御船高校新入生オリエンテーション校長講話(4月9日)

「知ること」とは

校長 橋本 岳範

 1年生の皆さん、昨日の入学式いかがでしたか。新しい環境で、船高の担任の先生、そして各中学校から集まってきた同級生、今からの船高生活に期待しているところでしょう。今日は、新入生オリエンテーションということで、校長の私から少しお話させていただきます。この新入生オリエンテーションは、どこの学校でもだいたい行われているものです。校内で行う学校もあれば、どこか研修所で宿泊して行う学校もあります。

 さて今日は何を話そうかと考えましたが、やはり高校の一番の目標は、しっかり勉強して3年後にそれぞれの進路を実現することなので、『勉強』について話したいです。勉強かあと思う人もいるかもしれませんが、勉強の第一歩の『知ること』について話しますので、よく聞いておいてください。私は、これまで1年生を担当した時には、いつも言っていることがあります。それは、大学受験や就職試験のある3年生は、本当に大変な学年だけど、1年生が大事なのだよということで、『一番大変なのは3年生、でも一番大事なのは1年生』と。

 ここで、18年前に担任をしたGくんという生徒について紹介したいと思います。私は、Gくんを2年、3年と担任しましたが、教科は1年次から担当していましたので、Gくんの成長を3年間見守った形です。

 当時、私は学習指導や進路指導をする中で、よく古代ギリシアの哲学者であるソクラテスの言葉「無知の知」や古代中国の思想家である孔子の言葉「学習」を使って、学ぶことの意義や方策を説いていました。二人とも紀元前の人です。今振り返ると、30代の私は本当に「熱い」教師だったなと少し恥ずかしさを覚えます。生徒にとっては、「暑苦しく」感じていたことでしょう。ところで「無知の知」とは、「無知であることを自覚する」ことですが、ソクラテスは、自覚するだけでなく「知識を身につけるなど、自分自身を高めなさい」の意味も付け加えた「汝自身を知れ」の言葉も残しています。孔子も似たようなことを弟子に対して述べています。『子曰(いわ)く、由(ゆう)、汝(なんじ)に之(これ)を知るを誨(おし)えんか。之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す。是(こ)れ知るなり。』(先生がおっしゃった、「由(ゆう)(弟子の子(し)路(ろ)に親しみを込めて)に物事を知るということを教えようか。自分が知っていることを知っているとして、知らないことはまだ知らないと率直になることが、知るということだ。」と。)古代の西洋と東洋で似たようなことが述べられており、「知ること」に関して普遍性を表すものだと私は「熱く」語っていました。

 Gくんの話に戻ります。彼は決して成績がいい方ではありませんでした。むしろ下降続きで、学習意欲も低くなんとなく高校生活を送っているという感じに見えました。部活動もせずにいるので、私が顧問をしている山岳部に入れて心身ともに鍛え直そうと誘ったこともありましたが、全く乗ってきませんでした。しかし、医師にはなりたいという言葉は時々述べるので、普段の生活と夢?に大きな隔たりがありました。それからGくんは3年に上がっても成績は伸びず、授業の様子を見ていても苦悩の表情(わからない…だからおもしろくない…というような)を見せることがしばしばありました。3年夏休みの三者面談では、模試の成績と夢?との乖離に重苦しい雰囲気になったのを覚えています。それから夏が終わり、秋の模擬試験が週末ごとに続き、クラスの生徒も疲れが溜まり始めた頃でした。にわかに信じがたい成績をあげる生徒が現れたのです。何を隠そうGくんでした。最初は、まぐれ?たまたまこの回だけのことか?と思いましたが、それから連続して結果を残しました。具体的に言うと、9月の模試から11月後半の模試までに偏差値を25程上げたことになります。1月のセンター試験(現共通テスト)は、本人の自己ベストでした。しかしながら医学部には遠く及ばず、国立、私立ともに不合格でGくんは浪人となりました。センター試験後に、本人とじっくり話す機会があったので、「お前のこの成績の伸びはどういうこと?何が起きたの?」と聴いてみました。するとGくんは、こう答えました。「無知の知ですよ。」と。呆気にとられた私に、彼は続けて説明してくれました。先生から高2の時、無知の知を言われて、一体自分は勉強がどこまで分かっていないのかを突き詰めてみたら、小学校4年生の教科書までたどり着いたと。そこからずっと小中学校の教科書の学び直しを1人でやっていたら1年半もかかってしまったということだそうです。その成果が3年11月後半から本番にかけて現れた「驚異的な伸び」だったのです。基礎基本からやり直して、その後様々な知識や考え方が有機的に繋がってきたのでしょう。「やっぱり基本が大事」ですねとも述べていました。

 浪人後の彼は、私大でしたが医学部に合格し、医師国家試験を経て医師となりました。しかしながら「学習」への探究心(どうすれば効果的に学べるか、覚えられるか、継続できるか等への興味・関心)が旺盛で、その後なんと東京大学の大学院に進学しました。

 いかがでしょうか。皆さん、勉強の取り組み方の参考になりましたか。無知で恥じること無かれです。むしろ「無知の知」が、その先にある「夢」を実現させる近道です。知ったかぶりが一番いけません。私自身もそれを言い聞かせています。

 わからないことは、わからないと自覚して、先生に聞いたり、友達に聞いたりしてください。決してそのままにしないこと。「無知の知」が学習の第一歩だと心に刻んでおいてください。

 船高生諸君、“知らないことの自覚”から学び始めて、夢までたどり着こうよ!その道のりは遠くても、夢の途上では、私たち船高職員がしっかり伴走していきますから。