校長室よりブログ
実乗(みの)る稲田(いなだ)は頭(こうべ)垂(た)る
4月9日(金)の午前中,新一年生に「実乗る稲田は頭垂る」の話をしました。
一般には「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の言葉の方が知られていると思います。
以前,自然写真家の赤坂友昭さんから教えてもらったのですが,元は「実乗る稲田は頭垂る」のようです。カメラのMINOLTAの社名もこの「実る稲田は頭垂る」から来ているということでした。意味はどちらも「学識や徳を積んだ行いが深まるほどに(学べば学ぶほどに人間性が高まって)謙虚になっていく」ということです。
私が,この言葉を一年生諸君に紹介したのは「これから天草高校で学び,人間性を磨いて,他者に感謝して自然と頭を下げられるような人間になってほしい」という思いからでした。
では,何故,私は一般に知られている「実るほど・・・」の言葉ではなく,「実乗る稲田は頭垂る」を紹介したのでしょうか?
「語源を知るということが大事だから」という思いもありました。しかし,一番の理由は,目に浮かぶ風景が違うからです。
一年生諸君にも話しましたが,「実るほど・・・」は,一本の稲穂が目に浮かんできます。
金色にぎっしり実を詰まらせた稲穂が,次第にその穂を垂らせている姿にしっかりフォーカスされていきます。
一方,「実乗る稲田は頭垂る」はどうでしょうか?
一面金色に輝く稲穂が,実を詰まらせた稲穂が,垂れて風になびいている広い稲田の風景が浮かんできませんか?
私は、このような天高になってほしいのです。
自ら精進鍛錬して己の徳性を高めていく「実るほど・・・」は素晴らしいと思います。
しかし一人ではダメなんです。
私は,天高のすべての生徒たちがそれぞれに努力を続け,時には隣人に肩を貸し,励ましあって,一枚の美しい田んぼに仕上がってほしいと願っています。一人の成功だけではなく,この天高に学ぶ皆が互いに協力し合い,互いを高め合って,一人では決して見ることのできない高みの光景を作り上げてほしいのです。
私には,忘れられない「礼」があります。
今から40年近く前,天草高校時代,私が学んだ体育の先生に,とても美しい礼をなさる先生がいらっしゃいました。今なおそのお姿が目に焼き付いて離れません。
毎時間,毎時間,授業の始まりと終わりに,すっと背筋を伸ばし,両掌をお尻の後ろに当てて,緩やかに礼を始めます。静かな無言礼。「よろしくお願いします」「ありがとうございました」という声が全身から伝わってくるような凛とした「礼」です。一瞬空気がピンと張りつめ,そして温かなものがこちらの胸の中に流れ込んできます。
私も,あんな気持ちのこもった美しい「礼」をしたいと常々思っていますが,まだまだです。
私は,他者に頭を下げることができるというのは,最高の美徳だと思っています。
自然体で頭を下げられる人になりたいと,高校以来思っていたからでしょうか,「実る稲田は頭垂る」の美しい田んぼの風景が頭に焼き付いて離れないのです。
お互いを認め,思いやり,助け合う学び舎,自然体で美しい礼ができる学び舎「天高」を目指していきたいと思います。
天高生とは何ぞや!
「天高生とは何ぞや!」
岩間先生の野太い声が澄み渡った青空に響きました。
結団式後の集会での一コマです。
札幌農学校を開いたクラーク博士は,生徒たちに「Be Gentlman!(紳士たれ!)」と呼びかけ続けました。
そして これを札幌農学校唯一のルールとしたのです。
岩間先生は,自らの頭で考え行動で答えを探し続けることを求めます。
「何のために学んでいるのか」「何のために生きているのか」
学びの根源的な問いが「天高生とは何ぞや!」の響きには込められているような気がします。
そして,この根源的な問いに応えてくれるという実感があるからこそ
発せられた言葉でもあるのです。
天草の空ははるか上空まで澄み渡っています。
生徒たちの澄み切った心を象徴するかのような一日でした。
ところで
その日の夕刻 もう日暮れてあたりも暗くなっていた頃のことです。
私が地域の区長さんのところで用事を済ませ
睦橋を渡って歩いて官舎に戻っていると
すれ違う天高生が 自転車に乗っている生徒も 歩いている生徒も
口々に「こんばんは」と声を掛けてくれます。
懐中電灯で足下を照らさないといけないほどの暗さで
しかも私は私服で歩いていましたので
おそらくは地域の方だと思って声を掛けてくれているのでしょう。
一人ひとりに「こんばんは」と返す毎に嬉しくなってきました。
「天高生とは何ぞや!」
一人ひとりが胸に宿して 天高生らしい行動を続けてくれることを願います!
着任のごあいさつ【校長ブログ】
みなさん こんにちは
この4月に天草高校に校長として着任しました馬場と申します。
少し遅くなりましたが、着任のごあいさつを申しあげます。
天草高校は5年ぶりとなります。
毎日 登下校の生徒たちが こぼれんばかりの笑顔であいさつしてくれます。
掃除の時間には 生徒たちが雑巾で床を丁寧に拭きあげています。
一緒に着任した多くの先生方が「天草高校は良いですね。大好きになりました!」と話しています。
素敵な生徒たちに囲まれ 心温かな先生方に恵まれ 再びこの天草高校に着任できたことを嬉しく思います。
着任初日に,私は先生方に「天高に来てよかった」「天高にやってよかった」「天高に勤めてよかった」「天高がここにあってよかった」とみんな言えるような学校にしたい,と話しました。
そのためには「進路志望の実現」と「生涯繋がりあえる友人の獲得」,そして「将来を生きる道標づくり」と「保護者同士の繋がり」が欠かせません。
しかし 天草高校としてできることや,しなければならないことを,ただ列挙しても,そこに心が寄り添っていなければ,この弾けるような生徒たちの笑顔は保てないのではないかと考えています。
今日 「天高ラジオ」に出演すると パーソナリティを務める2人の放送委員が笑顔いっぱいで話しかけてくれました。二人の笑顔と、周囲のスタッフの生徒たちの笑顔に囲まれ、いつの間にか自分も笑顔で高校時代のいろんなしくじりを話していました。笑顔には人を幸せにして解放してくれるのですね。あらためて実感しました。
「何かの縁で いま この場に集っている」「私とあなたの能力や思いをシンクロさせるとこんなことができるかも」と考えるだけで、心が湧き立ってきます。
生徒たちの笑顔という宝物を絶やさないために,そして笑顔のパワーを町中に広げていくために,私に何ができるのか,じっくり真剣に考えてみたいと思います。
今後とも 笑顔あふれる天草高校をどうぞよろしくお願いいたします。
キーワードは挑戦!! (令和3年1学期 倉岳校始業式で)
校庭の新緑が鮮やかな季節を迎えました。進級おめでとう。
倉岳校は今年7名の先生が入れ替わりました。いつもと違う雰囲気のスタートかもしれません。
私は,5年前も,この倉岳校でみんなの先輩の姿を見ながら1年間を過ごしました。
その時も今も,倉岳校に来るのが楽しくて楽しくて仕方がありません。
みんなが元気に学校に通ってきて,毎日笑顔で勉強や部活動やボランティア活動に全力で取り組んでくれているのを見ると,嬉しくなったのです。
特に,素敵だったのが,「校訓唱和」でした。
一人ひとりが自分の思いを込めて全力で校訓を声に出してくれました。言葉一つ一つがみんなの軀(からだ)の中に下りてきて,校訓が動き出しているような感覚があって,とても感動しました。人を感動させるというのは,とても素晴らしい才能です。これからも,是非大切にしていってください。
さて,新しい一年の始まりにあたり,私からお願い事があります。
それは,今年一年を「挑戦」の年にしてほしいということです。
倉岳校には「倉校は一人一人が主役,だから君が輝く」という教育スローガンがあります。このスローガンを活かすためにも,先生方は,学習活動では,生徒一人一人の状況や興味・関心,進路希望などに応じて,わかりやすくきめ細かな指導を行います。
また,県内唯一の海の運動会「マリンフェスタ」や,「秋桜祭(しゅうおうさい)」,をはじめとする学校行事,生徒会活動や部活動の中で,あなた方一人一人が生き生きと輝ける場面が多くあります。
さらに,幼稚園,保育園,小学校,中学校といっしょになった避難訓練や,長距離走大会,教育活動やボランティア活動,老人会や婦人会との交流などなど,地域に根差したユニークな取組もたくさんあります。
勉強,学校活動,地域行事,ボランティア,どの学習活動にも是非積極的に参加し,昨年の自分を一つでも二つでも上回ることができるよう,挑戦してみてください。昨年の自分との勝負です。
皆さんのもっている可能性は無限大です。前を向いて挑戦し続けることで,自分自身を高め,才能を開花させるチャンスが増えてきます。あなたたち一人ひとりがますますキラキラに輝いてきます。そして,明日から新たに入ってくる11名の新入生たちと,その下に続く地域の中学生,小学生,幼稚園,保育園の子どもたちを,見守り導く良い先輩となってください。
そして,自分の将来を,10年後の自分を想像して,具体的な進路を描いてください。
描いた進路像=「夢」を実現するために,焦らずコツコツと毎日の学習を積み重ねていきましょう。「心は熱く,しかし行動は冷静に」です。
今年一年,皆さん一人ひとりが,明るい笑顔で努力を続け,一回りも二回りも大きく成長してくれることを願って,年度始めの挨拶とします。頑張りましょう。
思いやりと挑戦 (令和3年1学期 定時制始業式で)
校庭の新緑が鮮やかな季節を迎えた。進級おめでとう。
定時制は今年は先生方が8名入れ替わりました。いつもと違う雰囲気のスタートかもしれません。私を含め,新しくおいでになった先生方も一日も早く定時制に慣れ,みんなの後押しができるよう努めていきますのでよろしくお願いいたします。
さて,私は,5年前も,この天高定時制でみんなの先輩の姿を見ながら3年間を過ごしました。その時に忘れることができない出来事があったので,少し話させてください。
今もそうだと思いますが,秋の定通文化大会に1年生を中心として,天定はバンドを出していました。
その時入学してきたのは男女合わせて6人。ほとんど皆中学校の時は教室に入ることができず,その中の一人の女の子は,中学時代のいじめが原因でほとんど口をきくこともできませんでした。そうかと思うと,一人の女の子は一時間中,何かを喋っていないと居れない子で,静かになったなと思うと,机に突っ伏して寝ています。他にもバレーボールを熱心にやっていたのだけれど,友人関係が上手くいかなくなり別の高校を退学して天定に再入学してきた子とか,ちょっと突っ張って居るように見せながら,実は寂しがり屋で緊張すると鉛筆も握れなくなってしまう子や,家計を助けるために働いている子,しかも周りの助けを断り切れないために,学校が始まっているのに仕事が追われず,半べそをかきながら仕事している子とか様々でした。
そんな子たちが初めて音楽の時間に楽器に触れ,自分の好きな楽器を選んで,ベース2人,ギター2人,キーボード1人,ドラム1人の即席バンドができあがりました。音楽の先生が選んだ課題曲は「初めてのチュウ」。「ええーっ 難しいよそんなの」って言いながら,全てを一人で弾くのは難しいんだけど,それぞれのパートをしっかり弾いていくと全体で音楽になっていくと言うことが分かって,6人はだんだん夢中になり,授業が始まる前や土日も少しずつ集まりながら練習を重ねていきました。本番の大会前には,2ヶ月前に組んだ素人バンドとは思えないくらい,きれいなメロディを流せるようになっていました。
そして試合当日,県立劇場に行くバスの中で,ドラム担当の女の子の表情がやたら暗いのが気になっていました。彼女はとても緊張しいで,たぶんまた緊張が高ぶってきたのだろうなと思っていたのですが,案の定,本番前のリハーサルで,最初は順調にリズムを刻んでいたのですが突然動きが止まりそしてステックを投げ出すと「ダメ できん!! どきどきしてどんどん速くなる」と泣き出してしまいました。
すると,普段ほとんど口をきかないベースの女の子が落ちていたステックを拾って,ドラムの子の手に握らせると「速くなったって大丈夫だよ。このバンドは6人の音がそろわなきゃ,私たちの音がそろわなきゃ意味がないの。リズムが速くなっても私たちが追っかけるから。叩いて」と言ったんです。
本番まで時間は僅かしかありません。ドラムの子は,緞帳が下りたステージの内側をぐるぐるぐるぐるひたすら回り続けて,ドラムセットに近づこうとしません。周りの子は,自分のポジションに立って,唯ひたすらドラムの子が戻るのを待っています。県立劇場の進行係は,緞帳をあげて良いか繰り返し合図を求めてきます。そしてやっとその子がドラムに戻ろうとした瞬間ベルが鳴り,緞帳が上がり始めました。
曲が始まりました。ドラムは,本当にこんな速さに付いてこれるのと言うくらいどんどんスピードが上がって,仕舞いにはまた止まってしまいました。しかし,今度はギターもキーボードもベースも,スローなテンポに変えて,ドラムの再登場を待ちます。そしてやっと最後のサビのところで,ドラムが叩かれ始め,演奏が終わると大きな拍手が会場を埋め尽くしました。
誰だって,初めてのことに挑戦するのは怖いんです。「失敗した」って思うと,みんなに迷惑掛けたくなくて軀が固まるんです。でも,黙って支え続けてくれた仲間が居たから,彼女はドラムを叩き続けることができたんです。
私は あの時の 6つの音が合わさったメロディーを今も忘れることができません。
みんなもそれぞれにキツいこと逃げ出したいことがあるかもしれませんが,是非自分を信じて仲間を信じて,最後まで頑張り続けてください。
帰りのバスの中で,彼女を励ましてくれた女の子に「ありがとうね」と言うと,「なんで? 当たり前じゃない。あのバンドは,六人の音がそろって初めてあのバンドなんだもん」って笑っていました。
その後,卒業するまでこの子たちはバンドで演奏を続け,喧嘩をしたりもしましたが,仲良く学び,卒業後は,3人がそれぞれが行きたかった大学に進学し,2人が是非うちに来てほしいと乞われて就職し,1名は温かな家庭を築いて可愛らしい命を誕生させ,育んでいます。
この天定で出会った仲間は生涯の友となります。自分を信じて,仲間を信じて,前向きに挑戦し,頑張っていきましょう。私たちも全力で応援します。
以上で,令和3年度始めのあいさつとします。