徒然雑記帖

ビリビリときて思い出したこと

 立春は過ぎたものの強烈な寒波に震える毎日が続いていますが、いつも本校のHPにお越しいただきありがとうございます。

 今朝、出勤するとき、山頂に雪をかぶった白髪岳1の7合目付近の山際から眩いばかりに輝く朝陽が上がり、南の空には下弦の月(有明の月)が寒々と残っていて、とても風情がありました。ところが、学校に着いて鍵穴にキーを差し込んだ瞬間、ビリビリと不快な思いをして、いっぺんに現実に引き戻されました。

そんな嫌な静電気に関して、十日ほど前の人吉新聞の「お天気歳時記」の欄に「静電気が発生する条件は、気温15度以下、湿度20%以下といわれている。嫌な静電気を防ぐには、加湿器などで湿度を上げるほか、・・・」とあり、「ガソリンスタンドでは冬でも水をまいて静電気を予防している」と結んでありました。

 
ガソリンスタンドと言えば・・・、機械科の1年生の多くが12月に受検した危険物乙種第4類の結果の通知があり、合格率が芳しいものではなかったと報告を受けたことを思い出しました。自ら高い意識をもって学習する姿勢がまだまだ身についていないのかもしれません。次回は今回の反省を踏まえて、計画をしっかり立てて粘り強く勉強してほしいと願っています。

 
ところで、私自身は高校教師になって機械科で生徒に指導するようになってから危険物の資格を取りました。その勉強をとおして、ガソリンスタンドの店員さんがホースで水をまいている理由は、「静電気対策」2と知りました。
 
しかし、それ以前は、「タイヤが水を巻き上げて車体を汚すので嫌だな・・・」と思いつつも都市伝説のように囁かれていた、「同じ入れるなら昼よりも気温が低い朝入れたほうがお得」というドライバー側の立場に配慮して、水をまいて気化熱でコンクリート面の温度を下げることで少しでもガソリンの温度を下げてくれているものとばかり信じていました。

 
生徒の皆さんはそれがどういうことか分かりますか?

ヒントはガソリンの温度による「体積膨張」です。

物体は温度が上がると膨らんで体積が膨張します。ガソリンの体積は、1℃上昇すると0.00135倍膨張します。この数字を「体膨張率」と呼び、物質によって固有の値をとります。

この値を使うと、例えば冬10℃の気温で50リッターのガソリンが、夏30℃の気温で何リッターになるかが計算できます。具体的には次の公式になります。

体膨張率 × 元の体積 × 温度差 = 増加する体積

 
代入してみます。

  0.00135
× 50リッター ×(30-10℃)= 1.35リッター

 何と、ペットボトル2本分以上に相当する1.35リッターも膨張し、温度上昇後は51.35リッターになるのです。
3

ご存じのとおり、このところガソリンはリッター当たり140円台前半と、以前に比べ高めの価格で推移していますが、仮に140円とすれば1.35リッター分は140×1.35 =189円相当になります。たいした金額です。

ここでしっかり考えないといけないのは、冬10℃のとき給油するのと夏30℃のときとでは、どちらが189円相当分ドライバーにとってお特なのかということです。

 
さっそく考えてみましょう。ただし前提として、50リッターが公称のクルマのガソリンタンクは50リッターできっちりで満タンではなく、幾分余裕4(ここでは51.35リッター分)があるものとします。

また、スタンド地下のガソリンタンク内のガソリンの温度と外気温及び給油ポンプの流量計通過時、並びに車のガソリンタンクからエンジンに入るまでのガソリンの温度は全て同じであるとします。

 
ドライバー側の立場です。

冬に50リッター入れて夏まで乗らないとすれば、夏には51.35リッターになっているわけですから、ドライバーは1.35リッター(189円相当)得したことになるのでは?

夏まで乗らないというのは、朝温度が低いときに入れて、昼に温度が高くなってから走るということとイメージ的には同じで、ドライバーにとっては給油時の温度が低いほうがいいと思われます。

 さて、生徒の皆さん、この考えをどう思いますか?

私は特に問題ないような気がするのですが・・・。

 
勿論、エンジンに詳しい人は、ガソリンが燃焼するとき、温度が高いときに膨張したガソリンではノッキングが発生しやすくなり、つまり燃焼効率が悪化し、結果的に燃費が悪くなるからプラスマイナスゼロなのでは・・・?とか考え始める人もいるかもしれません。そういう厳密な議論は、今日は保留にしておきます。

 
ということで、少しでも温度が低いときにガソリンを入れるほうが、「ドライバーにとってお得なのでは?」と思っていたということです。

 
しかし、実際のところ、スタンドのコンクリート面に水をまくことで地下にあるガソリンタンクの温度が下がるというのは、あまり考えにくいことで、あってもほんの数℃位なのではと思います。ですから、夏でも冬でもまた、朝でも昼でもその温度差の影響を受けることはほとんどないのかもしれません。最近の給油ポンプの流量計には「温度補正機能」がついていると聞いたこともあるので、その場合は温度差のことは完全に無視できるのかもしれません。

 
実際のところはどうなのかと、ネット上でも色々探してみましたが、現在のところ明確に正解と分かる情報を記載した信頼できるサイトは見つけることができていません。ということで、ここでは「静電気対策」ということで整理したいと思います。
 最後に・・・、色々調べている中でガソリン給油機は±0.3%~0.5%程度の誤差があるということが分かりました。1000円分給油して3~5円に相当します。得しているのでしょうか、それとも損しているのでしょうか?

      【校長】

1  この白髪岳(しらがたけ)、冬場に麓の人吉盆地から眺めると山頂が雪に覆われていて白髪のご老人の頭のように見えることから、その名がついたらしいです。標高を調べてみたら、1416.7mで、九州中央山地では一番南にある最高峰の山みたいです(一つ北よりの市房山は1721m)。

地元で愛飲されている米焼酎「白岳」(高橋酒造)の名前の由来について、この白髪岳から「我」をはらぬよう「が(=我)」を取り除き、『白岳(はくたけ)』と呼ぶようにしたと、蔵巡りで球磨焼酎ミュージアム白岳伝承蔵を訪れたときに説明を受けました。

*2  水をまいて湿度を高めると物体表面の水分を通して静電気が逃げ、静電気が蓄積しません。

「静電気は乾燥した季節や場所に発生しやすく蓄積されやすい」「夏季、人体に帯電しにくいのは、汗や湿気を通して静電気が地面等に漏れているからである」と危険物取扱者受検教本に書いてありました。

気温が氷点下40 度でも気化するガソリン、それを日々大量に扱うスタンドは給油口などから気化したガソリンが高濃度で漂っている環境にあり、静電気による火花放電が発生すると、それが着火源となり火災や爆発事故が発生することがあります。実際、つい最近も他県でしたが、女性ドライバーがセルフ式のガソリンスタンドで給油しようと給油キャップを開けた瞬間に給油口から突然発火して、髪が焼け顔に火傷(やけど)を負ったというニュースを耳にしました。

「静電気除去パッド(右写真)に触れてからキャップを開けてください」との音声ガイダンスに従ってなかったのかもしれません。静電気がたまりにくい帯電防止用の制服を着用している店員さんは別として、きちんと手順に従わなければならないと肝に銘じたところでした。

しかし、今思えば、セルフのガソリンスタンドは水まきをしている光景を見たことがないような気がします。それは「静電気除去パッド」を設置し、ドライバー自身にそれに触れる努力義務を負わせているからかな・・・と思ったところです。

*3  ガソリンが凄く膨張することに改めて驚かされます。実際、ガソリンの体膨張率は水の16倍もあります。

4  ガソリン等を容器に収納するとき、上部に空間容積を必要する理由は、収納されている液体の体膨張による体積の増加で容器が破損するのを防ぐためです。