校長室からの風

小・中・高・大の連携 ~ 御船町でしかできない教育

 「御船町の教育の特色は、小学校、中学校、高校、そして大学の連携です!」と藤木町長、本田教育長が日頃から声を大にして言われています。市を除く自治体で、小学校から大学(平成音楽大学)までそろっているのは熊本県内で御船町だけです。「小・中・高・大の連携」はこの地域の強みであり、魅力だと私も思っています。そして、その実践が重要だと考え、取り組んでいるところです。

 10月11日(金)、御船中学校において研究発表会が開かれました。研究主題は「『熊本の学び』による学力の向上」で、午前中は公開授業、午後は分科会、全体会が行われました。御船高校から御船中学校まで徒歩10分の近さです。この日は特別時間割を組み、できるだけ多くの教職員が参加できるよう配慮し、私も含め19人が御船中の研究発表会に参加しました。御船中を訪ねる度に感心することが、ノーチャイムで学校生活が行われている点です。授業の開始、終了等の合図のチャイムが一切鳴りません。生徒自らが「時間を守り、主体的に行動する」ことが日々の生活で養われていると思います。高校でもできないのか、思案中です。社会(3年生)、英語(1年生)、理科(3年生)の授業を参観しましたが、生徒に考えさせる時間を設け、話し合い活動を取り入れられるなど思考力、判断力を育成しようというねらいが伝わってきました。御船高校の教職員にとって、貴重な研修の機会になったと思います。

 また、10月15日(火)には、平成音楽大学こども学科3年の学生5人が来校し、御船高校3年の家庭科「保育」の授業で多彩なパフォーマンスを披露してくれました。平成音楽大学は九州唯一の音楽系大学で、御船町滝川の丘の上にあります。御船高校から自動車で10分の所です。本校の芸術コース音楽専攻の生徒たちは、同大学音楽科の先生方から高いレベルの指導を特別に受けることができます。そして今年度から、同大学のこども学科との交流も始めました。

 幼稚園教諭、保育士を目指す学生たちは、さすがに歌も楽器も巧みで、表情が明るく豊かです。幼児と同じく高校生達も魅了され、歌、演奏、エプロンシアター、スケッチブックシアターとプログラムを楽しんでいました。5人の大学生の中の唯一の男子は御船高校の卒業生で、自在に楽器を演奏し、保育園実習がいかに充実したものであったかをユーモア交えて後輩に語ってくれました。このこども学科との交流は次年度以降も続けていきたいと思います。

 「小・中・高・大の連携」が掛け声に終わらず、実践を深めて「連携」から「連帯」へとより強い結びつきを目指していきたいと考えています。

 御船町でしかできない教育、御船町だからこそできる教育があるのです。

  平成音楽大学こども学科3年生によるパフォーマンス(御船高校の家庭科の授業)

  

 

思いはひとつ ~ 御船街なかギャラリー・ミーティング

   「御船街なかギャラリー」はとても趣のある施設です。この「校長室からの風」で以前紹介しましたが、もともとは江戸時代後期に建てられた町屋で、豪商の林田能寛(はやしだよしひろ)の商家(「萬屋」)でした。白壁土蔵造りの酒蔵や商家が次々と消えていく中、往時の町並みを伝える建物として御船町が所有し、今は交流施設として町観光協会が運営されています。太い梁や柱のある主屋をはじめ離れや庭園、さらには二つの大きな蔵もあります。

 10月10日(木)、2学期中間考査が終わった日の午後、生徒会執行部の生徒と担当の教職員等で「御船街なかギャラリー」に向かいました。育友会(PTA)役員と生徒会の生徒たちが話し合う「御船街なかギャラリー・ミーティング」を実施するためです。初めての試みで、御船高校同窓生(高校36回生)の藤木正幸(ふじきまさゆき)御船町長にも特別に参加していただきました。

 「御船街なかギャラリー」の主屋和室において、藤木町長、生徒会生徒15人、保護者代表7人(育友会役員)、そして私達教職員4人が大きな車座となって、次のような内容で意見交換を行いました。

 ① 御船町の魅力、御船高校の魅力は何か

 ② 御船高校をどんな学校にしていきたいか

 ③ 親としての思い(保護者側)

 ④ 子としての思い(生徒側)

 ⑤ 創立100周年に向けての抱負

 藤木町長は53歳、御船町のリーダーとして活躍されています。野球に熱中していた高校時代の思い出を気さくに語られ、生徒会の生徒は親近感を抱いたようでした。目標となる大人の存在を身近に感じることは、高校生にとって貴重な体験だと思います。

 御船高校の魅力について、生徒たちからは、「様々な人がいる、個性的な人がいることの楽しさ」、「一人ひとりが主役になれる学校」という意見が出ました。また、女子生徒からは「御船高校の女子生徒の制服はおしゃれで人気」との発言もありました。保護者からは、「カバン等の細かい規制がなく、自由度がある」、「自主性が認められている」という感想が出た後、「生徒には自由の中の責任を意識して欲しい」という意見が出ました。また、校外での生徒のちょっとした言動が学校の印象をマイナスにするという苦言もありました。

 生徒、保護者、同窓生(町長)、そして教職員が、御船町の歴史遺産の場で和やかに語り合った1時間でした。みんなの思いはひとつです。創立100周年に向け、御船高校をもっと魅力ある学校にしていきたいということです。

 

挨拶が響きあう学び舎に

 

 「おはよう!」「おはようございます!」

 朝から御船高校正門付近で爽やかな挨拶が響き合います。10月8日(火)から10日(木)までの中間考査期間に合わせ、育友会(PTA)の挨拶運動が実施されました。朝7時50分~8時20分の30分間、保護者の方々が7~8人正門付近に並んで立たれ、登校する生徒たちに声を掛けられました。私も三日間校門に立ち、生徒たちを迎えました。

 本校生の登校手段は大きく四つに分かれており、決して広くはない正門付近が朝は混雑します。最も多い自転車通学生が次々とやってきます。単車通学生も現在120人ほどいて、正門前で停車し、単車を押しながら校門に入ります。バス通学生は、御船町役場前のバス停で降り、約10分歩いてきます。そして残りは保護者の車による送りです。

 多くの生徒は笑顔で登校してきますが、中には保護者や職員が声をかけても挨拶が返ってこない生徒もいます。それでも表情が柔らかい生徒は安心します。うつむぎ加減で表情が硬い生徒は気になります。朝の登校状況を見ると、その生徒のことがひと目で分かるような気がします。

 年度当初、そして2学期が始まる時に、職員の方から生徒に積極的に声を掛けていこうと申し合わせをしました。校舎内、校庭など場所を問わず、先に声をかけるようにしています。挨拶の大切さを私達職員が行動で示し、生徒たちを日常生活の中で少しずつ変えていこうと努めています。コミュニケーション能力は先ず挨拶からです。自ら挨拶ができ、生徒同士の挨拶が響き合うような言語環境を御船高校で創り上げていきたいと願っています。

 時々、職員室に「○○先生はいますか?」と言って入ってくる生徒がいます。その場に居合わせれば「○○先生はいらっしゃいますか?」と私は教えます。相手や場面において適切な言葉遣いができる大人になってほしいのです。敬語の必要性が軽視される風潮があるのは残念なことです。敬語は、人と人との「相互尊重」が基盤にあります。人間関係やその場の状況に応じた自らの気持ちを適切な言葉で表現する力を身につけなければ、敬語は使えません。敬語を使う力は簡単には身につかず、学校生活、そして家庭生活を通じて時間をかけて養っていくものだと考えています。

 敬語を丁寧につかう高校生に出会うと、本物の教養を感じます。

 

地元の食材を味わう ~ 郷土料理講習会

 

 調理実習を行っている生徒たちはとても生き生きしています。男子も女子もぎこちない調理の手つきですが、地元御船町の食生活改善員(愛称はヘルスメイト)の方々の御指導で料理ができあがっていきます。高校生からみると祖母に当たるご婦人方の段取りは見事なものです。最近のビジネスは「時間対効果」が重視されますが、料理の達人の方の段取りはさすがで、限られた時間内に整っていきます。

 10月7日(月)の3・4限目、2年2組(36人)の家庭総合の時間は郷土料理講習会でした。本校家庭科の毎年恒例の行事で、御船町健康づくり支援課のご協力を得て、5人のヘルスメイトさん達に来校していただき、地元生産の農産物の調理法について実際に学ぶものです。今年は、地元で「御船川」と呼ばれる野菜「水前寺菜(すいぜんじな)」を使い、献立は、「御船川」とベーコンのソテー、いきなり団子汁、「御船川」を混ぜた牛乳かん(薄い紫色)、そしてご飯でした。調理技術を高めること、食材を通じて郷土理解を深めること、さらには地域の方との交流など幾つもの教育効果が期待される特別な体験活動となりました。

 人生の達人とも言えるヘルスメイトのご婦人方の料理の手際の良さを見ていて、私は「ブリコラージュ」というフランス語を連想しました。「ブリコラージュ」とは、近年、文化人類学で使われる用語で、「その場で手に入るものを寄せ集めて、それらを基に試行錯誤しながら新しいものをつくる力」を意味し、もともと近代文明が発達する以前の人間社会では、この「ブリコラージュ」こそ生きる力であったと言われます。食事も道具、生活するための空間なども、身の回りにある材料を使って何とか創り、人間は生きてきたのでしょう。ヘルスメイトのご婦人方が伝達される郷土料理には、生きる力の基本的技能が貫かれています。

 生活の基本は「衣・食・住」ですが、このうち最も大切な「食」について、手作りの難しさと喜びを現代の高校生が少しでも感じとってくれればと願います。できあがった料理を生徒と共に味わいながら、私は自らの中学、高校時代を顧みました。私の世代は、家庭科を履修するのは小学校までで、中学校では女子は家庭、男子は技術を学び、高校では女子が家庭科、男子は武道(剣道・柔道)と分かれていたのです。家庭科の男女共修が始まったのは中学が平成5年(1993年)、高校は平成6年(1994年)でした。すでに私は高校教師でした。

 中学校、高校と私は最も大切なことを学んでこなかったと後悔しています。

 

熊本城で書く ~ 高校生書道パフォーマンスコンテスト

 

                         「この道は未来への滑走路

                             助け合い励まし合い

                        一歩一歩踏みしめ

                              飛躍

                        いざ翔び立て

                        私達の郷土熊本

                                 御船高校 書道部」

   書き上げられた大きな紙(縦3.5m、横5m)が生徒たちの手で立てられ観衆に披露された時、会場からどよめきに近い歓声と拍手がわきました。御船高校書道部の9人の生徒は、顔を斜め上にあげ、きりっとした表情で対面にそびえる熊本城天守閣を見つめていました。天下の名城と対峙する形の袴姿のりりしい女子高校生。お城には袴姿の高校生が似合う、と思いました。

 10月6日(日)、熊本城二の丸広場の特別ステージで、「秋のくまもとお城まつり」の一環として、初めて高校生書道パフォーマンスコンテストが開催されました。実行委員会から9月上旬に県高等学校文化連盟書道専門部にお話しがあり、高校生文化活動の発信の機会としてこれ以上の場はないと協力することになりました。そして、今回、7校が書道パフォーマンスコンテストに参加したのです。

 3年半前の熊本地震で被災して修復工事が行われてきた熊本城の天守閣ですが、ようやく大天守の外観修復が完了し、前日の10月5日(土)から特別公開が始まりました。小天守の修復工事は継続中で、付近は鉄骨と足場が組まれ、大小のクレーンが動いています。しかし、中心の大天守が外観をあらわし、漆喰壁の輝く白と屋根瓦の黒の対比が目に鮮やかです。澄んだ秋空のもと圧倒的な存在感です。

 修復進む熊本城において、伸び盛りの高校生たちが勢いある書道パフォーマンスを披露し、それぞれの言葉でお城、そして熊本にエールを送りました。5番目に登場した御船高校書道部は部員9人と参加7校では最少ですが、まさに少数精鋭です。熊本出身の音楽グループのWANIMAの曲「ともに」に合わせ、最初の挨拶から気合いの入った大きな声を発し、全員できびきびした動作と流れる筆遣いを見せ、スピード感で観衆を魅了したのです。

 最後に、司会者のインタビューを受けた部長の村田さんが、熊本地震からの復興の願いを込めて書き上げましたと力強く述べ、見事に締めくくりました。

 御船高校書道部は最優秀賞の栄冠を獲得しました。