校長室からの風(メッセージ)

2015年9月の記事一覧

PTA活動への期待

PTA活動への期待

 多良木高校PTA行事として、9月26日(土)、体育館で保護者・教職員合同の親睦ビーチバレーボール大会を開きました。ビーチバレーボールは1チーム5人制ですが、各クラスで、保護者と担任副担任で5~6人のチームを編成し、私も入った職員チームも加わり、計7チームで試合を行いました。気温が30度近くまで上がる暑い日で、歓声をあげながらプレーに興じ、快い汗を存分に流すことができました。優勝は1年1組、応援に来ていた生徒の加勢を得た職員チームは最下位を免れ6位でした。一緒にスポーツを楽しむことで保護者同士、そして保護者と教職員との親睦が深まりました。

 さて、地元に密着している小・中学校に比べて、生徒の通学圏が広域にわたる高等学校のPTAはつながりの弱さや活動の難しさがよく指摘されます。確かに本校においても、保護者の方々の負担減を図ってPTA行事を精選していますが、参加される方の固定化や行事のマンネリズムの傾向が見られます。しかしながら、通学圏が市町村をこえて広がる高等学校においては、学校と保護者、学校と地域、そして保護者同士をつなぐことはPTAにしかできないと言えるのです。即ち、高等学校においてもPTAの果たす役割は大きいものがあると私は考えています。

 保護者が自分の子どものためだけでなく、他の子ども、そして学校全体の生徒達のために活動する姿は、子ども達にどう映るでしょうか? PTAの役員を引き受けておられる保護者の子どもが生徒会役員を志望する割合が高いのは理由があると思います。保護者がPTA活動に取り組まれる姿は、子どもに対して、自分を抑制し公のために努力することの大切さを無言で伝え、自らを律する心を育てることにつながると信じます。

 さらに、近年、少子高齢化が進む地域の高校のPTA活動は、学校の活性化をとおし地域起こしに貢献しています。高校を拠点とした地方創生の動きにPTAは重要な役割を担っているのです。PTA活動が新たな段階(ステージ)に入った感じがします。保護者の皆さん、私たち高校の教職員、そして他の地域の方々との出会いを楽しんでください。ただし、くれぐれも無理はされず、「できる時にできる人ができる事をする」という精神でお願いします。


 

 

棚田に思う

棚田に思う ~ 人がつくった文化的景観

 多良木高校に赴任して2年目ですが、球磨人吉地域でまだ訪ねていない所が数多くあります。この9月の連休(シルバーウイーク)に球磨村の棚田を見に行きました。球磨村には多くの棚田があることで知られています。今は、稲穂が黄金色に輝き、棚田が最も映える時季だと思います。

 球磨村の渡(わたり)の相良橋で球磨川をこえ、相良三十三観音の一つである鵜口(うのくち)観音堂に参り、山道を上りました。道は狭く曲がりくねり、運転には神経を使います。鵜口の棚田、梨で有名な毎床(まいとこ)の棚田を眺め、いよいよ目的地の松谷(まつたに)棚田を一望できる場所に着きました。標高150mから250mの間の山の斜面に、大小さまざまな形の田が織りなす風景にしばし我を忘れて佇んでいました。松谷棚田は農林水産省の「日本棚田百選」、その後、文化庁の国の重要文化的景観にも選定されました。

 棚田は「文化的景観」と言われます。人が苦労して創り上げた景観なのです。松谷の棚田は、この地区の先人が、江戸時代から急斜面に石を積み上げ、水を引き、黙々と拓いて、引き継がれてきたものです。人力による協働作業で気の遠くなるような労力をかけて米をつくってきたのです。その刻苦にただ頭が下がります。「耕して天に至る」。棚田を表現する時によく使われる言葉ですが、人間の力とはいかに凄いものか、棚田を見ると実感します。

 「松谷棚田のことを知っている?」と球磨中学校出身の生徒に尋ねてみたら、知っていますとはっきり答えました。松谷棚田の近くにある交流体験館「さんがうら」(旧一勝地第二小学校)に宿泊した体験も持っていました。「棚田は先人の方々が汗水流し、子孫のため、即ち君たちのために造ってくれたものです。だから、感動を呼ぶのです。誇りに思ってください。」と私が語ると、生徒は深く頷いてくれました。          


 


松谷棚田の風景
 

仏の里を歩く~相良三十三観音巡り

仏の里を歩く ~相良三十三観音巡り

 「暑さ寒さも彼岸まで」。彼岸が近づくと、亡くなった祖母がよく口にしていたこの言葉を思い出します。球磨盆地も、朝夕は秋風が立ち、黄金色に実った田の畦には彼岸花の朱色が鮮やかに添えられ、季節が変わろうとしていることを実感します。そして、人吉球磨地方に秋の訪れを告げる相良三十三観音の一斉開帳が9月20日から26日にかけて始まりました。

 球磨盆地に点在する一番札所から三十三番札所までの観音堂には三十五体の観音像がまつられていて、春と秋の彼岸の時期に一斉開帳され、それらを巡礼する相良三十三観音巡りは江戸時代中期から続いています。観音菩薩は変幻自在に姿を変えて現れ、人々の願いを受けとめる慈悲の仏様で、いずれも優しい姿をしていらっしゃいます。観音像の多くは旧道や田圃の脇、林の中などにひっそりとあるお堂に安置され、地域の方が永く守り伝えてこられたものです。これらの観音堂はのどかな田園風景に溶け込み、素朴な風情があります。

 また、それぞれのお堂では地域の方々が心尽くしの手料理、お茶、お菓子を振る舞われます。この温かいお接待が相良三十三観音巡りの大きな楽しみです。昨年も2日間巡りましたが、今年も22日、23日と訪ね歩き、仏様を拝観し、地域の方々のおもてなしを受け、まことに平和な時間を過ごしました。二十二番の上手観音(あさぎり町須恵)では、本校職員のご母堂がお接待をされていて、偶然の出会いとなりました。なお、私が最も魅了されている観音様は二十八番の中山観音(多良木町奥野)です。平安時代につくられた、檜の一木造りのまことに品格ある聖観音像です。四天王像に守られての立ち姿は、この世のものとは思えない気高さが漂います。昨年、今年とすでに三度お参りしました。

 三十三観音巡りについて、生徒の皆さんに尋ねてみると「知ってはいますが…」、「祖父母がお接待をしていますが、私は参加していません。」等の答えが多く、あまり関心がないようです。少し残念ですが、今はそれで良いのかもしれません。年齢を重ねていくと、きっとこの風習のゆかしさ、古仏や観音堂を守り継承されてきた先人の努力の尊さを再発見することと思います。そして、この遺産を受け継ぎ、未来につなげていこうという気持ちになってくれることを願っています。

                           


                     二十八番中山観音

 

デジタル世代の君たちへ

デジタル世代の君たちへ ~ 直接、対話しよう

 「今までは『電話なんかで済ませるな』   今では『せめて電話で話せ』」

 山形県の高校生の作であるこの短歌を新聞で目にした時、思わず苦笑しました。スマートフォンと無料通信アプリLINEの急速な普及に伴い、高校では情報モラルやマナーのあり方についての指導が後手に回っている観は否めません。高校生の皆さんは、物心がついた時からインターネットを介してのコミュニケーションが当たり前の環境で生活しており、デジタル世代、またはデジタルネイティブと呼ばれています。インターネットの利便性については改めて申すまでもなく、世界の情報、通信のあり方を根本から変え、人々の暮らしそのものに大きな影響を与えています。

 しかし、高校生の皆さんの情報モラルやマナーは、ネット環境の進展に見合うものでしょうか? 電車内や歩行中、あるいは入浴、食事中さえスマートフォンを手から離さない極度の依存、LINEトークや掲示板、ブログ等への自己中心的な書き込み、誹謗・中傷などの状況が見られます。そして、残念なことにネット上の問題から人間関係のトラブルに発展する事例も起こっています。

 昨年度、生徒会が中心となって「携帯電話等(スマートフォンを含む)の使い方の多高生のルール」を決めました。人吉・球磨の県立学校共通ルールとして午後10時から午前6時までは使用しないこと、その他に個人情報を載せない、勉強中及び食事中には使用しない等の決まりがある中、「大切なことは直接伝える」という項目があります。このことは、人間関係において基本であり、とても大事なことと思います。皆さん、直接、相手の顔を見て、話しましょう。対話することでより良い人間関係を築くことができます。

 また、デジタル世代の皆さんは、すぐに結論や答えを求める傾向にあることも気になります。生活していく上で、人間関係をはじめ簡単に解決できない問題と必ず遭遇します。その時、インターネットの検索のようにただちに答えが見つかるわけではありません。自分でじっくりと考え、信頼できる大人や友人に相談することが重要です。

 スマートフォンは大変便利なものですが、生活をしていくうえの道具(ツール)の一つでしかありません。何かに夢中になっていて、今日はスマートフォンを触ることを忘れていたというような日がもっとあっていいと思います。そして、「対話すること」、「じっくりと考えること」を心掛けて高校生活を送って欲しいと期待します。

                            多良木高校校舎正面

3年生を励ます ~3年進路激励会

3年生を励ます  ~ 3年生進路激励会 ~

 「どんな時にあなたは幸福だと感じますか」という問いに対して、30代以上と10代20代の世代では考え方が大きく異なる結果が出ています。30代以上の世代、即ち大人は、「平穏無事」の言葉に象徴されるように、昨日も今日もそして明日も大きな変化がなく、無事に生活できることが幸福だと答えています。私もそうです。しかし、10代、20代の若者世代は違います。将来への希望がある状態が幸福だと答える人が多いのです。将来は看護師になりたい、大学の工学部で勉強し、就職してエコカー開発に関わりたい等の希望を持ち、それに向かって努力し、自分の生活が変化していく過程(プロセス)こそ、最も充実した幸せな時間なのでしょう。

 鍵は、未来において何かが自分を待っていると信じることができるか、だと思います。この期に及んで、高校時代を振り返り、もっと勉強しておけば良かった、部活動で頑張っておけば良かったと後悔して前に踏み出すのが遅れている人はいませんか?「振り向くな 振り向くな うしろには夢がない」と劇作家で詩人の寺山修司はかつて若者に呼びかけました。大切な事は「今、ここで」です。多良木高校3年の今、できることに全力で取り組みましょう。

 また、他の人の動きが気になり、つい比較して焦ったり、逆に「どうせ自分は」などと消極的になったりしている人はいませんか?皆さん一人一人に個性があるように、高校3年生の進路は多様です。「競走するなら自分と競走してください」。そして、「これでいいのか、今のままでいいのか」と自分自身と対話して、時には自分を叱ってください。

 まとめとして、具体的なことを皆さんに望みます。教室で、図書室で、受験勉強はお互いに教え合ってください。友達は身近な先生です。面接の練習もお互いで批判し合って、取り組んでみてください。勉強も面接も繰り返すことが大切です。同じ事を繰り返す中で、コツをつかんでいきます。量は質を高めます。そして、私たち教職員を大いに頼り、活用して欲しいと思います。皆さん全員の進路希望の達成に向けて、3学年の先生方だけでなく、本校の全ての教職員が協力します。すでに校長室は模擬面接用に模様替えしています。昼休み、放課後、いつでも来てください。また、早々に9月中に就職や推薦入試で合格を得たとしても、これから受験するクラスメイトのこと、学年全体のことを常に意識していて欲しいと思います。皆さんはチーム多良木の一員だからです。

 結びになりますが、2学期始業式で語った言葉を重ねて伝えます。「助け合い、励まし合い、志高く」。私からの激励の言葉を終わります。