「他者への想像力」が感染を防ぐ

   5月25日(月)から御船高校では授業再開となりました。クラスの出席番号で奇数と偶数で生徒を二分し、奇数組が午前3時間授業を受けた後、午後に偶数組が登校し3時間授業を受ける分散型授業です。2週続けて同じ授業を行い、来週は午前と午後の生徒を入れ替えて、2週間で1週間分の授業を受け終える仕組みです。新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言は解除されましたが、密集した集団生活を避けるためと、長期休業の生徒の心身への影響を考慮し、学校生活への慣らし期間と位置付けています。

 再開された学校生活で気持ちが高ぶっているかもしれない生徒の皆さんに対して求めたいことが、「他者への想像力」です。この言葉は、わが国のウイルス感染症研究の第一人者である押谷仁(おしたにひとし)先生が著書で述べられているものです。

   押谷先生は、現在、厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班のリーダーとして陣頭指揮をとられ、感染拡大防止のために不眠不休の努力を続けておられる方です。この押谷先生の著書『パンデミックとたたかう』(作家の瀬名秀明氏との対談形式、岩波新書、2009年11月刊行)が本校図書室にあることを知り、先週読みました。現在のわが国の状況を示しているかのようなタイトルですが、2009年から2010年にかけて世界的流行となった新型インフルエンザ対応に関する押谷先生の見解がまとめられています。およそ10年前の本ですが、今日の事態を予想した警告の書となっています。

   ウイルスは肉眼では見えません。そして、新型インフルエンザも今回の新型コロナウイルスでも若い世代は重症化しない傾向にあります。しかし、だからこそ、「自分だけ感染しなければ良い」、「もし感染しても自分は軽症ですむから心配いらない」のような利己的な考え方はとても危険だと押谷先生は言われます。あなたは感染しても無症状かもしれないが、あなたを介して、妊婦さんや基礎疾患のあるお年寄りにウイルスが広がっていくかもしれないと「感染鎖」の恐怖を強調されます。人は、世界はつながっているのだという「他者への想像力」が重要だと繰り返されるのです。

   2009年の新型インフルエンザは関西の高校では臨時休校の措置がとられましたが、全国的には日常生活が維持でき、私自身も認識が弱かったと思います。しかし、押谷先生はすでにあの時、今日の事態を見据えておられたことになります。新型コロナウイルスの新規感染者は、全国的に大幅に減少し熊本県ではここ2週間発生していませんが、ウイルスは消滅したわけではありません。

  「他者への想像力」を持つことで、自分と他者、そして社会も守りましょう。

                分散登校する生徒たちの様子