校長室からの風(メッセージ)

2016年10月の記事一覧

保育園児が走り回る高校

保育園児が走り回る高校 ~ 保育園の遠足  

 先週火曜日の秋晴れの一日、本校のグラウンドを保育園児が嬉々として走り回る光景が見られました。本校と同じ多良木町にある光台寺保育園の園児さんたち40人が秋の遠足で来校されました。園児にとって、本校の一周300mの陸上グラウンドはまことに広く感じると思います。20人ずつ分かれ、半周の150mを全力で駆ける姿には思わず笑みがこぼれます。

 光台寺保育園と本校との関係は深いものがあります。春と秋の遠足での来校をはじめ、園外へのお散歩の途中によく本校を訪問してくれます。また、園児たちの工作の作品等を保育士さんたちが定期的に持参され、本校の玄関に飾り付けていただいています。来校者の方々が、「可愛い作品ですね。あれ、保育園児さんのですか?」と驚かれます。本校からも、福祉教養コースの生徒が保育実習で訪ね、また2年生の職場体験(インターンシップ)を園側に受け入れていただいています。このような相互の交流が日常的に行われているため、本校生も自然に園児たちを迎えて接しています。

 陸上グラウンドを走り回って空腹を覚えた園児たちは、直射日光を避けて第2体育館1階のピロティエリアで弁当を開きました。休み時間で出てきた多良木高校生は目を細め、笑顔で園児たちと触れ合っています。保育実習で光台寺保育園に行った生徒は、「お姉さんのことを覚えている?」と優しい表情で尋ねています。高校生にとって10歳以上も離れた幼児と接することは特別な時間となるでしょう。

 中高連携の重要性が説かれて久しくなりますが、多良木高校は、本の読み聞かせや学習支援で町内の小学校と密な交流を行うと共に、このように保育園とも触れ合う機会を大切にしています。

 多良木高校は学校をオープンにしています。保育園児が日常的に遊びに来る高等学校であることを誇りに思います。


 

図書室へようこそ

ようこそ図書室へ ~ 朝読書が始まります  

 多良木高校本館2階の図書室の入り口に、先日、思索する宮沢賢治の立ち姿のシルエットポスターが飾られました。司書の松本さんの力作です。松本さんは、専門の司書職以外に音楽、美術にも造詣が深く、その豊かな創造力を発揮して、紙型を切り抜き一気に宮沢賢治のシルエットを創り上げました。また、その脇には図書委員が作成した宮沢賢治の年表と代表作の説明が添えられています。これで図書室入り口がとても魅力的になり、生徒の皆さんが、自ずと入ってみたくなったのではないでしょうか。

 本校では、年々、生徒への図書貸し出し数が増えており、昨年度は生徒一人当たり年間14.4冊でした。県内の高校生の平均がおよそ10冊程度といいますから、平均を超えていることになります。今年はさらにその貸し出し数を増やすために、司書の松本さんが図書室内のレイアウトに工夫し、居心地の良い空間づくりに努めています。

 読書をしなければと身構えることはありません。今の自分にとって難しいと思えるものを無理して読む必要もありません。「ためになって面白い」のが本来の読書だと思います。自分の興味、関心のある本を手に取ってみましょう。もし、そのような本がなければ、司書の先生に相談してみてください。必ず出会いがあります。デジタル世代の高校生こそ、じっくりと本に向き合って、一人の時間を過ごすことが大切だと私は思っています。

 一人でいても好きな本を読んでいる時は、決して孤独ではありません。一人でいても豊かな時間があるのです。いつも友達とLINEで連絡を取り合っている人には、一人で本を読む時間は逆に新鮮ではないでしょうか。

 昨年度、ある図書委員の女子生徒がお薦めの本として『忍ぶ川』(三浦哲郎著)を挙げていたのには驚きました。昭和45年に発表され、同年の芥川賞受賞作です。今では古典作品と云ってよい、清らかな純愛物語ですが、平成の高校生にとっても魅力ある小説なのです。いつの時代も高校生の感受性は鋭敏でみずみずしいと私は思います。

 10月24日(月)から2週間の朝読書が始まります。「みんなでやる、毎日やる、好きな本でよい、ただ読むだけ」をモットーに朝8時30分から15分間行います。
 皆さん、気軽に図書室へ足を運びましょう。



朗読劇「銀河鉄道の夜」

朗読劇「銀河鉄道の夜」  

 朗読活動家の矢部絹子さんのご指導を受けた生徒有志による朗読劇「銀河鉄道の夜」(原作:宮沢賢治)の発表会を10月8日(土)に第1体育館にて行いました。矢部さんがナレーターを務められ、多良木町出身のプロピアニストの牧光輝さんがピアノ演奏をしてくださるなど、プロの方々に支えていただき、生徒有志6人がそれぞれ登場人物の役を務めました。

 振り返れば、7月下旬の夏休みから練習を始めましたが、最初は抑揚を付けることもできない棒読みで、感情を込めて表現する朗読の難しさを生徒たちは痛感したようでした。何度も繰り返し、それでも表現力がなかなか伸びず、目に涙を浮かべる生徒もいました。けれども、矢部さんの教育的情熱に基づくご指導が続きました。
 矢部さんは熊本市から鹿児島本線、肥薩線、そしてくま川鉄道と乗り継がれて、8月後半以降は毎週のように土曜日に来校され、多良木町に宿泊されて翌日もご指導に当たられました。その熱意、献身的姿勢に生徒たちは励まされ、次第に変化していきました。初めは戸惑い、そして朗読の難しさで不安に陥っていた生徒たちが、最終段階では進んでやりたいという意欲を見せるようになりました。

 学校で疎外感を覚えていた孤独な少年ジョバンニ。彼の唯一の友であるカンパネルラと一緒に不思議な銀河鉄道の旅に出て、みんなのために自分の体を燃やし続け空の目印になっているサソリや船の遭難事故で亡くなり天上へ向かう人々等と出会います。そして、「きっとみんなの本当の幸福(さいわい)を探しに行く。僕たちいっしょに進んでいこう。」とカンパネルラに呼び掛けます。しかし、旅の最後にカンパネルラは車内から忽然と消えるのです。ジョバンニは悲嘆にくれながらも、カンパネルラが人の幸せのために旅立ったことを悟ります。「みんながカンパネルラだ」という考え方に、ジョバンニはたどりつくのです。唯一無二の友達という考えから、出会う人すべてが友達になりえるという考えに転換できる可能性が示されます。

 
 生徒有志6人は役になりきり、感情を込めて朗読しました。かれらが創り上げた、永遠の友情をテーマとした「銀河鉄道の夜」の世界は多良木高校生の胸を大いに揺さぶったと思います。


 

 

 


全校合唱「群青」

全校合唱「群青」  

   「ああ、あの町で生まれて 君と出会い 

    たくさんの思い抱いて  一緒に時間(とき)を過ごしたね」

 合唱曲「群青」は、福島県南相馬市立の小高(おだか)中学校で2013年に生まれました。その2年前、東日本大震災で同校は被災し、津波で犠牲者が出ました。さらに福島第一原発事故によって校区が警戒区域に指定されたため、学校あげて避難することになりました。生徒たちは全国に散り散りとなり、大震災の時におよそ100人在籍していた1年生が2年次に進級した時には10人以下に減少しました。少なくなった生徒たちと共に、音楽教諭の小田先生が卒業の歌として創られたのです。

   「またねと手を振るけど 明日も会えるのかな

    遠ざかる君の笑顔   今でも忘れない」

 この「群青」を全校合唱しましょう、と本校の音楽担当の石尾先生が提案され、先日、体育館にて全員で歌いました。多良木高校全校生徒およそ200人が気持ちを込めて歌いました。男子の力強い声、女子の優しい声が調和して、体育館に響き渡り、全員の気持ちが大きく一体となったようなハーモニーを創り上げました。聴く私たち教職員の胸に熱くこみ上げてくるものがありました。歌詞の「あたりまえが 幸せと知った」というフレーズには重みがあります。

 指揮をされる石尾先生の頬には涙が伝い、最後に生徒たちに「多良木高校はあと2年あまりで閉校となるけれども、その後もみんなで会いましょう。」と涙声で呼び掛けられました。

   「きっと また会おう あの町で会おう

    僕らの約束は 消えはしない 群青の絆」

 

  『群青』福島県南相馬市立小高中学校 平成24年度卒業生 構成 小田美樹