校長室からの風

「OWS」日本選手権に挑む

   「OWS」と聞いた時、何の頭文字か最初は分かりませんでした。この4月に御船高校に赴任した時、「OWS」の県内トップクラスの選手がいると職員から聞きました。その生徒は3年1組の江原奈穂さんです。

    OWS(オープンウォータースイミング)は、海や川、湖といった自然の中で行われる長距離水泳競技です。プールとは違い、天候、水質、あるいは潮の流れなど自然条件の影響を受けることから、一般の水泳競泳よりもタフな体力と専門的な技術が必要とされます。来年の「2020年東京オリンピック」において「マラソンスイミング」(10㎞)の名称で東京のお台場海浜公園で実施されることから今、注目のスポーツです。

    小学生の時から地域のスイミングクラブで水泳を始めた江原さんは、荒木コーチの指導のもと力をつけてきました。御船高校入学後も、荒木コーチが本校水泳部の指導も担われ、400m、800mの自由形で九州大会出場を果たしました。そして、もともと長距離を得意としていたこともあり、荒木コーチの勧めでOWS競技に取り組み始めたのです。この6月の鹿児島県の阿久根市、そして7月の「世界遺産の島」屋久島で開催されたOWS競技大会(5㎞)でそれぞれ3位に入賞し、上位大会の国体、日本選手権への出場が決まったのです。

    9月2日(月)の2学期始業式後、江原さんの壮行会を開催しました。江原さんは、今月11日、茨城県で開催される国民体育大会「いきいき茨城ゆめ国体」に熊本県代表として出場します。さらに22日、千葉県房総半島の館山海岸で開催される日本選手権に出場します。

   「江原さん、あなたのレベルになると、もうあなたしか知らない世界があると思います。海の水は世界中に通じています。スポーツに国境はないと言います。もっと広い世界まで進んでいってくれることを期待します。」と私は励ましの言葉を贈りました。全校生徒の前で、江原さんは、「熊本県代表としてがんばってきます」ときっぱり決意を述べました。高い目標に挑むアスリートらしく、内に闘志を秘め、輝く眼が印象的でした。国体、そして日本選手権(オーストラリアの世界選手権大会につながる)とさらなる大舞台に挑む高校生スイマーを全校挙げて応援したいと思います。

 

新しいALTの紹介 ~ ALTの新任式開催

 「私の名前はマシュー・ディーツです。アメリカのミネソタから来ました。大学で生物を専攻しました。趣味は料理です。御船町は美しい所です。」

 マシュー先生の流ちょうな日本語の挨拶に私は驚きました。本格的に日本語を学習し始めて3ヶ月ほどと聞いていましたが、全校生徒の前で立派な日本語のスピーチを披露したのです。歓迎の挨拶を生徒会長の田中美璃亜さんが行いましたが、後半は英語のスピーチに挑戦し、マシュー先生も笑顔になりました。

 ALT(Assistant Language Teacher)の先生の新任式を、9月2日の2学期始業式後に体育館において実施しました。吹奏楽部がアメリカ合衆国の国歌の歓迎演奏を行いました。

 アメリカ合衆国は50の州(State)がありますが、マシュー先生はミネソタ州の出身です。ミネソタ州はカナダと国境を接し、多くの湖がある自然豊かな所だと聞いています。マシュー先生は、大学でBiology生物学、History歴史学、そしてコンピュータサイエンスなどを学ばれましたが、歴史学の先生からJET (Japan Exchange Teaching)プログラムを紹介され、日本にとても関心を持ち、ALTとして働きたいと来日されました。

 マシュー先生は、6月に大学を卒業されたばかりのフレッシュマンです。ちなみにアメリカの標準的な大学は9月に入学し、6月に卒業を迎えます。日本の学校は明治時代以来4月入学、3月卒業の仕組みをとっていますが、欧米の多くの国では学校は9月入学となっています。毎年、ALTが7月に離任し、9月に新しく赴任となるのは、このような学校制度の違いが背景にあります。

 マシュー先生は日本で新しいことをたくさん学びたいと意欲的です。急速に日本語が上達中なことは今日のスピーチで証明されました。趣味はラグビーと料理だそうです。大学時代にラグビーの選手として活躍され、がっちりとした体格のナイスガイです。

 生徒の皆さん達から積極的に先生へ話しかけ、対話を楽しんでくれることを期待します。  

 

御船高校杯中学生ロボット大会の開催

 

 

 「第14回御船高校杯中学生ロボット大会」を、8月2日(金)の午後、熊本市南区田井島にある大型商業施設「ゆめタウンはません」3階の交流スペースにおいて開催しました。熊本市及び上益城郡から7中学校11チーム、およそ50人の中学生が参加してくれました。

 御船高校はこれまで全国高校ロボット大会で9回の優勝を誇り、ロボット競技においては全国に知られた高校です。中学生にもっとモノ作りの面白さを知ってもらいたいとの願いから、中学生ロボット大会を開催してきました。もちろん本校の力だけでは実施できず、毎回、大学や企業のご協賛を頂いています。昨年までは本校の実習棟で行ってきましたが、中学生ロボット大会の様子を広く発信したいと考え、今年は校外に出て、「ゆめタウンはません」のご理解を得て開催することになりました。その結果、多くの中学生保護者の皆さんや買い物中の市民の方にご観覧いただくことができました。

 主役の中学生の皆さん達が、チームで一生懸命にロボットを動かし競技する姿がまことに爽やかでした。きっと顧問の先生の指導を受け、ロボット制作から操作習得に時間をかけて準備し、練習してきたことでしょう。しかし、それでも、本番はハプニングがつきものです。最初からロボットが動かない、思いどおりにロボットを操作できず、決められたアイテム(空き缶、牛乳パックなど)をゴールまで運ぶことができないことが続きます。中学生の皆さんは動揺しながらも、何とかロボットを動かし、競技を続行することに全力を尽くします。観覧の方々から温かい拍手が送られました。

 中学生の皆さん、失敗してもいいのです。「失敗」とは「こうやったらうまくいかないということをわかった」経験と言えます。成長とは、トライ(挑戦)、アンド、エラー(失敗)の繰り返しです。「接続不良にならない配線はどうすればよいのか?」、「アイテムをつかみやすくするためにはどんな工夫が必要か?」と、課題を自ら見つけ出し、問いを発していくことが大切なのです。

 大会運営を御船高校電子機械科の2年生と3年生の有志が担いました。話しを聞くと、彼らの中には、この御船高校杯中学生ロボット大会への出場を契機に、御船高校電子機械科への進学を決めた者もいます。今回参加した中学生の皆さんの中から、御船高校志望者が現れることを期待します。そして、参加者全員が、これからもモノ作りに関わり続けていくことを願ってやみません。

 「御船高校のロボットはすごい」と中学生の憧れの目標であり続けるため、本校のロボット部は今日も汗を流しながら秋の全国大会を目指しています。

 

教師も学ぶ夏です ~ 夏休み便り

 朝、校長室の窓を開けると蝉時雨(せみしぐれ)に包まれます。空を見上げると入道雲が浮かんでいます。日中の最高気温は35度前後まで上昇し、グラウンドに立てばじりじりと熱気が足下から湧いてくる感じです。今や小・中・高校の教室にはエアコンが完備され、夏でも涼しい環境で学習できるのですが、やはり盛夏を迎えてみると夏休みは必要だなあと実感します。7月31日をもって夏季の課外学習の期間が終わり、8月に入ると校内の生徒の姿は減りました。

 夏季休業も十日ほど過ぎました。毎日のように御船高校生の活躍のニュースが飛び込んできています。3年生の樋口君はプロサッカークラブ「ロアッソ熊本」のトップチームへの昇格が決まり、新聞報道されました。樋口君は学校の部活動ではなく、小、中、高校と「ロアッソ熊本」のクラブチームに所属し活動してきたのです。そしてついにサッカー界最高峰のJリーグ(現在「ロアッソ熊本」はJ3リーグ)の選手となる夢が見えてきたのです。また、7月30日(火)には、熊本県吹奏楽コンクール高校小編成部門で御船高校吹奏楽部(15人)が南九州大会出場を決めました。2年ぶりの県代表となり、翌日、喜びの表情で部員の皆さんが校長室に報告に来てくれました。

 生徒の皆さんはどのように夏休みを過ごしていますか?夏休みはスポーツや文化活動など自ら好きなことに熱中できます。何かに熱中することは、自己肯定につながると私は思います。一人ひとりが学期中にはできないことに熱中して欲しいと願っています。令和元年、2019年の夏は二度と来ないのです。

 さて、夏季休業中ですが、御船高校の先生たちも頑張っていますよ。2、3年生の担任は生徒、保護者の方との三者面談、そして3年生は就職や推薦入試の準備指導、1年生の担任は家庭訪問に回っています。そして、それぞれの専門教科の研修会に参加し、自らの授業力や指導力の向上に励んでいます。それに加え、今年の夏は全国高等学校総合体育大会(インターハイ)の「南部九州総体2019」(熊本・宮崎・鹿児島・沖縄)が開かれています。熊本県でも7競技が開催されており、バドミントン競技(八代市)には本校から林田先生と松本先生、剣道競技(熊本市)には蔵土先生と高宮先生が出向かれ、大会運営に関わっておられます。

 教師は自分よりも「大きな者」を育てていかなければなりません。自分並みでは次代につながりません。従って、自分自身を向上させるために研修(研究と修養)が求められるのです。生徒の皆さんと職員で競い合い高め合えば、御船高校はさらに活気ある学校になるでしょう。今から2学期が楽しみです。

     7月26日(金)の「中学生体験入学」での本校職員の模擬授業風景

ようこそ御船高校へ ~ 中学生体験入学

    令和元年度の熊本県立御船高等学校「中学生体験入学」を7月26日(金)午前に実施しました。7月24日(水)の異例の遅い梅雨明け以後、日中の最高気温が35度近くに迫る猛暑が続いていますが、それに負けない御船高校の生徒及び教職員の熱意でもって、中学生220人及び保護者・教職員の皆さん50人をお迎えしました。

 午前9時開会と共にオープニングアトラクションとして、本校が誇る吹奏楽部の演奏と書道部の書道パフォーマンスを披露。いきなり御船高校の芸術の力を全開し、中学生たちを引きつけることができたと思います。そして、生徒会長の挨拶、生徒会役員によるパワーポイントを使って大型スクリーンで学校紹介と続きました。この「中学生体験入学」は生徒会はじめ生徒が前面に出て、運営を行っているところが特長なのです。校長挨拶もありません。私自身も不要だと考えています。御船高校生の生き生きとした姿を中学生に見てもらうことが一番の目的と言えるでしょう。「あんな高校生になりたい」、「この先輩達と一緒に高校生活を過ごしたい」と中学生に思ってもらいたいと考え、企画した「中学生体験入学」なのです。

 参加者を6班に分け、それぞれを生徒会の生徒たちが引率して、授業体験、書道・美術の芸術作品の観覧、電子機械科の実習体験等に回ります。特に実習棟における電子機械科の実習体験は、旋盤、溶接、ロボット等の実演を生徒たち自ら行い、説明も担当しました。2年生女子3人が、「工業女子よ来たれ」と盛んに女子中学生にアピールしている姿が印象的でした。また、芸術コース専攻を希望している中学生は、高校生の支援のもと美術室でのデッサンや書道室での制作に挑戦しました。

 中学校とは違う学びの広さ、深さ、そして施設・設備等の充実した教育環境に中学生達は眼を輝かせ、知的好奇心をもって様々なプログラムに取り組み、その真摯な姿勢は実に爽やかでした。

 中学生の皆さん、改めて御船高校の魅力を四つあげます。 

 一  伝統と信頼があります

 一  多くの出会いが待っています

 一  一人ひとりを伸ばします

 一  他校にはない体験活動が豊富です

  来春、天神の森の学舎で皆さんと出会えることを待っています。

 

「伝統」と「多様性」が御船高校の魅力です。

 7月19日(金)に1学期終業式を終え、夏季休業期間に入りました。この4月に赴任した私にとって、1学期は、発見と気づきの連続でした。本校は、幅広い学びの中から自らの進路を探していく普通科、音楽・美術・書道を通して創造力と感性を磨く芸術コース、そしてモノ作りの面白さを追求する電子機械科とそれぞれ異なる教育課程があり、個性きらめく生徒の皆さんが共に学校生活を送っています。平成から令和に時代が変わっても、天神の森の学舎は可能性ある若者と熱意ある教職員の出会いの場であり続けます。

 御船高校の魅力は、「伝統と多様性」だと私は思います。生徒たちは可能性豊かで、一人ひとりが自分探しの個性的な旅をしていると感じます。そして、御船高校生を地域の方や同窓生の皆さんが温かく見守っておられます。熊本県で最も歴史ある洋画公募展の「銀光展」(今年で82回)において、3年4組の木村さんの作品が最高賞に選ばれました。芸術コース美術専攻の生徒としてこれまで学んできた見事な成果です。学生、社会人含めての最高賞を高校生が受賞したことは新聞でも報道されました。そして、この記事をご覧になった同窓生の方からご丁寧な封書が学校に届きました。昭和28年3月ご卒業(御船高校5回生)の大先輩の方で、後輩の木村さんの受賞をたいそう喜ばれ、展覧会に足を運びたいと綴られていました。木村さんを校長室に呼び、この祝意のお手紙について伝えました。木村さんにとっても自信になる出来事でしたが、多くの同窓生や地域の方々を喜ばせる快挙だったのです。

 銀光展の最高賞だけでなく、この1学期、書道部、写真部、水泳部の活躍をはじめ、少林寺拳法同好会の躍進や個人的に取り組んでいる吟詠剣詩舞での全国高校総合文化祭への出場(3年女子)、同じく個人的な挑戦の自転車競技での九州高校総体への出場(1年男子)など相次ぎました。この夏季休業においても、地域の空手道場に通っている2年男子の世界大会出場や、御船町ライオンズクラブの推薦を受け3週間の台湾ホームステイに出かける2年男子など自ら意欲的に進路を切り開く御船高校生が数多くいます。

 そしてきょう7月23日(水)、吹奏楽部が熊本県吹奏楽コンクールの小編成部門で金賞を受賞しました。会場の県立劇場でその演奏を体感した私は、とても15人とは思えない迫力あるサウンドに魅了されました。

 御船高校の魅力は、「伝統と多様性」です。中学3年生の皆さん、来る7月26日(金)は御船高校体験入学の日です。天神の森の学舎への来校を心から待っています。

 

「私たちの学校」という気持ちで ~ 1学期終業式を迎えて

 

 7月19日(金)に御船高校は1学期の終業式を迎えました。大掃除の後、午前9時20分から表彰式、ALT(外国語指導助手)のディラン先生の退任式を行いました。そして、生徒たちはそれぞれの教室に戻り、午前10時15分から放送による終業式を実施しました。体育館の暑さ対策のためです。

 校長講話を放送室で行いましたが、生徒の顔が見えず、マイクに向かって一人で話すことの難しさを感じました。私の講話は次のようなものでした。 

 皆さん一人ひとりが私にはまぶしく見えるほど、高校生は可能性の塊です。高校教師として長年仕事をしてきた私は、高校生の計り知れない可能性にいつも驚かされてきました。だから、皆さん達には、勝手に自分の限界を設けて欲しくありません。「どうせ自分なんか」と自分の可能性を否定するマイナスの言葉は使って欲しくないのです。挑戦もしていないのに諦めている人が多いように思います。失敗したっていいではないですか。「失敗」とは「こうやったらうまくいかないということがわかった」ことを学ぶ経験です。どんなことがあっても、自分だけは自分自身を信じていてください。好きでいてください。

 休み時間や放課後に、私は努めて校内を巡るようにしています。皆さんと挨拶を交わしたり、短い時間でも対話したりすることが楽しみです。しかし、残念なことがあります。駐輪場周辺や部室の近くにジュースの空き缶やお菓子のゴミ袋などがよく落ちているのです。皆さんは自分の部屋にジュースの空き缶を捨てますか? 大人の中にも、自動車や自分の部屋などのプライベート空間は清潔を保つ一方、道路や公園のトイレにタバコの吸い殻や空き缶を放置する人がいます。本来は、多くの人が使用する公共の空間こそ、プライベートな場所より大切にしなければならないのではないでしょうか。

 御船高校は私たちの学校です。1年生も入学して3ヶ月余りこの学舎で生活してきました。単なるモノや道具であっても、長い時間使い続けると愛着を感じます。長年乗っている自転車は、もう単なるモノ(無機物)ではなく、自分の相棒のようになり、「こいつはよく走ってくれるんです」という表現をします。生徒の皆さんにとって、家庭の次に御船高校は心の拠り所と言える場所になって欲しいのです。「私たちの学校」という気持ちを持てば、学校というみんなの空間をさらに大切にすることでしょう。 

 令和元年、2019年の夏休みは二度とありません。生徒の皆さん、一日一日を大切に過ごしてください。

 

ALTのディラン先生を歌で送る

   ALT(Assistant Language Teacher)のディラン先生が2年の任期を終え、1学期末で御船高校を退任されることとなりました。この2年間、ディラン先生は、英語をわかりやすく教えられると共に、母国のアイルランド共和国をはじめヨーロッパ等の国々のことを授業で紹介されました。生徒たちはいつもディラン先生の授業を楽しみにしていました。

 7月19日(金)の1学期終業式の日、体育館において、ディラン先生の退任式を行いました。ディラン先生のスピーチは、最初に英語、次に日本語で次のようなことを語られました。

  「日本に来る前は、日本の生活のことは全く分からなかった。日本の高校生はシャイ(恥ずかしがり屋)で静かだと思っていた。けれども、御船高校の生徒は明るく元気の良い生徒が多く、生徒たちの幸せそうな顔を毎日見ることが幸せだった。御船町に住み、御船高校で教えたことを忘れることはないだろう。」

   ディラン先生のスピーチの後に、生徒会長の田中美璃亜さん(2年B組)が生徒代表の感謝の言葉を述べ、花束を贈呈しました。そして、ステージにコーラス部の生徒6人が登壇し、音楽の岡田先生の指揮、前村先生のピアノで、アイルランドの歌「ダニー・ボーイ」(別名:ロンドンデリーの歌)を合唱しました。アイルランドの民謡は旋律が優しく、明治時代から日本人には親しまれてきました。特に、1913年(大正2年)に発表されたこの歌は、戦場に息子を送った母の思いが表現されていて、その切ないメロディと歌詞は国境を越えて共感を呼び、我が国でも歌い継がれてきています。花束を持ったまま壇上の椅子に座り、コーラス部の歌声にじっと耳を傾けるディラン先生。目頭を幾度か押さえる様子が見られました。異国の地で聴く祖国の民謡はディラン先生の心に深く響いたことでしょう。

   最後は全校生徒及び職員による校歌斉唱を行い、拍手の中、ディラン先生は生徒たちの間を通って、体育館を退場されました。

   アイルランドは、地理的には遠く離れた島国です。しかし、かつて明治24年から3年間、アイルランド人の父とギリシア人の母を持つラフカディオ・ハーン(帰化して小泉八雲となる)が熊本の青年達に英語を教えたことから、熊本とアイルランドの関係は早くから始まりました。ハーンが住んだ家は今も熊本市に記念館として保存公開されています。また、市民有志によって「熊本アイルランド協会」という団体も結成されています。人と人との出会いによって、国と国との関係が始まるのです。私たちにとって、アイルランドはディラン先生の国として特別な存在になることでしょう。

 

御船町の本町通り歴史散歩 ~ かつて御船に県庁があった

 

   「御船町に県庁があったことを知っていますか?」と、御船高校に赴任した私に藤木町長が言われました。続けて、「但し、たった二日間ですが」と笑って付け加えられました。

 時は明治10年(1877年)2月のことです。西郷隆盛率いる薩摩軍が北上して、政府軍の立てこもる熊本城を包囲しました。西南戦争の始まりです。お城の近くにあった熊本県庁は2月19日に避難し、郊外の御船に仮県庁を置いたのです。しかし、この一帯も混乱しており、結局、21日には御船から仮県庁は出て行きます。「御船の二日県庁」と語り伝えられるゆえんです。仮県庁はその後も県内を転々とし、4月16日に熊本城近くの元の場所に戻りました。なお、田原坂の戦いで政府軍に敗れ、熊本城の包囲網を解いた薩摩軍は、4月に御船付近で数次にわたって政府軍と戦火を交えます。特に最後の4月20日の戦いは激しく、政府軍が御船町を占領することで、薩摩軍は山道を矢部方面へ撤退していきました。その後、二度と薩摩軍が熊本平野に戻ってくることはありませんでした。

 「県庁跡」は御船川左岸の本町通りです。ここはかつて御船の商業の中心だったところで、漆喰の白壁の建物前に「史跡 熊本県庁跡」の白い標柱が立っています。背後の建物は、築100年以上の歴史的建造物の「池田活版印刷所」(明治33年創業)です。こちらは今も鉛活字を使った昔ながらの手法で印刷を手がけておられます。先日、本校の美術科の職員等と訪問したところ、5代目店主の吉田典子さんが懇切丁寧にご案内してくだいました。店内は、インクの匂いが漂い、大量の鉛活字の棚や黒光りする印刷機が存在感を示しています。名刺やノートを手に取ると、活版印刷による味わい深い凹凸感がありました。今後、美術コースの生徒の見学やワークショップを実現したいと思います。

 池田印刷所の隣が「御船街なかギャラリー」です。もともとは江戸時代後期に建てられた大きな町屋で、豪商の林田能寛(はやしだよしひろ)の商家(「萬屋」)でした。白壁土蔵造りの酒蔵や商家が次々と消えていく中、往時の町並みを伝える建物として御船町が所有し、現在は交流施設として観光協会が運営されています。太い梁や柱の趣ある主屋をはじめ離れや庭、さらには二つの大きな蔵があり、御船高校芸術コースの書道や美術の学習成果発信の場として活用できないか検討しているところです。

 令和の世にあっても活版印刷が行われていたり、江戸後期の商家建築が活用されていたりと御船町の本町通りは奥が深い場所です。歩いていると歴史をさかのぼっていくような感覚に包まれます。皆さんも歩いてみませんか?

 

選手10人の入場行進 ~ 夏の全国高校野球熊本県大会

 

 「御船高等学校」と球場にアナウンスが響きました。御船高等学校野球部の選手10人の入場行進です。キャプテンの久佐賀君が校旗を持ち、その後ろに3人ずつ3列で9人の選手が続きます。バックネット裏に座っていた私の周囲では「あれ?御船はたった10人かな?」という声がしましたが、私は気になりませんでした。本校野球部は部員不足で悩まされ、常に少人数で取り組んできて、7月7日(日)の第101回全国高等学校野球選手権熊本大会開会式を迎えたのです。二日前、学校のグラウンドで入場行進の練習をする選手達に、「少人数でもキラリと光る行進をしよう」と励ましたところです。

 藤崎台球場は、県内の高校球児にとっては「熊本の甲子園」のような場所です。樹齢七百年の七本の大楠(国天然記念物)が外野席後方から見守る伝統ある球場に、御船高校単独チームとして入場行進ができたことを誇りに思っています。今年は第101回大会。テーマは「新たに刻む、ぼくらの軌跡」です。少子化に伴う高校生減少によって高校球児も減っています。また、熱中症の危険性も高まり、真夏の大会運営における安全性の確保が求められています。

 しかし、様々な困難がある中、高校野球のひたむきさ、最後まであきらめない姿勢などは観る人に元気を与えます。そして、6月上旬に県高校総体・総合文化祭が終わることで大部分の3年生が部活動を引いた後、野球部だけが1ヶ月余り練習に汗を流し、3年生にとって部活動の総仕上げの意味もあり、他の生徒たちの熱い応援もあります。夏の高校野球は国民にとっても風物詩のようなもので、我が国独自の学校文化と言えると思います。

 御船高校野球部の初戦は7月8日(月)の第2試合(県営八代球場)となりました。当日は、電子機械科1年生(A・B組)の鹿児島県の川内発電所見学の引率が早くから予定されており、抽選結果の日程を残念に感じました。開会式後、選手達には「1回戦を突破したら応援に行けるから、勝ってくれ」と檄を飛ばしました。しかしながら、結果は熊本高校に大敗を喫したのです。たった二人の3年生の久佐賀君(捕手)と内村君(投手)が最後にバッテリーを組んだことを後で知り、少し救われた気持ちとなりました。

 勝った時よりも、負けた時の方が学ぶことは大きいと言われます。本校の3年生の皆さんの多くは十分に力を発揮できず、部活動の終わりを迎えたことでしょう。しかし、高校生としてこれからが本当の勝負です。皆さんには無限の未来が広がっています。敗戦の悔しさをエネルギーに変え、一人ひとりの進路実現に向けて挑戦していってほしいと期待します。後ろを振り返る必要はありません。夢、希望、目標は前方にしかないのです。