校長室からの風

柔道部の初稽古と鏡開き ~ 新春の部活動スタート

 新春は、光も空の色も空気さえも清々しく感じられるから不思議です。私たちにとって、正月は暦の上で新しい年になったという以上の大きな意味があります。それは再生とでも言うべき、新しく生まれ変わったような感覚が伴います。初日の出、初夢、初詣などすべてに「初」の冠をつけますが、これは初々しさにつながります。また、元日の朝に初めて飲む水を「若水」(わかみず)と称しますが、これも邪気を払うにふさわしい清新な語感です。

 1月4日(水)の仕事始めの日は、小春日和に恵まれました。風は多少ありますが、陽射しのもと校内を歩くと春が来たかのような気持ちとなります。そして、学校に活気が戻ってきました。多くの部活動が練習を今日から始めたのです。なかでも熱気を発していたのが、女子柔道部でした。

 柔道場には、大学や専門学校へ進学、または就職した先輩たちが十数人ほど来ていました。そのうち7~8人は柔道着に着替え、部員の練習相手になってくれました。高校生側は進路が決まった3年生全員も参加しており、卒業生も合わせるとおよそ30人が練習し、柔道場が狭く感じられました。環太平洋大学(IPU)、近畿大学、鹿屋体育大学、警視庁などで活躍するそうそうたる先輩たちの胸を借り練習できる貴重な場です。強い人と戦ってこそ、強くなります。1,2年生も実力の差はあっても、懸命に組み合って、投げられても先輩に幾度も挑んでいく姿にたくましさを感じました。

 そして、1,2年生の部員たちにとって、西高柔道部の伝統の絆を実感する機会にもなったと思います。貴重な正月休みに帰省した先輩たちがわざわざ母校の柔道場に集い、練習相手になってくれると共に、柔道の助言をはじめ大学や専門学校、職場の話を聞くことができます。あの先輩がいる大学に私も進もう、という進路目標も生まれます。

 また、稽古始めのこの日は、柔道部の保護者の方々が西高セミナーハウスの調理室で雑煮を作られ、練習後に部員や卒業生に振る舞われました。まさに鏡開きです。正月のお供えの餅(鏡餅)を割って雑煮や汁粉にして食べる風習を「鏡開き」(かがみびらき)と言いました。正月気分との決別も意味します。

 卒業生及び保護者の皆さんのご協力によって、柔道部の稽古始めはとても充実した、心温まるものとなりました。深く感謝します。

                                     「校長室からの風」

 

絵馬奉納 ~ 美術部の地域貢献活動

 小春日和の陽射しのもと、12月26日(月)、西高美術部が制作した大型絵馬が高橋稲荷神社に奉納され、社殿入口の正門に飾り付けられました。新年の干支は癸卯(みずのとう)であり、朝日の曙光を背景に兎の親子や縁起ものの松を描いた作品です。縦90㎝、横180㎝の木板上、色彩豊かな画面に仕上がっています。高橋稲荷神社に初詣に訪れる方を温かく迎える絵馬となりそうです。

 高橋稲荷神社(西区上代)は西高と同じ城山校区にあり、2002年(平成14年)から美術部が毎年の干支にちなんだ絵馬を制作し、奉納を続けており、今回で22枚目となります。美術部の恒例行事となっており、今年も部員の西田さん(2年)が全体のデザインを考え、部長の中山さん(2年)を中心に8人の部員で協力しおよそ2週間で制作しました。今回の奉納では、高橋稲荷神社の竹内宮司夫妻に出迎えていただきました。「高校生の手作りの絵馬を飾って、正月を迎えられることは誠に有難いことです。西高生の皆さんにはいろいろとお世話になっており、助かっています。」と感謝の言葉をいただきました。

 高橋稲荷神社の正月の巫女のアルバイトを西高の女子生徒が務めます。また、日ごろから広い境内の清掃活動には野球部はじめボランティアの生徒が訪れています。地域の公共の場である神社の美化に西高生が自主的に努めていることを誇りに思います。そして、美術部はその特技を生かしての美術部らしい地域貢献を長年行っていることを頼もしく思います。

 美術部員は放課後や休日には美術室に集い、いつも和やかな雰囲気で活動を楽しんでいます。奉納絵馬の共同制作の時は特ににぎやかな様子で、ほほえましく感じます。しかし、一人ひとりは創作に真剣に向き合っており、公募展では目覚ましい成果を示しています。「くまもと描く力2022」展では坂本君(1年)が大賞。第47回熊本県高等学校美術展では山口さん(1年)が優秀賞で九州総合文化祭(佐賀)出場、そして魚山さん(2年)は最優秀賞に輝き、来夏の全国高校総合文化祭鹿児島大会への出場を決めています。

 今年も年の瀬を迎えました。先週は寒波襲来でした。コロナウイルス感染の波も引きません。このような中でも、美術部だけでなく多くの部活動の生徒が登校し、練習に励んでいます。若さというものも有限です。いま、この高校生の時に、本当に好きなことに打ち込むことが大切です。そのことがこれからの人生を支えることになると思います。応援しています。

「校長室からの風」

希望の光を ~ 2学期終業式

 一年前、「来年こそは、世界のコロナパンデミックが終熄することを皆さんと共に願いたいと思います」と2学期終業式の挨拶をしました。その願いも空しく、今年もパンデミックは続きました。

 また、2月に勃発したロシアによるウクライナへの侵攻も長期化し、現地は厳しい冬が到来している模様です。ロシア軍の攻撃によって、電気、水道、ガスなど社会生活の基盤となるライフラインが大きなダメージを受けているウクライナ住民は過酷な寒さをどう乗り越えていくのでしょうか? 日本とウクライナは約8000㎞も離れています。しかし、遠い国のことと思ってはいけません。今のローマ教皇、フランシスコ教皇は、自然災害、内乱、戦争などの被害で苦しむ社会的弱者の人々を前にして、このような言葉を発しました。「Why them,and not me?」(なぜ彼らであって、私ではないのか?) なぜウクライナの人々であって、日本人の私ではないのか? 「平和な日本に生まれて良かった」で片付く問題なのでしょうか? 21世紀のいま、地球上で共に生きる人間同士として、フランシスコ教皇の言葉をかみしめ、自問自答したいと思います。

 ローマ教皇の言葉を紹介しましたが、今週土曜24日がクリスマスイブ、25日がクリスマスですね。世界で最も信仰する人が多い宗教のキリスト教、その創始者であるイエス・キリストの誕生を祝福する聖なる日です。けれども、イエスキリストという人物が12月25日に生まれたという記録はどこにもありません。聖書にも書かれていません。では、なぜ12月25日に生まれたことになったのでしょうか? キリスト教が成立し、最初に広まったのはヨーロッパをはじめ北半球です。日本も含む北半球はこの時期が最も昼が短く夜が長くなります。日本では冬至と呼ばれる日があります。今年は12月22日(木)が冬至で、1年で最も昼間の時間が短い日です。夜の闇に長く支配されていた北半球が光を取り戻し、一日一日、昼の時間が長くなっていく変わり目の時期なのです。そのような時に人々に光をもたらす救世主イエスキリストが誕生したのだとヨーロッパの人は考えたのでしょう。

 「冬来たりなば春遠からじ」と言われます。これから一日一日、太陽の時間が長くなります。新しい年を、希望の光をもって迎えましょう。皆さん、良いお年を。

 「校長室からの風」

              2学期表彰式・終業式の様子

「小さな世界」の愛しさ ~ 2年生修学旅行その2

「修学旅行でディズニーランドに行くのですか? 反対です!」

 20代の青年教師だった頃の私は、当時勤務していた高校の修学旅行実施検討会で反対論を唱えました。アミューズメントパークの体験は、修学旅行の趣旨から逸れると思ったのです。テーマパークは家族や友人と行って楽しめば良い所で、修学旅行では個人的に行かないような学びの場に連れていくべきだという持論がありました。私のような意見の教職員が当時は少なくなかったと思います。しかし、この時の修学旅行のクラス別自由研修で、生徒の圧倒的希望によって私の担任クラスはディズニーランドへ行くことになりました。

 東京ディズニーランドは1983年(昭和57年)に千葉県浦安市にオープンしており、20代後半だった私が引率者として初めての修学旅行で訪ねた時は、オープンして10年経っていなかったと思います。生徒たちと入園し、その来場者の多さと破格のスケールの施設・設備に驚かされました。「世界中の人々に夢を与える」という創始者ウォルト・ディズニーの精神が体現化されていると思いました。そして、キャストと呼ばれる働く人々(スタッフ)のきめ細かいサービスに魅了されました。小さなゴミでも落ちていると見逃さず素早く掃除して回るキャストの動きは特に印象に残りました。アメリカンドリームに日本のおもてなしの接客文化がミックスされていると感じました。

 絶叫系アトラクションは避け、あまり並ばずに体験できるものを選び、クラスの生徒数人と、「イッツ・ア・スモールワールド」というアトラクションに乗りました。ボートに乗って、各国の民族衣装の子どもたち(人形)が歌い、踊る様子を見ながら世界を周遊するものです。「世界中どこだって 笑いあり涙あり みんなそれぞれ助け合う 小さな世界」と子供たちの歌が響く中の世界一周はとても穏やかな気持ちとなり、幸福感を覚えました。

 あの日からおよそ30年。12月9日(金)、熊本西高2年生修学旅行引率で東京ディズニーランドを訪ねました。引率の先生2人と「イッツ・ア・スモールワールド」に乗りました。また、私が薦めたこともあってか、多くの生徒たちも乗ったようで、「平和の大切さを感じました」とある生徒が笑顔で感想を語ってくれました。テーマパークからも多くのことを学ぶことができます。

 今回の修学旅行体験が愛しい記憶となって残り、生徒たちのこれからの人生を根底から支え続けることになってほしいと願っています。

「校長室からの風」

       西高2年生修学旅行2日目 東京ディズニーリゾート(ランド・シー)

モノより体験を ~ 2年生修学旅行

 修学旅行は、高校3年間で一回の唯一無二の学校行事です。新型コロナウイルス感染症パンデミックが発生して以来、本校では体育コースのスキー研修を除いて修学旅行は実施できていませんでした。そして、ようやく今年度、2年生サイエンス情報科(1組)と普通科(2~6組)の合同修学旅行を実現できました。12月8日(木)~11日(日)の3泊4日、首都圏への修学旅行です。

 8日の朝、体育館での出発式の際、団長として校長の私は生徒たちに語り掛けました。

 「若い皆さんに必要なのはモノより体験です。旅行は大きな体験。そして旅行は、いつ、誰と一緒に行ったかが重要なのです。感受性豊かな高校生の時に級友たちと行く修学旅行はかけがえのない体験となるでしょう。」

 天候に恵まれた4日間でした。よく晴れ、暖かでした。そして、私たちの予想以上にどこの観光地も大変な人出で賑わっていました。外国人観光客も多かった浅草寺の仲見世通り。夕闇のイルミネーションが華やかで幻想的だった東京スカイツリー並びにソラマチ、平日にかかわらず人人人の「夢の国」ディズニーリゾート(ランド及びシー)、クラス別研修で訪ねた原宿表参道や横浜ベイエリアや中華街の混雑ぶり等。まだコロナ禍は終息していないにもかかわらず、旅行を制限されてきたフラストレーションの反動のような状況です。

 しかし、このような祝祭的ムードの中にあって、西高2年生は学びの旅の自覚をもち、節度ある行動をとり、頼もしく思いました。ディズニリゾートでは他県の高校生の乱れた制服姿に思わず眉をひそめたくなりましたが、西高生の制服姿は普段と変わらないものでした。羽田空港や熊本空港においても約200人が整然と並び、公共の場のルールを守りました。4日目の日本科学未来館(東京江東区)では、最終日の疲れも見せず、最新のテクノロジーや宇宙・生命の探究にかかわるそれぞれのコーナーで熱心に見学し、スタッフの説明に質問する姿がありました。そして、4日間を通して、生徒たちの笑顔、好奇心で輝く表情、いきいきとした様子が見られました。

 全国旅行支援の地域別クーポンを東京、千葉で得られたこともあり、生徒たちはたくさんのお土産を購入していました。家族や友達へお土産の品を渡す喜びもあるでしょう。けれども、「みやげ品」よりも「みやげ話」を家族は待っておられるよと私は生徒たちに言いました。モノより豊かな体験をしてくれることを願い、保護者の方々は旅費を出されていると思います。

 コロナ禍の修学旅行はリスクがあります。しかしそれでも実施することの教育効果は大きいと信じています。

「校長室からの風」

 

未来を創る ~ 福島県立ふたば未来学園高等学校を訪ねて

 「生徒たち一人ひとりが未来です。」

 福島県立ふたば未来学園高校の学校説明での言葉は深く胸に刻まれました。平成23年(2011年)3月に起きた地震、津波、そして福島原子力発電所の事故によって、福島県双葉郡内にあった富岡高校をはじめとする五つの高校は休校となり、多くの高校生は郡外、または県外へ避難しました。未曽有の自然災害と原発事故によって離散するという過酷な体験となりました。やがて次第に人々がふるさとへ帰還する中、平成27年に双葉郡の復興、創生の拠点として福島県立ふたば未来学園高校が開校されました。

 「自分自身と社会の変革者たれ」のモットーのもと、普通科教育、農業、商業、福祉の専門科教育、そしてトップアスリート育成のスポーツ教育の特色ある学びが展開されています。11月24日(木)、ふたば未来学園高校を体育科の先生方と訪問しました。令和4年度全国高等学校体育学科・コース連絡協議会総会・研究会が同校で開催され、それに出席するためです。福島双葉郡広野町の高台にある同校は、まさに未来の学園でした。バドミントン専用のアリーナはじめ新しく機能的な教育施設がそろい、ため息が出るほどです。また校舎の中にNPOやボランティアの人々が運営するカフェやコミュニティスペースもあり、学園に隣接して町のスポーツ・文化施設が広がり、まさに地域社会と一体となった学園でした。

 福島の高校生は、避難、コミュニティの崩壊、転校、そして帰還した時のふるさとの変景など混乱と動揺の体験を通じて、新しい生き方、新しい社会を創っていかなければならないという大きな課題に直面しています。ふたば未来学園高校の授業、学校生活の様子を見て、生徒たちは、それに向かって、使命感をもち、主体的に踏み出しているように感じました。彼らが福島の未来を担っていくと思うと、深い感慨を覚えました。

 3・11のあの日以来、激動の日々を生きてきた福島の高校生と比べることはできませんが、どこの地域の高校生にも未来を担うことが期待されています。生徒を育てる高校の役割は、未来を創ることだとあらためて実感しました。

 「合格が決まりました」と笑顔で推薦入試の結果を校長室へ報告に来てくれる3年生が増えてきました。「これからが勉強だよ」と励まします。生徒の笑顔に未来を感じる日々です。

(追記)

  令和6年度全国高等学校体育学科・コース連絡協議会総会・研究会は熊本西高が会場です。

                                         「校長室からの風」

           ふたば未来学園高等学校の様子

伝説の指導者 ~ 西高なぎなた部を創った一川治子先生

 「新人戦は、攻める姿勢が大切。たとえ相打ちになってもよいから、攻める。負けたくないという気持ちで防御に力を入れる選手は伸びません。」

 新人戦の見どころを尋ねた私に対して、一川先生は明言されました。また先生は、審判の姿勢に関しても次のように述べられました。

 「最後の高校総体ではないのだから、選手たちはまだまだ未完成。審判が考える理想の一本は遠い。多少、当たりが浅い、姿勢が不十分な面があっても、勢いがあれば一本取ってやっていい。そのことで選手を伸ばすのが新人戦です。」

 11月13日(日)、熊本西高体育館にて「令和4年度熊本県高等学校なぎなた新人戦大会」が開催されました。私は県高体連のなぎなた部会長として臨みましたが、このような県大会は県なぎなた連盟から審判のご協力を得ることになっており、同連盟副会長の一川治子先生には必ずご出席いただき、審判長をお願いしています。一川先生がいらっしゃることで大会が引き締まります。先生は、試合会場へいらっしゃると、本部席のところに必ずお香を立てられます。日頃、ご指導されている熊本武道館において武神に供える習わしです。この香りで、勝負の場が清められたような感じとなり、私たちも気持ちが落ち着きます。

 一川先生は、熊本西高なぎなた部を創った方です。平成3年の西高体育コース発足以来20年間、女子なぎなた部の監督として指導に当たられ、平成13年から平成17年にかけて全国高校総体なぎなた競技団体で5連覇、そして通算7回優勝という空前の偉業を成し遂げられました。この他、国体において熊本県チームを幾度も優勝に導くなど、なぎなたでは全国に知られた伝説の指導者です。

 西高の監督を退かれておよそ15年になりますが、背筋は伸び、声も張りがあり、なぎなた競技への情熱はいささかも減じておられません。現在も熊本武道館において子どもから高校生、大人まで指導をされ、生涯現役を貫いておられます。

 大会の度に一川先生とご一緒でき、長いご指導の経験談やなぎなたの奥の深さについてご教示いただくことが私にとってはかけがえのない時間です。

 「会場を整え、審判員がついた公式戦を用意することが大人の役割。選手は試合をすることで伸びていきます。ほら、見てください。初戦にくらべ、試合を重ねるごとに内容が良くなっているでしょう。」

 武道の、いや人生の達人の慧眼に感服しながら、初々しくもはつらつとした新人戦大会を観戦できました。西高なぎなた部の伝統はこれからも続きます。

「校長室からの風」

                全国高校総体なぎなた競技団体5連覇の記念写真

西高「朝の読書」

 西高では朝の8時30分から10分間、全校一斉の「朝の読書」時間となっています。学校全体が静寂に包まれ、落ち着いた時間で一日の始まりとなるのです。西高「朝の読書」の4原則があります。

 1 みんなで読む 2 毎日、読む 3 好きな本でよい 4 読んで知る

 多くの高校で朝の読書が実施された時期がありましたが、現在では少なくなったと思います。西高では、「朝の読書」を継続しています。

 西高は教育のICT(情報通信技術)化の波に乗り、県のICT特定推進校として学習活動をはじめ学校行事や職員の校務にタブレット端末などICTを率先して活用しています。社会の急速な情報化に主体的に対応できる人材育成のために教育のICT化は不可欠です。一方、学校教育はバランスが大切です。西高では伝統の体育的行事や地域社会の課題に取り組む探究活動など自ら身体を動かす実体験を豊富に取り入れています。ICTの進化に伴い、身体性や五感を豊かにしていくことが心身の成長に益々重要となっています。「朝の読書」もそういう観点から、大切な時間と思います。紙の本の手触り、自分と向き合うひと時、クラス全員で静けさを創り出す協調性など特別な時間となっています。

 長期化するコロナ禍の中、自宅にて一人でできる読書が再注目されています。読書は心の良薬とも言われます。不安、焦燥、失意などの動揺する気持ちが、自らの内面との対話で鎮まっていきます。また、本は読者をいろいろなところへ連れて行ってくれます。

 「読書の習慣を身につけるということは、人生のほとんどすべての苦しみから逃れる避難所を自分のためにつくるということだ。」(サマセット・モーム)

 情報が氾濫する今日、本当に必要なのは情報を体系化した知識です。そしてそれは本を読むことで初めて得られる場合が多いことを私たちは知っています。ロシアによるウクライナ侵攻に関して、連日おびただしい情報が様々な立場から発信されています。情報の渦中にあって、受け手の私たちは何を信じてよいのか、一つひとつの情報を整理する余裕がありません。しかし、一冊の書籍がそれを助けてくれることがあります。『物語 ウクライナの歴史』(黒川祐次、中公新書)はロシアの侵攻前に出版されていた本で、ウクライナの歴史や地理、地政学的問題について、元ウクライナ駐在大使の筆者が丁寧に著しています。私はこの本を読み、初めてウクライナの置かれた立場やロシア侵攻の背景が理解できたような気持となりました。私は西高の図書館でこの本と出会いました。西高生の皆さんにもぜひ読んでほしいと願っています。

 「ひと それぞれ 書を読んでいる 良夜かな」(青邨)

 かつての日本にあったこのような風景を取り戻せたらと思います。

「校長室からの風」

                 西高の図書館

みんなで歩く、ひたすら歩く ~ 西高チャレンジウォーク開催

「ゴールしたら、豚汁が待っている。頑張ろう」

 足取りが重くなった生徒に励ましの声を掛け続けました。しかし、それは私自身を奮い立たせる声掛けでもありました。11月2日(水)、爽やかな秋空の下、西高チャレンジウォークを開催しました。西高を出発し、本妙寺の加藤清正公銅像まで往復の15.6㎞を歩く行事です。

 体育コースの生徒は7時45分には出て、各ポイントに立ち、交通安全やコースの誘導をしてくれます。一般生徒は8時半から2学年、1学年、3学年の順でスタートしました。それぞれ4~8人のグループ別に歩くことになります。担任の先生はクラスの生徒たちと共に歩きます。私も昨年に続き参加しました。昨年は一番最後からゆっくりと歩きましたが、今年は最初にスタートした2学年の真ん中あたりで歩き始めました。

 坪井川の穏やかな流れ、高橋稲荷神社近くの朱色の橋、薄く色づき始めた金峰山を左手に見ながら谷尾崎の道、そして島崎の丘陵地からいよいよ本妙寺の坂へと向かいます。最後の石段はとてもこたえ、足をやっと持ち上げながら清正公銅像に到着。この高台からの熊本市街地の眺望が良く、疲れが癒されました。

 復路は、本妙寺名物の「胸突き雁木」と呼ばれる古い石段を下ります。6年前の熊本地震で損傷を受けた仁王門が、今年は完全に修復された姿を見せていました。現在、西区では金峰山山系の山麓を通過する「熊本西環状道路」の花園ICから池上(いけのうえ)ICの区間の工事が進んでいます。歩いていて、大型重機が動きトラックが出入りする様子が目に入ります。変わる風景の中に、変わらないものもあります。柿の実がなり、薄(すすき)がそよぐ秋の里山は変わりなく、歩く私たちを優しく迎えてくれます。足は重くなり、疲労を全身に感じてきますが、それでも、みんなで歩く、ひたすら歩くという営みはとても尊いと思えてきます。

 学校にゴールした時の達成感は何物にも代えがたいものでした。私は約3時間半で完歩。生徒たちも次々に笑顔でゴールしてきます。西高から本妙寺まで、自動車なら往復30分程度でしょう。早くて便利ですが、充足感はありません。自らの足で西区の道を踏みしめながら、クラスメイトと談笑し、励ましあい、歩き通したからこそ、かけがえのない体験となったのです。

 今年は3年ぶりに保護者の皆さん(育西会)によって豚汁がつくられ、歩き終えた生徒、職員に振舞われました。温かくおいしい豚汁の味は忘れられません。

「校長室からの風」

ゴールして豚汁をもらう生徒達

 

演劇部から突きつけられた問い ~ 県高校演劇大会

「59点と60点の間にラインを引くという指示を出しているあなたは、いったい誰なんですか!」

 この台詞(せりふ)が響き、熊本西高演劇部の「合格ラインはやってきた!」の舞台の幕は下りました。この最後の台詞は私の胸に突き付けられたように感じました。深いメッセージに気持ちが揺さぶられました。

 第71回熊本県高等学校演劇大会城北地区・熊本市地区大会が10月21日(金)~23日(日)に熊本市植木文化ホールで開催されました。コロナ禍によって活動を制限されてきた演劇部会にとって、3年ぶりに一般観客を入れての本格的な発表会となりました。演劇部の生徒たちは、感染防止のために思うように声を発することができず、言葉を奪われ、制約された活動に甘んじてきました。しかし、ようやく言葉が戻ってきたのです。マスクを外し思い切り声を出し、全身で表現する姿に熱い共感を覚えます。

 初日の21日(金)の午後、西高演劇部の「合格ラインはやってきた!」(作:加藤のりや)が発表されました。点数に自我が芽生え擬人化された不思議な世界の話です。「59点」(男子)と「60点」(女子)は隣同士で、お互い好意を持っている関係なのですが、ある日突然、二人を引き裂く「合格ライン」という存在が現れます。その結果、二人は合格と不合格という離れ離れの関係になっていかざるを得ません。その理不尽な運命に二人は抗い、葛藤します。さらに、何事にも動じない「零点」、淡々としながら本質を悟っている「百点」も加わり、この不条理な物語は進みます。「合格ライン」に対し、「59点」と「60点」の間にラインを引くように命令を出している黒幕の存在が次第にクローズアップされます。そして、冒頭の「合格ライン」のあの叫びでラストを迎えるのです。

 生徒たちの学習活動は本当にすべて点数化できるのだろうか? 点数以外では客観的で公正な評価はできないのだろうか? 一点刻みの点数の評価は絶対だろうか? その点数評価が前提で動いている社会のあり方に問題はないのだろうか? 見終わった観客は様々なことを考え、思いをめぐらします。

 古くて新しい普遍的な問題を、演劇という文化活動の力で見る者に突き付けた西高演劇部の力を心から称えたいと思います。優秀賞に輝いた西高演劇部は11月に行われる県大会への出場を決めました。

「校長室からの風」

        創立記念祭での演劇部のステージ(熊本市文化会館)