校長室からの風
芸術コース作品展を鑑賞して
「むしろ苦難の過程を味わい 新たな自分の糧とする」
会場の入り口で、書道専攻の友田さん(3年生)の決意が込められた毅然とした書と対面します。御船高校芸術コースの美術・デザイン、書道の専攻者による作品展を1月19日(火)から24日(日)まで熊本県立美術館分館にて開催しました。私は最終日の午前に会場を訪ね、多彩なアートの世界を楽しみました。
書道は、格調ある古典の臨書、流麗な仮名、そして自らの思いを表現する自作の言葉と変化に富んでいます。作品に使われている料紙も注目です。一週間前に「大東文化大学熊本県書作展」(熊本県立美術館分館)を見学し、その自在で奥深い書芸に圧倒されました。書の先達の高い技能や精神性に比べると、高校生の未熟さは一目瞭然です。けれども、未熟さは伸びしろがあることを示し、伸び盛りの高校生の作品は鑑賞者の創造力が働く余地がその分大きいと言えます。
美術・デザインは、生徒たちの豊穣なメッセージを感じました。絵画を通じて一人ひとりの雄弁な自己主張があります。食品廃棄や温暖化、動物保護など社会問題に言及したポスター作品群は観る者に内省を迫ります。立体造形の作品はまことにユニークなものばかりでした。ハンバーガーの山が積み上げられた「明日からダイエット」は強く印象に残ります。また、大量の細い竹ひごによる造形作品の題名は「追憶」であり、倒壊していく廃屋をイメージしているのでしょうか?作者にそのモチーフを尋ねたくなります。
会場の一角には、美術専攻3年生の選択科目「映像表現」で制作された短編動画が流されています。タイトルは「青春と一瞬」。屋上でトランペットの練習をする生徒の姿、書道の生き生きとした筆の動き、美術室で語り合う生徒の様子、手を握り合って階段を上がる女子生徒、公園で生徒たちが飛び跳ねる瞬間など短いカットの連続です。そして、5,6人の生徒たちが道路を走っていく場面でラストを迎えます。きっと彼らは未来に向かって疾走しているのでしょう。
新型コロナウイルス感染拡大が止まらず、熊本県でも県独自の緊急事態宣言が出されています。このような非常事態の中、本展覧会を開催することに迷いはありました。しかしながら、十分に感染対策を講じておられる熊本県立美術館のご理解とご協力によって開催することができました。期間中の受付については、例年は生徒たちが交代で行うのですが、今年は芸術科の教職員が務めました。
創作に取り組むことで成長してきた芸術コースの生徒たちにとって、自らの作品が熊本県立美術館に展示され、多くの方に見ていただくということはかけがえのない体験です。困難な状況下、芸術コースの教育の基本を守ることができたと思います。社会は閉塞感に覆われ、私たちは精神的にも大きな負荷がかかっています。このような時にこそ、芸術(アート)の力が必要ではないかと思います。
第1回「大学入学共通テスト」
大学入学共通テスト(主催:独立行政法人「大学入試センター」)が1月16日(土)~17日(日)にかけて実施されました。全国でおよそ53万人、県内で約6600人が受験する大規模なもので、御船高校からは17人が挑みました。本校生の試験会場は熊本県立大学で、17人全員が受験する2日目の数学の時間帯に私も会場を訪ねました。初日は小春日和でしたが、2日目は冷たい風が吹いて気温が上がらず、会場は寒さと緊張感に包まれていました。
例年と大きく様子が異なったのは、各高校の教職員の数がめっきり減少したことです。いつもの年なら、各高校の進路指導部や3年担任の職員が一団かたまりとなってそれぞれ待機している風景が今年は見られません。新型コロナウイルス感染対策で試験会場も「三密」回避が講じられており、高校側も職員数を自粛したのです。私も滞在時間を短めにし、受験生への励ましも控えめにしました。
今回は、30年余り続いた「大学入試センター試験」に代わって、第1回「大学入学共通テスト」が実施された画期的な試験でした。私が高校の教職に就いて3年目に始まった「大学入試センター試験」は問題の質が年々向上し、マークシート形式でも暗記力だけでは解けないレベルの良問が多数を占めました。しかしながら、社会の急速な情報化やグローバル化に伴い、より一層の「思考力・判断力・表現力」を高校生、大学生に求める必要性が生まれました。このような背景から、国語と数学で記述式問題の導入、そして英語で「読む・聞く・話す・書く」の4技能を測る英検などの民間試験活用が決まったのですが、受験の公平性、客観性などの大きな議論となり、いずれも一昨年に見送られました。このことは記憶に新しいところと思います。
こうして最初の「大学入学共通テスト」を迎えたわけですが、各教科の問題は身近な題材を積極的に取り入れ、文章や語彙なども増え、特色ある傾向が見られました。受験生には読解力が要求される難度の高い試験になったのではないでしょうか?大学入試の変化は高校教育に大きな影響を与えます。生徒一人ひとりの学力を十全に評価できるパーフェクトな入試はあり得ないのかもしれません。けれども、共通テストと各大学が実施する個別の二次試験との組み合わせで、その理想を目指してほしいと願っています。
コロナ禍の異例の受験風景でしたが、今年も大学受験独特の雰囲気に身を浸すことができ、高校の教員としての原点に立ち返ったような気持ちになりました。教壇を離れて久しいのですが、自らの専門教科・科目の「大学入学共通テスト」をじっくり解き、分析してみたいと思います。受験生には申し訳ないのですが、少しワクワクした気分です。
変化の時 ~ リモート授業の実践
新型コロナウイルス感染拡大が止まりません。1月14日(木)、熊本県では県独自の緊急事態宣言が発令されました。このようなコロナ禍の中でも、現在のところ学校は通常の教育活動を行うことができています。生徒たちの学びを止めないために、感染対策を講じながら、「三密」を避けた教育活動の工夫に取り組んでいます。その鍵は、ICT(情報通信技術)の活用です。
1月14日から家庭科の授業で「認知症サポーター養成講座」を始めました。2年生の電子機械科2クラス、1年生の普通科4クラスでそれぞれ連続2時間授業が6回実施されます。例年なら講師の方が来校され、対面式で講話、指導が行われるのですが、今回はオンラインでミーティングが開催できるアプリ「Zoom」を活用し、御船町地域包括支援センター(御船町役場内)、老人総合福祉施設「グリーンヒルみふね」と御船高校の教室を結びリモート授業を試みました。
包括支援センターの方がコーディネーターとして講座の進行役、「グリーンヒルみふね」の吉本施設長が講師、そして教室では家庭科の教諭が生徒の支援に当たりました。パソコンとカメラで三者が結ばれ、教室には画像を拡大するスクリーンも設置し、講師の質問に生徒が答えたり、逆に生徒が問いかけたりと十分にコミュニケーションもできました。離れた三者がオンラインによってつながり、まさにリモートワーク(remote遠隔、遠い、work働く)が成立しました。
学校現場でのICT活用はこの一年で急速に浸透しました。振り返れば、昨年4月~5月の臨時休校期間、在宅の生徒と学校をつないだのはメールや動画教材などICTの力でした。職員の会議出張もぐんと減りました。ウェブ会議システムでたいていは対応できるからです。
長期化するコロナパンデミックの影響で、都市部においては企業のリモートワークが増加し、働き方が大きく変わろうとしています。自宅から会社のウェブ会議への参加や、他社との交渉を行う人が急増しています。主に上半身が映し出される特性上、画面で見栄えのするシャツやブラウス等のニーズが高まり、それらをレンタルする会社や販売する百貨店の業績向上が報道されていました。働き方が変われば、働く人のファッションも変化して当然です。
これまで私たちが経験したことのない災禍に遭遇している今、私たちの仕事のあり方は変化の時を迎えています。変化することにリスクは伴いますが、旧来の方法のままいる方が遥かにリスクは大きいと思います。
冬でも熱い実習棟 ~ 技能検定実技試験
「磨け、技能 目指せ、達人」のキャッチフレーズで知られる技能検定実技試験(熊本県職業能力開発協会主催)が、1月6日(水)の午前、御船高校の第4実習棟で実施されました。部門は「普通旋盤作業」です。旋盤は難度が高く、今回は本校から3年生2人(女子1人)が2級、1年生4人(女子1人)が3級に挑戦しました。2級はさすがにレベルが高く、複雑な設計図をもとに3時間で金属部品の加工を仕上げます。一方3級はより平易な設計図に従い2時間で課題に取り組みます。国家検定であり、熊本県職業能力開発協会から4人の職員の方が立ち会われて厳正に行われ、生徒たちが造り上げた部品を持ち帰られました。審査の結果、後日、合否の発表となります。
技能検定実技試験を私は初めて見学しました。昨日までの練習と異なり、生徒たち(特に1年生)の緊張感がこちらにも伝わってくるようでした。会場の第4実習棟は本校では最も広く、旋盤はじめ工作機械が並んでおり、一見すると工場のようなところです。エアコン(暖房)はありません。冷たい空気の中、作業する生徒たちの吐く息が白く映ります。生徒たちにとって、時間が早く過ぎたものと思われます。これが本番の醍醐味です。
技能検定試験の終了後、指導された先生と受検した生徒たちが実習棟で弁当を取りながら反省会を行いました。生徒たちは皆、手ごたえを感じていたようで、ある1年生の男子は、「練習の時より良くできました。集中できました。」と笑顔で感想を述べてくれました。
今年度は、コロナパンデミックの影響で「高校生ものづくりコンテスト」や「ロボット競技大会」など各種のものづくりの技を競う県大会、全国大会等が相次いで中止となりました。そのような中、技能検定実技試験を本校で行うことができました。3年生の2人は春から技術者としての道を歩み始めます。その先輩たちと同じ場で実技試験に挑んだ1年生にとって、大きな学びの機会になったはずです。隣の第5実習棟では、同じ時間帯にマイコン制御部ロボット班の3年生が1、2年生の後輩に技能を教えていました。
寒波が襲来し、学校も冷え冷えとした空気に包まれています。しかし、電子機械科の実習棟では作業服の生徒たちが目を輝かせ活動しています。そこには若者の熱気が感じられます。学校の元気は生徒が生み出すものなのです。
仕事はじめ
新年明けましておめでとうございます。
令和3年(2021年)1月4日(月)は仕事始めの日です。朝は冷え込みましたが、空は清々しく晴れ渡り、新春にふさわしい天候となりました。次第に気温も上がり日中は10℃を超えたと思われます。グラウンドには朝からサッカー部や野球部の生徒が出て、初練習を行いました。日差しの下、野球部は久しぶりにバッティング練習に取り組み、打撃音を高く響かせていました。
体育館では午前中、男女バレーボール部が練習に汗を流していました。生徒たちが練習している間に、顧問の先生たちが調理室でお雑煮の用意をしていました。練習後にみんなでお雑煮を囲むという楽しい企画です。
年末年始の6日間の学校休業期間、生徒の皆さんはどのように過ごしていたのでしょうか? 新型コロナウイルス感染の第三波の渦中であり、「Stay Home!」がより強く呼びかけられました。体育系部活動の生徒たちにとって、同好の友と好きなスポーツができる喜びはかけがえのないものです。今日はコンディションも良く、待ちに待った練習再開だったでしょう。皆、気持ちよさそうに身体を動かしていました。
一方、校舎内は人影がまばらでしたが、2年1組は担任の先生の呼びかけで、クラスの学習会が開かれていました。3年生への進級を前にして、生徒たちの学習意欲、進学意欲が高まっており、頼もしく感じました。
3学期は1月8日(金)からです。しかし、今日から多くの先生方が出勤され、学期の準備に当たられました。ある担任の先生は、ホームルーム(担任教室)を一人で黙々と整理整頓されていました。「新学期、生徒たちが気持ち良く学校生活が始められるように」との思いからです。ある電子機械科の先生は、実習棟の工作機械を点検されていました。「安全な実習のためです」と言われました。このように、私たち教職員は、生徒の皆さんの登校を心待ちにしています。
いまだコロナパンデミックに世界は覆われ、閉塞感を感じます。しかし、コロナ危機にあっても、自分の目標を見据え努力を続け、軸がぶれない生活を送っている人が世界の大多数を占めます。だからパニックも起きず、社会は機能しているのです。
年末年始の特別休暇は終わり、日常の生活が戻ってきます。逆境にあるからこそ、確かな生活リズムで一日一日を大切にしていきたいと思います。