校長室便り

体験活動のススメ

体験活動のススメ
                               

 先日、NHKアーカイブを見ました。タイトルは「トンボになりたかった少年」。昭和59年放送というのだから、かれこれ30年以上昔の番組です。当時、東京大学の航空工学の教授で、航空機の開発において世界的権威だった東昭(ひがしあきら)教授が、小学生の頃に追いかけたトンボ(ギンヤンマ)の卓越した飛行能力を何とか開発に生かせないか、研究を行うという内容でした。興味深かったのは、教授が捕まえたギンヤンマに糸をかけ、それをおとりにして竿を振り回して、まるで鮎の友釣りのように、絡んでくるトンボを捕まえるシーンでした。きっと教授は子どもの頃、同じ方法でトンボを捕らえたとき、すごい勢いで飛びかかってきたり、じっと空中の一所にとどまって(ホバリングして)いるトンボの動きが忘れられなかったのでしょう。

 教授は、捕まえたギンヤンマを風洞の中で飛ばし、翅のまわりにできる気流の様子を分析します。最初のうちはうまくいかず、トンボは弱ってしまいますが、教授は知人に頼んで送ってもらった生きたギンヤンマでトライし続けます。そのときの教授は、トンボ採りに夢中になった少年の表情そのものでした。

 番組を見終わっていろいろ調べると、トンボの翅は多少凸凹があって、翅の周りに空気の渦ができることで、かえって全体の気流がスムーズに流れるそうです。これを応用していろいろと商品が開発されているようです。このような、虫や植物など自然の知恵を生かしたバイオミメティクス(生物模倣)は盛んに行われています。皆さんがよく知っているマジックテープは、飼い犬の毛にトゲトゲがくっつくオナモミの実が参考にされています。ほかにもいろいろ医療やデザイン等で、私たち人間の生活に役立っているものがありますよ。探してみてください。虫や植物は何しろ、人間が誕生するずっと前から、環境の変化に対応して少しずつ進化してきたからこそ、現在まで存在し続けている訳です。自然の知恵は本当にすごいですね。

 幼児児童生徒の皆さんには、不思議だな、なぜだろう「?」と思うことをたくさん貯めておいてほしいと思います。学習を進めていくうちに、いつか突然「!」ひらめくことでしょう。また、記憶に永く留めるコツは、できるだけ直接的に体験することです。実際に見たり聞いたり、触ったり、臭ったり味わったりしたことは印象に強く残ります。そのことはきっと、皆さんの生活を豊かにするだけでなく、周りの人たちの役に立つことにも繋がるかもしれません。

さて、幼児児童生徒の皆さんは1学期、様々な学習活動に意欲的に取り組みました。また、いろんな作品等成果物がたくさんできました。一つ一つが皆さんの「頑張りのしるし」です。夏休みには、1学期の学習を振り返ってみてください。作品や活動の写真等を見ながら、授業中の先生方とどんなやりとりができたか。そのとき、どんな思いだったかを確認しましょう。そして、2学期に繋げていってください。

 昨日知らなかったことが今日は理解できている。今朝はできなかったことが午後にはできるようになっている。これは、とてもすごいことです。2学期も、「できた・分かった」を一つずつ増やしていきましょう。小さなステップを重ねて大きな変容へ、可能性はうんと広がりますよ。
                       
 平成29年7月20日             熊本県立松橋東支援学校長 松田 満