校長室からの風

「モノづくり」の楽しさを伝える ~ 「つくって、あそぶ メカトロ王国」

 

 3連休の中日の11月22日(日)、熊本市南区田井島にある大型商業施設「ゆめタウンはません」3階レストコーナー(休憩広場)では、モノづくりに興じ喜ぶ多くの児童、幼児の姿が見られました。子どもたちを教え、サポートするのは御船高校電子機械科3年の生徒達20人です。「つくって、あそぶ メカトロ王国」という御船高校電子機械科の主催行事を実施しました。

 アルミパイプやアルミブロックでアニマル(動物)型模型を作成します。昨年の全国大会に出場したロボットでプラスチックの羽を飛ばし、的当てをします。釘で張られた導線の迷路を両極の付いた棒で進んで行くゲームは、線に触れるとブザーが鳴ります。金属のクリップの付いたお菓子を、磁石付きアームのロボットを動かし釣りあげます。また、パソコンでは、ブロックタイプの入門プログラミングを学びます。ただゲームや体験をするのではなく、なぜこうなるのかという原理、仕組みを生徒たちが子どもたちに説明し、できるだけ、子どもたち自身に作らせ、操作させます。それによって、子どもたちの眼は輝き、完成した時や操作が上手にできた時は、付き添いの親御さんと共に歓声が上がっていました。

 お孫さんを連れて来場された初老の男性の方から、「最初は大学生の皆さんかと思いました。高校生なんですね。みんな落ち着いていらっしゃる」とお褒めの言葉をいただきました。今回、運営に協力している生徒たちは皆3年生です。御船高校電子機械科でこれまでモノづくりに取り組み、トライ&エラーを繰り返し成長してきました。モノづくりの面白さも難しさも十二分に分かっています。小学生や就学前の幼児たちに寄り添い、モノづくりの楽しさを伝えられることに大きな喜びを感じているようでした。

 御船高校電子機械科は、モノづくりを通じての社会貢献活動の一環として、例年、中学生ロボット大会や小学生のモノづくり体験等を行ってきました。しかし、今年度はコロナ禍の影響で、これまでは何もできないままでした。そこで、11月の3連休の機会を利用し、昨年の中学生ロボット大会会場である「ゆめタウンはません」のご協力を得て「つくって、あそぶ メカトロ王国」を企画したのです。コロナ禍が続く中、何かを行うことは常にリスクが伴います。しかし、何もしないでいることは、また別の面でリスクが生まれるとも言えます。

 実習服で生き生きと動き、児童や幼児と交流する3年生の姿を見て、これは電子機械科にとって教育上必要な行事だったと思いました。

 

「学校再発見」の文化祭 ~ 令和2年度龍鳳祭

 御船高校の文化祭は「龍鳳祭(りゅうほうさい)」と呼ばれています。校歌(昭和2年制定)の一節「龍鳳となり雄飛せん」から採られた名称です。巷では新型コロナウイルス感染の第三波が懸念される11月13日(金)、令和2年度「龍鳳祭」を開催しました。

 例年とは大きく異なり、規模を縮小し半日開催、そして保護者をはじめ校外からの見学者を入れないという異例の形式となりました。また、密集、密着を防ぐために、原則、学級単位で動くというルールを設けました。体験型の催し物には人数制限をかけるため事前に整理券を出しました。開会式(一斉放送)で「決められたルートを通り、決められた時間、決められた場所での見学、体験」と生徒会からの呼びかけがあったとおりです。このように様々な制約があっても、生徒会、そして私達職員にとっても、文化祭の実施にはこだわりました。今年度、これが全体として初めての学校行事だったからです。

 ホームルーム(教室)にいる間は、動画視聴の時間です。見学、体験には学級単位で動いて回ります。体育館ではスペースを十分に取り、1学年普通科のモザイクアート、手作りアクセサリー展示、的当てのアトラクションのコーナーが設けられました。また、2学年普通科の「総合的な探究の時間」の発表が掲示されました。特別教室棟では、美術、書道、写真、華道等の作品が展示され、観る者を引き付けました。2年4組(芸術コース)の特設スタジオも出現し、手作りの手腕を発揮しました。そして、電子機械科の実習棟では、ロボットやマイコンカーの実演が行われました。普段、実習棟に足を踏み入れたことのない普通科の生徒たちにとって、電子制御でロボットが動き、マイコンカーがコースを疾走する様子は新鮮な驚きで、歓声があがっていました。

 御船高校は、モノづくりの面白さを追究する電子機械科、音楽・書道・美術を通じて創造性を養う芸術コース、そして様々な学びの中から自らの進路を見付けていく普通科(特進・総合)と多様な学びが共存しています。日頃は異なる学びに取り組んでいる船高生が、学校行事や生徒会活動等で交流し、一体となり「チーム御船」の力を発揮するところが本校の強みなのです。

 僅か半日の文化祭でした。けれども、平常の授業日とは異なり、生徒たちの笑顔や歓声が満ち溢れる、特別な時間となりました。御船高校の多様性を生徒たち自身が再発見した文化祭だったのではないでしょうか。

 学校行事は生徒を成長させるものです。龍鳳祭を実施して良かったと思います。

 

 

探究する力 ~ 熊本県工業高校生徒研究発表会

 第32回熊本県工業高校生徒研究発表会が11月11日(水)に熊本大学「工学部百周年記念館」(熊本市中央区黒髪)で開催されました。県内の県立工業高校及び工業系学科を有する高校の10校が参加しました。

 工業の専門科目に「課題研究」があります。御船高校の電子機械科でも3年次に2単位設定しており、生徒たちがグループごとに分かれ、モノづくりに関する広い題材の中から、指導する教師と共にテーマを立て、その改善、改良に取り組む学習です。今年度の本校の課題研究の代表に選ばれたのは、「Pepper(ペッパー)の有効活用」(指導:緒方教諭、3年A組の男子5人)です。

 ペッパーは(株)ソフトバンク社が開発した人型ロボットです。このペッパーが昨年度から御船町教育委員会に貸与され、小学校の英語の授業に活用できるようプログラミンを本校の電子機械科で担当してきました。昨年度は御船小と小坂小で実際にペッパーを活用しての英語の授業が行われ、電子機械科の生徒たちが課題研究で取り組んだプログラミングの成果が発揮されました。

 今年度の3年生はさらに分かりやすい英語学習の助けになるようプログラミングの改良を図ったのですが、コロナ禍でこれまでのところ小学校でのお披露目はできていません。しかし、そのプロセスを発表しました。重量が約30㎏もあるペッパーを会場に運び、ステージ上で実演させ聴衆の関心を引き付けての研究発表ができたと思います。

 今回も10校それぞれの特色が遺憾なく発揮され、聴きごたえがあり、そのレベルの高さに幾度もうなされました。最優秀賞は球磨工業高校(建設工学科)の「逃げろ! 防災の在り方についての探究」でした。球磨川本流へ流れ込む支流の影響を現地測量や水流実験から検証し、バックウォーター現象の危険性を指摘するなど球磨川の治水の在り方について警鐘を鳴らす内容でした。しかも、この研究活動の最中、人吉・球磨地域は「令和2年7月豪雨災害」に襲われたのです。生徒たちの危機感は的中したことになります。予断や偏見のない、高校生の純粋な探究心が成せる高い研究成果に私は脱帽の思いでした。

 この熊本県工業高校生徒研究発表会は平成と共に始まり、回を重ねてきました。年々、内容のレベルが上がり、プレゼンテーションのスキルも向上しています。今年度は、新型コロナウイルス感染防止のため、「ものづくりコンテスト」はじめ工業系の各種行事は軒並み中止となりましたが、会場の熊本大学のご協力により、感染防止対策を徹底することで実施することができました。

 素晴らしい会場で、生徒たちが学習成果を発表できたことに心から感謝します。そして、今後一層、社会に目を向けた旺盛な探究心を生徒に養っていく必要性を痛感した一日でした。

 

8か月待った出番 ~ 「ブルック像」除幕式

    「想定外の自然災害

  未知のウイルスの脅威

  先の見えない苦難の日々

  私達は何を考え行動する

      私達の未来をこの手で掴め

  どんなに困難でも

  愛に溢れる未来を信じて

                   御船高校書道部」

 御船高校吹奏楽部の演奏に合わせた、書道部員14人の書道パフォーマンスは会場の聴衆を引き付け、自分たちで考えた言葉をダイナミックに書き上げました。音楽、そして書道部の生徒たちの気合の入った声が澄んだ秋空に響き渡り、「ブルック像」除幕式が始まりました。

 熊本県出身の漫画家、尾田栄一郎氏の『ONE PIECE』のキャラクターであるブルックの銅像(立像)除幕式が11月8日(日)、御船町恐竜公園で開催されました。平成音楽大学のある御船町は音楽の町づくりが行われており、音楽家であるブルックが似合う町として選ばれました。御船高校の吹奏楽部と書道部のパフォーマンスが幕開けとなり、御船中学校吹奏楽部の演奏、そして平成音楽大学学生による音楽とダンスパフォーマンスと続き、「音楽家ブルック像」の誕生を歓迎しました。

 「今、熊本は厳しい状況です。ルフィー(『ONE PIECE』の主人公)が持つ無限の楽天性が復興には大切です。そして、心の復興には音楽が必要です。」と来賓の蒲島知事が述べられました。その言葉のとおり、御船町で学ぶ中・高生、大学生が、明るい未来を呼び寄せるような、溌溂とした芸術活動を発信してくれました。式後、書道部と吹奏楽部の代表生徒がブルック像を囲んでの知事や町長等との記念撮影に臨みましたが、満面の笑顔で輝いて見えました。

 「緊張はしませんでした。この場に参加できることが楽しくて仕方ありませんでした!」と生徒たちが弾んだ声で話してくれました。本来は今年の3月に「ブルック像」除幕式が予定されていました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、延期されていたのです。8か月の間、この日の出番を生徒たちは待っていたのです。その思いが生徒たちの原動力になったのでしょう。

 『ONE PIECE』は諸外国で翻訳され版を重ね、人気が広がっているそうです。「ブルック像」除幕式は世界にライブ配信(インターネット)されました。日本の文化力、いわゆるソフト・パワー恐るべしです。ネット配信された除幕式の光景の中で、きっと御船高校生の文化パフォーマンスも国境をこえて人々の気持ちを掴んだことでしょう。

 

変革が進む高校の授業スタイル ~ 一斉公開授業

    御船高校では現在2週間の公開授業週間中です。その中でも、各教科の研究授業が11月4日(水)に集中しました。

 2限目の1年A組(電子機械科)の「国語総合」では古典の『伊勢物語』の授業でした。主人公(男)からの和歌に対して、女の気持ちを想像し生徒たちが返歌を創り、発表するという内容でした。心情を想像し、和歌を創り、発表するという生徒の主体的な学習活動が展開されました。

 3限目の2年B組(電子機械科)の「物理基礎」では、「仕事と力学的エネルギー」という単元を取り扱い、電子機械科の専門科目である「機械設計」の内容との共通点に気づかせる授業でした。普通科目の「物理基礎」の学習が工業系の専門科目の理解につながっていること、おし進めて考えれば、あらゆる学びは関連していることを生徒が実感する学習でした。

 5限目の1年2・3組(普通科)の選択「書道」では、古典「曽全碑」を題材に隷書(れいしょ)の成立を学ぶものでした。隷書体で「有志」という文字を書くのですが、この指導にICT機器が効果的に使用されました。先生の書き方がカメラを通じてスクリーンで映されます。そしてその映像は、その後も再生が続き、生徒たちは時々顔をあげ、書き方の手本を確認できるのです。

 6限目の1年1組(普通科)の「家庭基礎」は、契約の成立や契約上のトラブルを避ける方法を学習しました。高校生にとって身近な事例として、原付バイクの購入、あるいはタイヤ交換のケースなどを取り扱い、生徒に考えさせ、意見を発表するという学習活動でした。

 チョーク&トークとかつては高校の普通教科の授業スタイルが揶揄(やゆ)されたことがあります。しかし、今は違います。近年のICT(情報通信機器)の学校への普及、活用によって、授業は大きく変わりつつあります。御船高校では、2年前から、「誰もが分かる」、授業のユニバーサルデザイン化を掲げ、授業改善に取り組んでいます。特にICTの積極的活用を心掛けています。

 別の日に行われた2年A・B(電子機械科)の選択「地理A」では「生徒二人に1台のノート型パソコンを提供し、「デジタル地球儀」のGoogle Earth(グーグルアース)を使う授業でした。このソフトウエアは世界の衛星画像が立体的に利用できます。平面の地図帳と違い3次元の地理世界に生徒が触れます。

 デジタル機器の効果的な使い方はまだ大きな課題です。数年後には高校でも生徒一人に1台のタブレットを使っての授業が始まると予想されます。変革期の高校の授業ですが、その目的は生徒を誰一人取り残さないことです。