校長室からの風

弓道の試合を観戦して

   緊張感ある静寂の空間。きりりと絞った弓を放つと、矢が28mの距離を飛び、的に当たり「ターン」という乾いた音が鳴ります。応援している生徒からは「よし!」という大きな掛け声が起こります。的に当たらなかった時は、安土(あずち)と呼ばれる、的をかけた砂山の土手に矢は音もなく吸収されます。

 11月9日、植木弓道場(熊本市北区植木町)で全国高校選抜大会熊本県予選大会が開催され、御船高校から男子2チーム、女子1チームが出場しました。私は初めて弓道の公式大会の応援に赴きました。会場に到着して先ず驚いたのが、参加生徒数の多さです。男女とも各70チーム、その他、個人戦のみ参加があり、大勢の高校生で活気に満ちています。近年、高校の体育系部活動の入部者は減少しています。特に柔道、剣道の武道の競技人口の減少は著しいものがあります。しかし、弓道の顧問の先生に伺うと、高校の弓道部員数はむしろ上向いているとのことです。現代の高校生を惹きつける魅力が弓道にはあるのでしょう。

   選抜大会県予選では1チーム3人で一人四本の矢を射ます。総計12本中、男子は6本、女子は5本の的中が予選通過の条件です。男女とも普段の練習では十分に予選を通過できる結果を残していたのですが、それぞれあと一本及ばず、涙を呑みました。しかし、矢が当たらずとも、礼法にのっとり平然とすり足で退場する袴姿の選手たちの様子を見て、弓道の精神を感じました。メンタル面の大きく影響する競技であることをあらためて痛感しました。

    今回は予選通過ならなかった弓道部の生徒たちに次の詩を贈ります。若い頃に読んだ武者小路実篤の「矢を射る者」という詩の前半です。

 

 「俺の放つ矢を見よ。

     第一のはしくじった。

     第二の矢もしくじった。

     第三の矢もまたしくじった。

     第四、第五の矢もしくじった。

     だが笑ふな。

     いつまでもしくじってばかりはゐない。

     今度こそ、今度こそと

     十年余り

     毎日、毎日

      矢を射った (後略)」

 

「ようこそ先輩、教えて未来」講演会

  「ようこそ先輩、教えて未来」講演会を11月8日(金)午後に開催しました。各界でご活躍の本校同窓生の先輩をお招きし、高校時代や卒業後の様々な体験を通じて養われた勤労観、人生観を在校生に語っていただくものです。令和元年の今年は、昨年度、同窓会長に就任された徳永明彦氏を講師としてお招きしました。冒頭の校長挨拶を次に掲げます。

 

 今日は、皆さん達の「未来のための金曜日」です。

 英語のCharacterという言葉とPersonalityという言葉は、いずれも日本語では人の性格と訳されることが多いようですが、根本的な違いがあります。Characterは先天的、即ち生まれつき、持って生まれた気質、性格を指す言葉です。一方、Personalityは後天的、即ち経験や学習によって形成されていく人間性、人格と言うべき言葉です。皆さん達は今、このPersonality形成期にあります。若さとは柔軟性、精神の柔らかさです。様々な出会いによって変わり、成長していく豊かな可能性が皆さんにはあります。

 今年の「ようこそ先輩、教えて未来」講演会は、徳永明彦(とくながあきひこ)同窓会会長を講師としてお迎えしました。徳永会長さんは昭和41年3月に御船高校第18回生として普通科を卒業されています。高校時代はサッカー部に所属され、就職されてからも実業団チームで活躍されました。そして、平成11年に北九州市で自ら会社を興されました。空気調和・衛生設備の設計施工のダック技建株式会社です。代表取締役社長として重責を担われ、会社の発展に尽力されています。昨年度から御船高校同窓会長をお引き受けになり、学校の諸行事にも積極的にご協力いただいております。

 徳永会長さんとお会いする度、バイタリティあふれるお人柄に惹かれると共に御船高校に対する熱い母校愛を感じます。

 企業経営者としてご多忙な中、今日は北九州市から御来校いただき、「希望ある社会人」の演題で語っていただくことになります。深く感謝申し上げます。  

   徳永同窓会長さんとの今日の出会いが、生徒の皆さんのPersonality形成に大きな影響を与えるものと期待し、開会挨拶といたします。

 

「関西御船会」総会に出席して

    御船高校同窓会の「関西御船会」(藤原太門会長)の総会が11月4日(月)に大阪市梅田のホテルで開催され、同窓会長の徳永明彦氏、同窓会副会長で御船町長の藤木正幸氏と共に出席しました。会場には、甲佐高校同窓会の「緑友会」、矢部高校同窓会の「関西山都会」の代表の方もお見えでした。関西において同じ上益城郡出身者のよしみで親交を結んでおられるとのことです。

 総会終了後、三十余名の出席者で和やかな懇談会が始まり、皆さんから高校時代の思い出やこれからの御船高校への期待等を伺うことができました。ご出席の同窓生の皆さん全員が五十代以上でしたが、皆さんがそろっておっしゃるのは、かつての在籍生徒数の多さです。これは御船高校だけでなく、甲佐高校、矢部高校も同様です。御船高校が現在、全校生徒530人、各学年170~180人と報告すると皆さんが驚かれます。同窓生の皆さんが在籍された昭和の中期から後期、御船高校は千人規模の学校でした。昭和の終わりから平成の三十年間で地方の人口は一気に減少し、少子高齢化が急速に進んだのです。

 「関西御船会」の出席者の方々は、大阪市内をはじめ府下の堺市、枚方市、兵庫県の神戸市、西宮市等にお住まいです。すでに故郷の実家もなくなった方もおられます。実家がある方でも年齢を重ねるに従い帰省が減る傾向にあるそうです。お話しの中に、故郷が遠くなったという感傷も感じられます。しかしその一方でこの関西で数十年にわたってたくましく生き抜いてきたという自負、自信のようなものが感じられ、皆さんとてもバイタリティ(生気)にあふれておられます。

 懇談会を通じて、同窓生の皆さんの母校に寄せる思いをずしりと受け止めることができました。毎年、全国高校ロボット競技大会の応援に行かれている方もいらっしゃいます。また、帰省され熊本市の会合に参加された時、「御船高校は書道部が有名ですね」と言われ感激したと語られた方もいらっしゃいました。「学徒動員殉難の碑」をいつまでも大切にして欲しいとも言われました。

    同窓生の皆様には、帰省された折、ぜひ母校へお立ち寄りください。大正、昭和、平成、そして令和と時代は変わっても、天神の森の学舎は可能性豊かな若者と情熱ある教師との出会いの場であり続けます。本校は開かれた学校です。故郷を遠く離れた先輩方にこそ訪ねていただきたいと切に願っております。

 

 

共助の力 ~ 地域住民の方との合同避難訓練

 11月1日(金)の午前、秋晴れの下、近隣住民の方々との合同避難訓練(地震対応)を実施しました。校長挨拶文を次に掲げます。

 「今回は大地震が発生し、本校に住民の方も避難してこられるという想定の訓練でした。3年半前の熊本地震の時がまさにそうでした。多くの住民の方達が本校に避難してこられました。当時、対応に当たった職員は、学校は地域、コミュニティの拠り所であることを痛感したと語っています。

 御船高校は地域に開かれたコミュニティスクールです。非常時においても学校としてできる限りのことを行いたいと思っております。今日の訓練を契機に、地域の皆様とさらなる信頼関係を築いていきたいと思います。

 さて、生徒の皆さん、皆さんに伝えておきたいことがあります。それは、皆さん達高校生はもう守られる立場ではないということです。災害が発生した時、まず自分の命を自ら守ってください。そして次に周りの人を助ける側に回ってほしいと思います。皆さんはこれからの二十年余りが人生で最も体力ある時期となります。保護者もだんだん年を重ね、皆さんの気力体力には及ばなくなります。災害の時は、自分の安全を確保した上で、家族をはじめ周囲の子供たち、お年寄り、障害のある人達を助け支えてください。

 私達の国、日本は自然豊かな国であるがゆえに、様々な自然災害と共存する運命にあります。皆さんは、これからもきっと自然災害に出会うことになります。台風、集中豪雨による洪水、あるいは大地震かもしれません。それは避けられないことです。

 災害の時によく言われるのが三つの助け、公助、共助、自助です。公助は自衛隊や消防、警察のような公的組織力による救助です。最終的にはこれらに頼ることになるのですが、その前に共助、即ち地域コミュニティや学校、会社などの所属団体でどれだけ助け合えるかが鍵になると言われます。今日の訓練は共助の力を高めるためのものです。そして自助。自らが自分自身及び家族を助けることができるかです。

 皆さん達は熊本地震を経験しました。平穏な日常生活がいかに尊いものか、いったん災害に見舞われるとどんなに苦しく不便な生活を余儀なくされるのか、身をもって知っています。不幸な経験でしたが、この経験は皆さんの生きる力となります。やみくもに災害を怖がるのではなく、知識をもち準備もして、正しく恐れましょう。

 皆さんがこれから社会の防災の担い手として成長していってくれることを願い、挨拶を終えます。」

 

豊かな生活文化の継承 ~ 教室での煎茶道体験

 御船高校には茶道部とは別に煎茶道(せんちゃどう)部があります。部活動として煎茶道部がある高校は県内では本校を含め2校しかありません。皆さんは、煎茶道をご存知ですか?

 煎茶道は、江戸時代初期に明から渡来した禅僧の隠元(いんげん)によって伝えられたと言われています。従来の抹茶の茶道とは異なり、茶葉(玉露など)を用いる喫茶スタイルは江戸時代に広まっていきました。本校の煎茶道部の歴史は三十年ほどあり、東阿部流の太田翠展先生が長年にわたって御指導されています。現在、部員は1、2年生合わせて4人です。

 10月30日(水)の3、4限、1年1組の「家庭基礎」の授業において、生徒がこの煎茶道を体験学習する機会を設けました。今の高校生にとって、お茶と言えばペットボトル飲料であり、急須でお茶を飲んだことがほとんどない生徒もおり、憂うべき現状だと思います。茶葉を計り、急須に入れてゆっくりと回し、茶碗に丁寧にお茶を注ぐという所作を通じて伝統的な生活文化を実感させたいというねらいから煎茶道の特別授業となりました。

 太田翠展先生のご協力を得て、教室に敷物を用意し、生徒達はその周りにコの字型で座り、煎茶道具も生徒二人に一つ準備されました。普通教室ではありますが、落ち着いた雰囲気が醸し出されます。先ずは敷物の上で煎茶道部の生徒がお茶を点て、半島(はんとう)役の生徒がお茶とお菓子を運び、正座した代表生徒達がお茶を喫します。これを手本として、二人一組で机に座っている生徒達が見よう見まねでお茶を入れて飲んでいきます。今回はお湯を使わずに、冷たい水を用いての冷茶でした。

 和服の太田翠展先生が生徒達に急須の回し方、お茶碗での飲み方、茶巾(ちゃきん)の使い方など細やかに教えてくださり、最初は動作がぎこちなかった生徒達も興味関心をもって取り組んでいました。私にはとても甘く心地良く感じた冷茶の味でしたが、幾人かの生徒が苦いと反応していたことが気になりました。普段、糖分過多のペットボトル飲料に慣れているからではないかと思ったからです。

 お茶を飲むという簡単な行為ですが、敢えて一定の所作に則って時間をかけて味わうことで、えも言われぬ豊かな気持ちになります。これこそ先人が創り伝えてきた生活文化と言うものでしょう。

 教室の生徒達の表情が和やかで落ち着いたものに変化していきました。