眼では見えないために、とてもやっかいです。前回の「校長室からの風」で言及したように「想像力」が一層求められるのです。

   見えなくても、そこにウイルスがあると考え、人の密集の場を避け、他者と適切な距離を設けた日常生活を送ることです。そしてマスクの着用です。電子顕微鏡でようやく見ることができるコロナウイルスを、市販のマスクでは防げないという意見があります。けれども、マスクは咳やくしゃみなどの飛沫の拡散を防ぐことに大きな効果があり、最低限のエチケットとしてマスク着用は守らなければならないと思います。蒸し暑いからマスクを外してもいいだろうという自分勝手な行動は許されません。社会の安心というものは、一人ひとりが参加しない限り守れないのです。

   夏の暑さに対応したクールなマスクも市場に現れています。素敵なマスク姿の「マスク美人」も増えてくるかもしれません。マスクと共にこの夏を過ごしましょう。マスクが不要になった日こそ、コロナウイルス終息の時でしょう。

   最後に、進化論を唱えた生物学者のダーウィンの言葉を掲げます。

「強い生物が生き残るのではない。この世に生き残る生物は、変化にいち早く対応できたものである。」

 

               校庭のバラ園と登校してきた生徒(2年生)

「他者への想像力」が感染を防ぐ

   5月25日(月)から御船高校では授業再開となりました。クラスの出席番号で奇数と偶数で生徒を二分し、奇数組が午前3時間授業を受けた後、午後に偶数組が登校し3時間授業を受ける分散型授業です。2週続けて同じ授業を行い、来週は午前と午後の生徒を入れ替えて、2週間で1週間分の授業を受け終える仕組みです。新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言は解除されましたが、密集した集団生活を避けるためと、長期休業の生徒の心身への影響を考慮し、学校生活への慣らし期間と位置付けています。

 再開された学校生活で気持ちが高ぶっているかもしれない生徒の皆さんに対して求めたいことが、「他者への想像力」です。この言葉は、わが国のウイルス感染症研究の第一人者である押谷仁(おしたにひとし)先生が著書で述べられているものです。

   押谷先生は、現在、厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班のリーダーとして陣頭指揮をとられ、感染拡大防止のために不眠不休の努力を続けておられる方です。この押谷先生の著書『パンデミックとたたかう』(作家の瀬名秀明氏との対談形式、岩波新書、2009年11月刊行)が本校図書室にあることを知り、先週読みました。現在のわが国の状況を示しているかのようなタイトルですが、2009年から2010年にかけて世界的流行となった新型インフルエンザ対応に関する押谷先生の見解がまとめられています。およそ10年前の本ですが、今日の事態を予想した警告の書となっています。

   ウイルスは肉眼では見えません。そして、新型インフルエンザも今回の新型コロナウイルスでも若い世代は重症化しない傾向にあります。しかし、だからこそ、「自分だけ感染しなければ良い」、「もし感染しても自分は軽症ですむから心配いらない」のような利己的な考え方はとても危険だと押谷先生は言われます。あなたは感染しても無症状かもしれないが、あなたを介して、妊婦さんや基礎疾患のあるお年寄りにウイルスが広がっていくかもしれないと「感染鎖」の恐怖を強調されます。人は、世界はつながっているのだという「他者への想像力」が重要だと繰り返されるのです。

   2009年の新型インフルエンザは関西の高校では臨時休校の措置がとられましたが、全国的には日常生活が維持でき、私自身も認識が弱かったと思います。しかし、押谷先生はすでにあの時、今日の事態を見据えておられたことになります。新型コロナウイルスの新規感染者は、全国的に大幅に減少し熊本県ではここ2週間発生していませんが、ウイルスは消滅したわけではありません。

  「他者への想像力」を持つことで、自分と他者、そして社会も守りましょう。

                分散登校する生徒たちの様子

新しい目標に向かって ~ 今、大人ができること

 「夏の甲子園」こと全国高校野球選手権大会が中止と決まった翌日、本校では3年生の登校日でした。野球部3年生と顧問職員とでミーティングが開かれました。今後、甲子園大会予選に代わる県大会がもし行われればどうするかという点で、部員の気持ちが分かれたそうです。試合の機会があれば挑戦したいという者と、代替大会には出なくてよいという者に二分されたと聞きました。自然な反応だと思います。約3か月、部活動は停止され練習をしていません。あまりに野球から遠ざかった時間が長くなりました。練習の成果を発揮する最後の機会が失われるという理不尽な事態に直面し、やり場のない悔しさ、憤りがある一方、あきらめ、無力感にとらわれるのも当然と思います。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、「甲子園」だけでなく高校総体や高校総合文化祭など高校生の部活動にとって大きな目標がすべて失われました。「どうして自分たちの時にこんなことになるのか」という不条理なめぐりあわせに多くの高校生が激しく動揺したと思われます。実は、8月に高知県で開催予定だった全国高校総合文化祭に出場が決まっていた生徒が本校にいます。書道部の3年生、写真部の2年生の生徒です。中止が決まって以来、まだ私は彼らに言葉を掛けられずにいます。ありきたりの励ましの言葉では彼らの胸に響かないことがわかっているからです。部活動を通じて信頼関係が築かれているそれぞれの部の顧問教諭が寄り添い、支えてくれています。

 また、工業系の生徒にとって目標の「県ものづくりコンテスト」(例年6月実施)も中止となりました。昨年、旋盤加工部門に2年生で出場し3位入賞した田中さんは、最終学年の今年は優勝を狙っており、九州大会そして全国大会出場を目指していました。彼女の普段の練習場所の電子機械科実習棟の壁には、彼女が作成した「優勝への工程表」が貼られていました。大会中止が決まり、さぞ落胆しているだろう、気落ちしているだろうと心配しました。

 ところが、3年生登校日の午後、実習棟のいつもの旋盤機械の所で作業する田中さんの姿がありました。引き締まった表情で、集中して旋盤機械を動かしています。話を聴くと、電子機械科の先生の勧めで、来月予定の技能検定に挑戦することを決め、その実技試験に向け準備を始めたとのことでした。

 大きな目標が失われ、当初はきっと失意の時を過ごしたと思います。しかし、彼女は絶望しませんでした。職員の励ましと助言を受け、次の目標に向かって動き出したのです。

 新しい目標を生徒と一緒になって考え見つけること、その目標に向かって全力で取り組める環境を用意すること、これが私たち大人のできることだと思います。

 

「夏の甲子園」中止の報に接して

 「夏の甲子園」こと全国高校野球選手権大会が中止と決まりました。「春のセンバツ」、「全国高校総体」、「全国高校総合文化祭」に続き、ついに「夏の甲子園」も中止となりました。厳しい事態が予想されていたとは言え、主催者の正式な中止決定の発表に接し、高校教育関係者の一人として無念の思いに包まれます。そして、甲子園という憧れの舞台を目指し練習に打ち込んできた全国の高校球児をはじめ、情熱を注いで指導されてきた監督やコーチの皆さん、さらには選手たちを応援されてきた保護者や地域住民の方々の気持ちを想像するとまことにつらいものがあります。

 前任の多良木高校野球部のことを思い出します。閉校の定めながら、果敢に挑む多良木高校野球部は、地元の球磨郡はもとより広く県内の高校野球ファンの応援を受け、グラウンドと観客席が一体となって戦う試合は、高校野球の原点のような光景でした。あのエネルギーも、「夏の甲子園」という大きな目標があったからこそ生まれたものだと思います。

 昨日、本校の野球部監督を務める教諭と話をしました。「夏の大会中止が決まったら、まずキャプテン(主将)に何と言おうか、今考えています」と沈んだ声で監督としての胸中を語ってくれました。3月からおよそ三か月間、臨時休校に伴い部活動も停止されており、御船高校野球場は無人の日々が続いています。しかしながら、監督や部長たちは練習再開に向け、登校できない生徒たちに代わってグラウンド整備に取り組んでいました。その姿を目にするたび、球音響く練習が再開され、3年生にとって最後の「夏の大会」だけは開催されてほしいと願っていました。その望みが絶たれたのです。

 5月は新型コロナウイルスの新規感染者が減少し、最近は九州では感染者ゼロの日が続いています。しかし、感染者や亡くなった方の数が連日発表されるという「非日常」の生活が長く続くことで、これが「日常」となり、私たちの感覚が麻痺するのかもしれません。感染者が減少したとは言え、まだ「平穏な日常生活」は戻っていないのです。「夏の甲子園」中止の知らせは、未だ社会が「緊急事態」のただ中にあることを痛感させられました。

 「夏の甲子園」はこれまで米騒動による社会の混乱で1918年(大正7年)、日中戦争及び太平洋戦争の戦時下の1941年(昭和16年)~1945年(昭和20年)の二度の中止、中断があります。そして2020年(令和2年)、新型コロナウイルス感染症拡大による三度目の中止です。

 歴史的な感染症大流行(パンデミック)の渦中に私たちはいるのです。

               無人の御船高校の野球グラウンド風景

宮本武蔵とアメリカ人青年

   御船高校のALT(外国語指導助手)のアメリカ人Matthew(マシュー)先生は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う臨時休校期間、英語教諭と協力して積極的に動画教材の作成と発信に努められています。「Teach Matthew  about  Japan」(日本のことをマシューに教えて)のタイトルで、マシュー先生が気になることを課題として示し、そのことについて生徒が英語で作文して提出するオンラインの遠隔授業です。私は毎回楽しみに視聴しています。

   マシュー先生の課題は「花見」、「鯉のぼり」、「アマビエ」、「宮本武蔵」、「河童(かっぱ)」、「御船町の恐竜化石」と続いています。この中で、「宮本武蔵」という課題が出たことに私は驚きました。そこで、「マシュー先生、あなたはどうして宮本武蔵を知っているのですか?」と尋ねました。すると、この23歳のアメリカ人青年の武蔵への関心は並々ならぬものであることがわかったのです。

   彼はアメリカの大学で日本学の講座を受講し、そこで日本への興味、関心が喚起されました。そして、担当の教授から「語学指導を行う外国青年招致事業」(JETプログラム)のことを紹介され、ALTとして来日したのです。宮本武蔵については、この日本学の担当教授から教えてもらったということです。

   武蔵が兵法の極意をまとめた「五輪の書」(「Book of Five Rings」と英語では言うそうです)についてもよく知っており、五輪が、地・水・火・風・空を意味することも理解していました。さらには、武蔵が「五輪の書」を著した岩洞の霊巌洞(れいがんどう 熊本市西区松尾町)も訪ねていました。熊本は、宮本武蔵(1584年~1645年)が晩年を過ごし、亡くなった地であり、墓も二か所残されています。マシュー先生にとっては日本での初めての勤務場所が宮本武蔵ゆかりの地だったことになります。

   「宮本武蔵は剣豪というだけでなく、芸術家としても名高い」という一文が、マシュー先生の添削した宮本武蔵の説明文にあります。江戸時代初期に武蔵は没しましたが、「五輪書」をはじめとする数々の優れた書画や武具、そして何よりその孤高の道が今日まで伝わっています。現代の宮本武蔵像は、昭和初期の吉川英治の小説「宮本武蔵」に拠るところが大きく、虚実が混同されている面が多いと言われます。しかし、熊本には県立美術館や島田美術館等に武蔵が遺した本物の書画、武具等が伝わり、その精神も受け継がれていると思います。

   宮本武蔵の真価である文武両道をマシュー先生は深く理解しています。

                マシュー先生の動画教材のトップページ

 

キーワードは「ゆっくり」 ~ 動画教材「美術課題チャンネル」の魅力

   生徒の皆さんは、YouTube(グーグルが提供する動画共有サービス)に登録されている動画教材「美術課題ちゃんねる」を視聴しましたか? まだの人は、一度ぜひアクセスしてみてください。芸術コース美術専攻の人たちはすでに美術の先生方から紹介されていますが、芸術科目の美術選択者の人にもお勧めです。この「美術課題ちゃんねる」は、実は御船高校美術科の田畑教諭が中心になって製作し、アップロード(公開)されているものです。すなわち、御船高校発信の動画教材であり、本校だけでなく県内はもとより美術を学ぶ高校生に広く提供し、好評を得て、アクセス数が伸びています。

   動画教材「美術課題ちゃんねる」は、5月15日(金)段階で11本の動画が配信されています。時間は短いもので4~5分、長くても8~9分と手頃です。しかし、その内容は充実しており、美術教諭の熟練の技巧とわかりやすい解説が動画にまとまられています。そして、この動画教材の最も秀でたところは、ユニークな二人のキャラクターが登場し、ユーモラスな対話を通じて視聴者を学習に誘う導入場面でしょう。「ゆっくり霊夢(れいむ)さん」が毎回学ぶことの大切さを話し、「ゆっくり魔理沙(まりさ)さん」が絵への苦手意識や面倒くささを訴えるという問答が冒頭に約1分行われます。対話の最後に二人のキャラクターが「ゆっくりしていってね」と声を掛け、学習の本編が始まるのです。キーワードは「ゆっくり」なのです。

 5月1日に配信が始まって以降、私は欠かさずアクセスしていますが、この中で最もアクセス数の多い「手のデッサン」(9分13秒)には特に引き付けられました。田畑教諭が自らの左手を、右手で鉛筆デッサンしていく過程が2倍速動画で紹介されています。しかも、ポイントでは助言の字幕が流れ、実にわかりやすくデッサン技法が伝えられているのです。自宅にいても生徒の皆さんはこの動画教材を繰り返し視聴し、自分で練習することができます。

 導入部分で「ゆっくり」のリラックスした雰囲気をつくり、本編ではプロの技巧をわかりやすく伝えるという動画教材「美術課題ちゃんねる」は、「面白くてためになる」という理想の授業をオンラインで創りあげています。

 動画教材は、生徒の皆さんのペースで学習できます。わからないところでは動画を止める、繰り返すことで理解を深めるなど自由な学習ができます。御船高校のホームページに登録されている動画教材は70本を超えました。また、YouTube上には高校生向けの数多くの教育動画が次々と現れています。

   学ぶ意欲さえあれば、インターネット世界に教材は無限にあると思います。

 

                                            「美術課題ちゃんねる」のトップページ

デジタル世代に追いつくチャンス ~ オンライン学習支援に取り組んで

    御船高校のホームページにはすでに50本を超える動画教材が用意されています。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、臨時休校が長期化する中、4月中旬から職員が本格的に取り組み、ほぼ一か月で驚くほど増えました。時間は短いもので数分間、長いものでも20分ほどで、内容は、職員自ら出演して授業を行うタイプから、音声と文字で伝えるものなど多様です。しかし、いずれも職員の手作り感があり、在宅の生徒の皆さんに対して、勉強を教えたいという教育的愛情が込められています。

 動画教材を受け身で視聴するだけでなく、生徒の皆さんと教職員は双方向につながっています。例えば、英作文の動画教材では、生徒の皆さんから英作文の回答例をメール機能で送ることができ、それに対し教職員から添削も可能となっています。また、従来の問題集やプリント等の紙媒体による学習課題と併せて動画教材を活用することで学習は発展していきます。

 もちろん課題はあります。生徒の皆さんのオンライン端末機器はそれぞれ異なっており、スマートホンのような小さな画面では見づらいとの声があります。また、各県立学校で一斉にインターネットを利用してのオンライン学習支援を始めたため、県のサーバー(コンピュータのネットワーク管理機能)の容量の関係で、学校のホームページにアクセスできにくい状況も出ています。大手予備校が行っているようなライブ授業配信にはほど遠い段階です。

 しかし、学校に来たくても来れない生徒の皆さんと学校との距離感を埋めるには、やはりこのようなインターネット回線を生かしたICT(Information Communication Technology 情報通信技術)が不可欠です。教育のICT化は喫緊の課題と近年言われてきました。御船高校でも授業のICT化をテーマに昨年度は授業改善に取り組みました。新型コロナウイルス感染症蔓延の非常事態を迎え、改めて私たち教職員は教育のICT化の必要性と可能性を痛感しました。行動自粛の生活が続いても、ICTで人はつながり、孤立はしません。自宅で生活していても、世界中の情報がリアルタイムで届きます。ICTは、今や人々を結びつけ、連帯させる大切な生活必需道具とも言えるでしょう。

 生徒の皆さんは生まれた時から、インターネット環境に囲まれた生活をしてきた、いわゆるデジタル世代です。私をはじめ教職員の多くはアナログ世代です。私自身も今回初めてテレビ会議システムを活用し会議に参加する経験をしました。動画教材を初めて作成した教職員も多くいます。

    このたびの非常事態によって、ようやく私たち大人がデジタル世代の生徒の皆さんに追いついてきたと言えるかもしれません。

 

未来を待とう ~ 新緑の中の登校日

   風薫る五月。御船高校前庭の「天神の森」は新緑がまぶしいほど輝いています。

 「外出自粛」の異例の大型連休が明け、5月7日(木)の午後に1年生、8日(金)の午前に2年生、午後に3年生の分散登校を実施しました。半月ぶりの登校日です。欠席はほとんどなく、どの生徒も笑顔でした。その様子から学校再開を待ち続けていることが伝わってきました。私たち教職員も思いは同じです。教室や昇降口、前庭等を多くの職員が自発的に掃除し、整えて、生徒の登校を待ちました。

   無事に登校日を終え、生徒の皆さんが一人ひとり健康の保持に留意していることを知りました。そして改めて、休校が長期化していることに対し、申し訳のない気持ちになりました。行動が制限され自宅中心の生活を通じて、生徒の皆さんはどんなことを考えているのだろうと案じます。誰もが経験したことのない未知のウイルス感染症によるパンデミック(世界的大流行)で、わが国だけでなく世界中の状況が一変しました。肉眼では見えない微小なウイルス感染で瞬く間に日常の光景が一変し、非常事態に陥った未曽有の体験によって、生徒の皆さんの世界観は変わったのではないでしょうか?

   古来、自然災害や戦(いくさ)、飢饉などに襲われ、先人たちの人生観や価値観は大きく揺らぎ、変化してきました。そのことを生徒の皆さんは歴史や古典の授業で学んできたと思います。そのような大事変に今、現代の私たちが遭遇していることになるのです。

   不自由な生活を強いられ、若い皆さんにとっては我慢の限界かもしれません。高校総体や高校総合文化祭も中止となり、失意に覆われているかもしれません。しかし、毎日を健康に生きることこそ、今、切実に求められていることです。「今を生きる」ことが「未来」につながります。あなたは、あなたの「未来」を見たくありませんか? 長いトンネルの先に出口が見えてきたようです。その出口の光の先に一人ひとりの未来が広がっています。

   今回の登校日で、各教科から新たな学習課題が大量に出されたことに生徒たちが驚いていたとの担任の話を聞き、微笑ましい気持ちになりました。御船高校のホームページにはすでに30本以上の教材動画も載せられています。オンライン学習を通じて生徒の皆さんを学校は支えます。職員手作りのウェブ教材には教育的愛情がこめられています。インターネットを介して学校と生徒の皆さんはつながっています。先人たちが持っていなかった情報通信技術(ICT)で孤独感を防ぎ、連帯して、学校再開を待ちましょう。

   希望をもって待つことが、未来を生み出します。

             新緑萌える「天神の森」(御船高校)

世界史と感染症 ~ 歴史から学ぶこと

 「流行性感冒(りゅうこうせいかんぼう)」という言葉を生徒の皆さんは聞いたことがありますか? 最近はほとんど耳にしなくなりましたが、昭和の前期頃までに書かれた小説ではよく目にします。流行性感冒とは「インフルエンザ」のことを指す言葉です。

 新型コロナウイルス感染拡大で非常事態が続くわが国において、かつてパンデミック(世界的大流行)となった「スペイン風邪」のことがよく顧みられるようになりました。「スペイン風邪」と呼ばれますが、「風邪」ではなく、その正体は感染力の強い「インフルエンザ」(流行性感冒)でした。およそ100年前、この強力なインフルエンザウイルスは第一次世界大戦(1914~1918)の戦場のヨーロッパで、軍隊の移動に伴い兵士を介して感染が拡大し、世界に蔓延しました。ウイルスは日本にも飛び火しました。熊本県でも大正7年(1918年)10月から11月に感染拡大が見られ、「近頃流行の感冒は、学校、軍隊等に特に猛威を振るっている」(『新聞に見る 世相くまもと 明治・大正編』)との新聞記事を見出すことができます。小、中学校の多くが休校になったこともわかっています。

 「スペイン風邪」では、全世界で4000万人の犠牲者が出たと推定されています(WHOによる)。また、わが国でも38万人が亡くなったとの記録が残ります(内務省統計)。有効な抗生物質もワクチンもなかったことに加え、第一次世界大戦中のため各国が情報統制を敷き、対応が遅れたことで驚くべき多大な犠牲が生じたことになります。人類は一世紀前にウイルス感染の脅威を経験していたのです。

 「スペイン風邪」の時代に比べれば、医療や公衆衛生は比較にならないほど進歩しました。情報社会の今日、リアルタイムで世界各地の感染状況が報道され、豊富なデータが瞬時に集まります。しかし一方、急速な交通手段の発達やグローバル経済の進展によって、ウイルス感染の拡大のスピードも速まっています。

 世界史を振り返ると、人類の大移動や広範な交流によって幾度も感染症のパンデミックが起こったことがわかります。13~14世紀、モンゴル帝国がユーラシア大陸の大半を統合したことで、ペスト(黒死病)が大流行しました。15~17世紀の大航海時代、天然痘やコレラが世界中に蔓延しました。これらの苦難の歴史と、今回の新型コロナウイルス感染拡大はつながっていると思います。

 「不都合な事実」を私たちは見たくない傾向にありますが、人類にとって運命的なウイルスとの共存という事実を直視しなければなりません。歴史から謙虚に学ぶ必要があります。そして、これまで人類は滅亡せず、克服してきた歴史を拠り所として、現在の非常事態に我慢強く対処していきましょう。

 

県高校総体中止の報に接して

  「第48回熊本県高校総合体育大会(県高校総体)」の中止が決まりました。とうとうここまで来たかという思いです。今月23日(土)から先行競技が始まり、29日(金)の総合開会式(熊本市総合運動公園)を経て6月3日(水)まで続く予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の終息が見通せず、選手及び関係者の安全が確保できないことから主催者は苦渋の決断を下したようです。先に全国高校総体(インターハイ)の中止が決まっており、覚悟はしていましたが、改めて正式に中止が決まると重苦しい気持ちになります。

    高校入学以来2年余り部活動に取り組み、練習を重ねてきた3年生にとって、大きな目標が消え去ったことになります。生徒の中には中学校、いや小学校から一途に競技に熱中してきた者も少なくありません。その集大成の場が失われたのです。県高校総体中止の報に接し、生徒達、そして指導者の落胆、失意はいかばかりかと思います。それぞれの競技に青春をかけてきた生徒は、目指してきたゴールがなくなり、放心状態になっても不思議ではないでしょう。

   4年前の熊本地震の時のことを思い出します。あの時は会場の県立劇場に大きな被害が出たため県高校総合文化祭は中止となりました。しかし、県高校総体は、被害が甚大な熊本市や上益城、阿蘇地域を避け、県内各地で分散して各競技が開催されました。若人の躍動する姿は、県民の皆さんへの励ましとなり、スポーツの力を実感したものでした。「熊本地震の時でさえ県高校総体は行われたのだから」という思いが私たち高校関係者にはあったと思います。しかし、今の私たちが直面している事態は経験したことがない未曽有の感染症パンデミック(世界的流行)なのです。

 生活全般の自粛が続き、最もエネルギーある世代の高校生の皆さんが思うように行動できない苦しさは大人の私たちが想像する以上でしょう。これからの人生が遥かに長い、その一時期の忍耐だと言っても、生徒の皆さんにはあまり響かないでしょう。今の現実の重さの方が、見えない将来より勝っているからです。見えないことを考えることは難しいものです。

 高校総合文化祭、高校総体と次々に重要な教育行事が中止となり、私たちも無力感を覚える日々です。しかし、この瞬間も感染症拡大防止の最前線で働いておられる医療従事者や保健所職員の方達がおられます。ある感染症内科医の言葉を生徒の皆さんと共有したいと思います。

  「勇気とは、恐怖におののきながら、それでも歯を食いしばってリスクと対峙(たいじ)する態度だ」。

 感染リスクの恐怖と闘いながら、己の使命を果たそうと不眠不休で医療に当たっておられる人がいることを私たちは忘れてはいけないと思います。

 

県高校総合文化祭のポスター

  「第32回 熊本県高等学校総合文化祭」のポスターが校長室のホワイトボードに貼られています。縦70cm、横50cmのサイズで、標語「文化の塩基配列に終止コドンはない」の黒い文字と共に、カラフルなデザイン画が描かれています。書や絵の筆を握る手、ピアノの鍵盤を弾く手がクローズアップされる一方、百人一首の絵札や将棋の駒、さらには標語と関連した生物学の塩基配列A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の記号も描かれ、混然とした文化のカオス(多様性)が表現されています。このデザイン画の作者は御船高校3年芸術コース美術専攻の宮守さんです。

 県高校総合文化祭のポスターデザイン画に選ばれることは至難の業です。宮守さんはスマートホンのアプリを活用し、スマホの画面で下絵を作成して創り上げ、多数の応募者の中から選ばれたのでした。高校をはじめ県内の公共施設等にポスターが掲示され、県高校総合文化祭が周知されることで、宮守さんにとっては自分の作品が多くの人の眼に触れる喜びは大きかったと思います。

 しかし、5月28日(木)から30日(土)に熊本県立劇場をメイン会場に予定されていた「第32回 熊本県高等学校総合文化祭」は新型コロナウイルス感染症拡大予防のため、先週、中止が決まりました。年に一度の高校生の文化の祭典がなくなることは深刻な影響を与えます。日頃、地道に文化活動に取り組んできた生徒たちの発表の場が失われ、目標が消えてしまったのです。本校からも書道、美術、音楽、写真、茶道、華道などの文化部が参加する予定でした。特に3年生にとっては高校生活の区切りの舞台だったはずです。その思いを想像すると胸が痛みます。

   公共施設に貼られたポスターの撤去が始まりました。本来なら、5月29日(金)午後の総合開会式(県立劇場)において、デザイン画を描いた宮守さんは千人を超える観衆の前で表彰を受ける予定でしたが、幻の県高校総合文化祭となってしまったのです。しかし、御船高校ではこのポスターを教室はじめ各所に当面の間そのまま掲示しておこうと考えています。

    新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、学校教育の場においても不条理なことが次々と起こっています。全国高校総体(インターハイ)が中止という衝撃的なニュースが今週届きました。県高校総体の開催も危うくなりました。

    大人になってからの一年と、高校生、特に3年生の一年はその意味合いが異なると思います。大人になるためのかけがえのない階段が失われると言ったら大袈裟でしょうか?

 県総文祭は幻に終わっても、宮守さんはじめ文化活動に取り組んできた生徒の皆さんの努力は消えません。その活動の軌跡こそが皆さんの青春なのです。

 

いま、できること ~ 「待つ日々」の中で

 

    今日は金曜日、また週末を迎えます。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、一層の外出自粛が求められることになります。2月末から始まった異例の臨時休校は断続的に2か月に及んでいます。冬から葉桜の季節となりました。5月6日(水)までの緊急事態宣言期間の延長が検討されている旨、報道されています。学校再開の目途は未だ立たない状況です。

    私たちは今、長い「待つ日々」を過ごしています。あと何日という区切りがない「待つ時間」はとても長く感じられます。残りの時間がどれくらい減っているのか、終わりが近づいているのか誰にもわからず、ひたすら待つ日々です。携帯電話(スマートホン)やインターネットの普及によって、現代は「待たなくてよい」社会になったと言われます。情報やモノがあふれ、それらに簡単にアクセスできる環境に慣れ、「待つことができなくなった」社会と言えるかもしれません。そのような現代社会の住人の私たちにとって、現在の「待つ日々」は長く重く感じられます。

   しかし、外出が抑制されても、私たちの精神は自由のはずです。考えたり、想像したりできます。この瞬間も感染症治療の最前線にある医療従事者のことを思うと、心から敬意の念がわきあがってきます。ワクチンや治療薬の開発が進んでいることに人類の英知を思います。それでは、学校教育に携わる私たちには何ができるのか。自問自答の毎日ですが、できることを一つ一つ積み重ねていくしかないと言い聞かせています。

   校内の掃除用具を点検して回っている先生がいます。グラウンドの整備に取り組む先生がいます。実習棟の工作機械の点検に余念のない先生がいます。そして、多くの教職員が生徒の皆さんの学習支援のために教材を準備し、そのうち一部は学校ホームページ上に掲載されています。

    生徒の皆さんも、長期化する自宅での生活に精神的疲労、ストレスがたまっていることでしょう。けれども、皆さんの精神活動は活発であってほしいのです。教材に取り組む、様々なメディアのニュースで社会とつながる、読書やネット情報から将来の進路を考えるなど思考力を伸ばすことはできます。お互い、一日一日を丁寧に暮らしていきましょう。小さなことでも、今できることを積み重ねていく。きっとその先にあなたの未来はあります。待つことは希望に支えられます。

    校内を回り、生徒の皆さんと対話することが私の楽しみでした。その楽しみを奪われた今、校内を歩くと、これまで気に留めなかった花々に気付き、足をとめるようになりました。静かな学校での「待つ日々」ですが、毎日、小さな発見や喜びがあります。

 

テレワークとテレラーニング ~ 臨時休校の日々

   4月17日(金)は1年生の登校日でした。例年なら体育館で上級生が様々なパフォーマンスを演じる部活動紹介ですが、今年は各部が動画や画像を作り、この日に各教室のスクリーンを使って行われました。そして、今週、21日(火)が2年生、翌22日(水)が3年生の登校日でした。学校の主役の生徒たちが登校し、談笑する声が響き合い、校内は活気づきます。しかし、再び23日(木)から生徒のいない学校に戻るのです。

 学年別登校を無事に実施できた御船高校では、23日(木)から職員の在宅勤務(テレワーク)を本格的に行います。本校の常勤職員69人の内、8割が在宅勤務に入る予定です。一方、管理職と事務部は全員、進路室や奨学金係は交代で出勤します。生徒及び保護者の皆さんからの連絡に即時に対応できるシフトを整えていますのでご安心ください。個別には「船高安心メール」、全体では御船高校ホームページで随時、大切なお知らせを発信し続けます。

 また、生徒の皆さんのテレラーニング(遠隔学習)の充実に努めます。登校日でそれぞれの学習課題を提示したことに加え、インターネットを利用したウェブ教材の手作りが進んでいます。1年生芸術コース書道専攻の生徒向けに、書道の古閑教諭自ら臨書する動画、さらには、ALT(外国語指導助手)のマシュー先生出演の自己紹介(English Self-Introduction)及びリスニングテストの動画などユニークな教材が本校ホームページに載っています。これまで全日制高校ではこのようなコンピュータを活用した遠隔授業の取り組みは行われていませんでした。しかし、未曽有の事態に対し、生徒の学習支援を第一に考え、私たちは柔軟に変わる必要があります。お互いの信頼関係を基礎に、インターネットを通じての遠隔教育の可能性も広がっていくものと思います。

 今、生徒の皆さんは時間が豊穣にあります。前にも言及しましたが、読書は違う世界にあなたを連れて行ってくれます。自宅中心の生活の中でも新しい発見や知的興奮と出会えると思います。長い「待つ時間」を、自ら主体的に学びに挑戦する機会に変化させてほしいと期待します。私たちの手作りウェブ教材がその一助になればと願っています。 

* テレ(tele)は英語の接頭辞で「遠い」という意味です。従って、Telephone(電話)は音を遠くに届けるもの、Television(テレビ)は映像を遠くに届けるものです。Telework(テレワーク)も英語ですが、実際にはあまり使われず、在宅勤務は「work from home」と表現するのが一般的だそうです。

登校する3年生

 

学校再開を待つ日々

    昨日4月14日(火)から御船高校は再び臨時休校期間に入りました。4月8日に再開したのですが、熊本市を中心に新型コロナウイルス感染拡大に歯止めがかからず、すべての県立高校が臨時休校となりました。またもや生徒の影が消え、学校は活気を失い、静まりかえっています。

 新年度がスタートして一週間足らずで休校となり、生徒及び保護者の皆さんに混乱を与え、申し訳なく思います。生徒達からすると出端(ではな)をくじかれた感じになったと思います。自らの進路実現に向かって資格試験や最後の部活動に賭けていた3年生、進級し学校生活の中核として張り切っていた2年生、そして高校生活への期待と希望で胸を膨らませていた1年生、いずれも当面の目標を見失ったことになるでしょう。その影響の大きさが心配です。

 生徒の皆さんは、休校期間は学校の時間割に拠らず、自らスケジュールを立て生活する自己管理が求められます。皆さんの自律の力が試される期間です。また、学校から出された学習課題だけでなく、今はインターネット上に無数の学習資源があり、学び直しに適した動画教材も見つけられます。自ら興味、関心を持ち、ネット検索で自分の学習スタイルを確立してほしいと期待します。私たち教職員は学校再開を待ちながら、準備に努める日々です。何か不安や心配事があれば、遠慮なく学校へ相談してください。

 昨日4月14日は、熊本地震発生から4年に当たり、犠牲者追悼行事が県庁で開かれました。本来なら、本校の生徒会役員の生徒たちも式典に出席する予定でしたが、新型コロナウイルス感染対策で規模が縮小され出席は叶いませんでした。御船高校がある上益城郡は熊本地震で甚大な被害を受けました。4年前のあの時、私は前任の球磨郡でたが、御船高校で震災を体験した教職員がいまだ数多く在職し、その時の経験を語り伝えています。「熊本地震を経験し、上益城郡の児童、生徒たちは防災やボランティアの意識が高まった」という声をよく聞きます。苦難から獲得したものこそ大きいと思います。

 熊本地震から4年が経過した今、ウイルス感染症という見えない未曽有の脅威に私たちはさらされています。自然災害とは別種の困難な生活を強いられる日々です。しかし、私たちには熊本地震で強まった県民の絆があります。生徒の皆さん、共に学校再開の日まで希望を持って待ちましょう。「日常の学校生活」を取り戻せる日まで、元気を蓄え、待ちましょう。

 

 

週末は自宅で本を読もう!

   今日は金曜日、週末を迎えます。例年であれば、陽春の季節で、生徒の皆さんは部活動に汗を流したり、友達と出かけたりと行動的になるところですが、今年は違います。「不要不急の外出を控える」ことが社会的に求められています。新型コロナウイルス感染症が、燎原の火の如く広がり、わが国は緊急事態に陥っています。本校は4月8日から学校再開となりましたが、この週末までは部活動を自粛し、生徒たちにも外出を控えるよう呼びかけました。

 今、「Stay  at  Home!」(自宅で過ごそう)が世界中の共通語です。久しぶりに登校した2、3年生から話を聞くと、長期間を自宅中心で過ごし、「退屈です」、「オンラインゲームも飽きました」等の声が返ってきました。そのような生徒の皆さんに対し、読書を強く勧めます。

 「船高生の皆さん、週末は自宅で本を読もう!」。

 古(いにしえ)より、人々は紙の本に親しんできました。この伝統の力は強く、新しいメディア(媒体、手段)が次々に生まれてきても、人々に支持されてきた不易の営みなのです。テレビやネット動画の世界に比べ、本は文字中心の地味な世界に映りますが、より主体的な想像力が喚起されることになり、デジタル世代の皆さんにとって、紙の本の世界はかえって新鮮だと思います。オンラインゲームやネットの動画よりシンプルではありますが、読書する人だけがたどり着ける世界があるように私は思います。

 公立の図書館は閉鎖されていますが、御船高校の図書室は開館しています。本校の図書司書の先生に言わせれば、「最初はライトノベル(軽めの娯楽小説)から入ってOKです」とのことでした。本校の図書室は管理棟3階にあり、ちょっと不便な場所ですが、窓外の見晴らしは良く、静かです。生徒の皆さんが気軽に利用できる雰囲気です。昨年度、生徒の皆さんへの貸出数が微増し、私は喜んでいます。新型コロナウイルス感染拡大の渦中の今こそ、多くの生徒の皆さんにもっと読書の楽しさを体験してほしいと望みます。

 先日、図書室で様々な本を拾い読みしていた時、次の言葉に出会いました。

 「読書の習慣を身に付けるということは、人生のほとんどすべての苦しみから逃れる避難所を自分のためにつくるということだ。」(W・サマセット・モーム)

 自宅にいても、読書は、あなたをいろいろなところへ連れて行ってくれるでしょう。戸外は感染症のリスクがあります。自宅で読書することはまさに心の良薬になると思います。

 

 

保護者のみなさまへ

   令和2年度、御船高校は4月8日(水)から始動しました。午前に新3年生と新2年生の始業式、午後に入学式を行いました。今年度、183人の新入生を迎え、全校生徒が525人です。そして、教職員が77人(非常勤8人含む)となります。全職員で生徒一人ひとりを支え、可能性を引き出す教育に努め、「自立と共生」の力を生徒たちに養っていく所存です。保護者のみなさまと学校は車の両輪のような関係にあると考えます。生徒の心身の成長という大きな目標に向かって同じ方向に連帯して進んで行きたいと思います。今年度も、保護者のみなさまには本校の教育活動に対して、ご理解とご協力のほどを宜しくお願いいたします。

   さて、現在、新型コロナウイルス感染症の拡大が続いており、私たちの社会は未曽有の非常時にあります。本県でも熊本市を中心に感染者が出ており、同市の小、中、高校、支援学校及び同市にある県立学校は臨時休校状態です。県教育委員会から、熊本市外の県立高校の学校再開の方針が4月6日に示されたため、本校も昨日から学校再開となりました。

    本校では、できる限りの感染予防対策に取り組んでおります。感染予防に不可欠な「密閉・密集・密接」の「三つの密」を回避するため、全校集会や学年集会は実施せず、教室での40分の短縮授業を行います。また、当面の間、学校の始業を1時間遅らせて9時30分開始とします。これで、路線バスで通学する生徒が車内で密集状態にならないよう余裕をもって登校できます。部活動についても、今週末まで自粛し、来週から徐々に短時間の活動を始める予定です。学校の時間割に基づいた計画的な学習、クラスメイトとの活動、そして軽めな運動等は高校生の免疫力を高めるに有効だと考えます。

    しかし、学校がどんなに努力や工夫を重ねたとしても、一般の光学顕微鏡でも見えない微小なウイルスの感染を完全に防ぐことはできないでしょう。保護者のみなさまのご心配は十分に想像できます。高齢者や基礎疾患をお持ちの方がいらっしゃるご家庭、または医療や介護に従事されている保護者などにおかれては、子どもさんを学校に通わせることに不安とためらいを覚えられて当然と思います。どうか、遠慮なく学校にご相談ください。文部科学省や県教育委員会から通知が来ており、学校は非常時にあっては特別な配慮と対応をすることになっています。

    学校は安全、安心な場所でなければなりません。このような厳しい状況だからこそ、保護者のみなさまと学校が強く連帯していきたいと願っています。

 

特別な一日、4月8日 ~ 始業式、入学式

   4月8日という日は熊本県の県立高校にとっては特別の日です。新年度の最初の登校日であり、新3年生、新2年生にとってクラス及び新しい担任等の発表が行われます。そして、午後は入学式です。学校が最も躍動する一日と言っていいでしょう。しかし、今年は例年と状況が一変した中で4月8日を迎えました。 

 新型コロナウイルス感染症が熊本市を中心に広まり、同市にある県立高校は4月19日まで臨時休校が決まったのです。そして、本校を含む熊本市外の県立高校は感染予防に最大限努めての学校再開の方針が県教育委員会から4月6日に出されました。

 3月末から学校を取り巻く環境は日に日に厳しくなり、「入学式はできるのだろうか?」という不安が私たち教職員に渦巻いていました。しかし、内容を徹底的に簡素化して時間を短縮し、会場の換気や席の間合いに留意し、入学生と保護者、そして教職員が参加する形式で準備をしてきました。

 今日、4月8日(水)は桜花が青空に生える春爛漫の日和となり、進級した2,3年生が朝から笑顔で登校してきました。春休み中も部活動は自粛でしたから、久しぶりに学校が活気づきました。ウイルス感染を防ぐためには、密閉・密集・密接の「三つの密」を避けることが重要と言われています。本来なら、生徒たちの表情を見ながら新年度の思いを語りたかったのですが、生徒たちは各教室で待機し、放送を通じて1学期始業式を行いました。その後の担任、副担任発表では各教室で歓声が起こっていました。

 そして、いよいよ午後の入学式です。会場の体育館は、職員が手分けして全ての席を除菌具で清潔にし、二階の窓を全開し風を入れて整えました。「熊本県立御船高等学校第74回入学式」を午後2時から挙行しました。普通科(芸術コース含む)106人、電子機械科77人の計183人の入学を許可し、校長式辞を読みました。全体で約20分。国歌斉唱、来賓のご挨拶、新入生代表挨拶等を省略した、誠に簡素な式となりました。

 初々しさと緊張が入り混じった表情の新入生を見ていると、愛おしさを感じます。この新入生たちは、新型コロナウイルス感染症拡大の渦中に巻き込まれ、不安の中で高校入試を受け、合格発表も県教育委員会のインターネットで行われ、合格者説明会も十分にできませんでした。ようやく今日、入学式を行われ、晴れて高校生となったのです。

 新型コロナウイルス感染拡大がいつまで続くのか、誰にもわかりません。私たちは長いトンネルに入っているようなものです。けれども、きっと出口が見えてくるでしょう。新入生の皆さん、一緒に出口を目指して進みましょう。皆さんはもう不安な受験生ではありません。「天神の森の学び舎」の一員になったのです。

 

満開の桜で迎える ~ 新年度の始動

 令和2年4月1日(水)、新年度が動き出しました。例年思うことですが、3月31日と4月1日では、学校の空気がまるで違います。1日でがらりと雰囲気が変わるのは、やはり、人が変わるからでしよう。先ず、新規採用、転入の新しい同僚たちの存在です。そして、留任した職員にとっても、新しい同僚との出会いに触発され、新鮮な気持ちとなります。

 今年度、御船高校は19人の転入職員を迎えました。その中に、今年度の県立高校新規採用の緒方教諭がいます。緒方教諭は、御船高校芸術コース書道専攻の出身で、本校で講師経験を重ね実力を養い、採用枠1人の高校書道教員の狭き門を通り、晴れて新規採用されたのです。しかも、初任が母校となり、二重の喜びとなりました。

 本来なら、初任教諭は4月1日に県庁で辞令交付式が実施されるのですが、新型コロナウイルス感染症対策のため式は中止され、赴任先の学校で校長が辞令交付を行うことになりました。併せて古閑教育長の式辞を代読しました。

 教育長からの初任者へのメッセージの中で二つの期待が述べられていました。1つ目は、「常に謙虚さを持ってほしい」ということ、2つ目は、「皿を割ることを恐れずに何事にも前向きにチャレンジしてほしい」ということです。「謙虚さ」と「チャレンジ」、この二つの言葉は、初任者に限らず、新年度の仕事初めに当たり、すべての教職員が胸に刻みたいものだと思います。

 新型コロナウイルス感染症の拡大で、世界は混乱の渦中にあります。春休み中ですが、部活動は自粛中で、学校に生徒の影はありません。この異常な事態の中にあっても、自然の循環は変わらず、春となり、御船高校の桜は満開です。生徒たちの代わりに、こぼれんばかりの満開の桜が転入職員の皆さんを迎えました。天神の森の学び舎へようこそいらっしゃいました。

 この未曽有の事態がいつまで続くのか。どこまで広がるのか。今は誰にもわかりません。私たちにできることは、学校教育再開に備えて準備すること、そして希望を持つことだと思います。

人類とウイルス感染症の闘いと共存は古代以来続いています。ペスト、インフルエンザ、天然痘から近年ではSARS、MERSのコロナウイスがあります。その度、多くの犠牲を払いながら、ワクチン、治療薬の開発等で克服してきました。人類の英知を信じ、私達一人ひとりは地道に自分の健康管理に努めるしかないと思います。

 4月8日、簡素な形でよいですから、入学式を行いたいと願っています。

      御船高校の満開の桜 しかし、学校に生徒の影はありません。

桜と共に見送る ~ 転退任式

   春は別れの季節です。令和2年度の人事異動に伴い、御船高校では3月27日(金)午前に転退任式を会議室で実施しました。例年であれば、体育館に生徒を集めて大々的に行うところですが、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、職員のみの内輪の式となりました。

 このたびの人事異動により、木村事務長をはじめ18人の教職員の方が転勤、または退職となります。長い人では12年、短い人は5か月余りと勤務期間の長短はありますが、皆さんかけがえのない同僚であり、それぞれの責務を全うし学校を支えていただきました。一人ひとりに挨拶をいただきましたが、感極まり涙声となる方もおられました。皆さんの御船高校への深い思いが伝わってくる大切な時間となりました。できることなら、生徒たちに直接聴いてほしい最後のメッセージでした。新型コロナウイルス感染症は、学校を長期の臨時休校にしただけでなく、生徒たちから多くの学びの機会を奪っていると思います。やりばのない憤りを感じます。

 春は出会いの季節でもあります。転退任の皆さんたちはこれから新しい多くの出会いが待っていることでしょう。扉を押し、新しい舞台に進んでください。そして、留任の私達にも新しい同僚や新入生との出会いがあります。

 人事異動は私たち県立学校に勤める者にとって定めです。この時期は惜別の思いに包まれ、学校は感傷的な雰囲気となります。しかし、人事異動によって、県内広く人的なネットワークが形成されます。そして、転出者も留任者もお互い、初心に戻るかのような謙虚な気持ちになり、4月1日からの新年度に臨むことができるのです。経験を重ねてきたベテランの職員であっても、新しい職場に赴くことは不安です。人間関係を一から築き始めることになります。けれども、人事異動によって県内の学校に新しい風が流れるという大きな効果が生まれることを私達教職員は知っています。

 御船高校正門脇にソメイヨシノが一本立っています。少し遅れていましたが、今6分咲き頃でしょうか。学校周囲の道路には街路樹として「陽光」という品種の桜が満開です。週末、御船町の城山公園(旧御船城)を訪ねてみました。町の中心を一望できる高台には桜が咲き誇っていました。

 この時期になると有名な漢詩の一節を決まって思い出します。

  「年年歳歳花相似 歳歳年年人不同」

 (ねんねんさいさいはなあいにたり さいさいねんねんひとおなじからず)

 花は毎年変わらずに咲きますが、それを観る人は移り変わります。

                   城山公園(旧御船城)の桜

 

放送による式辞 ~ 令和元年度修了式(3月24日)

 2月29日(土)に、この放送で新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため臨時休校に入ることを皆さんに伝えました。その後、わが国での感染者の拡大は止まらず休校期間を延長し、ようやく今日全員の登校となりました。そして、今日は3学期の終業式であると共に今年度、令和元年度の修了式です。

 臨時休校の期間、皆さんのいない学校はがらんとして、校舎内を歩いても冷え冷えとした空気で寂しいものでした。廊下がとても長く感じました。教職員だけがいても学校は成立しません。生徒の皆さんがいてこその学校なのだと改めて思いました。今朝、皆さんが登校してくると、まるで学校に血が通い始め、蘇ったような感覚に包まれました。校舎もグラウンドも、天神の森も皆さんの登校を喜んでいるように思えます。

 さて、新型コロナウイルス感染症拡大の非常事態は依然続いています。菜の花の鮮やかな黄色がまぶしく、桜も咲き始め、春の風景は例年と変わらないように見えるのですが、肉眼では見えない、未知のウイルスの脅威で、世界中が混乱しています。中国の内陸部から始まったウイルス感染はこの三か月で世界中に蔓延しました。国や地域を超えて巨大な市場が形成されているグローバル社会において、人の移動と共にウイルスが世界中にまたたくまに広がるのです。一時的に、人の往来を制限しても、もはや、私たちは江戸時代のような鎖国はできません。いったんウイルス感染症が流行すれば、それを封じ込めることがいかに難しいことか今回痛感しました。

 しかし、こういう時こそ冷静になりましょう。熊本県では現在7人の感染が判明しています。けれども熊本県の県民人口は175万人ですから、感染率は0.000004%です。交通事故に遭う確率の方が遥かに高いのです。東京、大阪のような大都会であれば、満員電車など不特定多数の人々と接触する機会が多いですが、熊本県で生活している限り、大規模な行事や大型商業施設に進んで行かない限り、リスクは高くありません。

 また、わが国の医療や公衆保健の体制は整っています。そして、こまめな手洗い、うがい、部屋の換気、日々の入浴、着替えなど身を清潔に保つこと、バランス良い食事、十分な睡眠など自ら免疫力を高めることが何よりの感染症予防だとわかっています。一人ひとりができることです。自分自身の健康を守るため、一日いちにちの日常生活を大切にしていきましょう。

 ところで、春は別れと出会いの季節です。この年度末の人事異動で本校を離れていかれる先生方がおられます。人事異動は私たち県立学校に勤める職員にとっては定めです。今年度は新型コロナウイルス感染症予防のため退任式を開きません。転任退任の職員の皆さん方について、本日、各教室で紹介することになります。生徒の皆さんと共に惜別と感謝の気持ちでお送りしたいと思います。

 結びになりますが、来年度、御船高校は創立99年を迎えます。新年度の始まりは4月8日水曜日。午後には入学式があります。フレッシュな後輩が入学してきます。来年度、私たちの御船高校、天神の森の学び舎がさらに輝くことを期待し、令和元年度の修了式式辞を終えます。

 

 

生徒が創った「御船町PRソング ~ 見に来るっきゃないでしょ」

 

 臨時休校に入る直前の2月28日(金)、喜ばしいニュースが学校に届きました。熊本県教育委員会主催「令和元年度くまもとICTコンテスト」において本校から参加した作品が最優秀賞に輝いたのです。

 ICT(Information Communication Technology)とは「情報通信技術」と訳されます。パソコンやタブレット端末、インターネットなどの情報通信技術を活用した教育手法をICT教育と呼び、生徒の興味関心を高めることに効果があり、各校において鋭意取り組んでいるところです。そしてまた、生徒たちもこのICTを駆使して学び、学習成果を発信することが日常的になっています。

 今回、最優秀賞を受賞した作品は、芸術コース音楽専攻1年の女子生徒5人が創った「御船町PRソング ~ 見に来るっきゃないでしょ」です。ICT(情報通信技術)と芸術コース音楽専攻の組み合わせは少し不思議に思われるかもしれません。一般的には、理系、中でもコンピュータ等の情報系を専攻している生徒の得意分野のイメージがあるでしょう。しかし、そういう見方は一面的と言えます。今回、5人の女子生徒たちは自分たちの得意な音楽を生かし、ICTでさらに発展させて、魅力ある「御船町PRソング」に仕上げたのです。

 1年生の「総合的な探究の時間」の学習で、学校が立地する御船町のことを調べ、その魅力を発信する歌を創ろうと思い、自分たちで作詞、作曲、編曲、そして演奏、歌を担当しました。さらに、御船町商工観光課のご協力を得て、町内の動画撮影に赴き、ミュージックビデオを作製しました。

 「御船町PRソング ~ 見に来るっきゃないでしょ」の歌詞は4番まであります。1番は、恐竜のまちであることを強調、恐竜博物館の映像が出てきます。2番では、吉無田高原の景色が背景に流れます。3番は、音楽のまちとして九州唯一の音楽大学の平成音楽大学が紹介されます。そして4番は私たちの御船高校が登場し、最後はドローンの空撮で天神の森が映し出されてエンドとなるのです。時間は3分18秒。

 全編を通して、5人の女子生徒が笑顔で幾度も現れます。初々しくも爽やかで、その姿が歌、曲と相まって手作り感を醸しています。「情報通信技術」のイメージとは真逆のようですが、この手作り感こそ高い評価の理由ではないかと思いたくなります。

 「御船町PRソング ~ 見に来るっきゃないでしょ」を御船高校ホームページで公開しています。多くの方に視聴していただきたいと思います。

 

卒業、そして旅立ち ~ 令和元年度卒業式

 令和2年3月1日(日)、熊本県立御船高等学校「第72回卒業証書授与式」を挙行しました。新型コロナウイルス感染拡大予防のため、来賓及び在校生(2年生)の出席はなく、吹奏楽部の演奏も行わない簡素な式典となりました。しかしながら、卒業生に対する私達教職員の祝福と励ましの思いはより熱いものがあります。そして、1,2年生の芸術コース美術専攻の生徒たちが、昨日のうちに3年生各教室の飾りつけや黒板にチョークで絵やメッセージを表現してくれていました。

 日曜日ということもあり、例年以上に保護者の出席が多く、マスク着用にもご協力いただきました。会場の体育館は換気に努めたため寒さを感じる一方、凛とした雰囲気を醸し出していたように思います。

 卒業生は普通科(芸術コース含む)105人、電子機械科67人の計172人です。平成29年春に入学し、以来3か年、天神の森に見守られ、起伏に富んだ高校生活を送ってきました。この学年は1年次「一点突破」、2年次「二人三脚」、3年次「猪突猛進」とそれぞれスローガンを掲げ、今田学年主任のリーダーシップのもと生徒たちを育ててこられました。

 卒業式は学校教育の集大成です。在校生でただ一人参加した2年生の田中さん(生徒会長)は、送辞の中で、先輩たちと共に活動した生徒会の日々を振り返り涙声となりました。対する卒業生代表の野中君(前生徒会長)の答辞では、この先の行く手にどんな困難があろうとも進んでいく決意表明がなされ、頼もしく思いました。最後の校歌斉唱はよく声が出て力強いものでした。卒業生退場では、クラスごとに大きな声で保護者や教職員への感謝の気持ちを伝え、まことに爽やかでした。

 卒業式は旅立ちの場です。生徒たちはこの天神の森の学び舎を羽ばたいていきます。まだ見ぬ多くの人々、景色、様々な物語が、彼らを待っています。自立へのわくわくした期待感に包まれていることでしょう。今日、新しい旅が始まるのです。

 毎年こうして若人の旅立ちの場に立ち会えることは、とても幸せなことです。高校教師の道を選んで良かったと思います。

 

 

 

臨時休校に当たっての生徒への校長メッセージ

 

 生徒の皆さん、おはようございます。

 新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐために、御船高校は3月2日(月)から3月16日(月)まで15日間の臨時休校となります。翌17日(火)から学校再開の予定です。しかしながら、今後、熊本県の感染者が増えるなど事態が悪化した場合は休校期間が延長されます。その時は、学校のホームページや船高安心メールでお知らせしますので、注意しておいてください。

 突然の休校ということで、皆さんには戸惑いや不安があると思いますが、今、私たちの社会は非常事態なのです。地震や台風などの自然災害とは異なり、日常の風景は変わらないように見えるのですが、肉眼では見えない、未知のウイルスが人から人へ感染し体調を崩し、最悪の場合は死に至るという脅威にさらされています。学校は閉じられた空間で集団生活を送る所です。いったんウイルス感染が猛威をふるうと止めようがありません。従って、私たちの健康と安全を守る公衆衛生という観点から、今回の臨時休校を決めました。このことをまず理解してほしいと思います。

 この非常事態において、皆さんに求めることは、ウイルス感染から自分の身を守ってほしいということです。こまめな手洗い、消毒をはじめ規則正しい生活をして免疫力を高めてください。そして何より不特定多数の人と接触しないようできるだけ外出を控えてほしいのです。自分自身の健康と安全は自分で守るという意識を強く持って生活してください。自然災害がいったん起きれば、皆さんたち高校生は、人を助ける立場になりえると2学期の災害避難訓練で話しました。今回もまさにそうです。小学校、中学校も臨時休校です。弟や妹がいる人はあなたが勉強を教えたり、お世話をしたり、見守りをしてください。あなたたちはたいていのことができるはずです。非常時において家庭でのあなたの役割は大きいと思います。期待しています。

 さて、明日は卒業式です。在校生の皆さんが出席せず例年にくらべ簡素な式となりますが、私達教職員で心をこめて卒業生を送り出したいと思います。臨時休校期間も私たち教職員は通常勤務です。3月10日(火)、11日(水)には高校入試の後期選抜検査を実施します。約1か月後には新しい後輩が入学してくることになります。明るい春は近くまで来ています。

 新型コロナウイルス感染の恐怖で人々の心は疑心暗鬼となり、先行きの見えない不安に社会は覆われています。流言飛語、根拠のないデマ情報も飛び交っているようです。惑わされないでください。明けない夜はありません。夜明け前が最も暗いと言われます。皆さん一人一人が健康を維持し、笑顔で学校に帰ってくる日まで、私達教職員が学校を守っています。体調をはじめ何か心配な事があれば学校へ電話を掛けてください。私たちは一つのチーム御船です。支えあい、励ましあい、この困難な時期を乗りこえましょう。

 「天神の森の学び舎」に一日も早く皆さんの笑顔と歓声が蘇ることを願って、臨時休校に当たっての校長メッセージを終わります。                                     

                   書道部3年生による卒業作品(学校玄関)

ようこそ、小学生の皆さん ~ 御船小学校3年生児童の学校見学

   御船小学校3年生の皆さんが2月19日(水)午後に来校されました。総合的な学習の時間の「御船町を知ろう」というテーマの学習活動の一環です。町内にある消防署、警察署等と共に高等学校も訪問先に選ばれたのです。中野校長先生自ら引率され、3年生の2クラス60人の元気な児童の皆さを迎えることができました。

 児童の皆さんを2グループに分け、Aグループは電子機械科、芸術コースの順で、Bグループはその逆の順で見学してもらいました。電子機械科は、実習棟において、ロボット実演、マイコンカー実演、エンジンの仕組み実演などのコーナーを設け、少人数ごとに体験できるようにしました。ロボットが小さなピンポン玉を回収したり、輪を飛ばしたりする様子、また曲がりくねったコースをマイコンカーがマイコン制御で自動走駆する様子を間近で見て、「すごい!」という歓声や拍手が起きました。子どもたちの眼はきらきら輝き、担当する生徒たちも最初はぎこちなかったのですが、次第に得意満面の表情に変わっていきました。

 しかし、児童たちからの質問は本質に迫る鋭いものがありました。マイコンカーのコーナーでは、「コース中央の白線をセンサーが読取り走行しているとのことですが、白線ではなく他の色でもいいのですか?」、「直角のコースをスピード落とさずになぜ曲がることができるのですか?」等。専門用語を使わず、原理をわかりやすく説明することは難しいものです。担当の高校生たちは職員の助言も受け、時にはしどろもどろになりながら答えていました。

 芸術コースでは、音楽は手拍子でのリズム学習、美術は生徒たちが製作した「ゆるキャラ」の人気投票、書道では様々な筆を示し、何の動物の毛で作られているのかのクイズなどが行われました。

 子どもは小さな大人ではありません。子どもは大人とは別の豊かな世界を持ち、鋭い感受性を備えていると思います。その子どもたちの純真な眼に見つめられ、御船高校生にとって特別な時間になったと思います。教えることは学ぶことであり、忘れかけていた学びの初心を取り戻すことができたのではないでしょうか。

 今日御船高校を見学に来てくれた児童の皆さんが高校に入学するのは7年後です。私はもう定年退職しています。けれども、御船小から御船中へ、そして御船高校へと子どもたちの未来がつながっていくことを願っています。

 

梅が開花しました ~ 早春点描

   御船高校の校庭の梅が開花しました。正門から入って正面に見える紅梅で、天神の森の前庭に当たります。今年は暖冬で、熊本平野において降雪は観測されていません。しかし、やはり2月の朝の冷え込みは厳しく、自動車のフロントガラスが凍結していることがあります。自転車や単車で通学している生徒たちの身体は芯から冷え切っていることでしょう。そのような生徒たちを迎える紅梅の開花に、春が近づいていることを実感します。

 今週(2/10~2/14)の学校は、1、2年生の学年末考査が行われています。進級に向けた大事な考査です。駐輪場に単車や自転車を置いて校舎へ向かう生徒の多くは寒さで背中を丸め、視線も道に落としがちですが、少し上を向くと紅梅の開花に気付くことができます。今週は、毎朝、育友会(保護者会)の皆さんが交代で正門付近に立たれ、挨拶運動を展開されています。私も一緒になり、生徒に声を掛けていますが、今朝は「梅が咲いているよ」と幾人かの生徒に教えました。

 また、2月から3月は高校入試の季節でもあります。2月3日に前期選抜検査を実施し、その結果は昨日2月12日(水)に各中学校にご連絡したところです。そして、今日2月13日(木)から2月18日(火)まで後期選抜検査の願書受付です。検査日は3月10日(火)~11日(水)で合格発表は3月17日(火)となります。紅白梅満開、そしてひょっとしたら桜も開花しているかもしれない校庭での合格発表です。御船高校を志望している皆さん、春、天神の森の学び舎で会える日を楽しみにしています。

 梅花と言えば、新元号「令和」の出典となった大宰府の「梅花の宴」(『万葉集』巻5)を連想する人が多いでしょう。天平文化(奈良時代)、大宰府政庁の長官の大伴旅人(おおともたびと)が、自邸で梅花を題材とした歌会を催しました。集った官僚の中には後世歌人として知られることになる山上憶良(やまのうえのおくら)もいました。この時の麗しい月(「令月」)と穏やかな風(「風和」)の情景から、「令和」という元号が生まれたのです。

 令和になって初めての春を迎えるにあたり、これまでになく梅の花の凛とした清らかさに引き付けられる気がします。

 

燃える若き音楽家たち ~ 芸術コース音楽専攻卒業生のコンサート

   御船高校芸術コース音楽専攻卒業生による「Valentine Concert」が2月11日(火)に御船町カルチャーセンターで開かれました。本校芸術コースは平成16年4月に新設され今年度で15年目を迎え、来月には14期生が卒業します。今回の音楽会は9期生から12期生の有志6人による企画であり、このような音楽専攻卒業生のコンサートは初めてとのことです。

 メンバーは次のとおりです。

 中川かりんさん(9期生、専門はファゴット)、水町綾花さん(10期生、専門はファゴット)、友田桂豪さん(10期生、専門はドラム)、松井奨真さん(11期生、専門はピアノ)、山下真理子さん(11期生、専門はピアノ)、久保明日香さん(12期生、専門はフルート)。前半はそれぞれ専門楽器のソロ演奏、後半は御船高校専攻同窓生ならではの組み合わせの演奏が披露されました。ピアノ連弾の松井さんと山下さんは在籍大学が異なり、合せる練習機会が限られ、初めての連弾ということでドキドキの演奏だったそうです。また、ファゴットトリオは、中川さんと水町さんに、御船高校芸術コース音楽専攻1年の武田祐里さんが加わったものでした。中川さんと水町さんは平成音大の先輩後輩に当たり、武田さんもファゴット専攻ということで平成音大の先生に師事しています。このように所属大学や年齢を超え、同じ御船高校芸術コース音楽専攻というつながりの音楽会が実現したことを心から歓迎したいと思います。

   コンサート当日はちょうど1、2年生の学年末考査期間中のため、会場には御船高校生の姿は少なかったのですが、旧・現職員や平成音大で学ぶ卒業生等、初めての試みを応援する関係者が集いました。演奏者6人はまだ二十歳前後の若き音楽家たちです。その志は高く、熱いものがあります。彼ら6人が力を合わせ、母校及び後輩へ爽やかなエールを贈ってくれたことに深く感謝したいと思います。フィナーレはラテンジャズの名曲「On Fire」でしたが、まさに曲名のとおり「燃える」若人たちであり、その将来が楽しみです。

 「御船高校芸術コースがますます活気あふれることを願います。そして私たちは日々精進していきたいと思います。」

   メンバーを代表して松井奨真さんによる最後のステージ挨拶でした。御船高校芸術コースが発足して15年。人材は着実に育っていると感じました。

 

「チーム御船」、走る ~ 城南地区高校駅伝大会

    球磨郡特有の濃霧に出迎えられました。2月1日(土)の朝8時半、球磨郡あさぎり町の総合運動公園に私は到着しました。出場する生徒たちと引率の先生方は人吉市の旅館に宿泊し、私よりも早めに会場入りしていました。男子65回・女子26回の「熊本県高等学校城南地区新人駅伝競走大会」開催です。

 開会式は午前9時。そして女子の部が午前10時スタート。16校がエントリーしていましたが、当日参加したのは13校。5区間、16.8㎞を競います。御船高校の1区、唯一の1年生の砂地さんが勢いよく飛び出していきました。そして、2区の浦津さん(2年)、3区の村上さん(2年)、4区の森口さん(2年)と襷をつなぎ、アンカー5区の山内さん(2年)が懸命の走りでゴール。12位でしたが、レース後、付き添いの生徒たちも一緒になって明るい輪ができ、全員に笑顔が見られました。

 男子の部は午前11時30分スタート。20校24チームが参加。5区間で21.6㎞を競います。1区は一宮君(2年)が上位集団についてチームの流れを作りました。2区は最長の7㎞のエース区間で、山本君が力走、3区の唯一の1年生の村田君、4区の倉本君(2年)とつなぎ、アンカー5区の北島君は最後まで諦めない走りを見せ、ゴール直前で一人かわし16位でフィニッシュしました。男子は大会直前にアクシデントがあり、控えの選手が一人もいない5人ぎりぎりでの出場でしたが、全員がベストの走りでした。

 1、2年生を対象とした高校城南駅伝大会に、御船高校としては不安を抱え臨みました。本校には陸上部に長距離選手がいないため、男女とも陸上部以外の部活動から生徒を集めての混成チームとならざるを得ません。女子は、陸上短距離の生徒が1人、他はバスケットボールとバレーボールから協力を得ました。男子は、サッカー部、バスケットボール部、野球部の生徒達で組みました。従って、練習も十分にできず、チームワークの点でも未知数でした。

 しかし、レース本番では選手たちは全力を尽くし、女子の付き添いの生徒達もよく動き、選手を支えました。宿泊した人吉市の旅館での食事等のマナーも良かったようで、「生徒たちを見直しました」と引率の先生が言われました。

 クラス、学年、部活動の枠を超え「チーム御船」として参加した城南駅伝大会は実りあるものでした。本校生の持つ潜在力、そして生徒同士の結びつきを発揮しました。これからも「チーム御船」は走り続けます。

 

 

 

問いを学ぶこと ~ 電子機械科の課題研究発表会(2)

   前回に続き、「電子機械科の課題研究発表会」について語ります。1月29日(水)の3、4限目は3年A組が発表しました。1、2限目のB組と合わせて発表を聴いてみて、チームとして取り組んでいるという印象を持ちました。グループとチームでは根本の違いがあると思います。学校生活において、仲の良い者同士、一緒に帰る者たち、同じ趣味の仲間などグループは簡単に派生します。しかし、チームを作るには強い意志が必要です。チームには明確な目標があり、それを達成するための役割があるのです。電子機械科の生徒たちはこの1年間、良きチームとして課題研究に取り組んできたと思います。

 A組の6つの発表のうち、4つはモノづくりに没頭したものでした。学校の野球場の防球ネットの補修、ボルトやナット等を材料としたオブジェ製作、マイコンカーの製作、廃棄されていた発電機の修理などです。いずれも、僕たちはモノづくりが好きだという気持ちが伝わってきました。そのプロセスは、まさしくトライ&エラーの繰り返しだったことがわかります。このプロセスこそ尊いと思います。

 残りの2つは、強い課題意識から出発し、問いを出し続けて研究を推進したもので充実した内容でした。一つめは、「なぜ御船高校電子機械科は定員割れが続いているのだろう?」(就職状況も良く、ロボット大会等の発信もしているのになぜ?)からスタートし、これまでの電子機械科の取り組みについて点検し、どうすれば中学生にもっとアピールできるのか、他にどんなことができるのか、問い続けています。二つ目は、電子機械科マイコン制御部で主催してきた中学生ロボット大会について、中学校が求めているものは何か、どうすれば参加校は増えるのか、中学生に対して高校生ができることは何かと問い続け、大会のあり方の改善検討を進めています。きっと来年度の中学生ロボット大会では成果が現れることでしょう。

 学問とは、答えを学ぶことではなく、問いを学ぶことです。問いを立てて、自分なりに考え、調べ、取り組み、試行錯誤していくのです。一つのことに取り組んでみると、様々なことにつながり、広がっていきます。

 電子機械科の生徒の皆さんにとって、「人生最初の課題研究」(電子機械科の大橋先生の言葉)は終わりました。しかし、本当の「課題研究」はこれからです。それぞれの職場で、自ら問いを立て、その問いを原動力にして、創造的な仕事をしていってほしいと期待します。

 

地域の課題を解決する力 ~ 電子機械科の課題研究発表会(1)

 3年生の学年末考査、通称「卒業試験」が1月28日(火)に終了しました。これで3年生は家庭学習期間に入るのですが、電子機械科の3年生(2クラス)は翌日も登校し、この1年間取り組んできた課題研究の発表会に臨みました(会場は第5実習棟フロア)。電子機械科の「課題研究」は生徒たちがそれぞれ班をつくり、各班で課題を設定し、担当の先生の指導を受けながら研究実践を行うものです。教育課程上は、2単位(週2時間)ですが、放課後や長期休業中にも自主的に活動してきました。

 1月29日(水)の1、2時間目、3年B組の発表が行われました。6つの班の発表のうち半分の3つの班が、地域社会の課題解決に挑む内容となっており注目しました。一つ目が、以前この「校長室からの風」で紹介した、御船町の小学校英語授業における人型ロボット(ペッパー君)に搭載する制御プログラム作成です。簡単な英会話、そして手ぶり、身振りの動作ができるプログラムを生徒たちがつくり、小学生の英語授業に貢献しました。

 二つ目は、御船町の害獣被害対策のためにイノシシを捕獲する箱罠の製作です。このテーマは昨年度の3年生から継続です。市販されているものより安価な手作りの箱罠を昨年度の3年生が製作したのですが、実際に設置してみるとイノシシに壊され、捕獲できませんでした。その失敗を糧に、今年度の班は、より軽量で持ち運びやすく、かつ丈夫な箱罠を作り上げました。しかし、完成が遅れたため、まだ実際に使用できず、実際の捕獲はこれからです。三つ目は、災害時に簡易に使用できるバーベキューコンロの製作です。学校の工作機具を使用し、鉄板を材料に作り上げました。災害で電気やガスが使用できなくとも、火を焚き芋や肉を簡単に焼くことができる手製のコンロが成果物です。

 電子機械科の生徒の強みは、モノづくりができる点にあります。これは普通科の生徒にはない絶対的な強みです。3年間の豊富な実習を通じて、モノづくりの面白さと難しさを知っています。自分たちに何ができるのかと考えた時、モノづくりの技能を持っていることは生徒たちの生きる力となるでしょう。

 地域社会には大人の手が回らないほどの沢山の未解決課題があります。モノづくりの基礎を身に付けた高校生であれば、その行動力とアイデアを生かせば、課題を解決できる可能性が大きいのです。

 御船高校電子機械科だからこそできる社会貢献があるのです。

 

 

先進校を訪ねて ~ 育友会の視察研修

 御船高校では、毎年育友会の視察研修を実施しており、県外の高校や企業を訪問しています。保護者会と教職員にとって貴重な研修の機会です。今年度は、福岡県の二つの高校を1月24日(金)に訪ねました。参加者は保護者役員さんが9人、学校の教職員が私を含め4人の計13人で、育友会所有のマイクロバスを活用しました。

 今回訪問先として選んだ学校は、福岡県立八女工業高校(筑後市羽犬塚)と同県立八幡中央高校(北九州市八幡西区)です。御船高校が2年後に創立百周年を迎えることから、創立百周年事業の準備やその成果を知りたいということと、本校がより魅力ある学び舎に発展するために同じ工業系、そして芸術コースの先進校から学びたいという大きく二つの理由から選びました。

 福岡県立八女工業高校は、電子機械科・自動車科・電気科・情報技術科・土木科・工業化学科の6学科を有し、各種の資格取得も良好で就職状況も好調、同県で最も勢いのある工業高校と聞いています。そして、何といっても、今年度、全国高等学校ロボット競技大会で優勝を飾っている学校なのです。決勝トーナメント1回戦で敗退した本校にとっては仰ぎ見る存在です。2020年度に創立100周年を迎える同校は、同窓会と学校が連帯し正門の改築、教育機器の充実等に取り組まれており、本校の計画、準備が遅れていることを痛感しました。工業高校ですが女子生徒が増加傾向にあり、在籍数が百人を超え、女子支援課という部門を設け組織的に女子生徒をサポートされています。また、今年度から女子生徒は制服のスラックス着用が可能になり、防寒性と活動性に優れたスラックスを選ぶ女子が増えているとのことでした。

 福岡県立八幡中央高校は、普通科4クラスに芸術コース1クラスを有し、今年度で創立103年を数える伝統があります。遠く洞海湾を眺望できる高台に建つ学校です。平成28年に創立百周年を迎えられ、その時の数多くの資料(計画書、要項等)や「記念誌」、記念品等を今回頂くことができました。玄関を入ると2階吹き抜けのギャラリースペースがあり、同校が誇る芸術コースの美術・書道の作品群が出迎えてくれました。同校の書道部はこれまで全国高校書道パフォーマンス大会で2度の優勝を飾っており、御船高校書道部にとって目標の学校です。芸術コースが牽引役となり文化的な行事が盛んで、学校の活性化につながっているようです。また、同校でも女子生徒の制服はスラックス着用が可能でした。

 両校とも生徒たちが生き生きと学校生活を送っており、活気が校内に満ちていました。丁寧にご対応頂いた両校の先生方に深く感謝申し上げます。

 本校より一歩先を進んでいる学校でした。両校を目標に、御船高校の一層の魅力化に努めます。

 

  

  八女工業高校           八幡中央高校

 

初任者研修

 県立学校「初任者研修」(第11回)の教科指導等研修が、1月14日(火)に御船高校で開催されました。参加したのは、本校の二人の初任教諭(美術の本田崇教諭、生物の橋本雄司教諭)ほか、各学校から数学2人、理科2人の計6人です。他の教科・科目は他校で行われ、本校には数学・理科・芸術(美術)の初任教諭と指導に当たる県立教育センターの指導主事の先生方(3人)が集まられたことになります。

 会場校校長として最初に挨拶を行ったのですが、初任者の皆さんの積極的に吸収しようという意欲的な姿勢が伝わってきました。初任者を代表し、本校の橋本教諭が生物の研究授業(2年1組)を2時間目に行いました。自律神経系と内分泌系の共同作業によって体温が調節されることを理解する授業でした。橋本教諭は情報機器を活用して説明のわかりやすさを心がけ、生徒たちに話し合わせたり、協働でワークシート作成に取り組ませたりと生徒の主体的な学習活動を意識した授業となっていました。

 授業参観していて、「授業はコミュニケーションの場」であることを改めて実感しました。教師からの一方通行ではだめで、教師と生徒、そして生徒同士の「対話」があってこそ発展するものなのです。この「校長室からの風」で以前にも触れましたが、今、高等学校の普通教科の授業は大きく変わりつつあります。社会の急速な変化に伴い、生徒が必要とする学力の質も変わってきているのです。従って、「教える」という教師側の視点だけでなく、「わかるようになる」、「できるようになる」という生徒を主体とした視点からの授業改革が求められています。

 授業者の橋本教諭以外の初任者五人は、「良かった点」、「改善が必要だった点」、「自分の授業で活用したい点」等をメモし、その後の授業研究会で活発な意見交換を行いました。そして、午後は各学校における自分の業務上の課題についての「課題研究報告会」が行われ、県立教育センターの指導主事からの助言、指導を受けました。

 初任者研修は1年間を通し体系的、計画的に進められます。保護者の皆さん、生徒の皆さん、初任の先生たちは一人前の教師になろうと懸命に努力していることを知ってください。経験は足りません。しかし、初任者は学校に新風を吹き込み、学校を変える可能性を持ち、これからの令和の時代を担う存在なのです。

 初任者をはじめ若手の教師を支援して、バトンを渡していくことが私の最後の務めだと思っています。熊本県の教育の未来は明るいと信じています。

御船高校への期待を感じて ~ 令和2年の始動

 1月8日(水)に始動してまだ二日目の御船高校ですが、幾人ものお客様が校長室を来訪され、新春の賑わいが続いています。

 来る4月から御船高校は総合型コミュニティスクールとなります。これまでの「地域に開かれた学校」から一歩踏み出し、「地域と共にある学校」として地域住民の方、保護者、学校が協働で学校運営に取り組んでいくことを目指します。その重要なパートナーが町役場の皆さんです。昨年も、1学年の「総合的な探究の時間」や芸術コースの学習活動に対して、積極的なご支援とご協力をいただきました。その中核的存在である商工観光課の作田課長(御船高校同窓生)が来校され、「今年はもっと一緒にやっていきましょう」と力強いお言葉をいただきました。

 また、同窓会の徳永明彦会長が北九州市からお見えになりました。ご多用な公務(企業の代表取締役)の合間を縫って、昨年も何度ご来校くださったことでしょう。11月の「ようこそ先輩、教えて未来」行事ではご講演もしていただきました。2年後に迫る創立100周年行事に向け、今年はより一層、同窓会との連帯が求められますが、徳永会長の存在は誠に心強いものがあります。

 そして、地元の池田活版印刷所さん(御船町)から、芸術コースの生徒達(3学年計66人)に素敵な贈り物がありました。鉛活字を使った昔ながらの手法(活版印刷)で創られた今年の暦です。池田活版印刷所についてはこの「校長室からの風」で以前紹介しましたが、創業明治33年(今年で120年)の老舗で、全国的にも珍しい活版印刷をいまだに貫いておられる印刷所です。

 池田活版印刷所の5代目店主吉田典子さんが来校され、芸術コース3年の代表生徒たちに、手のひらサイズの12枚の月暦を贈られました。生徒たちはさっそく手に取り、活版印刷による味わい深い凹凸感を確かめていました。吉田さんは、本校に対する地域の応援団のような方で、昨年秋の文化祭にも来校され、美術・デザイン、書道の作品や音楽の舞台(ステージ)をご覧になりました。そして、芸術コースの生徒たちにアナログの手仕事の良さを知ってほしいと今回の寄贈を思いつかれたそうです。

 新しい年の暦は、生徒たちの未来図のようなものです。これからの1年、様々なことが起こるでしょう。しかし、頑張る高校生を地域の人々は温かく見守り、応援してくださると思います。

 

 「初暦(はつごよみ) 知らぬ月日の 美しく」 (吉屋信子)

 

 

「冬はつとめて」 ~ 3学期始業式校長訓話

 

 新年明けましておめでとうございます。こうして皆さんと一堂に会し、私たちの学校、御船高校の新しい年が始まります。

 今朝、正門から登校してきた生徒の皆さんは、門松に気付いたでしょうか?昨年暮れの12月27日(金)に渡部先生、小牧先生などの職員有志とハンドボール部の生徒たちによって正門前に立てられました。門松は、新しい年の神様が天から降りてこられる目標(「依代(よりしろ)」)となるものです。門松を飾る松、竹、葉牡丹、南天などにはそれぞれおめでたい意味が込められています。正月の伝統的慣習であり、門松が立っていると正月気分が出ますね。その門松も今日で片づけられます。松の内も終わりです。

 今年は令和2年西暦2020年です。東京2020オリンピック・パラリンピックイアーを迎えました。年の瀬にサプライズニュースが学校に届きました。車いすマラソンに取り組み活躍している2年3組の見﨑真未さんが、東京2020オリンピックの熊本県聖火ランナーに選ばれたのです。今年の5月6日に県内を走る聖火ランナーの一人となります。見﨑さんを通して、東京オリンピックと御船高校はつながりました。学校を挙げて応援したいと思います。

 さて、平安時代に書かれた随筆「枕草子」の冒頭、作者の清少納言はそれぞれの季節で最も趣のある時間帯について述べています。「春はあけぼの」、すなわち夜明けごろが良い、「夏は夜」、「秋は夕暮れ」と言っています。それでは、冬はいつ頃が良いと言っていますか?「冬はつとめて」、すなわち冬は早朝、朝早くが良いものだと述べています。雪が降っていたり、霜が降りていたりと寒い朝ほど良いと清少納言は言っています。清少納言が暮らした都、今の京都は山々に囲まれた盆地で、冬の寒さの厳しい所で知られます。熊本もこれから2ヶ月は寒さが続くことでしょう。しかし、千年前の都人も愛した冬の朝の寒くとも清々しい情景を感じる心の余裕を持ちたいと思います。今日から始まる3学期、「冬はつとめて」と口にして自分を励まし、登校してきてください。

 結びに、残り50日ほどで卒業していく3年生に伝えます。まだこれから進路実現に向けて試験に臨む人がいます。全国でおよそ56万人が受験する大学入試センター試験にも本校から12人が挑みます。3年生全員の進路が決まるまで私達も全力で支援します。そして、既に進路が決まっている皆さん、残された高校生活一日一日を惜しみながら、最後まで勉強してください。しっかりと助走をして、勢いをつけ、新しい世界に飛躍して欲しいと願い、3学期始業式の挨拶とします。

 

門松が立ちました

 

 今年は今日12月27日(金)が学校の仕事納めとなります。学校では、進学課外授業を受ける生徒たちや部活動に励む生徒たちの姿が見られます。朝から、有志職員とハンドボール部の男子生徒4人で、門松づくりが行われました。例年関わってこられた渡部先生(数学)の段取りがよく、およそ1時間でできあがり、正門前に立ちました。門松は、新しい年の神様が天から降りてこられる目標(「依代(よりしろ)」と言います)となるものです。これで、私達の学校も新年を迎える準備が整ったわけです。

 門松を飾る松、竹、葉牡丹、南天などそれぞれ意味があるのです。正月の伝統的慣習であり、門松が立つと気持ちが落ち着きます。ALTのマシュー先生(アメリカ合衆国)も興味深く作業を見守り、質問をしていました。午後、課外授業や部活動が終わり帰る生徒たちを門松が見送ることになります。

 さて、年の瀬になって、学校に大きなサプライズニュースが届きました。車いすマラソンに取り組み、今年一年、各大会に出場してきた2年の見﨑さんが、「東京2020オリンピック聖火ランナー」(熊本県)に選ばれたのです。2020年(令和2年)の5月6日に県内を走行する聖火ランナーの一人となる予定です。走行する具体的な場所や時間は未定ですが、学校挙げて応援したいと思います。来年の東京パラリンピックには間に合いませんでしたが、見﨑さんはその次のパリパラリンピック大会出場を視野に入れ、挑戦することを決めています。見﨑さんの活躍は他の生徒たちに大きな励ましを与えることでしょう。

 見﨑さんをはじめ御船高校生一人ひとりは限りない豊かな可能性を持っています。その可能性をもっともっと引き出していきたいと思います。来る新年、御船高校の更なる飛躍の年となることを願わずにはいられません。

 今回をもって今年の「校長室からの風」を納めたいと思います。

   皆さん、良いお年をお迎えください。

 

「 一年の 心の煤(すす)を 払はばや 」(正岡子規)