校長室からの風(メッセージ)

校長室からの風(メッセージ)

くま川鉄道

くま川鉄道

 昨年度、副校長として多良木町多良木字馬場田の教職員住宅に1年間住んだが、100mほど離れた所にくま川鉄道の踏切があり、その遮断機の音が時計代わりとなった。朝は上りの始発列車(多良木駅6:40発)の通過が出勤の、夜は上りの最終列車(多良木駅22:30発)の通過が就寝のそれぞれ目安となる暮らしだった。

 球磨、人吉地区の5つの高等学校は、くま川鉄道の最寄りの駅から徒歩10分以内にすべて立地している。鉄道は時間に正確で、運行は安定しており、生徒の通学を支える公共交通機関として、まことに有り難い存在である。また、平成26年から導入された観光列車「田園シンフォニー」の車両は、朝夕の通勤・通学列車としても走行しており、高校生は通学定期券でこの快適な車両に乗車できるのである。多良木高校生の乗車マナーが良い、と地域の方々の声を聞く。素晴らしい列車に乗せてもらい、自然にマナーも向上するのだろうと思う。日本一の通学列車を運行されているくま川鉄道のお陰だと感謝している。

 私もくま川鉄道を利用させてもらっている。夜、人吉市で会合に出席し、下りの終電(人吉温泉駅21:35発)で多良木に帰ることが時々ある。乗り心地の良い「田園シンフォニー」の車両に揺られての30分間は贅沢な時間だ。球磨盆地の夜は真っ暗だから、と笑う生徒がいるが、夜は暗くてはいけないのかと私は思う。朝日を浴びて通学し、夜の闇の中で就寝する自然なリズムを高校生には大切にして欲しい。

 民家の灯りがぽつんぽつんと見える闇夜を窓外に見ていると、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の世界を連想する。孤独な少年ジョバンニが親友のカンパネルラと「ほんたうの幸せ」を求めて幻想の世界を旅するファンタジーだ。決して子どもの童話ではなく深い思想に満ちた物語であり、高校生にこそ読んでもらいたい。
 
「僕もうあんな大きな暗(やみ)の中だってこわくない。きっとみんなのほんたうのさいわいをさがしに行く。」(『銀河鉄道の夜』)

 

 列車通学生ではない生徒の皆さんも時々はくま川鉄道に乗ってみるといい。列車に揺られ車窓風景を眺めていると、「考える時間」を持てるだろう。