ブログ

2021年6月の記事一覧

? 21世紀を拓く力

 いま教育界は、世界的な産業構造の変化により「知育偏重」から「自ら考え、行動する主体的な人間育成の教育」に大転換しつつあります。
 本校でも新教育計画(雛鵬プラン)を作成し、「SSH指定校」「一人一台端末先行実践校」「学力向上研究指定校」として「探究学習」及び「ICT活用授業」の先行研究を行っております。今春、東京大学を始め大阪大学、九州大学、慶応大学、早稲田大学等の難関大学や、三年連続で熊本大学医学部医学科に合格者を出したのも、その成果の一つであろうと考えております。

 しかし本校が目指すのは、単純な大学合格者数ではありません。「21世紀型スキル」を備えた人材の育成です。

「何を理解しているかを自ら振り返り、その知識を使ってどのように自分が世界と関わるか、どのように社会に適応するかを考え、周囲を巻き込みながら実践できる」能力と実践力を備えた人間の育成
―言葉で記すと至極当り前の資質能力ですが、様々な価値観が対立し、容易に解決の糸口が見いだせない新世紀のとば口に立っている若者たちだからこそ、日々の教育活動で常に主体的に思考させ、世界を視野に入れた「21世紀を支える人間」を育てていきたいと思います。

 例えば、これまで生徒たちに提示した課題に「水不足の解決」があります。世界で水を使わない水洗トイレの開発にしのぎを削っている様子等を紹介し、あなたならどうすると問いかけました。3年生の廊下掲示板には「再生可能エネルギーの可能性」について、様々な資料が掲示されています。本校のSSH研究班でも潮力発電の可能性を研究し始めています。

 そして、いま私が、身近な問題として関心を寄せているのが、「緑との共生」問題です。
 最近、熊本日日新聞でも取り上げられるようになり私も知ったのですが、熊本市の街路樹再生計画をめぐり様々な立場の意見が表出しているようです。
 興味ある方は、5月22日の熊本日日新聞「SNSこちら編集局」、6月4日「『森の都』原点帰り再考を」矢加部和幸氏の署名記事、6月8日射程「緑との共生」浪床敬子氏の署名記事等をお読みください。

 概要は、熊本市の電車通り及び熊本県庁前を抜けて第二空港線沿線の街路樹の約6割をこれから3年間かけて伐採するという計画についての是非です。
「SNSこちら熊日編集局」によると、「熊本市内の街路樹は249路線に約1万5千本の樹木があり、成長しすぎた木が歩行者の妨げになったり、根が歩道を押し上げたりするようになり、強風による倒木も発生している。管理費も年々増大し、2018年度の6億1400万円が10年後には10億円に膨らむという試算もある。沿線住民からは「害虫がいる」「落ち葉で側溝が詰まる」「鳥の糞が汚い」などの苦情も寄せられているため、熊本市は対応を迫られている。」ということのようです。
 そのため熊本市は令和2年(2020年)3月に「街路樹再生計画」を策定し、重点路線に電車通りと第二空港線を選定し、前段のとおり、約6割の樹木が伐採対象となったというわけです。

 しかし、調べてみるとこれは熊本市だけの問題にはとどまらないようです。
 熊本市が策定した「街路樹再生計画書」を読んでいくと、現在の熊本市の担当の方々が置かれている状況、苦悩が窺われます。
 平成27年(2015年)に改正された国土交通省の「道路緑化技術基準」は、それまでの柱としてきた〈自然環境の保全〉から、〈道路交通機能の確保〉を前提とする価値基準への大転換であり、〈交通の安全、適切な維持管理及び周辺環境との調和に留意しなければならない〉とする「道路緑化基本方針」の文言は、地域住民や運転者等からの苦情・不安には、積極的に対応する義務が生じているようにも読めます。
 そのために、苦肉の策として、熊本市の街路樹の問題を、安全性の低下や景観性の低下、維持管理における経済的課題を含めて抜本的に解決しようと今回の計画を策定し、審議会で協議を行ってきたという流れが透けて見えてきます。
 また一方で、この計画を知った人々が、「6割も伐採を行うのはちょっと待って。“森の都”熊本にはふさわしくない計画です」「緑と共生できる方法はないかを探りましょう」との声を上げ始めているのです。

 この「道路緑化技術基準」は、街路樹等を管理するすべての市町村に当てはまります。決して他所事ではありません。

 前置きが大変長くなってしまいました。
 そこで、それでは、次世代を担う若者たち、次の街づくりを主体的に進める若者たちが、この問題に対し、どのようにアプローチし、どのような解決策を見出そうとするのか、私としては大いに興味があります。自分たちの将来Visionに直結する問題ですから。

 簡単に解決策が見つかる問題ではないでしょう。
 しかし、だからこそ粘り強く皆の智慧を絞り合って考え抜く必要があるのではないかと考えています。

「何を理解しているかを自ら振り返り、その知識を使ってどのように自分が世界と関わるか、どのように社会に適応するかを考え、周囲を巻き込みながら実践できる」能力と実践力を備えた人間の育成―天草高校の教育の旗印に、この「21世紀型スキル」の理想を掲げる以上、これからも答えの出ない課題を提示し続けます。
 そして、一つでも二つでも解決に向かって歩みをスタートさせる若者が出れば、と願っているところです。