2020年1月の記事一覧
問いを学ぶこと ~ 電子機械科の課題研究発表会(2)
前回に続き、「電子機械科の課題研究発表会」について語ります。1月29日(水)の3、4限目は3年A組が発表しました。1、2限目のB組と合わせて発表を聴いてみて、チームとして取り組んでいるという印象を持ちました。グループとチームでは根本の違いがあると思います。学校生活において、仲の良い者同士、一緒に帰る者たち、同じ趣味の仲間などグループは簡単に派生します。しかし、チームを作るには強い意志が必要です。チームには明確な目標があり、それを達成するための役割があるのです。電子機械科の生徒たちはこの1年間、良きチームとして課題研究に取り組んできたと思います。
A組の6つの発表のうち、4つはモノづくりに没頭したものでした。学校の野球場の防球ネットの補修、ボルトやナット等を材料としたオブジェ製作、マイコンカーの製作、廃棄されていた発電機の修理などです。いずれも、僕たちはモノづくりが好きだという気持ちが伝わってきました。そのプロセスは、まさしくトライ&エラーの繰り返しだったことがわかります。このプロセスこそ尊いと思います。
残りの2つは、強い課題意識から出発し、問いを出し続けて研究を推進したもので充実した内容でした。一つめは、「なぜ御船高校電子機械科は定員割れが続いているのだろう?」(就職状況も良く、ロボット大会等の発信もしているのになぜ?)からスタートし、これまでの電子機械科の取り組みについて点検し、どうすれば中学生にもっとアピールできるのか、他にどんなことができるのか、問い続けています。二つ目は、電子機械科マイコン制御部で主催してきた中学生ロボット大会について、中学校が求めているものは何か、どうすれば参加校は増えるのか、中学生に対して高校生ができることは何かと問い続け、大会のあり方の改善検討を進めています。きっと来年度の中学生ロボット大会では成果が現れることでしょう。
学問とは、答えを学ぶことではなく、問いを学ぶことです。問いを立てて、自分なりに考え、調べ、取り組み、試行錯誤していくのです。一つのことに取り組んでみると、様々なことにつながり、広がっていきます。
電子機械科の生徒の皆さんにとって、「人生最初の課題研究」(電子機械科の大橋先生の言葉)は終わりました。しかし、本当の「課題研究」はこれからです。それぞれの職場で、自ら問いを立て、その問いを原動力にして、創造的な仕事をしていってほしいと期待します。
地域の課題を解決する力 ~ 電子機械科の課題研究発表会(1)
3年生の学年末考査、通称「卒業試験」が1月28日(火)に終了しました。これで3年生は家庭学習期間に入るのですが、電子機械科の3年生(2クラス)は翌日も登校し、この1年間取り組んできた課題研究の発表会に臨みました(会場は第5実習棟フロア)。電子機械科の「課題研究」は生徒たちがそれぞれ班をつくり、各班で課題を設定し、担当の先生の指導を受けながら研究実践を行うものです。教育課程上は、2単位(週2時間)ですが、放課後や長期休業中にも自主的に活動してきました。
1月29日(水)の1、2時間目、3年B組の発表が行われました。6つの班の発表のうち半分の3つの班が、地域社会の課題解決に挑む内容となっており注目しました。一つ目が、以前この「校長室からの風」で紹介した、御船町の小学校英語授業における人型ロボット(ペッパー君)に搭載する制御プログラム作成です。簡単な英会話、そして手ぶり、身振りの動作ができるプログラムを生徒たちがつくり、小学生の英語授業に貢献しました。
二つ目は、御船町の害獣被害対策のためにイノシシを捕獲する箱罠の製作です。このテーマは昨年度の3年生から継続です。市販されているものより安価な手作りの箱罠を昨年度の3年生が製作したのですが、実際に設置してみるとイノシシに壊され、捕獲できませんでした。その失敗を糧に、今年度の班は、より軽量で持ち運びやすく、かつ丈夫な箱罠を作り上げました。しかし、完成が遅れたため、まだ実際に使用できず、実際の捕獲はこれからです。三つ目は、災害時に簡易に使用できるバーベキューコンロの製作です。学校の工作機具を使用し、鉄板を材料に作り上げました。災害で電気やガスが使用できなくとも、火を焚き芋や肉を簡単に焼くことができる手製のコンロが成果物です。
電子機械科の生徒の強みは、モノづくりができる点にあります。これは普通科の生徒にはない絶対的な強みです。3年間の豊富な実習を通じて、モノづくりの面白さと難しさを知っています。自分たちに何ができるのかと考えた時、モノづくりの技能を持っていることは生徒たちの生きる力となるでしょう。
地域社会には大人の手が回らないほどの沢山の未解決課題があります。モノづくりの基礎を身に付けた高校生であれば、その行動力とアイデアを生かせば、課題を解決できる可能性が大きいのです。
御船高校電子機械科だからこそできる社会貢献があるのです。
先進校を訪ねて ~ 育友会の視察研修
御船高校では、毎年育友会の視察研修を実施しており、県外の高校や企業を訪問しています。保護者会と教職員にとって貴重な研修の機会です。今年度は、福岡県の二つの高校を1月24日(金)に訪ねました。参加者は保護者役員さんが9人、学校の教職員が私を含め4人の計13人で、育友会所有のマイクロバスを活用しました。
今回訪問先として選んだ学校は、福岡県立八女工業高校(筑後市羽犬塚)と同県立八幡中央高校(北九州市八幡西区)です。御船高校が2年後に創立百周年を迎えることから、創立百周年事業の準備やその成果を知りたいということと、本校がより魅力ある学び舎に発展するために同じ工業系、そして芸術コースの先進校から学びたいという大きく二つの理由から選びました。
福岡県立八女工業高校は、電子機械科・自動車科・電気科・情報技術科・土木科・工業化学科の6学科を有し、各種の資格取得も良好で就職状況も好調、同県で最も勢いのある工業高校と聞いています。そして、何といっても、今年度、全国高等学校ロボット競技大会で優勝を飾っている学校なのです。決勝トーナメント1回戦で敗退した本校にとっては仰ぎ見る存在です。2020年度に創立100周年を迎える同校は、同窓会と学校が連帯し正門の改築、教育機器の充実等に取り組まれており、本校の計画、準備が遅れていることを痛感しました。工業高校ですが女子生徒が増加傾向にあり、在籍数が百人を超え、女子支援課という部門を設け組織的に女子生徒をサポートされています。また、今年度から女子生徒は制服のスラックス着用が可能になり、防寒性と活動性に優れたスラックスを選ぶ女子が増えているとのことでした。
福岡県立八幡中央高校は、普通科4クラスに芸術コース1クラスを有し、今年度で創立103年を数える伝統があります。遠く洞海湾を眺望できる高台に建つ学校です。平成28年に創立百周年を迎えられ、その時の数多くの資料(計画書、要項等)や「記念誌」、記念品等を今回頂くことができました。玄関を入ると2階吹き抜けのギャラリースペースがあり、同校が誇る芸術コースの美術・書道の作品群が出迎えてくれました。同校の書道部はこれまで全国高校書道パフォーマンス大会で2度の優勝を飾っており、御船高校書道部にとって目標の学校です。芸術コースが牽引役となり文化的な行事が盛んで、学校の活性化につながっているようです。また、同校でも女子生徒の制服はスラックス着用が可能でした。
両校とも生徒たちが生き生きと学校生活を送っており、活気が校内に満ちていました。丁寧にご対応頂いた両校の先生方に深く感謝申し上げます。
本校より一歩先を進んでいる学校でした。両校を目標に、御船高校の一層の魅力化に努めます。
八女工業高校 八幡中央高校
初任者研修
県立学校「初任者研修」(第11回)の教科指導等研修が、1月14日(火)に御船高校で開催されました。参加したのは、本校の二人の初任教諭(美術の本田崇教諭、生物の橋本雄司教諭)ほか、各学校から数学2人、理科2人の計6人です。他の教科・科目は他校で行われ、本校には数学・理科・芸術(美術)の初任教諭と指導に当たる県立教育センターの指導主事の先生方(3人)が集まられたことになります。
会場校校長として最初に挨拶を行ったのですが、初任者の皆さんの積極的に吸収しようという意欲的な姿勢が伝わってきました。初任者を代表し、本校の橋本教諭が生物の研究授業(2年1組)を2時間目に行いました。自律神経系と内分泌系の共同作業によって体温が調節されることを理解する授業でした。橋本教諭は情報機器を活用して説明のわかりやすさを心がけ、生徒たちに話し合わせたり、協働でワークシート作成に取り組ませたりと生徒の主体的な学習活動を意識した授業となっていました。
授業参観していて、「授業はコミュニケーションの場」であることを改めて実感しました。教師からの一方通行ではだめで、教師と生徒、そして生徒同士の「対話」があってこそ発展するものなのです。この「校長室からの風」で以前にも触れましたが、今、高等学校の普通教科の授業は大きく変わりつつあります。社会の急速な変化に伴い、生徒が必要とする学力の質も変わってきているのです。従って、「教える」という教師側の視点だけでなく、「わかるようになる」、「できるようになる」という生徒を主体とした視点からの授業改革が求められています。
授業者の橋本教諭以外の初任者五人は、「良かった点」、「改善が必要だった点」、「自分の授業で活用したい点」等をメモし、その後の授業研究会で活発な意見交換を行いました。そして、午後は各学校における自分の業務上の課題についての「課題研究報告会」が行われ、県立教育センターの指導主事からの助言、指導を受けました。
初任者研修は1年間を通し体系的、計画的に進められます。保護者の皆さん、生徒の皆さん、初任の先生たちは一人前の教師になろうと懸命に努力していることを知ってください。経験は足りません。しかし、初任者は学校に新風を吹き込み、学校を変える可能性を持ち、これからの令和の時代を担う存在なのです。
初任者をはじめ若手の教師を支援して、バトンを渡していくことが私の最後の務めだと思っています。熊本県の教育の未来は明るいと信じています。
御船高校への期待を感じて ~ 令和2年の始動
1月8日(水)に始動してまだ二日目の御船高校ですが、幾人ものお客様が校長室を来訪され、新春の賑わいが続いています。
来る4月から御船高校は総合型コミュニティスクールとなります。これまでの「地域に開かれた学校」から一歩踏み出し、「地域と共にある学校」として地域住民の方、保護者、学校が協働で学校運営に取り組んでいくことを目指します。その重要なパートナーが町役場の皆さんです。昨年も、1学年の「総合的な探究の時間」や芸術コースの学習活動に対して、積極的なご支援とご協力をいただきました。その中核的存在である商工観光課の作田課長(御船高校同窓生)が来校され、「今年はもっと一緒にやっていきましょう」と力強いお言葉をいただきました。
また、同窓会の徳永明彦会長が北九州市からお見えになりました。ご多用な公務(企業の代表取締役)の合間を縫って、昨年も何度ご来校くださったことでしょう。11月の「ようこそ先輩、教えて未来」行事ではご講演もしていただきました。2年後に迫る創立100周年行事に向け、今年はより一層、同窓会との連帯が求められますが、徳永会長の存在は誠に心強いものがあります。
そして、地元の池田活版印刷所さん(御船町)から、芸術コースの生徒達(3学年計66人)に素敵な贈り物がありました。鉛活字を使った昔ながらの手法(活版印刷)で創られた今年の暦です。池田活版印刷所についてはこの「校長室からの風」で以前紹介しましたが、創業明治33年(今年で120年)の老舗で、全国的にも珍しい活版印刷をいまだに貫いておられる印刷所です。
池田活版印刷所の5代目店主吉田典子さんが来校され、芸術コース3年の代表生徒たちに、手のひらサイズの12枚の月暦を贈られました。生徒たちはさっそく手に取り、活版印刷による味わい深い凹凸感を確かめていました。吉田さんは、本校に対する地域の応援団のような方で、昨年秋の文化祭にも来校され、美術・デザイン、書道の作品や音楽の舞台(ステージ)をご覧になりました。そして、芸術コースの生徒たちにアナログの手仕事の良さを知ってほしいと今回の寄贈を思いつかれたそうです。
新しい年の暦は、生徒たちの未来図のようなものです。これからの1年、様々なことが起こるでしょう。しかし、頑張る高校生を地域の人々は温かく見守り、応援してくださると思います。
「初暦(はつごよみ) 知らぬ月日の 美しく」 (吉屋信子)