暦の上では本日、二十四節気の「小満(しょうまん)」を迎えました。
あらゆる生命が次第に満ち満ちていく、という意味があるこの季節。
近頃は真夏日を記録するほどの厳しい暑さが続いていましたが、小満の当日はあいにくの、いえ、万物を潤す恵みの雨模様となりました。
真っ青な空に響く蝉の鳴き声すら予感させたこれまでの熱気を、優しく静めるように降り注ぐ雨。
農場を歩けば、この潤いを待っていたかのように植物たちが生き生きと緑を濃くし、まさに命が「満ちていく」エネルギーを全身で放っています。
■ 学校全体で繋ぐ、応援のバトン
雨の涼しさとは裏腹に、校内は今、静かな熱気に包まれています。
いよいよ来週には、高校総体、そして高校総合文化祭(総文祭)の開会式が控えています。
ふと図書館に足を運ぶと、そこには総体・総文に向けて用意された「部活小説」の特設コーナーが設けられていました。
ページをめくれば、そこにあるのは主人公たちのひたむきな汗と涙。
これから大舞台へ臨む仲間たちの背中を、言葉の力で後押ししたい――そんな温かい想いが、ディスプレイから伝わってくるようです。
グラウンドや体育館、部室棟だけでなく、この雨の日の静かな図書館まで。
学校全体がひとつのチームとなって、次なる舞台へ挑む生徒たちを盛り上げる。
そんな一体感が校内のあちこちに満ち満ちています。
■ 実りへの確かな一歩
運動部・文化部を問わず、それぞれの部活動に所属する生徒たちにとっては、これまでの努力の集大成を発揮する特別な舞台です。
週4日のタフな実習や課題研究をこなし、雨にも負けず、放課後はそれぞれの場所で一歩も引くことなく汗を流し、また感性を磨く。
じりじりと照りつける太陽のもとでも、今日のような雨の中でも、ひたむきに自らを高めようとする生徒たちの姿は、農場で力強く根を張る植物たちと見事に重なります。
大切なのは、結果の先にあるもの。
これまでの努力のすべてを注ぎ込み、自らの力を100%出し切ること。
激しい一戦のなかでも、繊細な表現や発表のなかでも、壁を乗り越えた先にある「やりきった」という本物の充実感を、その肌で、心で掴み取ってくれることこそが、私たちの一番の願いです。
雨が万物を潤し、さらなる成長を促すこの良き日に、自分の限界に挑戦する芦北高校の生徒たち。
来週の総体・総文祭という大きな舞台で、彼らの情熱が最高の形で完全燃焼することを、農業科一同、心から応援しています。
「小満(しょうまん)」
満ちゆく緑と、雨にも負けない生徒たちのひたむきな情熱に未来を重ねる芦北高校より。
本日の農業科2年生「食品製造」の実習室は、いつも以上にピリッとした緊張感と、甘く香ばしい香りに包まれました。
挑戦したのは、洋菓子の定番でありながら、高度な技術と集中力を要する「シュー・ア・ラ・クレーム(シュークリーム)」の製造です。
【ただ混ぜるのではなく、五感での観察】
中に詰めるカスタードクリーム、そして土台となるシュー生地。
どちらの製造においても、最大のポイントは「ただ機械的に混ぜるのではない」という点にあります。
焦げ付きやダマを防ぎ、なめらかに仕上げるため、生徒たちは絶えず鍋底やボウルの感触に集中し、全体の色の変化が均一であるかを注意深く観察し続けました。
木べらを掲げて状態を確認するその目は、まさにプロの職人そのものです。
【膨らむための絶対条件「糊化」(こか)への挑戦】
さらに、シュー・ア・ラ・クレームには「生地が大きく美しく膨らむこと」という厳しい最低条件があります。
鍋でバターを完全に沸騰させ、一気に小麦粉を投入して手早く混ぜることで、熱によりデンプンを結合させる「糊化(こか)」を促します。
ここからが、まさに「食品製造」という名の実験室。
材料の正確な「計量」はもちろん、火からおろす一瞬の「タイミング」、生地の温度を見極めながら卵を加えていく最適な「割合」、そして木べらを通じて指先に伝わる生地の粘り気の「感覚」まで。
そのすべてが論理的な条件で成り立っています。
どれか一つでも数値や感覚が狂えば、オーブンの中で生地は絶対に膨らみません。
「食品製造」とは、五感と知識でコントロールする極めて繊細な「化学」の世界です。
【見事な焼き上がり、解き明かされる明暗】
多くの班では、オーブンのガラス越しに生地がふっくらと黄金色に立ち上がり、見事なシュー皮が焼き上がりました。
綺麗に膨らんだ歓声のなか、なめらかなカスタードをたっぷりと絞り入れ、美しい「シュー・ア・ラ・クレーム」が次々と完成していきます。
しかし、実習を行った10班のうち、1班だけどうしても上手く膨らまない班がありました。
原因を突き詰めると、生地作りの工程におけるわずかな「火加減」のズレ。
周囲が成功する中で理想の形には届かず、悔しさが残る結果となりましたが、いざ試食してみると
――「食べたら美味しい!」と、味の仕上がりには笑みがこぼれました。
実習を終えた生徒たちからは、「コンビニやスーパーで何気なく並んでいるシュークリームを見る目が変わった」という声が。
いつも均一に、美しく膨らんでいる商品の裏にある職人技や企業努力の凄さを、身をもって実感しました。
成功から自信を得るだけでなく、失敗から原因を分析し、日常の景色さえも学びに変えていく。
自らの手と五感を使って、新しい価値や気づきを「創造」していく2年生の、さらなる成長が楽しみになる実習となりました。
── 相棒図鑑 其の四 「三脚脚立」 ──
果樹園の隅、出番を待つアルミニウムの塊があります。
エンジンもなければ、華やかなハイテク機能もありません。
状態を知らせる液晶画面も、始動するためのスイッチやボタンすら、そこには一切存在しないのです。
しかし、彼らがいなければ、私たちは樹の頂で「一番良い顔」をして実る果実に触れることすら叶いません。
今回の相棒は、不動の構えで高みを目指す「三本足の修行僧」、三脚脚立(さんきゃくきゃたつ)です。
本校の「修行場(果樹園)」には、可愛らしい3段から、見上げるような12段まで、歴代の相棒たちが揃っています。
彼らの最大の特徴は、四本足ではなく「三本足」であること。
不整地や傾斜地という不安定な大地において、一点の迷いもなく地面を確実に捉える。
それは、自然という厳しい道場で生き抜くために研ぎ澄まされた、究極の機能美です。
時には、木の枝をまたぐようにして、一本の後脚を樹の懐深くへと滑り込ませることもあります。
もし彼らに心があるならば、自らの身を挺して、乗り手が最も安全に空へと手を伸ばせる「座禅の場(足場)」を足元で整えてくれているのかもしれません。
この修行僧と呼吸を合わせ、その不動の境地を共有するには、単なる「道具扱い」を超えた、現場に対する深い畏敬の念が必要なのです。
しかし、この相棒は実直であると同時に、掟(ルール)に極めて厳格な側面も持っています。
もし乗り手が慢心し、設置の甘さやチェーンの緩みを見過ごせば、修行僧は沈黙したまま、静かにその構えを崩します。
ほんの数センチのズレ、あるいは「これくらい大丈夫だろう」という甘い見通し。
それは修行僧にとって、最も許しがたい不作法です。
一瞬の揺らぎとともに地面へと叩きつけられる衝撃は、慢心した乗り手への「修行僧からのお仕置き」。
怪我と隣り合わせのその厳しさは、命を預かる現場の重さを教え込む、寡黙な教育者の姿でもあります。
だからこそ、私たちは彼らと向き合うとき、決して欠かさない「対話(儀式)」があります。
・「間のチェーン」をピンと張り、足が広がるのを防ぐこと。
・「設置の角度」を厳しく見極め、安定を確保すること。
・「天板(一番上)には決して乗らない」という、相棒との絶対の掟。
生徒たちが踏みしめるステップの擦り減りは、歴代の先輩たちが安全と向き合い、一歩ずつ高みを目指した「修行の足跡」そのものです。
派手な主役ではないけれど、誰かが理想の果実を求めて「高度」を上げるとき、必ずその足元を支えている。
厳しさがあるからこそ、本物の信頼が生まれる。
芦北高校の果樹園には、今日も静かに、そして力強く大地を掴む「相棒」の姿があります。
「道具の限界を知り、その掟を敬う。安全を確保するその手間こそが、自分と仲間を守るプロへの第一歩です」
5月も半ばを過ぎ、芦北高校の農場には今日も初夏らしい元気な声が響いています。
これまでも日々ひたむきに実習に励んできた1年農業科の面々ですが、本ブログに登場するのは今回が初めて。
まだピカピカで真新しい実習服に身を包み、農場をエネルギッシュに駆け回る40名の生き生きとした姿をお届けします。
【夏を思わせる日差しの中、それぞれの実習を展開】
この日は、真夏を思わせる強い日差しと気温。
ジリジリと照りつける太陽の下、生徒たちはそれぞれ分担された実習に分かれ、暑さにも負けずスイートコーンへの液肥施用とキュウリの袋詰めに並行して取り組みました。
【スイートコーン:秀品づくりのポイントを学ぶ液肥やり】
スイートコーンを担当する生徒たちは、なかなかの重さがあるジョウロを手に、一株ずつ丁寧に液体肥料をまいていきました。
スイートコーン栽培において、今回の液肥やりは「秀品(質の高い美しい成果物)」を育てるための極めて重要なポイント。
暑さのなか、額に汗を浮かべながら一本一本へ真摯に向き合う実習。
重いジョウロを抱えた生徒からは、「おもいわぁ……」と思わず本音がポロリ。
その言葉通り、作物へ注ぐ「重い(強い)想い」がたっぷりと詰まった時間となりました。
【キュウリ:向きが逆!?失敗から生まれるプロの視点】
一方、キュウリを担当する生徒たちは、実習室での袋詰め実習に集中。
立派に育ったキュウリを前に、農場でのダイナミックな動きとは一転して、みんな真剣で繊細な手つきになります。
大切な農産物を傷つけないよう、プロの商品として丁寧に袋へと収めていきました。
そんな実習の最中、詰められたキュウリを確認すると、綺麗に並ぶ中で「逆向き」に入っているものが数本。
「だれだぁ、逆に入れたのぉ〜」
実習室にそんな微笑ましい声が響くのも、教科書には載っていない生きた学びの瞬間です。
ただ袋に入れるだけではなく、「お店に並んだとき、どうすれば美しく見えるか」。
自分たちの手がけた作物を手に取る消費者の気持ちを想像し、思いやりを持てるプロの農業人を目指して、40名は失敗さえも確かな経験へと変えていきます。
それぞれの場所で、真新しい実習服を土や汗で少しずつ汚していく生徒たち。
その汚れこそが、立派な農業人へと歩みを進めている誇り高き証拠です。
日々の実習から多くの気づきを得て、彼らは自分たちの手で未来の「みのり」を「創造」していきます。
これからの1年農業科の確かな歩みと成長を、どうぞ温かく見守りください。
芦北高校農業科 「品種名鑑」 #03
【品種名鑑 #02:「M16 知ればあなたも 目利きなり】はこちら
果樹専攻の主役が「不知火」なら、本校草花専攻を支える不動の主役は、やはりこの花。
「シクラメン」です。
※昨年11月の温室内の様子
●品種データ
科名: サクラソウ科
和名: 篝火花(カガリビバナ)
花言葉: 「内気」「はにかみ」「遠慮」
この「内気」「遠慮」という控えめな花言葉。
温室の片隅で、俯きかげんに、けれど凛と咲くその佇まいは、生徒たちの実習の様子とどこか重なります。
華やかな舞台では少し照れくさそうに言葉を飲み込み、けれど実習棟の中では誰よりもひたむきに、土の匂いに包まれながら黙々と花と向き合い続ける草花専攻生たち。
その「はにかみ」ながらも内に熱い想いを秘めた誠実な背中は、どこかシクラメンの美しさと似ている気がします。
●教室で共に過ごした半年間
本校のシクラメンは、その「息の長さ」が自慢です。
昨年11月に温室を出て、教室へと置かれた一鉢。
半年が過ぎた5月の今、ようやく花を休め、青々とした葉を蓄えた状態で農場へ戻ってきました。
毎日、生徒たちが登校し、チャイムが鳴り、放課後を迎える。
その日常の風景の中に、いつもこの花がありました。
花が上がらなくなった今の姿は、半年間、教室の主役として共に過ごした時間の証でもあります。
●命を繋ぐ、一年のバトン
役目を終えて戻ってきた株の近くでは、次の冬に向けて命を繋ぐ「新しい苗」たちが、小さな葉を一生懸命に広げ始めています。
シクラメンの栽培期間は、実に1年。
ようやく今、力強い葉を広げ始めたところです。
この長い時間のバトンタッチは、農業高校ならではの「命の授業」です。
●葉の数だけ、花は咲く
そんな彼らが学ぶ、栽培の鉄則があります。
それは、「たくさんの花を咲かせることは、まず葉を増やすことから始まる」ということ。
シクラメンには「葉の数だけ花が咲く」という言葉があります。
葉の1枚1枚が、その付け根に眠る花芽の大切なエネルギー源だからです。
溢れんばかりの花を咲かせたいなら、まずは地道に、健康な葉を1枚ずつ丁寧に育てる。
急がば回れ。
この自然の摂理こそが、シクラメン栽培の極意です。
※花苗を持つ草花専攻性
1滴の水やり、1℃の温度管理、そしてこれから始まる「葉組み(はぐみ)」という指先の魔法。
今、ポットの中で並んでいる小さな葉の1枚1枚が、冬には燃えるような「カガリビバナ」へと姿を変えます。
目に見えない「根」や「葉」の成長を信じてお世話を続ける。
それは、自分たちの将来の可能性を信じて学ぶ、生徒たちの姿その物です。
和名である「カガリビバナ」の名の通り、鮮やかな花弁には、生徒たちが注いできた粘り強い愛情の火が灯っています。
「1年の月日を詰め込んだ、命の結晶。芦高のシクラメンには、生徒たちの粘り強い愛情が息づいています」
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