和敬清寂の世界に浸る ~ 熊本県高校総合文化祭(その2)

   部活動において、その生徒の普段は見られない輝く場面、秀でた点を発見して驚くことがよくあります。「この生徒は、こんな面があったのか」と人物観の修正を迫られる時は、教師にとって生徒の豊かな可能性を知る時にほかならないのです。今年の熊本県高校総体、そして総合文化祭において、そのような喜びの体験を幾度も味わいました。中でも、総合文化祭初日(5月31日)、県立劇場の茶道部のお茶席での出会いは忘れがたいものがあります。

 書道、美術、写真等の展示作品を見て回っていた私は、偶然、本校茶道部顧問の野崎先生と会い、御船高校担当のお茶席に御案内いただきました。幸運でした。茶道部は裏千家の岩永師範の御指導のもと、3年生9人、1年生1人の計10人で週1回活動しています。赴任して2ヶ月の私にとって茶道部員との初めての出会いが、県高校総合文化祭のお茶席となったのです。名誉にも正客(しょうきゃく)となり、他の相客15人の方と一緒に座敷に招かれました。

   亭主は御船高校3年2組の田上知奈さん、半東(はんとう)が同じクラスの澤村愛さんです。二人とも制服です。半東とは茶事が円滑に進むように亭主をサポートする役で、お菓子や亭主が点てたお茶を客に運びます。お客の人数が多いため、相客には控えの水屋で点てられたお茶が運ばれますが、正客の私には亭主が点ててくれます。亭主の田上さんと相対座して、お点前を間近で見ることができました。

   裏千家の風炉(ふろ)の薄茶平手前で私たちはもてなされました。亭主の田上さんは幾つもの手順を落ち着いて進め、まことに優美なお手前を披露しました。相客にお菓子やお茶を運ぶ部員も楚々とした所作でした。日常の学校生活では決して見ることのできない立ち居振る舞いであり、御船高校生の未知の姿を「再発見」した思いとなりました。

   座敷の床の間には「清流無間断」(清流は間断無し)の掛け軸がありました。この軸を見て、「和敬清寂」という茶道の精神を表した言葉を思い出しました。もともとは禅宗の言葉です。言葉通りまさに和やかで亭主と客が敬いあう対等な関係が生まれ、清らかで静かな空間に包まれて、心地よいひとときでした。

   我が国の伝統文化の持つ型の強さ、奥深さは計り知れないものがあります。令和の高校生にも茶道に親しんでほしいと願っています。