2023年1月の記事一覧

「キャリア教育の推進」文部科学大臣賞

 キャリア教育の推進で顕著な功績があったと認められた全国の教育委員会、小・中・高校、支援学校の110団体が、1月19日(木)、東京都港区の三田共用会議所において文部科学大臣賞を受賞しました。私たちの学校、熊本西高校もその一校に選ばれ、栄えある受賞となったことを広く皆さんにお伝えしたいと思います。

 「キャリア教育」とは何だろうと思われる保護者、地域社会の方がいらっしゃるかもしれません。キャリア(career)はもともと職業、職歴などを意味する英語です。文部科学省によると、「子どもたちが将来、社会的・職業的に自立し、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現するための力」を育成することがキャリア教育となります。そして、キャリア教育は、産業界と連携して小・中・高校の各学校段階で推進する必要があると文部科学省は求めています。

 一般的に、中学校や専門高校(工業、商業、農業など)では、生徒たちが地域の企業や自治体で一定期間の就業体験(インターンシップ)をすることがキャリア教育実践の代表例と言えるでしょう。しかし、熊本西高の場合は、大部分の生徒が大学・専門学校等の上級学校へ進学する普通高校であり、生徒数が各学年で250~300人の大規模校のため、4年前に独自の取り組みを立ち上げました。西高アカデミック・インターンシップ(通称「NAIS」)です。

 「NAIS」は、県内の7校の私立大学と2校の私立専門学校にご協力いただき、1年生の2学期最初の一週(5日)に大学、専門学校を訪ね、半日または一日の体験入学を行うものです。内容については、例えば医療看護系大学では「看護の仕事とコミュニケーションスキル」、「言語聴覚士のお仕事とは?」といった実学を主とした講義と演習になっています。今、社会がどんな仕事を必要としているのか、産業界の動向はどうなっているのか、専門職となるためにどんな知識と能力が求められるのかなどを学び、職業観や自分の生き方の示唆を得る場となります。

 この「NAIS」を1年生の上半期に実施することで、高校卒業後の進路について生徒たちはより切実に意識するようになり、社会の中の一員としての自覚が芽生えます。面映ゆい気持ちはありましたが、本校の「NAIS」の実践を県教育委員会へ報告し、それを県教育委員会が評価され文部科学省へ推薦していただきました。深く感謝申し上げます。

 今回の受賞を弾みにして、西高はさらにキャリア教育を推進します。学校教育の究極の目標である、「生徒を大人にする」ために。 

 「校長室からの風」

「過ちすな、心して降りよ」(徒然草) ~ 3年生へのメッセージ

 1月13日(金)をもって、3年生の通常登校は終わります。14日(土)~15日(日)に約50万人が受験する全国大学入学共通テストが実施され、熊本西高から73人が挑戦します。一方、受験しない残りの約180人は家庭学習期間に入ります。

 進路内定者の皆さんにとって、3月1日の卒業式までは余裕のある日々となります。自動車学校に通う生徒も数多くいます。1月12日(木)の午後、進路内定者の生徒とその保護者の方々に対して、体育館で集会を開きました。この会で、鎌倉時代末期の随筆「徒然草」の第109段「高名の木登り」(こうみょうのきのぼり)の話を私はしました。

 木登り名人の親方が、大木に登って作業する弟子の様子を見守っています。高い危険な所で作業して いる時には何も言いませんでしたが、家の軒の高さくらいまでに降りてきたときに、「過(あやま)ちすな、心して降りよ」と声をかけました。弟子は、これくらいの高さなら地面に飛び降りることだってできる、どうして注意するのですかと問い返しました。それに対して、名人は「やすきところになりて、必ず仕(つかまつ)ることに候」と言いました。人は、気を緩めた時に失敗をするものだと名人は諭したのです。

 生徒の皆さんにも同じことを私は伝えたい。「過ちすな、心して降りよ」「やすきところになりて、必ず仕ることに候」と。進路も内定し、残り1か月半で高校卒業です。皆さんたちが考えている以上に、高等学校卒業資格は重要な資格です。普通自動車運転免許も大切ですが、その重要性は比較にならないと思います。運転免許は君たちなら1か月半から2か月で取得できるでしょう。しかし、高等学校卒業資格は最低3年必要です。定時制高校なら4年かかります。皆さんは日々登校し、授業に出席し、学習を積み重ねて3年間で96単位の履修科目を習得しました。その成果として高等学校の卒業資格を得ようとしているのです。

 卒業までの残り1か月半は油断大敵です。事故、事件に巻き込まれないよう、自らを律して生活してください。社会の急速なICT化、グローバル化など変化の激しい現代において、学びが終わるということはありません。生涯学習です。就職する人は、いきなり大人たちと一緒に仕事をすることになります。大学、専門学校など上級学校へ進学する人は、勉強内容が格段に難しくなります。4月から飛び立つために、3月までは大事な助走期間と考え、自分自身のために勉強してほしいと願っています。

 結びにあらためて呼びかけます。「過ちすな、心して降りよ」

「校長室からの風」

          大学入学共通テストを受験する73人の集会

「1.5℃の約束」 ~ 3学期始業式

   皆さん、新年明けましておめでとうございます。

 年の始め当たり、未来を担う皆さんに未来のことを考えてほしいと思います。「1.5℃の約束」という言葉を知っていますか? 最近、新聞やラジオ、テレビなどのマスメディアによく登場する言葉です。これは、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えようというキャンペーンです。昨年2022年、国連の広報センターが世界各国に提案し、日本では新聞社、放送局が一致して協力することとなりました。「気温上昇をとめるために、いますぐ動こう」と呼びかけています。

 コロナパンデミックに巻き込まれて、私たちは自分の体温にとても敏感になりました。人は通常一定の体温に保たれています。これを平熱と言います。しかし、コロナウイルスの侵入による体の変化は体温の上昇となって現れます。パンデミック初期には、37.5℃以上がその目安とされました。

 しかし考えてみると、私たち人間の生存にとって、体温と同じくらい重要な温度は、この地球の気温だと言えます。かつては、多種多様な生物と、水や空気、光などの地球環境のバランスがとれていて、地球の温度は安定していたと言われます。ところが、18世紀後半にイギリスで産業革命がおこり、19世紀に欧米諸国、そして日本などが続き、世界に工業国が増え、石炭や石油などの化石燃料を大量に消費するようになりました。これによって大気中の温室効果ガスは増加し、地球の気温は上昇し始めました。世界の平均気温はこの150年で1.1℃上昇、日本では過去100年の間に1.3度も上昇しています。地球温暖化というこの不気味な変化が何をもたらすのか。猛暑、豪雨、干ばつなどの自然災害から海面上昇など地球環境そのものの異変につながっています。

 私たちは未来を考えることが苦手です。それはまだないものであり、どうなっていくかわからないことと思うからです。しかし、人間の能力をはるかに上回るコンピュータの計算力によって、具体的な未来がシミュレーションできるようになりました。その重大な予測結果に向き合わなければなりません。

 私たちは、関心がある、ごく一部のものしか見えていません。見ようとしません。けれども、コロナパンデミックを体験することで、発熱している地球の未来に関心を持つことは人類共通の課題になったと思います。現在の生活の仕組みや価値観、行動を変えていかなければ、未来は来ないかもしれません。国同士が戦争している時ではありません。戦争は最大の環境破壊ですから。

 未来は大人になったあなたたちの現実です。未来を意識しながら、皆さんが一日いちにちを大切にして、成長していってくれることを期待します。

「校長室からの風」

柔道部の初稽古と鏡開き ~ 新春の部活動スタート

 新春は、光も空の色も空気さえも清々しく感じられるから不思議です。私たちにとって、正月は暦の上で新しい年になったという以上の大きな意味があります。それは再生とでも言うべき、新しく生まれ変わったような感覚が伴います。初日の出、初夢、初詣などすべてに「初」の冠をつけますが、これは初々しさにつながります。また、元日の朝に初めて飲む水を「若水」(わかみず)と称しますが、これも邪気を払うにふさわしい清新な語感です。

 1月4日(水)の仕事始めの日は、小春日和に恵まれました。風は多少ありますが、陽射しのもと校内を歩くと春が来たかのような気持ちとなります。そして、学校に活気が戻ってきました。多くの部活動が練習を今日から始めたのです。なかでも熱気を発していたのが、女子柔道部でした。

 柔道場には、大学や専門学校へ進学、または就職した先輩たちが十数人ほど来ていました。そのうち7~8人は柔道着に着替え、部員の練習相手になってくれました。高校生側は進路が決まった3年生全員も参加しており、卒業生も合わせるとおよそ30人が練習し、柔道場が狭く感じられました。環太平洋大学(IPU)、近畿大学、鹿屋体育大学、警視庁などで活躍するそうそうたる先輩たちの胸を借り練習できる貴重な場です。強い人と戦ってこそ、強くなります。1,2年生も実力の差はあっても、懸命に組み合って、投げられても先輩に幾度も挑んでいく姿にたくましさを感じました。

 そして、1,2年生の部員たちにとって、西高柔道部の伝統の絆を実感する機会にもなったと思います。貴重な正月休みに帰省した先輩たちがわざわざ母校の柔道場に集い、練習相手になってくれると共に、柔道の助言をはじめ大学や専門学校、職場の話を聞くことができます。あの先輩がいる大学に私も進もう、という進路目標も生まれます。

 また、稽古始めのこの日は、柔道部の保護者の方々が西高セミナーハウスの調理室で雑煮を作られ、練習後に部員や卒業生に振る舞われました。まさに鏡開きです。正月のお供えの餅(鏡餅)を割って雑煮や汁粉にして食べる風習を「鏡開き」(かがみびらき)と言いました。正月気分との決別も意味します。

 卒業生及び保護者の皆さんのご協力によって、柔道部の稽古始めはとても充実した、心温まるものとなりました。深く感謝します。

                                     「校長室からの風」