新しい文化の時代の幕開け ~ 新元号「令和」に寄せて

「力強い字ですね。墨書の迫力が良いですね」と来校された専門学校の先生が言われました。御船高校の玄関には、書道部の3年生が卒業作品として取り組んだ大きな書が飾られていて、お客さんを迎えます。生徒は卒業していっても、彼らの思いが込められた言葉は残り、学校の文化を醸成しています。

 新元号「令和」が4月1日に発表され、大きな反響を呼びました。元号の出典が従来の中国の古典ではなく、初めて我が国の古典に求められたこと、そしてその典拠が奈良時代に編纂された「万葉集」であることが話題になりました。天平文化(奈良時代)の太宰府において、長官の大伴旅人(おおとものたびと)を中心に官僚たちが梅花の宴で歌を詠んでいる場面から「令和」という元号は生まれました。

 「初春令月、気淑風和   梅披鏡前之粉、蘭香珮後之香」

 (初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やわら)ぎ、

  梅は鏡前の粉を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香を薫(かお)らす)

                                            *「万葉集」巻五

 この情景から、「心を寄せ合う中で文化が生まれ育つ」という意味が新元号にはあると安倍首相は語られました。およそ千三百年前の歌が21世紀の今日まで伝えられていることは我が国が誇ってよい文化と言えます。

 時を超え、大切な言葉が先人より後から来る者のために継承されています。そもそも元号がその典型でしょう。大化の改新(645年)の「大化」以来、我が国の歴史と共に続いています。グローバル社会の今日にあって、先進国が利用しているキリスト教に因む西暦で十分という考えもあるでしょう。しかし、年数の羅列ではなく、そこに時代の索引(インデックス)のような元号が名付けられることは大いに意味があると考えます。まさに文化的な装置であり、多くの日本人が支持する所以だと思います。

 新元号「令和」の発表は、改めて言葉の大切さ、古典や伝統文化の意義を私たちに教えてくれたと思います。軍事力、経済力といったハードパワーと違い、文化というソフトパワーはあまり目立ちません。けれども、「令和」の時代、新しい豊かな文化を創造することを指針として、学校教育に取り組んでいくべきではないでしょうか。

 芸術コースを擁する御船高校の時代が来たと思っています。