校長室より

学校 定時制 1学期終業式あいさつ「ことばの 一つひとつを 大切にするということ」

ことばの 一つひとつを 大切にするということ

 

 今年も 新型コロナウイルスに振り回された1学期でした。しかし,一人一人が自覚して学校生活に取り組み,先生方も様々な工夫を凝らして,日々の学びと,学校行事を進めてくださっています。本当にありがとう。

 先日,天草高校と交流している韓国の土坪高校の生徒 キム ガヒョン さんから 素敵な手紙をもらいました。
中には,「私の大好きな詩を 一生懸命 日本語に訳してみました。 読んでみてください」という手紙とともに 次のような詩が入っていました。

    「揺れながら咲く花」 ト ジョンファン

  ぐらつかずに咲く花が どこに あるだろうか
  この世の どんなに美しい花たちも みな 揺れながら咲いたのだ
  揺らぎながら 茎をまっすぐに 伸ばしたのだ
  揺らがずに行く愛が どこに あるだろうか

  濡れずに咲く花が どこにあるだろうか
  この世の どんなに輝く花たちも みな 雨に打たれて咲いたのだ
  風と雨に濡れながら 自らの花びらを温かく咲かすのだ
  濡れないでいく人生が どこに あるだろうか

 この詩は 韓国ドラマ「学校2013」の中でも,お互いの気持ちがバラバラになりそうな中で,担任の先生が クラスの子どもたちに向けて朗読する場面でも使われているということです。人生の応援歌みたいでとても素敵な詩ですね。


 私の好きな詩集に,『世界はもっと美しくなる』(寮美千子編 ロクリン社 2016年)という本があります。その中の詩をいくつか紹介します。

    「弱い自分・デキない自分」

  何をしても 失敗ばかりな自分
  どんなに努力しても 空回りするばかり
  どんなに集中しても たいした結果を出せず
  頭ではわかっているのに ミスを繰り返す自分
  注意されると 反抗的な態度をとってしまう自分
  感情が 顔や態度に すぐに出てしまう自分
  短気でどうしようもない自分
  がんばって口に出さずに タメた結果
  自分を責めて モノにあたってしまう自分
  いつまでたっても 成長しない自分
  そんな自分にウンザリだし 嫌いで仕方ない

  「ガキ」みたいに なれたら
  「ガキ」みたいに いまの生活を楽しめたら
  一体どんだけ 居心地がいいだろうか

  弱音を吐きまくる自分が 情けない
  強い自分・デキる自分に なりたい


    「うれしかったこと」

  ぼくは スーパーで4年 仕事をしていました
  1年は青果部で あとの3年は鮮魚です
  最初はすごく怒られ もうやめようと思ったときもありました
  でも あきらめずに一生懸命働きました
  勤めて2年目のときに 店長から呼び出しがありました
  「社員をしないか」といわれました
  とても びっくりしました
  そして ぼくは社員になったのです
  このことが 人生で一番うれしかったことです

他にも私の好きな詩を紹介しますね。次は私の一番好きな詩です。

    「3時のホットケーキ」

  小学校3年生のとき 学校から帰ってくると
  おやつは いつも ホットケーキ
  決まって お皿の上に3枚
  友だちのところにいくときも
  ラップに包んで持っていくのが 当たり前だった

  小学校4年生のとき
  お菓子屋さんでおやつを買って食べている子たちに
  ホットケーキをバカにされた
  それが すごく悔しくて恥ずかしくて
  次の日 お皿の上のホットケーキには手をつけず
  友だちのところへ行った

  そしたら次の日 テーブルの上に ホットケーキはなかった
  次の日も その次の日も
  おやつのない日々に ガマンできなくなったぼくが
  「おやつ代 ちょうだい」といったら すごく怒られた
  「みんなと同じように お菓子屋さんでおやつを買って
   みんなといっしょに 食べたいんだよ」
  そう訴えると すごく悲しそうな顔をされた
  なんで そんな顔をするのか ぼくにはわからなかった

  いまになって わかる
  まだ若くて 急にぼくといっしょに暮らすことになった あなたは
  どう接したらいいかわからなくて 一生懸命考えて
  ホットケーキを焼いてくれていたんだね

  いま 義母のことを「オカン」と呼べるようになった
  いろんなことがあったけど 育ててくれてありがとう
  あのホットケーキ もう一度 食べたいな


 この詩集は,誰が書いたのか? イニシャルがところどころ記しているだけです。
 なぜなら 奈良少年刑務所に入所していた少年たちが書いた詩だからです。
 この少年刑務所で詩を教えることになった 詩人の 寮美千子(りょう みちこ)さんは,最初とても躊躇したと記しています。しかし
 「彼らはみな,加害者になる前に,被害者であったような子たちなんです。極度の貧困のなか,親に育児放棄や虐待をされてきた子。発達障害をかかえているために,学校でひどいいじめを受けてきた子。厳しすぎる親から,拷問のようなしつけをされてきた子。親の過度の期待を一身に受けて,頑張りすぎて心が壊れてしまった子。心に深い傷を持たない子は,一人もいません。その傷を癒せなかった子たちが,事件を起こして,ここに来ているんです。本当は,みんなやさしい,傷つきやすい心を持った子たちなんです。」と刑務官の方に話をされて,通い始めます。
 そして,詩の教室を開く中で,固く閉ざされた心の扉が開かれたとき,溢れ出てくるのは「やさしさ」でした,と語ります。


 私にとっても,この詩集の子どもたちの言葉は宝物です。

 しかし,みんなの心の扉が開かれたときに出てくる言葉は,もっともっと宝物です。
 天定(あまてい)の先生方は,毎日毎日みんなの言葉の奥底にある思いを掬えないかなと思って,何度も何度も反芻し,イメージし,考え続けています。
 同じように,彼の 彼女の あの言葉の後ろには どんな思いがあったのかな? どんな背景があったのかな? とイメージしてみると お互いの関係性が もっと 広がっていくかもしれません。

 言葉の一つ一つを大事にしながら お互いに育ちあがっていきましょう。

 夏場のキツイ時期に仕事が続く人もいるでしょうが,少しでも心と体のリセットをして,二学期また元気に会いましょう。一学期間 お疲れさまでした。