2021年5月の記事一覧

凛として ~ 県高校総体「なぎなた競技」開催

 なぎなた部は熊本西高が誇る伝統ある部活動です。過去、全国高校総体(インターハイ)女子団体5連覇をはじめ、個人戦の日本一を幾人も輩出し、本県の「なぎなた競技」を牽引してきました。専用の道場を有している学校は県内に他にはありません。

 コロナ禍の中で無観客という対応をとり、2年ぶりに熊本県高校総体が開催されました。「なぎなた競技」は5月30日(日)に5高校、22人の選手(女子19人、男子3人)が集結し、熊本西高校体育館で実施しました。なぎなた部の日頃の練習を見てきた私にとって、初めての試合観戦となりました。

 長さ2m10㎝の木製の薙刀(なぎなた)を持ち、一見、剣道と同じ防具を着けますが、すね当てがある点が特色です。メン(面)、コテ(小手)、ドー(胴)、スネ(脛)を打突(だとつ)し、勝負します。なぎなたの動きは速く、目を離せません。一瞬で決まります。しかし、当たっているようでも、なかなか審判の旗が挙がらないこともあります。同席した熊本県なぎなた連盟副会長の一川治子先生が、「なぎなたは気・剣・体の一致が大切です」と解説されました。コロナ感染対応で、選手達はマスクの上にフェイスシールドも付け、その上に面をかぶり試合をします。試合3分、延長2分ですが、時間が立つに伴い、選手の荒い息遣いが伝わってきます。困難なコンディションでの試合となりました。

 「なぎなた競技」には試合とは別に演技競技もあり、2人で型を演じます。防具は着けず、白い稽古着と黒の袴姿です。「この白と黒の組み合わせこそ我が国伝統の最もシンプルな色です。」と一川先生はおっしゃいました。背筋が伸びて姿勢が誠に美しく、礼に始まり礼に終わる所作は品格があります。なぎなたは、弁慶の薙刀でも知られるように元来は男性が扱う武器だったのですが、江戸時代に入り、武家の女性の武具として普及したそうです。幕末の戊辰戦争の時、会津藩の武家の女性たちが薙刀を手に官軍と戦った歴史があります。

 一川先生は熊本西高の体育コース発足(平成3年)から20年間、西高なぎなた部を御指導いただき、多くの人材を育成されました。現在の本校なぎなた部の指導者である齊木教諭も教え子の1人です。インターハイや国体など数々の西高なぎなた部にかかる思い出やなぎなた道にかける熱い思いを語られました。

 伝統とは精神の継承です。一川先生から受け継いでいる、心身とも凜とした姿勢で西高なぎなた部の生徒は試合及び演技に全力を尽くしました。

西高生の皆さん、勝負の時です ~ 県高校総体、県高校総合文化祭

 「ぱーん!」と畳を手で叩く音が響き、札が飛びます。セミナーハウス2階の和室で行われている「競技かるた」部の練習は、張り詰めた緊張感があります。小倉百人一首を用いての競技かるたは、知力と体力、そして何より集中力が求められるものです。部長の児藤さん(3年生)によると、公式戦では一試合が1時間に及ぶこともあり、勝ち進むと心身ともくたくたになるそうです。「対戦型スポーツです」と笑って語ってくれました。

 高校生の文化活動の祭典である県高校総合文化祭は5月28日(金)~29日(土)に開催されます。西高「競技かるた」部は、7月の「全国高等学校かるた選手権大会」(滋賀県大津市近江神宮)への出場をかけて出場します。児藤さんは先行競技で全国高校総合文化祭(和歌山県)への個人出場を決めていますが、「競技かるたの聖地である近江神宮へ団体で行きたい」と意欲満々です。県立劇場で開催される総合文化祭は、コロナ感染防止の困難さもあり、展示部門は中止、ステージ部門は無観客での発表となり、本校の文化部で出場するのは「競技かるた部」だけです。

 一方、県高校総体は、無観客の方針のもと全ての競技が実施されます。すでに先週末に一部競技が先行実施され、西高サッカー部は1回戦快勝、好発進しました。多くの体育部活動にとっては明日5月28日(金)から30日(日)が本番となります(一部競技は31日まで)。今週、各部活動の練習を見て回りましたが、その士気の高さは観る者に迫ってきます。3年生の多くはこの高校総体を区切りに部活動を退き、進路希望達成に向かって学校生活のシフトを切り替えます。高校総体直前の今は、全員でのかけがえのない時間を惜しむ雰囲気があります。

 梅雨の影響で水たまりが残るグラウンドで泥だらけになり迫力あるプレーをするラグビー部。屋根が付いているとは言え、水温は低めのプールで黙々と泳ぎ続ける水泳部。本番を想定した試合形式の練習をタブレット端末で動画撮影している剣道部。怪我で高校総体に出場できない部員が一生懸命選手達の練習をサポートする柔道部。

 西高生の皆さん、勝負の時です。皆さんはこれまで厳しい練習を積み重ねてきました。そのことが試合に臨むにあたって唯一の拠り所となります。そして、楽しい時も苦しい時も連帯してきたチームメイトの存在が支えです。

 コロナ禍の逆境の中、高校総体が行われることは、私たち高校教育関係者にとって、オリンピック開催と同じくらいの大きな意義があります。

             県高校総体直前の体育部練習風景

科学的思考力があなたの身を守る

 新型コロナウイルス感染症の第4波に社会が覆われていますが、目に見えないウイルスや細菌による感染症パンデミックに人類はこれまでも直面してきました。中世ヨーロッパでは、ペストが猛威を振るうと人々がパニックに陥り、魔女の仕業と思い込み、特定の女性を集団で迫害する「魔女狩り」が起こりました。病原菌の正体が肉眼で見えないため、人々は恐怖から理性を失い、偏見で判断が狂い、異常な行動に走った事例が歴史上いくつも確認されています。

 しかし、困難に遭遇しながら人類も学習し、考える力が発達してきました。19世紀中頃、イギリスのロンドンでコレラが大流行しました。今でこそコレラはコレラ菌(細菌)で汚染された水で感染することが分かっていますが、当時の人々は空気を伝わる悪臭がなせる病と考えていました。その中で、ジョン・スノウという医学者が疑問を持ちます。同じ地区の住人で、コレラに罹患する人とそうでない人がいることに気づいたのです。同じ空気を吸っていてもコレラになる人とならない人の違いは何かとスノウは調査を進め、飲料水(井戸)が異なることを突き止めました。そして、コレラは空気から感染するのではなく、汚染された水で感染するという仮説を立て、汚染されている井戸を使わないという対策を提案し、感染拡大防止につなげました。

 コレラ菌が顕微鏡で「発見」されるのはそれから30年も後のことでした。コレラ菌そのものは見えていなくても、スノウは論理的に考え仮説を立て、コレラ菌が井戸の中にいることを見抜いたのです。これが科学的思考力だと思います。

 今、私たちの周りは「情報」であふれています。いったいどの「情報」が正しく、正しくないのか、不確かな「情報」の洪水です。そして、私たちは、自分が見たい、あるいは信じたい「情報」を選ぶ傾向にあると言われます。「情報」を比較し、体系化し、「知識」とすることで初めて判断の基となります。データや数字を基礎として自分で考える力こそ、情報過多の現代で求められるものです。科学的思考力は、文系・理系の枠を越え、全ての人に必要なものです。

 この度のコロナパンデミックは20世紀初頭のスペイン風邪(インフルエンザ)以来、100年ぶりのものでした。感染症パンデミックや大規模な自然災害は一般の人間の寿命を超えるスパンで起きます。個人の経験では対応できないのです。自分の経験や好悪の感情など自己本位ではなく、情報を精選して根拠(エビデンス)をもって考え、判断する「科学的思考力」を高校生の時に培いましょう。

 西高は、生徒の皆さんの科学的思考力を育てていきます。

 

 *  お薦めの本 

『LIFE SCIENCE ~ 最先端の生命科学を私たちは何も知らない』(吉森保 著) 

 科学的思考力とは何かをわかりやすく教えてくれます。西高図書室の新刊コーナーにあります。

近づく高校総体

 「コミュニケーション!コミュニケーション!」と部員同士が声を掛け合い、楕円のラグビーボールを回し、走っています。ラグビー部の練習は見ていて迫力があります。隣のサッカー部でも、シュート練習に多くの部員が交代で流れるように取り組んでいます。次々とゴールネットに突き刺さるボールは勢いがあります。また、柔道、剣道、なぎなたの各道場では邪魔にならないように隅で見るのですが、私の姿を目にすると生徒がパイプ椅子を持って走ってきます。「お客さんではないから、気を遣わないように」といつも言っているのですが、その迅速な対応は有難く思います。

 体育部活動の練習を見て回ると、日ごとに熱を帯びてきていることがわかります。早朝、また放課後、自主練習として校内を走っている生徒の数も増えました。高校総体が近づいています。一部の競技は5月22日(土)~23日(日)に先行実施、そして本番は28日(金)から30日(日)です。

 陸上競技の練習風景はチーム競技と異なります。トラックやフィールドの種目毎に数人が固まり、黙々と反復練習を行っています。本校はやり投げ、円盤、砲丸などの投てき種目を専攻している生徒が比較的多いのが特色です。中には、中学時代から取り組んでいるスペシャリストもいます。彼らは一投一投、確かめるように投げ、一定のインターバル(間隔)を置くトレーニングを行っています。小休止の時に言葉を交わすと、皆、高校総体そして南九州大会、さらには全国高校総体(インターハイ)への思いを語ってくれます。恵まれた練習環境がある西高で陸上競技に打ち込みたいとの気持ちで、球磨郡はじめ遠隔地から本校を志望してきてくれた生徒が幾人もいます。

 高校3年間と言いますが、多くの生徒にとって部活動に専念できるのは2年数ヶ月です。大部分の生徒たちは3年の高校総体を区切りに部活動を退き、入試・就職の進路対策に移行することになります。3年生は今、「時間は有限だ」ということを実感していることでしょう。仲間と過ごす限られた時間の集大成が高校総体と言えます。

 5月15日(土)に熊本県が梅雨入りしました。異例の早さです。雨天が続くと戸外での練習に大きな支障が出てきそうです。そして、より心配なことが新型コロナウイルス第4波の広がりです。5月16日(日)から本県は蔓延防止重点措置の対象となりました。この困難な状況の中、感染対策を取りながら、高校総体で実力を発揮できるよう、各部活動で創意工夫が必要となります。

 2年ぶりの高校総体に向け、生徒たちをどう支援していくか、私たち教職員に大きな責任が求められています。

            体育大会での部活動対抗リレーの様子

 

 

西高周辺ぶらり散策(その2) ~ 小島地区

 熊本西高の西門から直線の農道を南へ約400m行くと、県道28号との交差点があり、その南側に西区役所があります。赴任の挨拶に4月初旬に訪問したところ、甲斐区長さんから「西高の生徒の皆さんのアイデアと行動を期待しています」と温かい言葉をいただきました。防災、観光をはじめまちづくり全般にわたって高校生に参加の機会を与えて頂いており、感謝しています。西高としても、熊本市西区にある唯一の県立高校として、西区のコミュニティスクールでありたいと願っています。

 さて、西区は、北は芳野(よしの)や河内(かわち)、東は鹿児島本線を超えて崇城大学のある池田までと広い面積を有していますが、区役所は最も南の小島校区にあります(小島2丁目)。「校長室からの風」ですでに紹介した、熊本市で最も標高の低い山(29m)、御坊山(おんぼさん)がこの「小島」(おしま)の地名の由来と言われます。西区役所から西方およそ500mのところに御坊山はあります。西高からいつも眺めていましたが、先般の大型連休中、「御坊山登山」をしました。麓の石鳥居をくぐり山頂の小島阿蘇神社まで100段余の急な石段です。まさに胸突き坂です。山の周囲(約400m)は遊歩道が敷かれ、地元の人々に親しまれていることがよくわかります。

 御坊山からさらに西へ進み、南北に走る国道501を越えると、小島町の中心部となります。坪井川と白川に挟まれた三角州地帯と言えます。ここで見逃せない史跡があります。明治天皇行在所(あんざいしょ)跡です。明治5年、明治天皇が長崎から海路、熊本行幸(ぎょうこう)されました。有明海の沖合で軍艦を下船、艀(はしけ)に乗り換え、坪井川河口の小島港に到着され、ここで一泊された記念すべき場所です。木造2階建ての日本家屋と庭園が往時を偲ばせます。

 明治天皇行在所跡のすぐ西側に小島小学校があり、児童の元気な声が響いています。小島小学校正門脇に、古色蒼然とした石碑が立っています。大津波の災害の歴史を伝えるものです。1792年(寛政4年)、島原半島の眉山が噴火、崩壊、有明海で大津波が発生し、対岸の肥後に押し寄せ、沿岸部で甚大な被害が生じました。「島原大変、肥後迷惑」と呼ばれる大災害の記録を後世に継承しています。この付近は海抜2~3mでしょうか。過去の記録を伝えることは、防災上、重要な意義があると思います。

 小島町界隈を歩くと潮の香りがして、はっとします。有明海(島原湾)はすぐそこです。「西高は、海に近い学校」だと気づかされます。

  御坊山の登山口      明治天皇行在所跡        「大津波」碑