校長室からの風

「eスポーツで壁を超える」 ~ 崇城大学eスポーツスタジオのオープン

 崇城大学IOT・AIセンター内にあるeスポーツスタジオに足を踏みいれた瞬間、未来空間にいるような感覚に包まれました。縦6m、横11m、高さ7mの部屋には放送・音響の最新鋭機材と共に、高性能のコンピュータが並び、壁面はスクリーンで、メタバース(仮想空間)と連動したスタジオが創り出されていました。現実空間の壁を超えるような、不思議な揺らぎを感じる空間です。

 2月10日(金)午後、崇城大学IOT・AIセンターに新しくeスポーツスタジオがオープン。「eスポーツで壁を超える」と銘打たれた、そのオープニングイベントに熊本西高eスポーツ部が招待され、6人の代表生徒と顧問の有馬教諭、そして校長の私が参加しました。本校eスポーツ部は県立学校として先駆けて令和元年度に発足。eスポーツのeとはelectronic(電子)の略であり、対戦型コンピュータゲームです。誕生して4年目となりますが、現在、約50人の部員が活動を展開しています。サイエンス情報科の生徒が多いのですが、普通科からも入部が増えており、「eスポーツ部があることが、西高を選んだ理由の一つです」と多くの部員が答えてくれます。

 今回のオープニングイベントには、eスポーツのまちづくりへの影響に関心を持ち、崇城大学情報学部と連携を深めておられる山鹿市議会から議員の皆さんが参加されました。そして、議員の皆さんと、崇城大学eスポーツサークルの学生、そして西高eスポーツ部の生徒の対戦から始まりました。今回は議員さんと大学生、あるいは高校生が2人組をつくり、2人対2人の対戦形式でした。少し練習されてきたとはいえ、中高年層の議員さんには、大学生及び高校生の迅速なコンピュータ操作にはお手上げの状況でした。しかし、世代の差を超えて協力し、共に戦うというゲームの楽しさに会場は包まれました。

 対戦ゲームで懇親を深めた後は、議員さんたちと大学生、高校生とのトークセッションです。eスポーツのこれからの可能性をはじめ、SNSを活用しての議員活動の発信のありかた、若い世代から見ての議員のイメージ、政治への興味・関心など話題は多岐にわたりました。

 eスポーツは新しい分野です。いま、競技としてスポンサーが付いた大会が増える一方、高齢者の認知症予防のためのゲームでのボランティア活動も広がっています。社会の急速なICT(情報通信技術)化に伴い、コンピュータリテラシー(活用能力)が重要になってきています。eスポーツを楽しむことは、このリテラシーの向上にもつながると私は考えています。令和の学校部活動でもあるeスポーツがこれからどんな発展をしていくのか楽しみです。

 「校長室からの風」

        崇城大学eスポーツスタジオオープニンイベントの様子

創立50周年に向かって ~ 実行委員会の始動

 「この城山(じょうざん)地区に県立高校ができると聞いた時は、みんなで大喜びしました。うれしかったですね。あれから50年近くなりますねえ。」

 昨年、西高に赴任し、城山地区の区長さんや自治会のお世話をされている人々に挨拶して回った時、ある高齢者の方が西高創立の際の地域の歓迎ぶりを語られました。JR熊本駅(当時は国鉄)より西方に県立高校はありませんでした。熊本市西部地区の皆さんの待望の県立高校誕生だったのです。

 私たちの学校、熊本西高校は昭和49年10月に創立されました。最初は職員4人だけで、生徒はまだいません。「清 明 和」の校訓をはじめ校旗、校章、教育課程などを定め、募集定員は普通科4学級で発足することが決まり、翌年の昭和50年4月に第一期生の入学を迎えたのです。今年で創立48年となり、令和6年度に創立50周年を迎えるのです。

 2月6日(月)午後、西高の会議室にて、同窓会(「西峰会」)から藤井会長はじめ役員7人、保護者会(「育西会」)から田畑会長はじめ役員9人、そして同窓職員5人を含めて教職員12人が集い、第1回の「熊本西高等学校創立50周年記念事業実行委員会」を開きました。関係者が一堂に会し、意見を出し合う場はやはり必要です。「50周年に向けての大テーマのようなものが必要ではないか」、「記念式典と創立記念祭を合わせて実施するスケジュールを検討すべき」、「企画段階から、生徒会など生徒を積極的に参加させた方が良い」等の貴重な意見が出されました。

 西峰会の藤井俊博会長に実行委員会委員長を引き受けていただき、育西会の田畑会長と校長の私が副委員長となり、企画委員会はじめ総務、財務、記念式典、記念祝賀、記念行事、記念誌、広報の部会を設けた組織が立ち上がりました。しかし、中身はこれからであり、この組織を動かしていく力、熱意の醸成が重要となってきます。私はその点は心配していません。同窓会の皆さんには、強い母校愛があります。また、保護者、旧職員の方たちからは、「西高がんばれ」という応援をいつも受けています。

 また、心強い動きが見られます。1年生の探究学習において、創立50周年に向けて生徒たちで何ができるかをテーマに取り組んでいる班があり、地域社会とのコラボレーション行事や記念植樹など具体的プランの検討を始めているのです。現在の1年生が3年生に進級した時、熊本西高は創立50周年を迎えます。私たちの学校をどんな学校に変化させていきたいのか、生徒たち自身に主役意識を持ってもらい、実行委員会をリードしてほしいと期待します。

                                     「校長室からの風」

          第1回熊本西高創立50周年記念事業実行委員会

「キャリア教育の推進」文部科学大臣賞

 キャリア教育の推進で顕著な功績があったと認められた全国の教育委員会、小・中・高校、支援学校の110団体が、1月19日(木)、東京都港区の三田共用会議所において文部科学大臣賞を受賞しました。私たちの学校、熊本西高校もその一校に選ばれ、栄えある受賞となったことを広く皆さんにお伝えしたいと思います。

 「キャリア教育」とは何だろうと思われる保護者、地域社会の方がいらっしゃるかもしれません。キャリア(career)はもともと職業、職歴などを意味する英語です。文部科学省によると、「子どもたちが将来、社会的・職業的に自立し、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現するための力」を育成することがキャリア教育となります。そして、キャリア教育は、産業界と連携して小・中・高校の各学校段階で推進する必要があると文部科学省は求めています。

 一般的に、中学校や専門高校(工業、商業、農業など)では、生徒たちが地域の企業や自治体で一定期間の就業体験(インターンシップ)をすることがキャリア教育実践の代表例と言えるでしょう。しかし、熊本西高の場合は、大部分の生徒が大学・専門学校等の上級学校へ進学する普通高校であり、生徒数が各学年で250~300人の大規模校のため、4年前に独自の取り組みを立ち上げました。西高アカデミック・インターンシップ(通称「NAIS」)です。

 「NAIS」は、県内の7校の私立大学と2校の私立専門学校にご協力いただき、1年生の2学期最初の一週(5日)に大学、専門学校を訪ね、半日または一日の体験入学を行うものです。内容については、例えば医療看護系大学では「看護の仕事とコミュニケーションスキル」、「言語聴覚士のお仕事とは?」といった実学を主とした講義と演習になっています。今、社会がどんな仕事を必要としているのか、産業界の動向はどうなっているのか、専門職となるためにどんな知識と能力が求められるのかなどを学び、職業観や自分の生き方の示唆を得る場となります。

 この「NAIS」を1年生の上半期に実施することで、高校卒業後の進路について生徒たちはより切実に意識するようになり、社会の中の一員としての自覚が芽生えます。面映ゆい気持ちはありましたが、本校の「NAIS」の実践を県教育委員会へ報告し、それを県教育委員会が評価され文部科学省へ推薦していただきました。深く感謝申し上げます。

 今回の受賞を弾みにして、西高はさらにキャリア教育を推進します。学校教育の究極の目標である、「生徒を大人にする」ために。 

 「校長室からの風」

「過ちすな、心して降りよ」(徒然草) ~ 3年生へのメッセージ

 1月13日(金)をもって、3年生の通常登校は終わります。14日(土)~15日(日)に約50万人が受験する全国大学入学共通テストが実施され、熊本西高から73人が挑戦します。一方、受験しない残りの約180人は家庭学習期間に入ります。

 進路内定者の皆さんにとって、3月1日の卒業式までは余裕のある日々となります。自動車学校に通う生徒も数多くいます。1月12日(木)の午後、進路内定者の生徒とその保護者の方々に対して、体育館で集会を開きました。この会で、鎌倉時代末期の随筆「徒然草」の第109段「高名の木登り」(こうみょうのきのぼり)の話を私はしました。

 木登り名人の親方が、大木に登って作業する弟子の様子を見守っています。高い危険な所で作業して いる時には何も言いませんでしたが、家の軒の高さくらいまでに降りてきたときに、「過(あやま)ちすな、心して降りよ」と声をかけました。弟子は、これくらいの高さなら地面に飛び降りることだってできる、どうして注意するのですかと問い返しました。それに対して、名人は「やすきところになりて、必ず仕(つかまつ)ることに候」と言いました。人は、気を緩めた時に失敗をするものだと名人は諭したのです。

 生徒の皆さんにも同じことを私は伝えたい。「過ちすな、心して降りよ」「やすきところになりて、必ず仕ることに候」と。進路も内定し、残り1か月半で高校卒業です。皆さんたちが考えている以上に、高等学校卒業資格は重要な資格です。普通自動車運転免許も大切ですが、その重要性は比較にならないと思います。運転免許は君たちなら1か月半から2か月で取得できるでしょう。しかし、高等学校卒業資格は最低3年必要です。定時制高校なら4年かかります。皆さんは日々登校し、授業に出席し、学習を積み重ねて3年間で96単位の履修科目を習得しました。その成果として高等学校の卒業資格を得ようとしているのです。

 卒業までの残り1か月半は油断大敵です。事故、事件に巻き込まれないよう、自らを律して生活してください。社会の急速なICT化、グローバル化など変化の激しい現代において、学びが終わるということはありません。生涯学習です。就職する人は、いきなり大人たちと一緒に仕事をすることになります。大学、専門学校など上級学校へ進学する人は、勉強内容が格段に難しくなります。4月から飛び立つために、3月までは大事な助走期間と考え、自分自身のために勉強してほしいと願っています。

 結びにあらためて呼びかけます。「過ちすな、心して降りよ」

「校長室からの風」

          大学入学共通テストを受験する73人の集会

「1.5℃の約束」 ~ 3学期始業式

   皆さん、新年明けましておめでとうございます。

 年の始め当たり、未来を担う皆さんに未来のことを考えてほしいと思います。「1.5℃の約束」という言葉を知っていますか? 最近、新聞やラジオ、テレビなどのマスメディアによく登場する言葉です。これは、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えようというキャンペーンです。昨年2022年、国連の広報センターが世界各国に提案し、日本では新聞社、放送局が一致して協力することとなりました。「気温上昇をとめるために、いますぐ動こう」と呼びかけています。

 コロナパンデミックに巻き込まれて、私たちは自分の体温にとても敏感になりました。人は通常一定の体温に保たれています。これを平熱と言います。しかし、コロナウイルスの侵入による体の変化は体温の上昇となって現れます。パンデミック初期には、37.5℃以上がその目安とされました。

 しかし考えてみると、私たち人間の生存にとって、体温と同じくらい重要な温度は、この地球の気温だと言えます。かつては、多種多様な生物と、水や空気、光などの地球環境のバランスがとれていて、地球の温度は安定していたと言われます。ところが、18世紀後半にイギリスで産業革命がおこり、19世紀に欧米諸国、そして日本などが続き、世界に工業国が増え、石炭や石油などの化石燃料を大量に消費するようになりました。これによって大気中の温室効果ガスは増加し、地球の気温は上昇し始めました。世界の平均気温はこの150年で1.1℃上昇、日本では過去100年の間に1.3度も上昇しています。地球温暖化というこの不気味な変化が何をもたらすのか。猛暑、豪雨、干ばつなどの自然災害から海面上昇など地球環境そのものの異変につながっています。

 私たちは未来を考えることが苦手です。それはまだないものであり、どうなっていくかわからないことと思うからです。しかし、人間の能力をはるかに上回るコンピュータの計算力によって、具体的な未来がシミュレーションできるようになりました。その重大な予測結果に向き合わなければなりません。

 私たちは、関心がある、ごく一部のものしか見えていません。見ようとしません。けれども、コロナパンデミックを体験することで、発熱している地球の未来に関心を持つことは人類共通の課題になったと思います。現在の生活の仕組みや価値観、行動を変えていかなければ、未来は来ないかもしれません。国同士が戦争している時ではありません。戦争は最大の環境破壊ですから。

 未来は大人になったあなたたちの現実です。未来を意識しながら、皆さんが一日いちにちを大切にして、成長していってくれることを期待します。

「校長室からの風」