県高校総体中止の報に接して

  「第48回熊本県高校総合体育大会(県高校総体)」の中止が決まりました。とうとうここまで来たかという思いです。今月23日(土)から先行競技が始まり、29日(金)の総合開会式(熊本市総合運動公園)を経て6月3日(水)まで続く予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の終息が見通せず、選手及び関係者の安全が確保できないことから主催者は苦渋の決断を下したようです。先に全国高校総体(インターハイ)の中止が決まっており、覚悟はしていましたが、改めて正式に中止が決まると重苦しい気持ちになります。

    高校入学以来2年余り部活動に取り組み、練習を重ねてきた3年生にとって、大きな目標が消え去ったことになります。生徒の中には中学校、いや小学校から一途に競技に熱中してきた者も少なくありません。その集大成の場が失われたのです。県高校総体中止の報に接し、生徒達、そして指導者の落胆、失意はいかばかりかと思います。それぞれの競技に青春をかけてきた生徒は、目指してきたゴールがなくなり、放心状態になっても不思議ではないでしょう。

   4年前の熊本地震の時のことを思い出します。あの時は会場の県立劇場に大きな被害が出たため県高校総合文化祭は中止となりました。しかし、県高校総体は、被害が甚大な熊本市や上益城、阿蘇地域を避け、県内各地で分散して各競技が開催されました。若人の躍動する姿は、県民の皆さんへの励ましとなり、スポーツの力を実感したものでした。「熊本地震の時でさえ県高校総体は行われたのだから」という思いが私たち高校関係者にはあったと思います。しかし、今の私たちが直面している事態は経験したことがない未曽有の感染症パンデミック(世界的流行)なのです。

 生活全般の自粛が続き、最もエネルギーある世代の高校生の皆さんが思うように行動できない苦しさは大人の私たちが想像する以上でしょう。これからの人生が遥かに長い、その一時期の忍耐だと言っても、生徒の皆さんにはあまり響かないでしょう。今の現実の重さの方が、見えない将来より勝っているからです。見えないことを考えることは難しいものです。

 高校総合文化祭、高校総体と次々に重要な教育行事が中止となり、私たちも無力感を覚える日々です。しかし、この瞬間も感染症拡大防止の最前線で働いておられる医療従事者や保健所職員の方達がおられます。ある感染症内科医の言葉を生徒の皆さんと共有したいと思います。

  「勇気とは、恐怖におののきながら、それでも歯を食いしばってリスクと対峙(たいじ)する態度だ」。

 感染リスクの恐怖と闘いながら、己の使命を果たそうと不眠不休で医療に当たっておられる人がいることを私たちは忘れてはいけないと思います。