徒然雑記帖

いずれが あやめ か かきつばた

 今日で4月も終わり。2017年も3分の1が過ぎたとか思いながら、どんな部活が日曜日に練習をしているかと学校に歩いて行きました。いつもは車で通勤しているので気付かなかったのですが、学校の北門へ続く上り坂の手前の道路際に紫色の花をつけた「あやめ」らしい植物(右の写真の黄色枠)が目にとまりました。
 そう言えば、これから6月にかけて、あやめ や しょうぶ や かきつばたのシーズンです。県内でも玉名市の「高瀬裏川花しょうぶまつり」や天草市の西の久保公園で開催される「天草花しょうぶ祭り」等がもうすぐ開催されるはずです。
 ところで、生徒の皆さん。「いずれがあやめ か かきつばた」(「何れが菖蒲か杜若」)という言葉を聞いたことありますか。どちらも優れていて、選択に迷うことの例えで、あやめ と かきつばた はよく似ていて見分けにくいところから来た言葉のようです。

私自身、以前、あやめと しょうぶ と かきつばたの違いを調べていて混乱したことがあります。生徒の皆さん方は大丈夫ですか?

あやめ と しょうぶはどちらも漢字で書くと「菖蒲」です。しかし、漢字は同じでも菖蒲(あやめ)と菖蒲(しょうぶ)は全く異なる植物です。「あやめ」はアヤメ科、「しょうぶ」は何とサトイモ科なんです。

次に、菖蒲(しょうぶ)と花菖蒲(はなしょうぶ)も別物。花菖蒲はアヤメ科です。だから「あやめ」と「しょうぶ」と「はなしょうぶ」は、ぜぇ~んぜん違う植物です。

さらに、「いずれがあやめ か かきつばた」の杜若(かきつばた:これはアヤメ科)が加わって、まるで4つ巴(どもえ)の争い。頭がぐちゃぐちゃになるのです。

整理すると、5月5日の端午の節句の菖蒲湯に入れる①「しょうぶ」(菖蒲)、②「花菖蒲」、③「あやめ」(菖蒲)、④「かきつばた」(杜若)の4つは似ているようで、実は全然違うのです。

まず、①サトイモ科に属する①「しょうぶ」は、左の写真のように花の様相が全く違いますのでこれはいいでしょう。

植物学的にアヤメ科アヤメ属に分類される②「花菖蒲」、③「あやめ」、④「かきつばた」は同じ仲間だから似ていて当たり前。右の花の写真を見ても、「違いを覚えるのは無理!」と諦めたくなるほど微妙です。

そこでもっと調べていくと、③「あやめ」と②「花菖蒲」・④「かきつばた」を見分ける一つの手があることが分かりました。③「あやめ」は陸上の乾燥地に自生しているのに対して、②「花菖蒲」と④「かきつばた」は日当たりのよい水辺や湿地に群生するのだそうです。

そういうことで、学校の北門へ続く上り坂の手前の道路際の花は、乾燥地にありましたので「あやめ」ということで一件落着。

剣状の細かい葉が縦に並んで茂る様子(これが文目(あやめ)模様に似ていることにその命名の由来があるということらしいです)がしっかりしたイメージを与え、花言葉も「良き便り」とか「希望」で前向きなこともあり、好きな花の一つです。

 
 
ところで、学校の横に所在する村山公園の別名は、「あやめ公園」なんだそうです。人吉市のHPの公園一覧のサイトにも「村山公園(あやめ公園)」の表記がありました。この記事を書くに当たり、どこにあやめ があるのだろうと、公園内をくまなく捜し回りました。「『ツツジ公園』と言ったほうがいいのでは?」と思うほど様々な色のツツジ*1が満開で、まさに百花繚乱の装いでしたが、あやめ はついに見つけることができず残念でした。でも、初夏を思わせる日差しの中、新緑が青空に映えて、最高に気持ちがよかったです。 


話は大きく変わりますが、「かきつばた」と聞けば、高校の頃習った伊勢物語を思い出します。伊勢物語とは、全125段からなり、ある男(平安時代きっての色男、在原業平*2【ありわらのなりひら】とされています)の元服から死にいたるまでを、数行程度(長くて数十行、短くて23行)の仮名の文と歌で綴った物語です。

「かきつばた」が出てくる第9段、校長室にあった国語便覧で改めて調べてみたらまさしく次のような話で、それを習った頃の教室の匂いまで懐かしくよみがえりました。


昔、ある男(=在原業平とおぼしき主人公)が都への未練を残しつつ関東の方への旅を続け、三河の八橋(今の愛知県知立市のあたり)に着いた。その沢のほとりの木蔭に馬から降りて座って、乾飯(かれいひ:水やお湯で戻して食べるドライライス)を食べた。

その沢に、かきつばたがとてもきれいに咲いていた。それを見てある人が、「かきつばたという五文字を各句の頭に置いて、旅の心情を詠みなさい」と言ったので、男が次のような歌を詠みます。


らごろも つつなれにし ましあれば

るばるきぬる びをしぞおもふ 


 
(現代語訳:着て馴れ親しんだような妻が都に居るものだから、はるばるとこんなに遠くまで来てしまった旅を悲しく思うのです) 
 最後に、乾飯の上にポロポロと涙が落ちて、乾飯はふやけてしまったのだった、という何とも切ない落ちまでつくという物語です。

このように、五七五七七のそれぞれの頭に、別の意味を持つ言葉を織り込む言葉遊びを「折句」と言います。この「かきつばた」の折句を伊勢物語で学習した際に、国語の先生が「クリスマスをお題にした折句の歌を作ってらっしゃい」と宿題にしたので、やってみたことがあります。

……ん~。………んっ!?……ん~ん。………はぁ

といった感じで、2~3時間格闘しましたが結局できませんでした。


俵万智さんの短歌集の中に一首、クリスマスの折句が紹介してあったことを思い出しました。田中章義さんという十代の歌人の予備校時代の作品で次の歌です。


リスマス んりん響く 音を く無視して タディーハード


キーワードを隠すたわいもない言葉遊びのようですが、いざ作るとなるとそれがどうしてとても難しいのです。こういうのができる人はどのような才能を持っているのだろうと尊敬します。

国語の先生に伺ったところ、伊勢物語は2年生の2学期に学習し、第6段の「芥川」か、第23段の「筒井筒(つついづつ)」のどちらかを扱う予定だということでした。ネタバレになったらいけませんが、「筒井筒」は、井戸の周りで遊んでいた幼馴染のカップルが、大人になったら・・・?という、ちょっとビターな恋物語です。伊勢物語、きっと面白いです。是非、第9段の「かきつばた」も読んでみてください。

   【校長】
 

*1ツツジは漢字で書くと「躑躅」となり、難読漢字になります。英語ではazaleaと綴り、カタカナでは「アゼリア」とか「アザレア」と表記します。阿蘇市にある「アゼリア21」というレジャー施設(阿蘇から流れる天然水を源泉としているプール)の名前を聞いたことがある人もいるかもしれません。ちなみに、アヤメは英語でirisと綴り、「アイリス」と表記されます。このiris、ギリシャ神話の「虹の女神」に由来する単語なんだそうです。

*2在原業平、今から約1,200年前に生きたこの方、天皇の血を引く由緒正しい実在の貴族なのですが、既存の風習にとらわれず、あちこちで女性と関係を持っていきます。そんな彼の女性遍歴集といっても過言ではないのがこの伊勢物語です。ついには神に仕える皇女と関係を持ってしまったのでは?ということを匂わせる話(第69段)もあります。関係を持った女性の数は何と3,733人!多分、誇張が入っているはずですが、今と結婚の形態が異なる平安時代の時代背景を考慮に入れても凄まじい数だと思います。実際にどれだけの女性と関係を持ったかは本人だけが知るところでしょうが、こうして物語のモデルとされてしまうくらいですから、女性関係が派手だったことは公然の事実だったのかもしれません。