一期一会
幸福について
幸福について 松田 満
■皆さんは、県民総幸福量(AKH:Aggregate Kumamoto Happinessの略称)についてご存じでしょうか?これは、蒲島県政の基本理念である「県民総幸福量の最大化」の考え方を県民と共有し、効果的な施策につなげることを目的として作成された指標です。内容は、幸福の要因を「夢を持っている」「誇りがある」「経済的な安定」「将来に不安がない」の4つに分類し、重要度や満足度を県民アンケートで測定して算出されます。直感的な幸福度を測るものですが、誰と比べるものでない、絶対的な指標であると思います。平成24年度から調査が行われており、今年度が5回目でした(昨年度は熊本地震のため未実施)。平成24年度から平成27年度までの結果は、68.7、68.4、68.1、68.2。平成29年度は68.9で、過去最高の数値となっています。地域別では、地震の被害が大きかった地域は県平均を下回っています。
■ところで、スケートの羽生選手やロアッソ熊本の選手等が、災害等で周囲が大変なときに、練習を再開していいのか(自分の幸福を優先していいのか)葛藤したと聞きました。このように、自らの幸福を追求することにうしろめたさを感じたり、自分の幸福よりも何か別のものや他の人のことを優先したりすることについて、哲学者の三木清は、「人生論ノート」の中で、次のように述べています。「幸福は徳に反するものではなく、むしろ幸福そのものが徳である。」「我々は我々の愛する者に対して、自分が幸福であることよりなお以上の善いことを為し得るであろうか。」「日常の小さな仕事から、喜んで自分を犠牲にするというに至るまで、あらゆる事柄において、幸福は力である。」三木は、幸福と徳は相反するものでも、どちらかを優先すべきものでもない。愛する人のために自己を犠牲にする行動をとったから幸福なのではなく、幸福だったから、そのような行動がとれたのだと言っているのです。練習を再開すること(で周囲に勇気を与えるの)も、練習を中断すること(で被災地の支援を行うの)も、どちらも行動の源は幸福なのです。要は、考え方によるということなのですね。
■さて、子どもたちは2学期も、様々な学校行事や近隣の幼稚園・小学校との交流及び共同学習、居住地校との交流、校外学習等に取り組んで、経験の幅を広げ、学習を深め、大いに楽しむことができました。これも、保護者の皆様は勿論、県こども総合療育センターの皆様や地域の皆様方の御理解と御支援があればこそと、心よりお礼申し上げます。子どもたちにつないでもらっている皆様との御縁に感謝しながら、皆様と共に幸福に満ちた素敵な年を迎えたいと思います。今年一年、ありがとうございました。
曼珠沙華 抱くほどとれど 母恋し
曼珠沙華 抱くほどとれど 母恋し
ちょうど9月の彼岸の頃、まるで時を知っているかのように、一斉に咲き出す曼珠沙華(彼岸花)。畦道に咲くこの花の色は燃えるように真っ赤で、背景の緑とのコントラストが実に鮮やかです。花弁が反り、放射状に伸びるおしべ等の形状も印象的。墓参りの時期でもあり、別離を連想させることで嫌う人もいますが、花の見頃はすぐに過ぎてしまいます。
「曼珠沙華 抱くほどとれど 母恋し」は、熊本を代表する俳人中村汀女の句です。秋の彼岸頃に真っ赤な曼珠沙華がいっぱい咲いていた。幼な子と一緒にそれを抱くほどたくさん採りながら、ふと、望郷の思いと母親を慕う思いが募ってきた。そんな句意です。
結婚後10年間、句作から離れていた彼女がようやく再開したのが昭和7年、当時32歳で3人の母親だった横浜時代の作品とのこと。きっと、実家そばの江津湖畔の風景とともに母親を強く思い出したのではないでしょうか。誰にとっても、いくつになっても、母親は特別な存在です。
本日、県こども総合療育センターの研修室をお借りして第2回松東セミナーを開催しました。職員の一人が講師席に飾ってくれました。
23日(土)は彼岸の中日。一雨ごとに秋も深まっていきます。
平成29年9月21日 熊本県立松橋東支援学校長 松田 満
学びを深め広げる3つのワザ
学びを深め広げる3つのワザ
校長室から見えるサルスベリの花もだんだん少なくなってきました。暑かった夏もいつしか過ぎ去ろうとしています。
2学期は小学部に新しい友だちを迎え、賑やかにスタートしました。始業式では、「学びを深め広げる3つのワザ」を紹介したところです。今の時間学んだことはどんなことだったかを、①自分で振り返ってみること。②それを、先生や友だちに伝え、確認すること。③しばらくして思い出して、生活や学習の中で使ってみること。「振り返る」「伝える」「使う」の3つのワザです。幼児児童生徒の皆さん、どうですか。自ら貪欲に、継続することも大事です。
先週は、秋篠宮眞子様ご婚約会見の喜ばしい報道がありました。「太陽のように明るい方」「月のように静かに見守ってくださる」などと、お二人がお互いを太陽と月に例えられたことも、実に日本的で、微笑ましかったですね。
これから空気も澄んで遠くの景色がよく見えるようになります。それこそ、夜にはきれいな月や星々もみることができるでしょう。とても楽しみです。
ところで、月に満ち欠けがあるのは知っていますか。月は、太陽の光が当たったところが明るく見えますが、毎日太陽と地球と月の位置が変わるために、日々見え方が変わります。不思議ですね。太陽と地球と月が一直線に並んだときに、新月や満月になります。新月から次の新月になるまで、約29日かかります。新月から満月までは約15日かかるので、満月の夜が十五夜といわれるそうです。
また、私たち地球から見える月はいつも同じ側であることも知っていますか。
月は、いつも私たちに黒い模様のある側を見せています。昔の人は、ウサギが餅つきをしているように見えたとか。その黒い模様は、他の部分よりも重いそうです。実は、月の裏側は白くて軽く、地球と月が引力で引きあう際に、重い側が地球の方を向けているのだそうです。丁度、起き上がりこぼし(だるまさん)が床に下を向けるように。
そのような天体や星々を眺めながら、まだ誰も見たこともない宇宙に思いを馳せるのも面白いですね。新しい気付きがあったら、教えてくださいね。楽しみに待っていますよ。
平成29年9月5日 熊本県立松橋東支援学校長 松田 満
体験活動のススメ
体験活動のススメ
先日、NHKアーカイブを見ました。タイトルは「トンボになりたかった少年」。昭和59年放送というのだから、かれこれ30年以上昔の番組です。当時、東京大学の航空工学の教授で、航空機の開発において世界的権威だった東昭(ひがしあきら)教授が、小学生の頃に追いかけたトンボ(ギンヤンマ)の卓越した飛行能力を何とか開発に生かせないか、研究を行うという内容でした。興味深かったのは、教授が捕まえたギンヤンマに糸をかけ、それをおとりにして竿を振り回して、まるで鮎の友釣りのように、絡んでくるトンボを捕まえるシーンでした。きっと教授は子どもの頃、同じ方法でトンボを捕らえたとき、すごい勢いで飛びかかってきたり、じっと空中の一所にとどまって(ホバリングして)いるトンボの動きが忘れられなかったのでしょう。
教授は、捕まえたギンヤンマを風洞の中で飛ばし、翅のまわりにできる気流の様子を分析します。最初のうちはうまくいかず、トンボは弱ってしまいますが、教授は知人に頼んで送ってもらった生きたギンヤンマでトライし続けます。そのときの教授は、トンボ採りに夢中になった少年の表情そのものでした。
番組を見終わっていろいろ調べると、トンボの翅は多少凸凹があって、翅の周りに空気の渦ができることで、かえって全体の気流がスムーズに流れるそうです。これを応用していろいろと商品が開発されているようです。このような、虫や植物など自然の知恵を生かしたバイオミメティクス(生物模倣)は盛んに行われています。皆さんがよく知っているマジックテープは、飼い犬の毛にトゲトゲがくっつくオナモミの実が参考にされています。ほかにもいろいろ医療やデザイン等で、私たち人間の生活に役立っているものがありますよ。探してみてください。虫や植物は何しろ、人間が誕生するずっと前から、環境の変化に対応して少しずつ進化してきたからこそ、現在まで存在し続けている訳です。自然の知恵は本当にすごいですね。
幼児児童生徒の皆さんには、不思議だな、なぜだろう「?」と思うことをたくさん貯めておいてほしいと思います。学習を進めていくうちに、いつか突然「!」ひらめくことでしょう。また、記憶に永く留めるコツは、できるだけ直接的に体験することです。実際に見たり聞いたり、触ったり、臭ったり味わったりしたことは印象に強く残ります。そのことはきっと、皆さんの生活を豊かにするだけでなく、周りの人たちの役に立つことにも繋がるかもしれません。
さて、幼児児童生徒の皆さんは1学期、様々な学習活動に意欲的に取り組みました。また、いろんな作品等成果物がたくさんできました。一つ一つが皆さんの「頑張りのしるし」です。夏休みには、1学期の学習を振り返ってみてください。作品や活動の写真等を見ながら、授業中の先生方とどんなやりとりができたか。そのとき、どんな思いだったかを確認しましょう。そして、2学期に繋げていってください。
昨日知らなかったことが今日は理解できている。今朝はできなかったことが午後にはできるようになっている。これは、とてもすごいことです。2学期も、「できた・分かった」を一つずつ増やしていきましょう。小さなステップを重ねて大きな変容へ、可能性はうんと広がりますよ。
平成29年7月20日 熊本県立松橋東支援学校長 松田 満
星の王子の影とかたちと
いづこかにかすむ宵なりほのぼのと 星の王子の影とかたちと
初めまして。4月から校長を務めています松田です。教育行政から久しぶりに学校に戻ったこともあって、子どもたちとの出会いは特に新鮮でした。毎日、県こども総合療育センターから学校に登校する子どもたちは、笑顔をいっぱい輝かせ、希望を抱いて生き生きと教室で学んでいます。転任者9人を含め、職員一同、本校の教育目標を具現化する取組を、「チーム松東」として進めて参りますので、どうぞよろしくお願いします。
さて、6月6日現在、在籍する21人の子どもたちは全員センターに入所入院しています。私たちが学校にて、存分に子どもたちの教育指導に打ち込めますのも、ひとえにセンターの皆様の御支援のお陰様と思っています。昨年度は、熊本地震で被災した際、施設を提供いただきました。このことは、私どもにとってこの上ない喜びであり、大きなエールをおくっていただいたと感謝しております。
5月27日(土)に開催した松東レクリエーションにおきましても、スタッフの皆様に御協力いただき、子どもたちを中心として、保護者の皆様方、地域の方々、センターと学校が一体となった楽しく素敵な催しにすることができました。重ねてお礼申し上げます。
本校は、今年度から2年間、防災型コミュニティ・スクールの指定を受けました。これを機に、災害時の防災体制の構築と子どもたちの防災意識の高揚に取り組んで参ります。計画では、松橋高校、松橋西支援学校と合同の協議会を通した広域での防災体制の構築と、本校単独の協議会による「希望の里」における防災体制の構築を進めることとしています。一層、センターをはじめ、地域の皆様との絆を強めて参りたいと思います。
ところで、冒頭の歌は、郷土のフランス文学者、翻訳家で、熊本県近代文化功労者である内藤濯(ないとうあろう)氏の歌です。サン=テグジュペリ著「星の王子さま」については、皆さんも一度は読まれたことがあるのではないでしょうか。主人公のパイロットが飛行機の故障でサハラ砂漠に不時着し、そこで不思議な少年に出会います。家ほどの大きさしかない小さな星からやってきた少年(王子)は、自分が世話をしているバラの花と心を通わせることができず、傷ついた心で星巡りの旅に出ていたのです。物語は、王子の傷心とその後の心の成長、パイロットの孤独と王子との交流による救済が軸となっています。濯の名訳は、原文のリズムを日本語に移すことを大切にされた、とても美しい文章です。本書との出会いは中学生の頃でした。しかし当時は、主人公が描いた一見帽子に見える絵が、実は象を飲み込んだウワバミの絵だったなど、単にユニークな発想の童話であるという理解にとどまっていたようです。時を経て、再び丁寧に読み返しますと、その内容はすごく深く、まるで哲学書。「心の手入れ」「絆のつくり方」「大事なことは目には見えない」「関係性から生まれる価値」など、随所に物事の本質を示唆する深遠なメッセージが綴られています。
機会があれば、子どもたちにも是非、読んでもらいたいと思います。まずは、「かつて子どもだった」おとなの我々が、とらわれのない心を持って物事を見、自らの感性が萎びないよう努力していかねばと思います。そのような願いを込めて今回のタイトルとしました。
平成29年6月19日 熊本県立松橋東支援学校長 松田 満