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大滝溶岩について

1.水俣の地形と滝
 水俣の矢筈岳,鬼岳,矢城山および大関山などの山体は,約760万年前から120万年前の火山活動によりつくられたものです。これらの山体はえびのから長島までの,霧島火山の北西側に広く分布する標高1000m以下の平坦な山体を特徴とする,肥薩火山区とよばれる火山域に属しています。ただし,矢筈岳及び鬼岳は山頂付近がドーム状になっていて,八代海からもよく目立ちます。
 山体の上部は厚い安山岩質の溶岩からできており,緩やかなスロープの高原状の景観をつくりだしています。このような地形をつくることから,この溶岩を平坦面溶岩と呼んでいます。また,溶岩のつくる地形だけでなく,噴出様式も考慮して,「洪水安山岩」という名前も提唱されています。一方,水俣川や湯出川がこの溶岩を深く削りこみ,平坦面溶岩の末端では急崖になっており、それらに流れ込む谷ができているところでは,滝がいくつも懸っています。これらの滝のなかでは,古くから湯出の大滝が有名でしたが,なべ滝もこのような場所に懸っています。

 

火山の形というと霧島のような山容を思い浮かべるけれども、
高K安山岩からなる地形はなぜこのように平らなのだろう?

以下の文章が解答です。


2.大滝溶岩について
 肥薩火山区の火山活動により,今から215万年前に噴出した溶岩で,湯出の大滝に典型的に見られることから大滝溶岩とよばれています。この溶岩は中尾山,長崎,江添などの台地に分布し,恋路島や月浦で八代海に没しています。
 この溶岩の岩質は,日本の火山に普通に見られる安山岩ですが,以下のような特徴があります。
① 平坦な地形をつくる(面積約36㎞2,標高300~0m)。
 安山岩質の溶岩からできている火山は円錐形の成層火山が多いのですが,ここでは溶岩台地で,表面地形は平坦になっています。これは溶岩の粘り気(粘性)の違いによるものです。安山岩質の溶岩は地表で1000℃前後ですが,この溶岩はそれ以上に温度が高く,粘り気の小さい流れやすい溶岩であったと考えられます。
② 厚さが非常に厚く(60~120m),噴出量も多い(桜島の大正溶岩の3倍以上)。
 この溶岩は途中で噴出が休止したような境目が見えないので,一度に流れ出したもののようです。それも,一つの中心火口から流れ出したものではなく,割れ目か,多数の火口から同時に溶岩が溢れ出したものと考えられます。
③ 溶岩の断面には板状節理がほぼ下から上まで見られる。
 大滝溶岩が懸っている岩石にはたくさんの平行な割れ目が入っています。これは板状節理と呼ばれています。板状節理は溶岩が流れるとき,地面との摩擦で止まろうとする外側と,流れ続けようとする内側との間で力が加わり,割れたものです。ですからこの節理は溶岩流の底面にほぼ平行になっています。
④ 水俣地域の安山岩のなかで比較的K2Oに富んでいる。
 比較的K2Oに富んでいるこの安山岩は鬼岳系岩類(高K安山岩)とよばれていました。最近,この安山岩マグマの元のマグマ(親マグマ)はMgOに富む安山岩(高K高Mg安山岩)であるという研究報告がされています。なお,比較的K2Oに乏しい安山岩を矢筈岳系岩類(低K安山岩)とよんでいます。


3.大滝溶岩の噴出様式
 大滝溶岩は噴出口はよくわかりませんが,平坦な面をつくり,噴出量が膨大であることから,中心にある一つの火口から流れ出したものではなく,たくさんの火口または,割れ目から,高温の粘り気の小さい流れやすい溶岩が,先に流出した溶岩が固体(岩石)にならないうちに次々に洪水のように溢れ出し,溶岩の厚さが厚くなっていき,溶岩台地をつくったものと考えられます。それでこの安山岩溶岩の噴出様式に対して,最近,新しく「洪水安山岩」という名前を提唱した研究者もいます。大滝溶岩が噴出した時には,1986年伊豆大島で全島民避難した時の噴火をさらに大規模にしたような,真赤になった噴水やカーテン状の溶岩が,火口や割れ目から噴き上げていたのではないでしょうか。

水俣   水俣芦北地域の火山岩   水俣/肥薩火山区西半部の層序表