2019年12月の記事一覧
世界大会の臨場感 ~ 女子ハンドボール世界大会の学校観戦
「2019女子ハンドボール世界選手権大会」が大詰めを迎えています。この週末に決勝が行われ、世界女王が決まります。半月前にこの「校長室からの風」で触れましたが、1997年(平成9年)に熊本県で「男子世界ハンドボール世界選手権大会」が開催されており、22年ぶりにハンドボール世界大会と私たちは再会できたことになります。御船高校は、生徒たちにスポーツの世界大会を体験させるべく、2回に分け学校観戦を実施しました。
12月9日(月)、1年生を引率してパークドーム熊本(熊本市)に赴きました。12時30分からオーストラリア対中国の試合観戦です。当日は、小中学校、高校、特別支援学校等、四十数校の学校が来場しており、その中で御船高校はオーストラリアを応援しました。そして、二日後の11日(水)、2、3年生による学校観戦は、ロシア対スペインの強豪国同士の試合でした。優勝候補のロシアの好守にわたるパワフルなプレーは圧巻でした。本校はロシア応援であり、ロシア国旗の小旗を数多く用意し持参し、得点の度に生徒たちが小旗を振り声援を送りました。
世界大会レベルのスポーツをライブで観戦できるまたとない機会に生徒たちは恵まれ、幸運だったと思います。インターナショナルな会場の雰囲気、試合前のセレモニー(各国の国歌斉唱、選手紹介等)への敬意など、その場に実際に参加することでしか得られない体験でした。そして、何といっても世界トップレベルのプレーに魅了されたことでしょう。
ハンドボールは「走る、跳ぶ、投げる」のスポーツの3大要素がすべて含まれ、スピード感あふれる激しい攻防が絶え間なく続きます。球技の格闘技との異名も持ち、「ファウルではないか」と観ていて思うほどの迫力あるぶつかり合いが演じられます。歓声とどよめきが交錯し、観戦していて前後半それぞれ30分間が短く感じられました。多くの生徒がハンドボールのルールもわからないまま観戦したのですが、「面白かった!」とみな笑顔でした。
22年前の男子大会同様、今回も熊本県単独での世界大会開催でした。会場に足を運んだ生徒の皆さんは、実に多くの人々が大会運営に当たっておられる様子を目の当たりにしたと思います。その中には、御船高校教職員の今田先生、渡部先生もいます。お二人は、大会組織委員会から競技役員として依頼を受け、大会期間中、大会運営に献身的に尽力されています。
このような縁の下の力持ちのような多くの人の存在が、大会を支えているのです。このことを生徒の皆さんには気付いてほしいと思います。
「好き」の力を信じる ~ 御船高校芸術コース発表会
御船高校には音楽、美術・デザイン、書道の三つの専攻からなる芸術コース(普通科)があります。熊本の県立高校では唯一の音・美・書の三領域そろった芸術コースです。各学年の4組がそれに当たり、66人の生徒が在籍しています。オンリーワンを目指す、きらきらと個性輝く生徒たちが集まっており、それぞれが好きなアート制作に取り組んでいます。現在、この芸術コースの発表会が行われているのです。
美術・デザイン専攻と書道専攻の作品展を12月10日(火)から15日(日)まで熊本県立美術館分館4階展示室で開いています。昨日12日(木)に私も会場に赴きました。会場には、伸びざかりの表現力の結晶である作品群が並び、壮観で圧倒されます。
会場の一角では、ホラーの短編映画が上映されています。7分の短い映像作品ですが、学校を舞台とした学園ホラー映画には高校生の感性が色濃く反映されています。出演者は本校生及び教職員です。御船高校の美術・デザイン専攻では、3年生で選択科目「映像表現」(2単位)があり、この科目履修生によって制作された短編映画なのです。このような「映像表現」科目を選択できる高校は県内には他にはありません。
昨日は、3年生美術・デザイン専攻の3人の女子生徒が会場受付を担当していました。3人とも口数が多い生徒ではなく、どちらかというと内向的な性格かもしれません。しかし、彼女たちの作品は誠に雄弁です。自らの内なる声を表現したいというエネルギーが作品に満ち溢れています。創られた作品は、その人の身体の一部のようなものだと感じます。
高校進学の時点で、芸術コースを選ぶ生徒は多くはありません。しかし、自らの「好き」という気持ちを拠りどころとして、少数派としての誇りをもって入学してきてほしいと思います。御船高校芸術コースは、自分の「好き」を磨き伸ばす場所です。スポーツであれ、文化活動であれ、自分自身が心から好きなことに熱中することは自己肯定感につながると思います。
「A I」の時代を迎えた今だからこそ創造力や感性が求められる、と本校の芸術コースの職員たちは述べています。芸術コースの真価が問われる時が来たと言っていいでしょう。
美術・デザイン専攻と書道専攻の作品展(県立美術館分館)は12月15日(日)までです。また、音楽専攻の発表会は12月17日(火)の午後6時30分から御船町カルチャーセンターで開かれます。どうか足をお運びください。
謎の八角形洞門 ~ 廃線遺構を訪ねて
その絵を見たとき、描かれた場所がどこであるか見当がつきました。久しぶりに訪ねてみたいと思いました。その絵、本校美術・デザイン専攻3年の邑山(むらやま)君の油絵「昼下がりの洞門」を見たのは1学期の6月でした。この絵は第82回銀光展の文林堂賞を受賞した秀作です。山中の八角形コンクリートの遺構に光が当たって浮かび上がっている情景です。「ここはいったいどこなのだろう?」と周囲の職員がいぶかしがる中、私には思い当たる所があったのです。
11月後半の休日、思い立って出かけました。御船高校から妙見坂トンネルを通り甲佐町に抜け、国道443号を南下し美里町に入り、小筵(こむしろ)の交差点近くの脇道を津留(つる)川沿いに下ると釈迦院(しゃかいん)川との合流地点に出ます。ここには江戸時代末期から大正、昭和初期に至る異なる時代の五つの石橋が架かる「二俣五橋」(ふたまたごきょう)があります。緑川水系には通潤橋(つうじゅんきょう)、霊台橋(れいたいきょう)といった国重要文化財指定の大規模な石橋をはじめ数多くの石橋があることで知られていますが、ここ「二俣五橋」も必見です。しかし、今回はここが目的地ではありません。自動車で行けるのはここまでで、あとは徒歩です。
「二俣五橋」から津留川の右岸に渡り、山の斜面の細い道を上ります。幸い、フットパス(「歩く小径」という意味)として美里町によって整備されています。細い道を上りきると、車一台が通れるような平らな道が山腹につながっています。もちろん道路ではなく車は通れませんが、フットパスとして草も刈られ、歩きやすいものです。津留川の清流を右手に見下ろし、里山の風景がまことに目に優しく、心地よい道です。山中にどうしてこのような幅広い道があるのでしょうか?ここをかつて鉄道が走っていたと知ると合点がいくと思います。
かつて大正時代から昭和中期まで、熊本市(南熊本駅)から上益城郡の嘉島、御船、甲佐を通り、下益城郡の砥用(ともち)まで熊延(ゆうえん)鉄道という私鉄が走っていました。九州山脈を越え宮崎県延岡市まで結ぶという雄大な構想は実現せず、モータリゼーションの波で昭和39年(1964年)に廃線になりました。廃線から半世紀を過ぎ、乗車経験のある方も少なくなりました。
山中の平坦な道を五分も歩くと、邑山君が描いた洞門が見えてきます。八角形のコンクリート遺構が等間隔で7基連なっています。鉄道のトンネルであれば半円筒形でなければならないはずですが、間隔が空いており中途半端な構造となっています。その理由はいまだよくわかっていません。
廃線となった鉄道遺構は寂しくも映りますが、この地域の近代化を支えた遺産であり、時代の証人とも言えます。邑山君はよく注目したと思います。
歴史を知ると、見えないものが見えてくると思います。
二俣五橋の風景 旧熊延鉄道線路跡 旧熊延鉄道トンネル跡
「走る、ひたすら走る、ゴール目指して」 ~ 第87回御船高校長距離走大会
数ある学校行事の中で、生徒たちに最も歓迎されない行事が「長距離走大会」でしょう。長距離を走ることが得意だという人は少ないうえに、「きつく、苦しい」、「ただ走って何になる?」と生徒たちの不満は多いものです。しかし、長距離走大会は、生徒たちの心身に負荷をかける鍛錬行事です。鍛錬行事は近年の学校行事では少なくなり、長距離走大会(持久走大会)や強歩会などが各学校で実施されている状況です。
御船高校の長距離走大会は、昭和7年(1932年)に始まり、旧制御船中学校以来続く伝統行事です。時代を超えて受け継がれてきたということは、成長期の若者に必要な行事であることを示していると思います。
12月7日(土)、第87回御船高校長距離走大会を実施しました。男子は午前10時スタートでコース距離11.8㎞、女子は10分後にスタートし9.5㎞走ります。学校を出て国道445号を嘉島町方面に向かい、途中から田畑の中の農道に入り、高木地区のだらだら坂を上り、益城町から伸びてきている国道443号に出て学校へ帰ってくるコースとなります。
全校生徒528人中、492人が参加しました。健康状況等で参加できない生徒は運営スタッフとして記録等の業務に当たってくれました。また、大勢の保護者の方々が、豚汁の炊き出し班とコース各ポイントでの交通安全見守り班に分かれご協力いただきました。師走らしい曇天で気温は低めでしたが、里山の集落の昔ながらの道や農道では、保護者や地元の皆さんの温かい声援を受け、492人全員が完走を果たしました。私はスタート地点、そして移動しながら2か所で応援し、最後はゴール地点で生徒たちを出迎えましたが、あらためて御船高校生のたくましさ、底力を感じました。
社会は変化しても、学校での体育的鍛錬行事は意義があると私は思います。「きつい」と生徒たちが感じている時、身体と体が鍛えられているのです。スタート前は不安な表情を浮かべる生徒たちもいましたが、走りぬいてゴールした後、生徒たちはみな清々しい表情でした。何にも代えがたい達成感を味わったことでしょう。
走る、ひたすら走る、ゴール目指して走る、ただそれだけのシンプルな行事ですが、きっと青春の特別なひとこまになったと思います。
「未来のための金曜日」講演会
「未来のための金曜日」講演会を11月に2回開催しました。8日(金)に徳永明彦(とくながあきひこ)同窓会長(ダック技建(株)代表取締役)、そして29日(金)に熊本市の遠藤洋路(えんどうひろみち)教育長をお招きしました。
徳永同窓会長は、「希望ある社会人」の演題で、御船高校卒業後に福岡県で就職して、やがて北九州市で会社を興され今日に至る半生を力強く語られました。高校時代は英語の勉強が苦手だったそうですが、大人になったら海外旅行をすることが夢で、それを実現し世界40か国を訪問されています。しかし、いまだに英会話が苦手で、生徒たちに英語の勉強の大切さを強調されました。また、学校と社会の違いの例として、学校の試験問題は正答が用意され、簡単な問題から解いていけばある程度の成績は得られるが、社会では正答がわからないうえに、難しい問題を解決しないと前へは一歩も進めない状況があると述べられました。
遠藤教育長は、もともとは埼玉県のご出身で、文部科学省に入られ、その後公務員を辞して起業され、そして現在は政令指定都市(人口74万人!)の教育行政の最高責任者という重責を担われています。演題は「人生に正解はない」です。文科省からハーバード大学に研修留学に派遣され、得意と思っていた英語が通じなかったことや、毎日のゼミナール講義で進んで意見が言えず挫折感を覚えたこと、さらには闘病生活の体験など人生がいかに予測不可能なものかを切実に語られました。「人生に正解はない、のであれば、人生に不正解はありますか?」と最後に生徒から質問が寄せられました。それに対して、遠藤教育長は、「人生とは自分で決断して生きていくもの。だから、不正解があるとすれば、それは他人任せの生き方だと思う。」と明快に答えられました。
「将来の夢」というものを持ちにくい時代になったと言われます。なぜなら社会の変化があまりに激しく、未来を予測することが不可能だからです。しかし、徳永同窓会長も遠藤教育長も、社会の変化に主体的に対応され岐路では自ら決断し、ダイナミックに人生を切り拓いてこられたことがわかります。
これから地図なき進路に歩みだす生徒の皆さんにとって、未来を考える時間になった二つの講演会でした。「未来のための金曜日」になったと思います。
徳永同窓会長の講演 遠藤教育長の講演