高校球児にとっての特別な試合

 夏の甲子園大会が新型コロナウイルス感染拡大によって5月下旬に中止が発表されました。その後、6月に入り学校が再開され、部活動も始まり、熊本県独自の代替大会が計画されました。高校球児にとっては目標ができ、大きな励みになったと思います。ところが、7月4日(土)未明から朝にかけての記録的豪雨により県南部が甚大な災害に襲われました。この災害のため、7月上旬から予定されていた県大会は変更を余儀なくされ、地域別の大会に縮小されました。今年の熊本の高校球児たちは新型コロナウイルスと豪雨災害という二つの大きな力によって翻弄されたと言えるでしょう。

 御船高校が出場する城南地区大会は7月18日(土)に始まりました。そして、7月23日(木)、県営八代球場で、御船高校・矢部高校の合同チームは人吉高校との1回戦に臨みました。相手の人吉高校は、この度の豪雨災害の被災地(人吉市)にあり、出場が一時は危ぶまれました。人吉高校関係者によると40人以上の部員がいるそうですが、その内10人近くの自宅が球磨川氾濫の浸水被害をうけ、制服や野球の練習ユニホーム、用具などが流されてしまったそうです。しかしながら、部OBの卒業生からの支援があり、部員全員での城南地区大会出場を果たすことができたと聞きました。

 一方、御船高校と矢部高校はお互い部員不足に悩み、昨秋の大会から合同チームを結成し、公式戦に出場しています。御船高校は1年生部員が入り、現在12人で単独チームができるのですが、矢部高校が部員4人のため、県高校野球連盟に申し出て合同チームで戦うこととしました。矢部の大嶋校長先生と一緒に私も県営八代球場へ応援に行きました。

 新型コロナウイルス対策のため一般の高校野球ファンは観覧できないのですが、観客席には保護者のの姿も多く、夏の日差しのもと、選手たちははつらつとしたプレーを見せてくれました。地力に勝る人吉高校が先制。しかし御船・矢部合同チームは矢部の選手のタイムリーヒット等で一時は逆転。合同チームのため守備の連携プレーが課題でしたが、内野ゴロを巧みに処理しダブルプレーに打ち取るなど守備の成長も見られました。

 試合は結局9対3で人吉高校が勝ちました。ホームペース上に距離をとって2列に並び、胸をはって校歌を歌う生徒たちの姿に、御船・矢部合同チームの応援スタンドからも大きな拍手が寄せられました。

 未曽有の新型コロナウイルス感染による社会的な混乱、そして記録的な豪雨災害と球児たちは困難に耐え、やっと試合をすることができました。県営八代球場でプレーする球児たちは皆輝いて見えました。「艱難汝を玉にす」(かんなんなんじをぎょくにす)という古い格言を思い出したものです。