演劇部から突きつけられた問い ~ 県高校演劇大会

「59点と60点の間にラインを引くという指示を出しているあなたは、いったい誰なんですか!」

 この台詞(せりふ)が響き、熊本西高演劇部の「合格ラインはやってきた!」の舞台の幕は下りました。この最後の台詞は私の胸に突き付けられたように感じました。深いメッセージに気持ちが揺さぶられました。

 第71回熊本県高等学校演劇大会城北地区・熊本市地区大会が10月21日(金)~23日(日)に熊本市植木文化ホールで開催されました。コロナ禍によって活動を制限されてきた演劇部会にとって、3年ぶりに一般観客を入れての本格的な発表会となりました。演劇部の生徒たちは、感染防止のために思うように声を発することができず、言葉を奪われ、制約された活動に甘んじてきました。しかし、ようやく言葉が戻ってきたのです。マスクを外し思い切り声を出し、全身で表現する姿に熱い共感を覚えます。

 初日の21日(金)の午後、西高演劇部の「合格ラインはやってきた!」(作:加藤のりや)が発表されました。点数に自我が芽生え擬人化された不思議な世界の話です。「59点」(男子)と「60点」(女子)は隣同士で、お互い好意を持っている関係なのですが、ある日突然、二人を引き裂く「合格ライン」という存在が現れます。その結果、二人は合格と不合格という離れ離れの関係になっていかざるを得ません。その理不尽な運命に二人は抗い、葛藤します。さらに、何事にも動じない「零点」、淡々としながら本質を悟っている「百点」も加わり、この不条理な物語は進みます。「合格ライン」に対し、「59点」と「60点」の間にラインを引くように命令を出している黒幕の存在が次第にクローズアップされます。そして、冒頭の「合格ライン」のあの叫びでラストを迎えるのです。

 生徒たちの学習活動は本当にすべて点数化できるのだろうか? 点数以外では客観的で公正な評価はできないのだろうか? 一点刻みの点数の評価は絶対だろうか? その点数評価が前提で動いている社会のあり方に問題はないのだろうか? 見終わった観客は様々なことを考え、思いをめぐらします。

 古くて新しい普遍的な問題を、演劇という文化活動の力で見る者に突き付けた西高演劇部の力を心から称えたいと思います。優秀賞に輝いた西高演劇部は11月に行われる県大会への出場を決めました。

「校長室からの風」

        創立記念祭での演劇部のステージ(熊本市文化会館)