2021年7月の記事一覧
全日制 1学期終業式あいさつ「社会と関わるということ,未来を創るということ」
社会と関わるということ,未来を創るということ
今年も 新型コロナウイルスに振り回された1学期でしたが,一人一人が自覚して,様々な工夫を凝らしながら,「先の見通せない中でも 今 自分たちにできる最大限の努力」を積み重ねてくれています。本当にありがとう。
先日,天草の地域の方々に,「天草高校に期待すること」というテーマで,アンケート調査を行いました。寄せられた意見を集約すると,二つの柱が見えてきました。
「天草地域唯一の進学校として,上位学校への進学率向上」
「将来にわたり,地域を担い,地域を活性化できる人材の育成」
どちらも,長年天草高校を支え続けてくださっている方々の,最大公約数の思いです。
そこで,敢えて私は 皆さんに「何のために 学ぶのか?」と 問い直したいと思います。
毎日毎日 難しい勉強を いったいなんのために 学んでいるのでしょう?
志望校に通るため? 難関大学に通るため? 親を喜ばせるため? いいえ違います。
答は 単純です。 「未来を創るため」です。
「世の中の,一人でも多くの人が,笑顔で幸せに暮らせるようにするため」に,私たちは学び,そして働いているのです。
私たち「大人」は,これまで一生懸命学んで,働いて,皆さんに「未来」を渡せるように努力してきました。しかし,私たちは「過去の住人」です。皆さんの「未来」を全部創り上げることはできません。
皆さんの「未来」を創るのは「未来の住人」である,あなたたち自身なのです。
改めて尋ねます。「『未来を創る』ということは あるいは 『地域を活性化する』ということは,大学に入った後じゃないとできない学びなのでしょうか?」
たくさんの大学や専門学校が,「未来を拓く」ための挑戦を続けています。
「地域活性化」についても,多くの大学が,例えば熊大や県立大学でも取り組んでいます。これらの学びは,大学に行かないとできないことなのでしょうか?
いま,天草高校・天草工業高校・天草拓心高校の生徒たちが協働で,本渡中央銀天街を活性化させるための「社会実験」に取り組み始めています。
天草島内の100名を超える高校生たちが,地域の課題を学び,地域を活性化させるための「起業」の学びを始めています。
社会と関わるということは,いつだって誰にだって,どこでだってできます。「できる」ということに気づいていないだけです。
私は,この1学期に,一人の社会人として,熊本市の「6割の街路樹を伐採する」という計画に対し,アクションを起こすべきだと考え,友人たちとこの問題の勉強会を開いてきました。そして,この課題の背景や他所の国での取組や熊本市の活動についても調べ,情報共有してきました。勉強会の数名が,熊日新聞に意見文を書き,ツイッターで事実を広げ,そして,熊本市長に提言書を提出しました。
私も,熊本市長に
「熊本市の「街路樹再生計画」では,街路樹の維持管理のために,市民の協力も願うという方向性が出されています。そうであるならば,是非,次世代を担う若者も入れて,街路樹再生計画を再考いただけないでしょうか?」と6月10日に手紙を出しました。
そして,約2週間後の6月26日,熊本市の大西市長は「街路樹再生計画の中断」と「再生計画策定員会」の再開を表明しました。この大英断には深く感謝したい思いです。
私の手元には,7月7日付で,大西市長から「新たな視点や市民の皆様のご意見を幅広くいただきながら,必要な見直しも行い,景観や街並みの将来の姿や,十年後,五十年後,市民が誇れる街路樹再生を考えてまいります。」というお手紙もいただきました。
世の中には「先が見通せない」中でも,判断をしなければならない場面がたくさんあります。その時は良かれと思ってやったことが,後でとんでもない間違いだったということもたくさんあります。私たちの行動もひょっとしたら50年後,間違いだったという結論が出されているかもしれません。しかし,そうならないために,常にアンテナを高くし,正確な情報を収集して,様々な人々と意見交換し,自らの取ろうとしている行動の可否判断を行う必要があるのです。ここにこそ,「学ぶ」ということの,本当の意味があります。
皆さんに渡す「未来」は,私たち大人がしっかり智慧を絞って創っていきます。
しかし,「未来の天草」を,そして「これからの世界」を創っていくのは,あなたたち以外には居ません。大西市長への手紙の結びに「是非,次世代を担う若者も入れて,街路樹再生計画を再考いただけないでしょうか?」と入れたのも,まさにこの思いからです。
皆さんの「未来」を創るのは「未来の住人」である,あなたたち自身なのです。
社会と関わること,未来を創ることは,今この瞬間からも始められます。皆さん,どうか,先の見えないことを恐れず,前を向いて,今この瞬間にできることはないかと考え,行動し学び続けてください。そして,その大きな志を持って上級学校進学・公務員を目指してください。そのことが必ずやあなたの道を拓いていくことになると信じています。
将来の目標のために,新たな決意を抱いて,有意義な夏休みにしてください。
定時制 1学期終業式あいさつ「ことばの 一つひとつを 大切にするということ」
ことばの 一つひとつを 大切にするということ
今年も 新型コロナウイルスに振り回された1学期でした。しかし,一人一人が自覚して学校生活に取り組み,先生方も様々な工夫を凝らして,日々の学びと,学校行事を進めてくださっています。本当にありがとう。
先日,天草高校と交流している韓国の土坪高校の生徒 キム ガヒョン さんから 素敵な手紙をもらいました。
中には,「私の大好きな詩を 一生懸命 日本語に訳してみました。 読んでみてください」という手紙とともに 次のような詩が入っていました。
「揺れながら咲く花」 ト ジョンファン
ぐらつかずに咲く花が どこに あるだろうか
この世の どんなに美しい花たちも みな 揺れながら咲いたのだ
揺らぎながら 茎をまっすぐに 伸ばしたのだ
揺らがずに行く愛が どこに あるだろうか
濡れずに咲く花が どこにあるだろうか
この世の どんなに輝く花たちも みな 雨に打たれて咲いたのだ
風と雨に濡れながら 自らの花びらを温かく咲かすのだ
濡れないでいく人生が どこに あるだろうか
この詩は 韓国ドラマ「学校2013」の中でも,お互いの気持ちがバラバラになりそうな中で,担任の先生が クラスの子どもたちに向けて朗読する場面でも使われているということです。人生の応援歌みたいでとても素敵な詩ですね。
私の好きな詩集に,『世界はもっと美しくなる』(寮美千子編 ロクリン社 2016年)という本があります。その中の詩をいくつか紹介します。
「弱い自分・デキない自分」
何をしても 失敗ばかりな自分
どんなに努力しても 空回りするばかり
どんなに集中しても たいした結果を出せず
頭ではわかっているのに ミスを繰り返す自分
注意されると 反抗的な態度をとってしまう自分
感情が 顔や態度に すぐに出てしまう自分
短気でどうしようもない自分
がんばって口に出さずに タメた結果
自分を責めて モノにあたってしまう自分
いつまでたっても 成長しない自分
そんな自分にウンザリだし 嫌いで仕方ない
「ガキ」みたいに なれたら
「ガキ」みたいに いまの生活を楽しめたら
一体どんだけ 居心地がいいだろうか
弱音を吐きまくる自分が 情けない
強い自分・デキる自分に なりたい
「うれしかったこと」
ぼくは スーパーで4年 仕事をしていました
1年は青果部で あとの3年は鮮魚です
最初はすごく怒られ もうやめようと思ったときもありました
でも あきらめずに一生懸命働きました
勤めて2年目のときに 店長から呼び出しがありました
「社員をしないか」といわれました
とても びっくりしました
そして ぼくは社員になったのです
このことが 人生で一番うれしかったことです
他にも私の好きな詩を紹介しますね。次は私の一番好きな詩です。
「3時のホットケーキ」
小学校3年生のとき 学校から帰ってくると
おやつは いつも ホットケーキ
決まって お皿の上に3枚
友だちのところにいくときも
ラップに包んで持っていくのが 当たり前だった
小学校4年生のとき
お菓子屋さんでおやつを買って食べている子たちに
ホットケーキをバカにされた
それが すごく悔しくて恥ずかしくて
次の日 お皿の上のホットケーキには手をつけず
友だちのところへ行った
そしたら次の日 テーブルの上に ホットケーキはなかった
次の日も その次の日も
おやつのない日々に ガマンできなくなったぼくが
「おやつ代 ちょうだい」といったら すごく怒られた
「みんなと同じように お菓子屋さんでおやつを買って
みんなといっしょに 食べたいんだよ」
そう訴えると すごく悲しそうな顔をされた
なんで そんな顔をするのか ぼくにはわからなかった
いまになって わかる
まだ若くて 急にぼくといっしょに暮らすことになった あなたは
どう接したらいいかわからなくて 一生懸命考えて
ホットケーキを焼いてくれていたんだね
いま 義母のことを「オカン」と呼べるようになった
いろんなことがあったけど 育ててくれてありがとう
あのホットケーキ もう一度 食べたいな
この詩集は,誰が書いたのか? イニシャルがところどころ記しているだけです。
なぜなら 奈良少年刑務所に入所していた少年たちが書いた詩だからです。
この少年刑務所で詩を教えることになった 詩人の 寮美千子(りょう みちこ)さんは,最初とても躊躇したと記しています。しかし
「彼らはみな,加害者になる前に,被害者であったような子たちなんです。極度の貧困のなか,親に育児放棄や虐待をされてきた子。発達障害をかかえているために,学校でひどいいじめを受けてきた子。厳しすぎる親から,拷問のようなしつけをされてきた子。親の過度の期待を一身に受けて,頑張りすぎて心が壊れてしまった子。心に深い傷を持たない子は,一人もいません。その傷を癒せなかった子たちが,事件を起こして,ここに来ているんです。本当は,みんなやさしい,傷つきやすい心を持った子たちなんです。」と刑務官の方に話をされて,通い始めます。
そして,詩の教室を開く中で,固く閉ざされた心の扉が開かれたとき,溢れ出てくるのは「やさしさ」でした,と語ります。
私にとっても,この詩集の子どもたちの言葉は宝物です。
しかし,みんなの心の扉が開かれたときに出てくる言葉は,もっともっと宝物です。
天定(あまてい)の先生方は,毎日毎日みんなの言葉の奥底にある思いを掬えないかなと思って,何度も何度も反芻し,イメージし,考え続けています。
同じように,彼の 彼女の あの言葉の後ろには どんな思いがあったのかな? どんな背景があったのかな? とイメージしてみると お互いの関係性が もっと 広がっていくかもしれません。
言葉の一つ一つを大事にしながら お互いに育ちあがっていきましょう。
夏場のキツイ時期に仕事が続く人もいるでしょうが,少しでも心と体のリセットをして,二学期また元気に会いましょう。一学期間 お疲れさまでした。
失敗したら まず。。。
「校長先生 少しよろしいでしょうか」と ある先生が深刻そうな表情で訪ねてきました。
尋ねてみると,先日,実験教室を出る際,最後のチェックを忘れ,一か所棚の鍵が掛かっていなかったのを,別の先生が見つけて対処してくれたとのこと。
「申し訳ありませんでした」と平謝りです。
その日は,ギリギリまで翌日の実験の準備を行っていて,気が付くと保育園の迎えの時間。気が焦っていて,点検したつもりだったが,やはりきちんと施錠できていなかった。翌日,同僚から鍵の件を教えられ,やってしまったぁ,と落ち込んでいたとのこと。
そして,家に戻って,娘に「ママ失敗しちゃった」と話すと,娘から「失敗したら,まずゴメンナサイでしょ。」と言われ,そうだ,校長先生にまだ謝っていないと,また落ち込んでしまって。。。
目には,うっすらと涙をためています。
保育園に通う女の子の諭す言葉は,彼女の心の奥を貫いたようです。素敵な親子です。
我が子を思う母がいて,母に教えられた言葉を素直に口にする娘がいる。
そして,さりげなく支えてくれる同僚。
温かなつながりの中で いま 心の触手が伸びつつあります。