校長室からの風(メッセージ)

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旧白濱旅館のリニューアル

旧白濱旅館のリニューアル   

 多良木町の校長会が1026日(木)に開かれました。普通、町教育委員会主催の校長会は町立小、中学校で行われるのですが、多良木町の場合は県立学校の球磨支援学校と多良木高校も加えていただき、地域の情報を共有できる貴重な場となっています。いつもは役場庁舎で開催されますが、今回は今月1日にリニューアルされた旧白濱旅館が会場で、興味深く館内外を見学できました。

 旧白濱旅館は、明治時代に旅館として創設され、記録としては明治41年までさかのぼります。東洋大学創始者で仏教哲学者の井上円了はじめ多くの文化人に愛用された旅館ですが、中でも大正8年に来訪した九条武子の宿として知られています。「九條武子殿御旅館」と墨書された大きな木製看板が保存されていることから、いかに旅館にとって名誉なことだったか偲ばれます。

 九条武子は浄土真宗西本願寺の門主の家に生まれ、大正時代を代表する歌人としても名高い人物です。仏教婦人会活動の一環として多良木を訪問しており、白濱旅館では本館の南側に九条武子の宿泊用に増築して迎えています。人吉球磨地域は、江戸時代、相良藩の方針で浄土真宗は禁制であり、明治になって解禁されました。本願寺としても布教活動に力を入れ、九条武子が訪問することになったのでしょう。

 旧白濱旅館が立つ場所は多良木町の中心地の国道219号沿いです。明治22年に町村制が敷かれ、多良木村の初代村長(多良木町となったのは大正15年)が札幌まで視察に赴き、当時としては破格の幅員が五間(約10m)の直線道路を整備しました。通称「五間(ごけん)道路」と呼ばれるこの広い道路沿いに旧白濱旅館は建てられたため、その後も道路拡張の必要はなく古い建物が残されたと云われます。けれども、3年前、私が多良木高校に赴任した時にはすでに旅館は廃業され、老朽化した建物だけが佇んでいました。

 しかし、町の黎明期を物語る歴史的価値が重視され、多良木町は全面的に修復工事に取り組み、リニューアルオープンの運びとなったのです。国道沿いの建物(「明治棟」)は町民が様々なことに活用できるコミュニティスペースとなり、南側の建物(「大正棟」)は簡易宿泊もできる施設として利用されることになります。旧白濱旅館の近くには昭和16年に建造された旧多良木高等女学校講堂(現在は町民集会所)など歴史的建造物が幾つも残っています。地元では、歴史を感じながら街を歩こうと「ブラタラギ」のキャッチフレーズで呼びかけが行われています。