2020年11月の記事一覧

自分の強みは何か ~ 進路実現への挑戦

   「〇〇社から内定頂きました!」、「〇〇大学に推薦合格しました!」等の吉報を携え、喜色満面の3年生が校長室に報告に来てくれています。喜びを分かち合うと共に残りの高校生活への助言を贈ります。一方、不調に泣く生徒たちもいます。特に今年はコロナ禍の影響で就職状況が厳しく、求人数及び採用者数が減り、最初の採用選考で涙を呑むケースが目立つようです。

 希望の企業から採用内定を得られなかった生徒の落胆と失意は大きいものがあります。確かに、希望の企業から選ばれなかった現実は受け止めなければなりません。その企業が求める資質、適性の面で不十分だったのか、他校の受検者の方が成績優秀だったのか、原因は幾つか考えられます。しかし、あなたの全てが否定されたわけではありません。今回はその企業とのマッチング(相性)が合わなかっただけとも言えます。あなたにはまだ進路実現の時間と機会が十分に残されているのです。

 18世紀の作家デフォー(英国)の冒険小説『ロビンソン漂流記』は、ひとり無人島に流れ着いた船乗りロビンソンン・クルーソーが、絶望に陥らず、新しい生活を始める物語です。ロビンソンは、不安と失意を克服しようと努め、絶望的な境遇について、帳簿の貸方と借方のような形式で考えてみます。

「悪いこと 私は救出される望みもなく、この絶島に漂着した。

 しかし私は生きていて、船の他の乗組員は全部溺死した。

 悪いこと 私は人類から引きはなされ、この島で全く孤独に生活しなければならない。しかし、私は食糧がない、不毛な地で餓死することになったのではない。

 悪いこと 私は体を蔽(おお)う着物さえもない。

 しかし私がいる所は熱帯で、着物などはほとんどいらない。

 悪いこと 私は人間や野獣に対して自分を守る術がない。

 しかし私が漂着したのは、アフリカの海岸で見たような猛獣は住んでいないらしい島で、もしこれがあのアフリカの海岸だったならば私はどうなっていただろうか。」

                   (『ロビンソン漂流記』(デフォー、吉田健一訳、新潮文庫)から引用)

 このように考えを整理したロビンソンは、最悪と思える境遇の中にも希望を見出し、島での生活を始めていきます。

 一回目の試験に不合格となった生徒の皆さん。皆さんにはそれぞれの強みがきっとあります。逆境の今こそ、自分の強みを押し出して、次の目標へ進みましょう。終わった「昨日」を捨てることなくして、「明日」を創ることはできません。皆さんは絶海の孤島にいるのではありません。悲観する必要は全くないのです。進路実現への挑戦は始まったばかりです。

 

熊本復興文化祭 ~ 文化の熱気に触れる

 「未来へのエール」をテーマに、「熊本復興文化祭」が10月31日(土)~11月1日(日)にかけて熊本城ホールで開催されました。新型コロナウイルス感染症の長期化、そして夏の県南地域豪雨災害によって熊本県は厳しい状況にあります。そこで、中学、高校生の文化活動の発信によって、沈滞する熊本の社会を元気づけようと、テレビ熊本(TKU)が中心となって熊本復興支援の文化イベントが実施されることになったのです。

 文化の秋にふさわしいイベントであり、文化活動の多くの発表の場を失ってきた県内の中学、高校の生徒たちにとっては待望の機会となりました。会場の熊本城ホールは、熊本市中央区桜町の再開発事業で昨年秋に完成した複合施設内にあり、その規模(メインホール2300席)と言い、洗練されたデザインと言い、中学、高校生にとってはわくわくする舞台です。

 御船高校書道部は、11月1日(日)の午前10時半のオープニングに、1階展示ホール特設舞台で書道パフォーマンスを披露しました。3年生が引退し、2年と1年の新チーム(15人)になってから初めてのパフォーマンスでした。恐らく緊張していたことでしょう。しかし、声も高らかに出て、息の合った躍動感あふれるパフォーマンスを見せ、書きあがった作品の完成度も高いものでした。困難に負けない、未来へ進んで行くという意思を示した言葉でした。応援に来ていた3年生4人の前で、見事に伝統をつないだと私は実感しました。

 2階のエントランスロビーには、御船高校生をはじめ県代表の絵画、書道、写真の優秀作品が並んでいて、見ごたえ十分です。そして、4階のメインホールへも足を運んでみましたが、壮麗な大ホールで中学、高校の吹奏楽、合唱、ダンス、郷土芸能が相次いで出演し、存分に成果を発表していました。

 6月の県高校総合文化祭が中止され、夏の全国高校総合文化祭高知大会への生徒派遣もできませんでした。さらに12月に予定していた全九州高校総合文化祭熊本大会(主会場は熊本城ホール)も規模を縮小し、書道部門は応募された作品審査のみで、他県の生徒たちは来ません。高校教員としての無力感を覚え、文化活動に取り組む生徒たちへの申し訳なさを感じていました。今回、このような特別な機会を設けて頂き、関係各位に心から敬意を表します。

 若人が集結し、その創造的エネルギーを発信する。私たちが長らく忘れていたライブの熱気が熊本城ホールに充満していました。