校長室からの風

企業の皆さんと共に ~ 産業教育振興会

 12月8日(火)午後、上益城・宇土・宇城地区の企業の代表の方10人ほどを御船高校にお迎えしました。そして、電子機械科3年生の実習の様子を実習棟でご覧いただきました。内容は、①4サイクルエンジンの分解・組み立て、②電子計測、 ③CAD製図、④シーケンス制御です。各企業は、運輸、ソフトウエア、化学、金属製造など異なる分野の方達ですが、どの実習も興味深くご覧になり、教員や生徒に質問されていました。皆さんが評価されたのは、電子機械科の実習がまとまった時間が確保されていること(1サイクルが3時間)、少人数で実習していること(10人前後)でした。一方、一部の工作機械など設備が老朽化している点は懸念されていました。

 そして場所をセミナーハウスに移し、熊本県産業教育振興会「上益城・宇土・宇城地区支部会」を開催しました。産業教育振興会とは、産業界と教育界(高校)が一体となり、地域における実践的教育や職業体験を通じて、次世代の地域産業を担う人材育成を図ることを目的に結成されています。「上益城・宇土・宇城地区支部会」は、この趣旨にご賛同いただく10社の企業の皆さんと、専門高校及び専門学科を有する5高校(矢部、甲佐、松橋、小川工、御船)で構成されています。年に1回、企業の皆さんと高校が一堂に会し、協議する場を持っており、今年度は御船高校が当番校でした。

 御船高校はじめ5高校全て、2年生で就業体験実習(インターシップ)を実施しています。各企業・事業所のご協力により実際に仕事の現場に赴き、数日から1週間程度(日数は学校及び学科で異なる)、体験するものです。このインターシップの教育効果は誠に大きいものがあります。この体験で、生徒たちは、働くこと、社会人になることを深く考えるようになり、進路意識が高まります。この日、企業の皆さんからも、「受け入れた生徒たちは真剣に取り組む」、「指導する社員にとっても新鮮な刺激になる」、「人材発掘の場にもなっている」等、インターンシップに対してはとても肯定的なご意見がだされ、安堵しました。

 また、高校で身に付けていてほしい力として、「学び続けるための基礎、基本」や「コミュニケーション力」を企業側が共通して挙げられました。そして、業種を問わず、女子生徒の採用に積極的な姿勢を示されたのが印象的でした。

 「少子高齢化が進む中、一人ひとりの高校生は地域の宝です。一緒に大事に育てていきましょう。」と上益城・宇土・宇城地区支部会の住永金司会長(熊本交通運輸株式会社代表取締役社長)がまとめられました。銘記したいと思います。

 

卒業コンサート

 開演を知らせるブザーが鳴り、観客席の照明が次第に暗くなります。一方、ステージはより明るくなり、まるで暗い海に浮き上がる光の舞台のようです。久しぶりにコンサート開演の雰囲気を味わいました。コロナ禍の中、御船高校芸術コース音楽専攻生の演奏会を立派な音楽ホールで開催できることに感慨深いものがありました。

 12月8日(火)、御船町カルチャーセンターのホール(500席)で、午後6時から御船高校芸術コース音楽専攻演奏会が開かれました。この演奏会は、3年生にとっては卒業コンサートとなります。芸術コース音楽専攻生にとっては毎年恒例の大きな行事ですが、今年は開催できるか心配の声がありました。秋になり新型コロナウイルス感染の第三波が起こり、この熊本でも警戒レベルが上がりました。しかし、御船町カルチャーセンターのご理解もあり、主催者の学校側が感染対策を十分に講じるということで演奏会実現に漕ぎつけたのです。音楽ホールで演奏できるかできないかは、生徒たちの気持ちが大きく違ってきます。

 当日、会場の受付では、音楽専攻者だけでなく芸術コースの他の生徒達も協力し、来場者の検温や連絡先記入、誘導などが行われました。観客席は一つおきに座り、30分に一回は換気が行われました。生徒と教職員による手作りの演奏会であり、当事者として感染対策に努めたことは大きな意義があったと思います。

 音楽専攻生は3年生4人、2年生5人で、9人全員がステージに立ちました。第一部では9人の専門とする楽器のソロ演奏です。第二部では、アンサンブル、合奏、合唱で、第一部では緊張気味だった生徒たちの表情も和らぎ、笑顔が出るようになりました。特に2年生5人によるアンサンブル(ハンドベル、合唱)は軽快なダンスを披露し、弾むようなパフォーマンスで会場の雰囲気を一変させました。最後の合唱「桜の雨」(作詞・作曲 森晴義)は卒業がテーマであり、2年生のピアノで8人が気持ちを一つにしっとりと歌い上げました。

 エンディング、3年生4人を代表し、酒井さんと井藤くん(唯一の男子)が挨拶してくれました。3年間の思いがこもり、仲間をはじめ指導者、保護者への感謝の言葉で締めくくられ、印象深いものでした。

 音楽専攻の皆さん、楽器ができるということはとても素敵なことです。楽器はあなたたちの身体(からだ)の一部となっています。これからも音楽があなたたちを支え、励ましていってくれるでしょう。

 寒い夜でしたが、心温まる演奏会でした。

 

マララさんからのメッセージ

 皆さんはマララ・ユスフザイさんを知っていることと思います。高校の英語の教科書にも登場します。パキスタンで生まれたマララさんは、少女の頃から女子の教育を受ける権利を訴え、15歳でイスラム原理主義の武装グループに銃撃されました。この事件を機に家族とイギリスへ移り住みました。そして17歳でノーベル平和賞を史上最年少で受賞しました。マララさんは、イギリスの名門オックスフォード大学で学び、今年の6月に卒業を迎えたのです。

 しかし、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な感染流行)によって、卒業式は中止となりました。女子が学校教育を受けることを認めない人々がいる国で命の危険にもさらされ、それでも女子教育の大切さを訴え続けてきたマララさんにとって、学校教育の総仕上げである大学の卒業式が失われたことはどんなに悔しく、無念であったことかと想像します。

 けれども、マララさんは自らのホームページで、パンデミックによって同じように卒業式を失った世界中の学生に呼びかけます。

「Don’t be defined by what you lose in this crisis,

But by how you respond to it.」

(あなたがこの危機によって何を失うかによって定義されてはいけません。

そうではなくて、それにどう対応するかによって定義されなさい。)

 何を失ったかよりも、この危機にどう対応し、前に進んで行くかが重要なのだとマララさんは強調しているのです。そして、「これまでの教育で身に付けてきた知識や技術を持って、私たちは社会に出る時です。より良い世界を創っていきましょう。」とメッセージを締めくくっています。

 コロナ危機を変化する機会ととらえるマララさんの前向きなメッセージは、世界中の若い世代を勇気づけていると言われます。

 このマララさんのメッセージを、御船高校生の皆さん、とりわけ、修学旅行の中止が決まった2年生の皆さんに伝えたいと思います。 

 

                        師走の御船高校の校庭風景

阿蘇の「震災遺構」が伝えるもの ~ 育友会研修旅行その2

    立野渓谷を望む「数鹿流崩れ(すがるくずれ)」の現場に立つと、足がすくむ思いになります。対岸の崖には、平成28年(2016年)4月の熊本地震によって崩落した阿蘇大橋(長さ200m)の橋桁(はしげた)の一部が引っかかる形で残存しています。その他の大部分はおよそ百m下の黒川に落ち、多くがいまだ土砂に埋まっているのでしょう。振り返って見上げると、北外輪山の大規模山腹崩壊の跡が恐ろしいほどの迫力で姿をとどめています。幅200m、長さ700mの規模で急斜面が崩壊し、樹木や土砂がJR豊肥線の鉄路及び国道57号の道路を押し流し、立野渓谷に落ちていきました。熊本地震の阿蘇地域での被害を象徴する場所です。近くにある名勝「数鹿流滝」にちなんで、この大崩落は「数鹿流崩れ」と命名され、石碑及び説明版、展望用の駐車スペースが整備されています。

 熊本地震以来、鉄道は不通が続き、熊本市と阿蘇地域を結ぶ道路は、北外輪山の二重(ふたえ)峠の迂回路となり、人々の暮らしや観光産業に大きな影響を与えてきました。しかし、ようやくこの8月に鉄道、10月に国道57号が復旧し、阿蘇地域と熊本都市圏の往来がスムーズになりました。そして、来春には新しい阿蘇大橋が元の場所から約600m下流に架け替えられる予定で、巨大橋梁の工事が急ピッチで進められています。新阿蘇大橋が完成すれば、国道57号から国道325号で南阿蘇方面とつながります。熊本地震から四年半が立ち、創造的復興が実感できます。しかし、私たちは「阿蘇大橋が落下した!」というニュースを知った時の衝撃を忘れることができません。この自然災害の脅威を次代に伝えていくために、「数鹿流崩れ」が震災遺構として整備されたことの意義は大きいと思います。

 「数鹿流崩れ」の現場から、東側に回って黒川を越え、南阿蘇村河陽の台地上に残る旧東海大学校舎を私達は訪問しました。ここも熊本地震の震災遺構です。東海大学農学部として地震前は約800人の学生がキャンパスライフを送っていました。しかし、この校舎下を断層が走っており、激震が襲われました。敷地内に隆起した地表地震断層は樹脂で固められ、当時の亀裂や横ずれが生々しく残っています。校舎(1号館)は室内に鉄骨がむき出しになるなど甚大な損傷を受けていますが、全体に補強され、外部の回廊から見学できるようになっています。ガイドの方から丁寧な説明を受け、理解も深まりました。

 熊本地震の体験から得られた教訓を後世に伝えるため、熊本県は、震災被害の拠点を「震災遺構」として整備し、それらを巡るフィールドミュージアムの構築を進めています。防災教育の観点から大変有益だと考えます。次は高校生の皆さんと共に赴きたいと思います。

 

 

阿蘇で育つ珈琲(コーヒー) ~ 育友会研修旅行

 皆さんは珈琲(コーヒー)の産地と言うと、どんな場所が思い浮かびますか? 中南米(ブラジル、ジャマイカ等)、ハワイ、東南アジア(インドネシア)、アフリカなどの熱帯・亜熱帯地域のイメージがあるのではないでしょうか? 私がそうでした。そのため、冷涼な気候の阿蘇にコーヒーファーム(珈琲農園)があると知って関心をもち、一度現地を訪ねたいと思っていました。

 11月28日(土)、御船高校育友会(PTA)役員研修旅行(参加者10人)で、阿蘇を訪ねました。例年の研修旅行は県外の先進校を視察していますが、今年度はコロナ禍の中、日帰りで近場の阿蘇地域の訪問となりました。その最初の目的地が南阿蘇村河陽にある「後藤コーヒーファーム」でした。

 手作りの木製看板を背に、オーナーの後藤至成氏が笑顔で出迎えていただきました。元高校教諭(農業科)で、阿蘇をこよなく愛され、定年退職後は南阿蘇で農業を通じて、地域振興に取り組んでいらっしゃる方です。「なぜ、阿蘇でコーヒーなのか?」ということについて後藤氏が熱く語られました。まず、世界の高品質コーヒーは山岳地帯の厳しい環境で生育していることを強調されました。例えば、「ブルーマウンテン」という有名なブランドコーヒーがありますが、ジャマイカのブルーマウンテン山脈(標高2000m級)の山岳地帯で栽培されています。強い日差しを好まず、寒さに強い性質のコーヒーに阿蘇地域の気候は適しているのです。また、阿蘇は湧水が豊富で、このおいしい水で味わう阿蘇珈琲は新しい特産品になる可能性を持っていると説明されました。

 後藤氏は農業科教諭の頃から阿蘇でのコーヒー栽培に着手され、3年前の定年退職を機にファームを設立され、現在、有志農家の方たちと阿蘇珈琲プロジェクトチームを結成され、本格的な商品化、ブランド化に向け尽力されています。日本のコーヒー消費量は増大する一方ですが、そのほとんどが輸入珈琲であり、国産コーヒーの拡大が必要との思いも原動力だったそうです。

 「後藤コーヒーファーム」は年間通しての路地栽培ではなく、冬場は施設栽培方式をとり、温度調整に気を配られています。ハウスの中に入ると、約60本のコーヒーの樹が林立し、葉が茂り、一部にはコーヒー特有の真紅の実が付いていました。樹木の多くにオーナーの名札が付いていました。多くのコーヒーファンが阿蘇珈琲の可能性に期待している現れでしょう。

 一杯のコーヒーには人をつなげる力がある、後藤氏は語られました。阿蘇の土壌で育ったコーヒーの豆を収穫、精製、焙煎、そして抽出と手をかけて、私たちが香り高い味わいを楽しめる日は近いと思います。

「後藤コーヒーファーム」と後藤氏

 

「モノづくり」の楽しさを伝える ~ 「つくって、あそぶ メカトロ王国」

 

 3連休の中日の11月22日(日)、熊本市南区田井島にある大型商業施設「ゆめタウンはません」3階レストコーナー(休憩広場)では、モノづくりに興じ喜ぶ多くの児童、幼児の姿が見られました。子どもたちを教え、サポートするのは御船高校電子機械科3年の生徒達20人です。「つくって、あそぶ メカトロ王国」という御船高校電子機械科の主催行事を実施しました。

 アルミパイプやアルミブロックでアニマル(動物)型模型を作成します。昨年の全国大会に出場したロボットでプラスチックの羽を飛ばし、的当てをします。釘で張られた導線の迷路を両極の付いた棒で進んで行くゲームは、線に触れるとブザーが鳴ります。金属のクリップの付いたお菓子を、磁石付きアームのロボットを動かし釣りあげます。また、パソコンでは、ブロックタイプの入門プログラミングを学びます。ただゲームや体験をするのではなく、なぜこうなるのかという原理、仕組みを生徒たちが子どもたちに説明し、できるだけ、子どもたち自身に作らせ、操作させます。それによって、子どもたちの眼は輝き、完成した時や操作が上手にできた時は、付き添いの親御さんと共に歓声が上がっていました。

 お孫さんを連れて来場された初老の男性の方から、「最初は大学生の皆さんかと思いました。高校生なんですね。みんな落ち着いていらっしゃる」とお褒めの言葉をいただきました。今回、運営に協力している生徒たちは皆3年生です。御船高校電子機械科でこれまでモノづくりに取り組み、トライ&エラーを繰り返し成長してきました。モノづくりの面白さも難しさも十二分に分かっています。小学生や就学前の幼児たちに寄り添い、モノづくりの楽しさを伝えられることに大きな喜びを感じているようでした。

 御船高校電子機械科は、モノづくりを通じての社会貢献活動の一環として、例年、中学生ロボット大会や小学生のモノづくり体験等を行ってきました。しかし、今年度はコロナ禍の影響で、これまでは何もできないままでした。そこで、11月の3連休の機会を利用し、昨年の中学生ロボット大会会場である「ゆめタウンはません」のご協力を得て「つくって、あそぶ メカトロ王国」を企画したのです。コロナ禍が続く中、何かを行うことは常にリスクが伴います。しかし、何もしないでいることは、また別の面でリスクが生まれるとも言えます。

 実習服で生き生きと動き、児童や幼児と交流する3年生の姿を見て、これは電子機械科にとって教育上必要な行事だったと思いました。

 

「学校再発見」の文化祭 ~ 令和2年度龍鳳祭

 御船高校の文化祭は「龍鳳祭(りゅうほうさい)」と呼ばれています。校歌(昭和2年制定)の一節「龍鳳となり雄飛せん」から採られた名称です。巷では新型コロナウイルス感染の第三波が懸念される11月13日(金)、令和2年度「龍鳳祭」を開催しました。

 例年とは大きく異なり、規模を縮小し半日開催、そして保護者をはじめ校外からの見学者を入れないという異例の形式となりました。また、密集、密着を防ぐために、原則、学級単位で動くというルールを設けました。体験型の催し物には人数制限をかけるため事前に整理券を出しました。開会式(一斉放送)で「決められたルートを通り、決められた時間、決められた場所での見学、体験」と生徒会からの呼びかけがあったとおりです。このように様々な制約があっても、生徒会、そして私達職員にとっても、文化祭の実施にはこだわりました。今年度、これが全体として初めての学校行事だったからです。

 ホームルーム(教室)にいる間は、動画視聴の時間です。見学、体験には学級単位で動いて回ります。体育館ではスペースを十分に取り、1学年普通科のモザイクアート、手作りアクセサリー展示、的当てのアトラクションのコーナーが設けられました。また、2学年普通科の「総合的な探究の時間」の発表が掲示されました。特別教室棟では、美術、書道、写真、華道等の作品が展示され、観る者を引き付けました。2年4組(芸術コース)の特設スタジオも出現し、手作りの手腕を発揮しました。そして、電子機械科の実習棟では、ロボットやマイコンカーの実演が行われました。普段、実習棟に足を踏み入れたことのない普通科の生徒たちにとって、電子制御でロボットが動き、マイコンカーがコースを疾走する様子は新鮮な驚きで、歓声があがっていました。

 御船高校は、モノづくりの面白さを追究する電子機械科、音楽・書道・美術を通じて創造性を養う芸術コース、そして様々な学びの中から自らの進路を見付けていく普通科(特進・総合)と多様な学びが共存しています。日頃は異なる学びに取り組んでいる船高生が、学校行事や生徒会活動等で交流し、一体となり「チーム御船」の力を発揮するところが本校の強みなのです。

 僅か半日の文化祭でした。けれども、平常の授業日とは異なり、生徒たちの笑顔や歓声が満ち溢れる、特別な時間となりました。御船高校の多様性を生徒たち自身が再発見した文化祭だったのではないでしょうか。

 学校行事は生徒を成長させるものです。龍鳳祭を実施して良かったと思います。

 

 

探究する力 ~ 熊本県工業高校生徒研究発表会

 第32回熊本県工業高校生徒研究発表会が11月11日(水)に熊本大学「工学部百周年記念館」(熊本市中央区黒髪)で開催されました。県内の県立工業高校及び工業系学科を有する高校の10校が参加しました。

 工業の専門科目に「課題研究」があります。御船高校の電子機械科でも3年次に2単位設定しており、生徒たちがグループごとに分かれ、モノづくりに関する広い題材の中から、指導する教師と共にテーマを立て、その改善、改良に取り組む学習です。今年度の本校の課題研究の代表に選ばれたのは、「Pepper(ペッパー)の有効活用」(指導:緒方教諭、3年A組の男子5人)です。

 ペッパーは(株)ソフトバンク社が開発した人型ロボットです。このペッパーが昨年度から御船町教育委員会に貸与され、小学校の英語の授業に活用できるようプログラミンを本校の電子機械科で担当してきました。昨年度は御船小と小坂小で実際にペッパーを活用しての英語の授業が行われ、電子機械科の生徒たちが課題研究で取り組んだプログラミングの成果が発揮されました。

 今年度の3年生はさらに分かりやすい英語学習の助けになるようプログラミングの改良を図ったのですが、コロナ禍でこれまでのところ小学校でのお披露目はできていません。しかし、そのプロセスを発表しました。重量が約30㎏もあるペッパーを会場に運び、ステージ上で実演させ聴衆の関心を引き付けての研究発表ができたと思います。

 今回も10校それぞれの特色が遺憾なく発揮され、聴きごたえがあり、そのレベルの高さに幾度もうなされました。最優秀賞は球磨工業高校(建設工学科)の「逃げろ! 防災の在り方についての探究」でした。球磨川本流へ流れ込む支流の影響を現地測量や水流実験から検証し、バックウォーター現象の危険性を指摘するなど球磨川の治水の在り方について警鐘を鳴らす内容でした。しかも、この研究活動の最中、人吉・球磨地域は「令和2年7月豪雨災害」に襲われたのです。生徒たちの危機感は的中したことになります。予断や偏見のない、高校生の純粋な探究心が成せる高い研究成果に私は脱帽の思いでした。

 この熊本県工業高校生徒研究発表会は平成と共に始まり、回を重ねてきました。年々、内容のレベルが上がり、プレゼンテーションのスキルも向上しています。今年度は、新型コロナウイルス感染防止のため、「ものづくりコンテスト」はじめ工業系の各種行事は軒並み中止となりましたが、会場の熊本大学のご協力により、感染防止対策を徹底することで実施することができました。

 素晴らしい会場で、生徒たちが学習成果を発表できたことに心から感謝します。そして、今後一層、社会に目を向けた旺盛な探究心を生徒に養っていく必要性を痛感した一日でした。

 

8か月待った出番 ~ 「ブルック像」除幕式

    「想定外の自然災害

  未知のウイルスの脅威

  先の見えない苦難の日々

  私達は何を考え行動する

      私達の未来をこの手で掴め

  どんなに困難でも

  愛に溢れる未来を信じて

                   御船高校書道部」

 御船高校吹奏楽部の演奏に合わせた、書道部員14人の書道パフォーマンスは会場の聴衆を引き付け、自分たちで考えた言葉をダイナミックに書き上げました。音楽、そして書道部の生徒たちの気合の入った声が澄んだ秋空に響き渡り、「ブルック像」除幕式が始まりました。

 熊本県出身の漫画家、尾田栄一郎氏の『ONE PIECE』のキャラクターであるブルックの銅像(立像)除幕式が11月8日(日)、御船町恐竜公園で開催されました。平成音楽大学のある御船町は音楽の町づくりが行われており、音楽家であるブルックが似合う町として選ばれました。御船高校の吹奏楽部と書道部のパフォーマンスが幕開けとなり、御船中学校吹奏楽部の演奏、そして平成音楽大学学生による音楽とダンスパフォーマンスと続き、「音楽家ブルック像」の誕生を歓迎しました。

 「今、熊本は厳しい状況です。ルフィー(『ONE PIECE』の主人公)が持つ無限の楽天性が復興には大切です。そして、心の復興には音楽が必要です。」と来賓の蒲島知事が述べられました。その言葉のとおり、御船町で学ぶ中・高生、大学生が、明るい未来を呼び寄せるような、溌溂とした芸術活動を発信してくれました。式後、書道部と吹奏楽部の代表生徒がブルック像を囲んでの知事や町長等との記念撮影に臨みましたが、満面の笑顔で輝いて見えました。

 「緊張はしませんでした。この場に参加できることが楽しくて仕方ありませんでした!」と生徒たちが弾んだ声で話してくれました。本来は今年の3月に「ブルック像」除幕式が予定されていました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、延期されていたのです。8か月の間、この日の出番を生徒たちは待っていたのです。その思いが生徒たちの原動力になったのでしょう。

 『ONE PIECE』は諸外国で翻訳され版を重ね、人気が広がっているそうです。「ブルック像」除幕式は世界にライブ配信(インターネット)されました。日本の文化力、いわゆるソフト・パワー恐るべしです。ネット配信された除幕式の光景の中で、きっと御船高校生の文化パフォーマンスも国境をこえて人々の気持ちを掴んだことでしょう。

 

変革が進む高校の授業スタイル ~ 一斉公開授業

    御船高校では現在2週間の公開授業週間中です。その中でも、各教科の研究授業が11月4日(水)に集中しました。

 2限目の1年A組(電子機械科)の「国語総合」では古典の『伊勢物語』の授業でした。主人公(男)からの和歌に対して、女の気持ちを想像し生徒たちが返歌を創り、発表するという内容でした。心情を想像し、和歌を創り、発表するという生徒の主体的な学習活動が展開されました。

 3限目の2年B組(電子機械科)の「物理基礎」では、「仕事と力学的エネルギー」という単元を取り扱い、電子機械科の専門科目である「機械設計」の内容との共通点に気づかせる授業でした。普通科目の「物理基礎」の学習が工業系の専門科目の理解につながっていること、おし進めて考えれば、あらゆる学びは関連していることを生徒が実感する学習でした。

 5限目の1年2・3組(普通科)の選択「書道」では、古典「曽全碑」を題材に隷書(れいしょ)の成立を学ぶものでした。隷書体で「有志」という文字を書くのですが、この指導にICT機器が効果的に使用されました。先生の書き方がカメラを通じてスクリーンで映されます。そしてその映像は、その後も再生が続き、生徒たちは時々顔をあげ、書き方の手本を確認できるのです。

 6限目の1年1組(普通科)の「家庭基礎」は、契約の成立や契約上のトラブルを避ける方法を学習しました。高校生にとって身近な事例として、原付バイクの購入、あるいはタイヤ交換のケースなどを取り扱い、生徒に考えさせ、意見を発表するという学習活動でした。

 チョーク&トークとかつては高校の普通教科の授業スタイルが揶揄(やゆ)されたことがあります。しかし、今は違います。近年のICT(情報通信機器)の学校への普及、活用によって、授業は大きく変わりつつあります。御船高校では、2年前から、「誰もが分かる」、授業のユニバーサルデザイン化を掲げ、授業改善に取り組んでいます。特にICTの積極的活用を心掛けています。

 別の日に行われた2年A・B(電子機械科)の選択「地理A」では「生徒二人に1台のノート型パソコンを提供し、「デジタル地球儀」のGoogle Earth(グーグルアース)を使う授業でした。このソフトウエアは世界の衛星画像が立体的に利用できます。平面の地図帳と違い3次元の地理世界に生徒が触れます。

 デジタル機器の効果的な使い方はまだ大きな課題です。数年後には高校でも生徒一人に1台のタブレットを使っての授業が始まると予想されます。変革期の高校の授業ですが、その目的は生徒を誰一人取り残さないことです。