西高「朝の読書」

 西高では朝の8時30分から10分間、全校一斉の「朝の読書」時間となっています。学校全体が静寂に包まれ、落ち着いた時間で一日の始まりとなるのです。西高「朝の読書」の4原則があります。

 1 みんなで読む 2 毎日、読む 3 好きな本でよい 4 読んで知る

 多くの高校で朝の読書が実施された時期がありましたが、現在では少なくなったと思います。西高では、「朝の読書」を継続しています。

 西高は教育のICT(情報通信技術)化の波に乗り、県のICT特定推進校として学習活動をはじめ学校行事や職員の校務にタブレット端末などICTを率先して活用しています。社会の急速な情報化に主体的に対応できる人材育成のために教育のICT化は不可欠です。一方、学校教育はバランスが大切です。西高では伝統の体育的行事や地域社会の課題に取り組む探究活動など自ら身体を動かす実体験を豊富に取り入れています。ICTの進化に伴い、身体性や五感を豊かにしていくことが心身の成長に益々重要となっています。「朝の読書」もそういう観点から、大切な時間と思います。紙の本の手触り、自分と向き合うひと時、クラス全員で静けさを創り出す協調性など特別な時間となっています。

 長期化するコロナ禍の中、自宅にて一人でできる読書が再注目されています。読書は心の良薬とも言われます。不安、焦燥、失意などの動揺する気持ちが、自らの内面との対話で鎮まっていきます。また、本は読者をいろいろなところへ連れて行ってくれます。

 「読書の習慣を身につけるということは、人生のほとんどすべての苦しみから逃れる避難所を自分のためにつくるということだ。」(サマセット・モーム)

 情報が氾濫する今日、本当に必要なのは情報を体系化した知識です。そしてそれは本を読むことで初めて得られる場合が多いことを私たちは知っています。ロシアによるウクライナ侵攻に関して、連日おびただしい情報が様々な立場から発信されています。情報の渦中にあって、受け手の私たちは何を信じてよいのか、一つひとつの情報を整理する余裕がありません。しかし、一冊の書籍がそれを助けてくれることがあります。『物語 ウクライナの歴史』(黒川祐次、中公新書)はロシアの侵攻前に出版されていた本で、ウクライナの歴史や地理、地政学的問題について、元ウクライナ駐在大使の筆者が丁寧に著しています。私はこの本を読み、初めてウクライナの置かれた立場やロシア侵攻の背景が理解できたような気持となりました。私は西高の図書館でこの本と出会いました。西高生の皆さんにもぜひ読んでほしいと願っています。

 「ひと それぞれ 書を読んでいる 良夜かな」(青邨)

 かつての日本にあったこのような風景を取り戻せたらと思います。

「校長室からの風」

                 西高の図書館