校長室より

2021年4月の記事一覧

お知らせ 思いやりと挑戦 (令和3年1学期 定時制始業式で)

 校庭の新緑が鮮やかな季節を迎えた。進級おめでとう。
 定時制は今年は先生方が8名入れ替わりました。いつもと違う雰囲気のスタートかもしれません。私を含め,新しくおいでになった先生方も一日も早く定時制に慣れ,みんなの後押しができるよう努めていきますのでよろしくお願いいたします。

 さて,私は,5年前も,この天高定時制でみんなの先輩の姿を見ながら3年間を過ごしました。その時に忘れることができない出来事があったので,少し話させてください。

 今もそうだと思いますが,秋の定通文化大会に1年生を中心として,天定はバンドを出していました。

 その時入学してきたのは男女合わせて6人。ほとんど皆中学校の時は教室に入ることができず,その中の一人の女の子は,中学時代のいじめが原因でほとんど口をきくこともできませんでした。そうかと思うと,一人の女の子は一時間中,何かを喋っていないと居れない子で,静かになったなと思うと,机に突っ伏して寝ています。他にもバレーボールを熱心にやっていたのだけれど,友人関係が上手くいかなくなり別の高校を退学して天定に再入学してきた子とか,ちょっと突っ張って居るように見せながら,実は寂しがり屋で緊張すると鉛筆も握れなくなってしまう子や,家計を助けるために働いている子,しかも周りの助けを断り切れないために,学校が始まっているのに仕事が追われず,半べそをかきながら仕事している子とか様々でした。

 そんな子たちが初めて音楽の時間に楽器に触れ,自分の好きな楽器を選んで,ベース2人,ギター2人,キーボード1人,ドラム1人の即席バンドができあがりました。音楽の先生が選んだ課題曲は「初めてのチュウ」。「ええーっ 難しいよそんなの」って言いながら,全てを一人で弾くのは難しいんだけど,それぞれのパートをしっかり弾いていくと全体で音楽になっていくと言うことが分かって,6人はだんだん夢中になり,授業が始まる前や土日も少しずつ集まりながら練習を重ねていきました。本番の大会前には,2ヶ月前に組んだ素人バンドとは思えないくらい,きれいなメロディを流せるようになっていました。

 そして試合当日,県立劇場に行くバスの中で,ドラム担当の女の子の表情がやたら暗いのが気になっていました。彼女はとても緊張しいで,たぶんまた緊張が高ぶってきたのだろうなと思っていたのですが,案の定,本番前のリハーサルで,最初は順調にリズムを刻んでいたのですが突然動きが止まりそしてステックを投げ出すと「ダメ できん!! どきどきしてどんどん速くなる」と泣き出してしまいました。
 すると,普段ほとんど口をきかないベースの女の子が落ちていたステックを拾って,ドラムの子の手に握らせると「速くなったって大丈夫だよ。このバンドは6人の音がそろわなきゃ,私たちの音がそろわなきゃ意味がないの。リズムが速くなっても私たちが追っかけるから。叩いて」と言ったんです。

 本番まで時間は僅かしかありません。ドラムの子は,緞帳が下りたステージの内側をぐるぐるぐるぐるひたすら回り続けて,ドラムセットに近づこうとしません。周りの子は,自分のポジションに立って,唯ひたすらドラムの子が戻るのを待っています。県立劇場の進行係は,緞帳をあげて良いか繰り返し合図を求めてきます。そしてやっとその子がドラムに戻ろうとした瞬間ベルが鳴り,緞帳が上がり始めました。

 曲が始まりました。ドラムは,本当にこんな速さに付いてこれるのと言うくらいどんどんスピードが上がって,仕舞いにはまた止まってしまいました。しかし,今度はギターもキーボードもベースも,スローなテンポに変えて,ドラムの再登場を待ちます。そしてやっと最後のサビのところで,ドラムが叩かれ始め,演奏が終わると大きな拍手が会場を埋め尽くしました。

 誰だって,初めてのことに挑戦するのは怖いんです。「失敗した」って思うと,みんなに迷惑掛けたくなくて軀が固まるんです。でも,黙って支え続けてくれた仲間が居たから,彼女はドラムを叩き続けることができたんです。
 私は あの時の 6つの音が合わさったメロディーを今も忘れることができません。

 みんなもそれぞれにキツいこと逃げ出したいことがあるかもしれませんが,是非自分を信じて仲間を信じて,最後まで頑張り続けてください。

 帰りのバスの中で,彼女を励ましてくれた女の子に「ありがとうね」と言うと,「なんで? 当たり前じゃない。あのバンドは,六人の音がそろって初めてあのバンドなんだもん」って笑っていました。
 その後,卒業するまでこの子たちはバンドで演奏を続け,喧嘩をしたりもしましたが,仲良く学び,卒業後は,3人がそれぞれが行きたかった大学に進学し,2人が是非うちに来てほしいと乞われて就職し,1名は温かな家庭を築いて可愛らしい命を誕生させ,育んでいます。

 この天定で出会った仲間は生涯の友となります。自分を信じて,仲間を信じて,前向きに挑戦し,頑張っていきましょう。私たちも全力で応援します。

 以上で,令和3年度始めのあいさつとします。

お知らせ 新たな一年のスタート 未来を懼れず挑戦!! (令和3年1学期全日制始業式で)

 イソヒヨドリの澄んだ声が青空に響き渡っています。メーテルリンクの「幸せの青い鳥」のモデルとなったとも言われる鳥です。天草高校の明るい未来を象徴しているようです。

 さて,昨年は,新型コロナウイルス感染防止のために多くの学校行事が中止となりました。今年もまだその影響は残るでしょう。「先が見通せない」ということが,今後,あらゆる場面にファクターとして関わってくるような気がします。

 「先が見通せない」のはとても辛いことです。私も10年以上前になりますが,右脇のリンパに腫瘍ができ,癌なのかそうでないのか,日赤病院や熊大病院や久留米大病院を次々と2ヶ月以上廻され,「癌なら癌で良いけん 早く結論を出して!」と叫びたいような心境になったことがあります。
 どっちつかずで,もやもやの宙ぶらりん。結論が出ないから,自分の立ち向かうべき相手が見定められなくて,自分の覚悟を定められない。 ずぶずぶの沼の中で、必死にジャンプしようともがいているような感覚です。
 しかし,後で考えると,覚悟を決められなかったというのは,実は私自身の「弱さ」でした。自分で自分の将来に結論を出すことが怖くて,病院の先生に丸投げしていただけだったのです。癌であろうがなかろうが,私はこう生きると決めて貫きとおしていたら,たとえ,運悪く癌で命を落とすことになったとしても,有意義で濃密な時間を過ごすことができていたはずです。なかなか結論が下せない先の見通せない状況は,これから先の人生で,どこにでも,何度でも出てくる。だったら自ら心鍛え,律していくしかない,すなわち「自律」というのが私がその時得た答えでした。

 天草高校は今年、大きな改革に取り組みます。一人ひとりの「自ら学び志を成す」求學志成の取組をとことん応援するため朝自習を廃止し,進路目標や研究目標にあわせ自由に活動できる時間を確保します。一方で,先生方には授業の50分間を濃密な学びの場にしていくよう取り組んでもらいます。今年度から生徒全員に(3年生には秋以降になると思いますが)タブレットが導入され,ICTを活用した探究型の授業,考える授業の深化にも取り組みます。一人ひとりの学習状況に応じて「スタディサプリ」等のアプリを使った個別学習も推進します。また,基礎学力充実のために,特別講座も開設していく予定です。
 これだけたくさんのメニューを用意しますが,皆さんの力を伸ばすためには,実は大切なピースが2つ欠けています。―それは何か。
 皆さんの「自ら学ぼう」とする心,そして,楽な方に流れようとするのを自ら自制する力,すなわち「自律」です。

 どんなに環境を整えても,あなたたちが自ら動こうとしなければ,道は拓きません。世界も変わりません。ここ天草高校は,生徒も先生方も,たくさんの才能を持った人たちが集まる素晴らしい学校です。あなた方にはこれから先,世界に打って出て,誰もまだ見たことのない世界を切り拓いてほしいと思っています。夢物語ではありません。あなたたちの先輩で何人も、例えば電波時計を世界で最初に開発し世界の時間をフォーマットした人,東ティモールの和平に命がけで取り組んだ人,東北大学でICT教育の最先端を発信し続けている人たちが居ます。あなたもまたそれに連なる一人になれるはずです。

 本校の三綱領は唱います。「正大」何が正しいことか深く見る智慧を身に付け,「剛健」どのような困難にも負けない強い心と体を持ち,「寛厚」周りの人を広い心で受け入れる優しさを持ちなさい。この三つの精神を体現することで,心の弱さを自ら克服し,大きな人間に至ることができます,と。

 私は天草高校が大好きです。しかし,明日の天草を,そしてこれからの世界をつくっていくのはあなたたちです。先の見えない未来を懼(おそ)れず,前を向いて挑戦し続けてください。天草高校は全力であなた方を応援します。

 以上で,令和3年度始まりにあたっての 校長あいさつといたします。